私の知ってる世界
……身体は、動く。
とりあえず、第一段階はクリアだ。前回と違って、時間の余裕もまだある。
私は、おそるおそる一階へと降りていった。
「お、制服思ったよりも似合ってんな」
お兄ちゃんがいた!
「思ったより、が余分です。奏、似合ってるわよ」
お父さんもお母さんもいるリビングに、泣きそうになる。
ゆっくり話をしたいところだったけれど、ここで時間を使ってまたイベントに間に合わなければシャレにならない。私はささっと身だしなみを整え、家族に挨拶すると、学校へと向かった。
「この時間なら、まだ時間があるから……」
ドキドキしながら校舎内を歩く。ここはゲームのシナリオ通りの世界ではないから、ひょっとしたらいないかもしれない。けれど、攻略キャラの性格が同じなら……。
「あれ? 君、見ない顔だけど……。あ、そっか、新入生だね? こっちは高学年棟だけどどうしたの?」
いた!
「あ、あの、私、早く来すぎてしまったので、ちょっと色々見てみようかと」
「そうなんだ。なら、案内してあげようか? 一人で探検してると迷っちゃうよ」
お、おんなじだー! ゲームの台詞とほぼ一緒! 最初の三択部分!
今までの異世界を思い、じぃんと感動しながら、見えない選択肢を思い出しつつ答える。
「え、でも、先輩の時間がなくなっちゃいますから……」
「いいのいいの、丁度暇だったから。さぁ、学園探検にれっつごー!」
ささっと腕を取って歩き出そうとする先輩。ゲームだったらここで自己紹介に入るんだけど、やっぱり現実だとちょこっと変わるみたい。
そんなことを思いつつ、流されるようについていこうとしたところで、後ろから声がかかる。
「暇なわけないでしょうが。馬鹿なこと言って新入生を誘拐しないでください」
いつの間にか後ろにもう一人の攻略キャラと、知らない人が立っていた。全然気付かなかった! というか、この人、ここで出番じゃないはずなんだけど……。
「何だよ、新入生が学校に慣れるようにするのも生徒会の立派なお仕事だろ? ならこれはサボりではなく正当な……」
「黙れ、サボり魔。こっちは色々やること多いんだから勝手に消えんな。さっさと戻って仕事しろ」
「い、いやでも、案内するって言っちゃったのに、やっぱやめーっておいてく訳にいかないだろ? 一人で迷って入学式に遅れたりしたら可哀そうじゃないか」
「それはそうですね」
「だろ? だから……」
「木村、彼女を案内してやってくれるか?」
「は、はい」
いきなり話を振られて慌てて頷く木村さんと言うらしい人。
いや、あの、私そこまでして探検したい訳じゃなかったので、揉めるようならやっぱいいでーすって言う気だったんだけど……。
私が口を挟む間もなくあれよあれよと話がまとまってしまい、なんやかんやと文句を言いながら引きずられていく生徒会長を呆然と見つめた。
「慌ただしくてすみません。びっくりしたでしょう? あれでも、うちの生徒会長と副会長なんですよ」
「え、へ、へぇー!? 生徒会の方達だったんですか! あ、そうすると木村さん、も?」
勿論知っているが、新入生である私が知ってるのも不思議な話なので、知らない振りで会話を続ける。
「はい。庶務をやってます、木村康太です。何か困ったことあったら生徒会が力になりますので、気楽に頼ってきてくださいね」
「ありがとうございます。あの、忙しいようですし、案内平気ですよ? ちょっと中を見てみたいなって思っただけなので」
会長のイベントやりたかっただけなので、とは言えず、誤魔化す。
「あー、大丈夫です。会長は本当に、本っ当に切羽詰まった状態のはずなんですが、下っ端はむしろやること終わって暇なので」
私が気にしないようにか、本当かは分からないが、そのまま探検ツアーは実行された。予定とはかなり違ったが、木村さんの説明はとても面白かった。