お試し世界にて
「やっほー、奏。今日から高校生、楽しみだね!」
友人らしき人の声がかかり、うきうきと振り向く。そして……。
「みぎゃあー!!!!」
「みぎゃーって、奏……。どうしたの!?」
心配してくれる友人。だが、私はそれを吹っ切り逃げ出した。
何とか振り切って、そのまま学校へ。ゲームよりもずっと早い時間に着いた私は、早速イベントを起こすために校内へ……行って、くるりと逆戻りした。
「あれ? 君、見ない……って、いっちゃった」
何あれ何あれ何あれー!!?
「た、玉祖命様-!!」
私は迷わず玉祖命様を呼んだ。
「お早う。やっぱり気に入らなかったみたいだね」
私は、目の前にある少し困った顔の玉祖命様につかみ掛かるようにして叫んだ。
「な、なんなんですか、あれ!? 皆、顔がゾンビみたいだったんですけど!!」
不敬にもほどがある私の態度を怒りもせず、玉祖命様は仰った。
「君の設定に沿うようにするには、友人も攻略者も自然に生まれたままじゃあ、出来ないんだよね」
「それは分かりましたけど! 何でゾンビ!?」
「自分の感情なく、シナリオ通りに動く訳だから、ある程度、能面みたいな顔になっちゃうのは仕方がないんだよ」
「あんなの嫌ですよ! 自由意志を戻してください!」
「うーん。でもそうすると、彼らはシンフォニー高校行かないかもしれないし、君もまた気味悪がられるよ?」
「そ、そこは、シンフォニー高校行くところまでは矯正していただくとか。私は赤ん坊から暮らして、ゲーム直前に記憶取り戻すとか……」
「高校行くまで操られていた人間が、いきなり自分を取り戻したからといって、そう簡単に動けるかな? 赤ん坊同然だよ?」
「じゃ、じゃあ、皆がゲームと同じ行動をとるまで、繰り返しやってみるとか……」
「うーん、分かった。でも、少しかかるよ?」
「平気です! 待てます」
そうして待つこと暫し。正確にはどのくらい待ったのかは分からない。待っている間、玉祖命様と色々なお話をしていたので、全く退屈はしなかった。
天之御中主神様のお話だけは「私より圧倒的に偉い方だからねー。下手な話は出来ない」と言って教えてくれなかったけれど、自分を含めたその他の神様のエピソードに大いに笑った。天照大神のうっかり話なんて、彼女もお偉いさんじゃないのか、とか思いつつも、腹がよじれそうなほど笑わせてもらった。
すっかり自分が何をしているのか忘れて、玉祖命様とのお話に夢中になっていた私は、玉祖命様の言葉で我に返った。
「うん、出来たみたいだね。攻略キャラがシンフォニー高校で生徒会をやっている世界」
そうだ、私自分の望みの世界ができるのを待ってたんだ。
あまりの楽しさに、このままお話を続けていたい気持ちも湧いて出たが、自分の我儘を叶えてくださった玉祖命様に、やっぱいいですとか言えるはずもない。私は、玉祖命様に見守られながら、私のために作られた世界へと降り立った。