若葉のころ（旧）

２２

「双葉まりもさん」と小道さんは言った。

「はい。なんですか？」とまりもは言った。

「僕と結婚してください」

「え？」

　まりもは一瞬、自分の耳を疑った。なんだかさっき、小道さんが自分と結婚をしてくださいと言ったような気がした。

　でも、それはまりもの気のせいではなかった。

「今、なんて言いました？」

　と確認をして見ると、小道さんは「僕と結婚をしてくれませんか？」とまりも言った。

　その言葉を聞いてまりもの顔はその耳まで完全に真っ赤になった。

　三年前。

　朝顔と紫陽花が行方不明になって、川に流された事件のあった日。そのあと、小道さんが入院した病院の病室で、まりもは小道さんに愛の告白をした。

　その告白を小道さんは受け入れてくれなかった。

　でも、まりもは諦めなかった。

　三年の間、ずっと小道さんの周囲につきまとった。（もちろん、常識の範囲での話だ）

　そして、自分の愛を小道さんに伝え続けた。

　朝顔と紫陽花もまりもの恋を応援してくれた。

　そして、今日、その思いが成熟する日を迎えた、……ということでいいのだろうか？

　今年、まりもは二十歳になり、小道さんは三十五歳になっていた。

　二人の年齢差は十五歳あった。

「僕はまりもさんを絶対に幸せにしてみせます」小道さんは言った。

　その言葉を、もちろん、まりもは受け入れた。

「はい。私は、小道さんと結婚をします」

　とまりもは言った。

　それからまりもは「でも一つだけ教えてください」と小道さんに言った。

「なんですか？」と小道さんは言った。

「どうして今日、なんですか？」

　まりもは言う。

　すると小道さんは、少しの間、黙ってから「妻の命日だからです」とまりもに言った。