運命の出会い
小柄で可憐な少女が精一杯の背伸びをして電車の網棚に荷物を載せようとしている。
朝の満員電車。
今ならまだ余裕があるけど。だから、今の内に。
「手伝いますよ」
不意に後頭部の遥か上からそんな声が聞こえ、手の中の重量が消える。
え、っと思って顔をあげると、優しい笑顔で荷物を網棚に載せるのを手伝ってくれた青年が、いた。
*****
「どんだけ妄想たくましい訳?」
「ちょっとアタシの美しい回想に口挟まないでくれる!?」
思わず突っ込んでしまった言葉にすかさず反応された。
「ウツクシイカイソウ…どこまでも捏造した煩悩じゃなくて?
誰がカレンな少女…」
「アタシの事よ!もちろん。カレンだし、全然少女でオッケーでしょ?♪
ねぇ、ちょっとこれって運命でしょ!出会いでしょ!
やだもぅ!神様ありがとう」
語尾に付く無数のハートマークが視覚化しそうな程甘ったるい顔でそう言う幼なじみに生ぬるい笑顔が顔に浮かぶ。
愉快な発言をスルーして続きを尋ねる。
「………で、その青年とはどうしたの」
続きに興味なんてこれっぽっちも無いけれど、聞かないと拗ねて手が付けられなくなる。
まだ話を聞いた方が面倒が少ない。
大きなため息を付きそうになるのをかろうじて堪えた。
「それが1週間!全く会えないのよ!
運命なら毎日会うでしょ、普通!」
いや、その前にどうしてそれだけで運命…。
毎日って事は…。
「…もしかしなくても毎日同じ時間にその場所に乗った?」
「当然でしょ?」
けろりとそう答える目の前の幼なじみに脱力感を覚えた。
そうだった。そういうやつだった…。
良く犯罪者にならずここまで…と妙な感心を覚える。
「…運命じゃ無かったって事なんじゃないの?」
「運命に決まってるじゃないの!あれが運命の出会いじゃなくて
何が運命の出会いだって言うの!?」
「………ソーデスネ」
面倒くさくなって遠い目になりながら適当に相づちを返した。
あぁ、もうどうでも良いや。
まだ色々と話している幼なじみの言葉を適当に聞き流しながら、閉じていた本を開く。
まともに相手するから疲れるんだ。
最初からこうしてれば良かったとしみじみ思った。
後日。
「今度こそ運命の出会いなの!」
と懲りずにやってくる幼なじみに返す言葉もなく生ぬるい笑顔しか浮かばなかったのは言うまでもない。