第十二話 軽挙妄動
軽挙妄動――軽はずみに何も考えずに行動すること。是非の分別もなく、軽はずみに動くこと。
◇
ネオン煌めく繁華街の一角で、うつらうつらと船を漕ぐ。時刻は既に22時を過ぎていて、常の彼らならば床に就いている時間である。
少女の様な少年は欠伸の如何にか噛み殺し、半透明の幽霊は浮かんだままに目を閉じている。この場で意識を保っているのは、残る茶髪の少年しかいない。
「……起きろ、動きがあったぞ」
そんな彼の視線の先で、僅かな変化が確かに起こる。まだ営業中の店舗から、目的の人物が私服姿で現れたのだ。
他のスタッフより早い時間で、仕事を終えた彼は淀みない足取りで進んで行く。そんな綾人の姿を目で追いながら、恭介は残る二人の身体を揺すった。
「ふわぁ。お仕事、漸く終わったみたいですね~」
「……これから、家に帰るのかな?」
「後をつけてみれば分かるさ」
欠伸と共に、眠そうに瞼を擦りながら、共に言葉を返す玲菜と響希。二人の姿に苦笑しながら、恭介は行けば分かると言葉にする。
常識的に思考をすれば、仕事が終わったのだから帰宅する筈だ。そう考えて疑ってもいない両者に対し、彼だけはこの先も既に予期していた。
そうとも、これは所詮確認作業。武梨綾人の行動は、結城恭介の予想に反する事はなかったのだ。
「此処、工事現場? どうして、こんな所に」
「武梨さん、何処に行ったんですかね~」
「…………」
追い掛けて、追い掛けて、隠れながらに追い掛けること30分。辿り着いたのは、繁華街の外れにある道路工事の現場であった。
周囲に住宅などは無く、日中は人の喧騒が絶えない場所。そうであるからこそ、深夜工事を行っているのだろう。そんな現場を遠くから、覗き込んで首を傾げる。
一体どうして、こんな場所に。疑問を抱いた響希と玲菜が目的の人物の姿を探す中、恭介だけは既に目星を付けていた。
一分、二分、三分と、僅か待ってからそちらを見る。そうして其処に現れた人影を確認して、彼は大きく息を吐いたのだった。
「……やっぱり、か」
「キョウちゃん?」
「二人とも、あそこ見てみな」
指差したのは、工事現場のプレハブ小屋。其処から出て来た姿に、響希と玲菜は揃って目を丸くした。
「あ、あそこのヘルメット被った人、武梨さんじゃないですか~?」
「僕も見つけたけど、……え、この時間から、また別の仕事するの?」
三人の視線の先には、作業服姿の武梨綾人。現場の指揮者から指示を受けると、彼は即座に軽作業へと入っていく。
軽作業と言っても、軽い作業と言う訳ではない。現場で使う資材を運ぶのが主となる、純然たる肉体労働の一種である。
まだ慣れてはいないのだろう。大きな鉄骨を運ぼうとして態勢を崩し掛けていたり、望まれた道具を間違えて持って行ったりと遠目でも分かる程にミスが見受けられる。
その度に罵声が飛んで、その度に彼は頭を下げて、返事だけは元気が良く。そうして必死に汗水垂らして、現場仕事に打ち込む姿が其処にはあった。
何故なのかは分からない。そんな響希にも、分かる事がある。それは姿にも滲み出る程に濃厚な、彼の必死な想いの密度。
何故其処までするのかが分からない。それでも彼は本気で取り組み、何かを為そうとしている。それだけは響希にも分かったのだ。
「さ、帰るぞ。二人とも」
「此処まで来て?」
「声掛けないのですか~?」
その姿を見て、恭介は何を悟ったのか。瞳を閉じて息を吐いた後、工事現場に背を向けた。
「必要ないさ。知りたい事は知れたし、今度はさっきみたいな手は使えないだろうからな」
今度は待つ気がない。待つ必要はないのだと、目を合わせて小首を傾げる二人に語る。
進む足を止める事はなく、慌てて追いかけて来る彼らに歩幅を合わせながら、恭介は確かな言葉で語るのだ。
「深夜労働ってのは、住民票の提出とか求められるのが普通なんだが、野郎は足りない頭で足りないなりに考えたみたいだ」
労働に関する法律知識など、一切ない響希と玲菜は気付かない。恭介がそれを知っているのは、何時か必要になるかも知れないと知識を集めていたからこそ。
知らない事は理由にならない。分からないで終わってはいけない。絶対に為さねばならない事があるのなら、その為に多くの物を積み重ねるのは必要不可欠な事だから。
「現場仕事なら人手は常に足りないだろうし、日雇いレベルなら其処まで追求される事も少ない。もし何かあれば、バックレてしまえば良い」
だから彼は知っている。暇さえあれば種々様々な知識を集めていたからこそ、結城恭介は知っている。
特定年齢以下の深夜労働が違法となる事を。本来ならばいけない事でも、隠れて通す方法はあるのだと。いざとなれば逃げる事すら、きっと不可能ではないのだろうと。
「兎に角、金が要る。それさえあればどうにかなる。そう考えて、無茶やらかしてんだろうぜ。アイツは」
それでも、それは無茶な行いだ。それでも、それは無理が出る行いだ。法とは人を守る為に、それを破る以上は碌な結末が待ってはいない。
「色々調べる必要がある。だから、次は今日の放課後だ」
此処で調べる事は終わった。それでもまだ知らなくてはいけない事がある。だがそれすらもきっと、己の予想に反する事はないのだろう。恭介はそう考える。
「帰って寝て、時間空けとけよ。響希」
言って振り返りもせず、歩き去って行く恭介。その背を追い掛けながらも響希と玲菜は、一度振り返って言葉を漏らした。
「武梨くん。君は、どうして――そんなになってまで」
「お金があれば、出来る事。絶対に必要な事って、何なんでしょうか~?」
視線の先では、必死に働いている少年の姿。違法と言う悪事に手を染め、それでも真摯に何かを求めるその姿。
武梨綾人と言う少年は、本質的には善人だ。僅かな触れ合いでも、そうと分かる程の善性を持っていた。だから己の利を求めて、きっとそんな理由じゃない。
「分からない。分からないよ。僕はそんなに、困った事がなかったから」
ならば一体、彼は何の為に無茶をするのか。それが響希には分からない。
きっと今日だけの話じゃない。毎日毎日、こんな事を続けているのだろう。だから昼間は寝ているのだ。放課後から早朝まで、絶えず働き続ける為に。
其処までして、求める何か。それが響希には、全く理解できない事だった。
◇
柊中央病院。柊町に唯一つ存在している医療機関で、県内でも有数の規模を持つ大病院でもあるこの施設。
受付を軽く済ませた一行は、白亜の建物の中を歩いている。ふわふわと浮かんだ幽霊は、前を歩く彼らに対し言葉を掛けた。
「病院ですね~」
「…………」
「…………」
返事は返らない。片や落ち込んだ様に、片や怒りを堪える様に、だがどちらも無言であるから言葉なんて返らない。
そんな響希と恭介の様子に肩を落として、それでも玲菜はめげずに続ける。拳をぎゅっと握って二人を見詰め、更に言葉を掛けるのだ。
「大きいですね~」
「…………」
「…………」
それでも、やはり答えは返らない。だから玲菜は寂しくなって、それでも落ち込んではいられないのだと二人を見る。
どちらの方がまだ話し掛けやすいであろうか。少し考えてから、理性的に話すのが得意そうな少年を見る。そうして彼の前へと回り込むと、目を覗き込んで言葉を三度掛けるのだった。
「あの、恭介さん!」
「ん? ああ、どうした、玲菜」
「さっきから~、どうして二人とも、むすぅ~としてるんですか~?」
其処までして漸く返ってきた反応に、玲菜は僅か安堵する。同時に不満も沸いてきて、だから彼女は問い掛けた。
「何だそんな事か。……って、この言い方は不味いな。悪い、心配掛けたみたいで」
「いえいえ~。お話してくれないのが嫌だと言うだけでして~、だから~、何でだろうな~って教えてくれれば許します~」
「俺の方は簡単さ。アイツの理由が余りに予想の通りに過ぎて、色々腸煮え返っているって言うか。まぁ、こっちはあんま気にすんな」
八つ当たりをして悪いと、苦笑を浮かべる結城恭介。彼が片手に握った書類は、放課後までの時間で集めた資料である。
学校の職員室で盗み見て、彼の暮らす場所で更にと情報を集めて来た。人の口には出せない様なやり方だが、彼は非を感じてはいない。
必要な事だった。そう判断している。確信していた。己はこれを知らねばならない。そうでなくば、彼は本当に、どうしようもなくなっていたであろうから。
だから己は悪くはないと、其処に罪悪感は一切として感じていない。感じているのは確かな怒りだ。この情報が事実であれば、結城恭介にとって、武梨綾人は許してはならない男となるのだ。
「恭介さんがそれなら~。響希さんもそうなんですか~?」
「いや、響希の理由は――」
「……此処で、母さんが働いているんだ」
恭介の理由が怒りであれば、響希の理由は果たして何か。そう問い掛けた玲菜に対し、答えたのは響希本人。
何処か暗い表情で呟く。龍宮響希にとって、龍宮楓と言う母親は複雑な情を抱く相手だ。そして母にしてみても、きっとそれは変わらないのであろう。
「ただ、それだけだよ」
「――と、言う訳だそうだ」
「むむむ~。色々と、複雑なんですね~」
此処は、此の病院は、響希にとって特別な場所だ。悪い意味で特別と、そう呼べる場所である。
先天的なホルモン異常。男性ホルモンに分泌異常が起きていて、龍宮響希に二次性徴は起こらない。その事実を教えられたのは、この病院での事だった。
一度目の父が死んだ時も、二度目の父が死んだ時も、一度は此処に運び込まれた。災厄を呼ぶ子供と指差す周囲と、それを信じ掛けた母。彼女はこの場所で働いていて、滅多な事では帰って来ない。
拒絶されているとは分かる。それも無理はないのだと、自分でも納得してしまう所がある。だから響希は、此処に来るのが苦手であった。
それでも、今回は必要なのだろう。此処に武梨綾人の理由がある。あんなにも必死になる理由があると聞いたから、それを知りたいと思ったから、呼気と共に響希は思考を切り替える。
「それで、キョウちゃん。これから向かう先に、武梨君の理由があるんだよね」
「そうだ。この先にある、病室の一つ。其処にアイツの理由が居る」
「それって、やっぱり」
「ああ、もう此処まで来れば分かってるだろ? さぁ、ご対面だ」
そうして返る言葉に頷く。既に響希も予想は出来ていた。病院に居るのは、医療関係者や見舞い客を除けば、病気の患者であると相場は決まっているのだから。
病院の五階。端にある病室の前で立ち止まる。武梨と記された名札を一瞥してから、ノックと共に扉を開く。
春先とは思えない、何処か冷たい風が吹き抜ける。窓のカーテンが風に揺れ、ベッドに横たわっていた少女がこちらを見た。
「貴方達は、誰ですか?」
「初めまして、武梨小春ちゃん。俺らは、まぁ、あれだ。君のお兄さんの、友達さ」
帽子を被った幼い少女。見上げる視線に淀む事なく、恭介は虚言を口にする。
幼子に平然と嘘を付く。それで良いのかと問われたならば、きっと彼はこう答えるだろう。バレる前に本当にしてしまえば良いのだと。
「兄さんのお友達?」
「ああ、そうさ。アイツの代わりにちょっと、お見舞いを頼まれてね。最近、来れなかった事、アイツ気にしてたんでな」
「そう、ですか。……今日も、兄さんは来てくれないんだ」
推測をあたかも事実の如く、外れていないのが碌でもない。そんな風に内心で思いながらも、響希は口を挟めない。
それは堂に入った恭介の虚言が故ではなく、それを向けられた幼い少女の表情が故。余りにも寂しそうなその表情は、確かに何処かで見た面影と重なったのだ。
「ごめんなさい。折角来て頂けたのに、こんなの、迷惑ですよね」
「いいや、そんな事はないさ。抱え込めなくなったのなら、誰かを頼るのは間違いなんかじゃない。……初対面の野郎にぶちまけるなんて、普通出来ないだろうけどな」
年の割には、随分と慣れた敬語口調。そんな話し方をする人が周囲に多かったのだろう。当たり前の会話をしてくれる相手は、きっと少なかったのだろう。
そうと分かってしまったから、彼女の気持ちに共感出来てしまったから、響希は何も言えない。そんな彼を差し置いて、恭介は当たり前の様に距離を詰めていく。
寂しそうな表情で、年齢以上に大人びた少女。こうした相手と仲良くするのは、彼にとっては得意な事。悪意も下心もないからこそ、閉じ掛けた心を開く事が出来るのだ。
「……優しいんですね。けど、平気です。私はまだ、兄さんだって、きっと頑張ってるんだから」
言葉と表情で安心させる様に、そんな所作に僅か心を開く。警戒心は其処になく、兄の友人であると言う言葉を信じた。そんな少女は問い掛ける。兄の友人であると騙る初対面の彼らに、少女はその名を問い掛けた。
「お名前、聞かせて頂けますか?」
「俺は結城恭介。んで、こっちが」
「ぼ、僕は、龍宮響希」
「西行寺玲菜です~」
「恭介さんに、響希さん、ですね。覚えました」
「スルーされました~!?」
名を聞かれて、それに答える。一人スルーされたと亡霊が嘆くが、見えないんだから仕方ないでしょと響希は小さな声で彼女を励ます。
「その、もしよろしければ、外のお話。兄さんのお話。色々、聞かせて貰えますか?」
「もちろん。……拙い語りではありますが、姫君の無聊を慰める一助となれば幸いです。なんつってな」
そんな二人のやり取りに気付かず、恭介に向かって語りを求める小春。道化た仕草を見せながら、恭介は幼い姫君が望む語りを騙るのだった。
面会の時間は十分程度。余り負担を掛けられないからと、受付で許された時間一杯話した後。響希達は病院内を歩いていた。
「小春ちゃん、寂しそうだったね」
「けど~、病気の人の割には~、元気だった気がします~。一体全体、何の病気なのでしょう?」
病室を後にして、話題としたのは先の幼子。自分達より一つ二つ以上に年下の、武梨小春に関する話題。
一体何の病気であるのか。彼らの抱いた疑問に対する答えを持つ恭介は、集めた書類に書かれた事実を諳んじた。
「遺伝子性の小児癌。腫瘍の箇所は小脳で、主な失調は歩行障害だそうだ」
淡々と事実を語る彼の言葉に、響希の足は思わず止まる。口にされた病名は、それ程に重い物だったのだ。
「ガン?」
「それって、死んじゃうって、こと?」
「……現時点ではグレード3。五年後の生存率は、20パーセントって所だろう」
歩き続ける恭介の、言葉に嘘は一つもない。止まらぬ彼を追い掛けながら、響希と玲菜は言葉を聞く。
「あの子、帽子被ってたろ? 抗がん剤の副作用って、髪の毛抜けちまうんだよ」
それは小春と言う少女の現状。それは綾人と言う少年の理由。彼らを取り囲む状況は、五里霧中と言える程に見通しが立たないものなのだと。
「それでも、完治は難しい。そうなると、外科手術が必要になるんだが――あの年齢だ。耐えられるか分からねぇって所だろ」
抗がん剤で弱った身体。元々決して強くはない体質。そして未熟に過ぎる年齢。何処か達観した少女はきっと、もう諦めているのだろう。
抗がん剤治療では効果が出なかった。外科手術には耐えられない。それでも残ったたった一人の家族だから、武梨綾人は諦める事が出来ないのだ。
「武梨兄妹は何年も前に両親を事故で亡くして、今は孤児院暮らしだ。……先進医療って奴は、基本自己負担でな。それだけの金額を、市営の孤児院じゃ用意するのは難しい」
「……じゃぁ、武梨くんが朝までずっと仕事をしてたのは」
「その、せんしんいりょーのお金を稼ぐ為って、事ですか?」
だから、彼は金を求めた。お金があれば救えるのだと、必死になって稼ごうと考えた。考えて考えて考えて、それしか答えが出なかったのだ。
だから、彼は必死に金を稼いでいる。夜も朝も休まずに、きっと間に合うのだと信じて、いいや間に合わせるのだと断じて、武梨綾人は我武者羅に働いていた。
「なら、僕らのやってる事は……彼を仲間にしようとするのは、迷惑でしかないのかな?」
「学校では寝てて~、それ以外ではずっとお仕事をしてるんですよね~。一緒に遊ぼうと言っても~、頷いてくれるとは思えないです~」
そんな理由があるのなら、彼は決して頷けない。響希たちの行為は何処まで行っても趣味の産物。悪く言ってしまえば遊びと同じだ。
稼ぎがないから、プロじゃないから、そんな道に誘う事などしてはいけない。響希と玲菜はそう考えて、しかし恭介の結論は彼らと違った。
「なぁ、響希。違法行為ってのは、何時か見つかるんだぜ?」
「キョウちゃん?」
「それにな。先進医療費って幾ら掛かるか知ってるか? 重粒子線治療とか、三百万超えてんだぜ?」
「恭介さん?」
冷たい口調で彼は断じる。怒りに燃える瞳で彼は告げる。五里霧中の中で選んだ少年の行動は、軽挙妄動に過ぎなかったのだと。
「途中で見つかったらアウト。見付かんなくても、あの子が生きている間に三百万を超えなくてもアウト。……出来る訳ねぇだろ」
辿り着いた病院の中庭で、怒りと共に腕を振るう。握った拳が観葉樹を叩いて、大きく揺れて葉が落ちた。
そうして憤りを発散しながら、結城恭介は確かに語る。それは予想するに容易い、彼ら兄妹に待ち受けるであろう未来の話。
「その先がどうなるか、少し考えれば分かるだろうに。野郎が馬鹿やった結果、あの子は兄貴と逢えずに死んで、その果てに残された本人は周囲を恨みながらに破滅する。見え透いてんだよ、糞ったれがッ!」
経歴詐称をして、それでも大した金額は稼げない。そうでなくとも、あんな無理は長く続く筈がない。何時かはきっと、誰かにバレて止められる。
もう何日、孤児院に帰っていないのだろうか。職員達が事実に気付いて、止めに入るのもそう先の話ではない。一月も持った事こそ、奇跡的な偶然だ。
手術に耐えられない程に弱っている。そんな武梨小春は、もう先が長くはない。直ぐにでも先進治療を受けさせなくては、一年だって持たぬのだろう。
間に合う筈がない。アルバイトの給料だけで、支払える筈がない。どんな必死に稼いでも、集まった時には既に死んでいる。そんな最悪の展開にしかならないのだ。
「止めるぞ。響希。玲菜」
だから、結城恭介は怒りを抱く。為すべき事を間違えて、馬鹿な事をやって周囲を振り回し、果てにたった一つを亡くしてしまう。だからこそ、恭介は怒りと共に此処に叫ぶ。
「あのバカ野郎をぶちのめしてでも、テメェのやってる事の馬鹿さ加減を叩き込んでやるッ!!」
綾人は止まらない。それしかないと思い込んでいるから、彼はきっと止まれない。だからもう歩き出せない様に、ぶん殴ってでも止めてみせる。
守ると言う言葉を錯覚し、救うと言う行為を軽んじて、愚かなことを続ける大馬鹿野郎。武梨綾人と言う少年は、結城恭介にとっては決して許せない男であったのだから。




