見えざる人物
「この世界は作り物だ」と彼女は言った。
私は彼女のことをよく知らないけれども、人には見えないものが見えるらしかった。周囲は彼女を避けている。けれど、個人的には彼女に少し興味があった。周りと違う世界が見えるというのは、面白いことだと思うからだ。
「ねえ、この世界が作り物って、どういうことなの」
「この世界を作っている人がいるってことよ」
「それは神様?」
「分からないけど、私には見えるの」
話していて分かったのは、要するにこの世界の外側に、私たちを陰で操る黒幕がいるらしい、ということだった。けれども彼女が言うには、それは神様やサタンのような、宗教的な存在ではないらしい。
「じゃあ、いまの私たちの会話にしても、実はその人に操られて話しているって言うのね」
「そう、それに、その人が考えたことしか、この世界では起きようがないの」
今まで色んな人に会ってきたつもりだが、ここまで突拍子もないことを言う人は初めて見た。しかし、腑に落ちないことが一つあった。
「ねえ、その人が見えるっていうのは、どういうことなの。私にも見えるかな」
「分からないけど多分、その人次第なんだと思う。願ってみたら、見えるかもね」
私は面白がって、手を合わせ、目を閉じてみた。しばらくして、「いま、ここにいるよ」という彼女の声に気付いた。不思議に思いながら、目を開けた。
その時、この物語を今しがた書き上げ、読み直している人間を、私は確かに見た。
所謂メタ設定というやつです。映画なんかだと、カメラの存在を意識させないために、カメラ目線を回避するのが鉄則です。そこで逆に、フィクションの世界にいながら、カメラが見えてしまう人を書いてみました。何番煎じか分かりませんが。