サプライズぱーてぃー・前半
連雀ミコト、連雀学園高等部1年、生徒会会計及び仙波屋所属、連雀学園理事長連雀カナエの1人娘。
ミコトとの関係を話すにはまず親の関係から話さなければらない。
俺の母親とカナエさんは同じ高校で1年生からクラスメイトで気が合い、すぐにお互いを大親友と言える仲になった。
カナエさんは高校を卒業後、大学時代に知り合った同級生と学生結婚し、ミコトを出産し、俺とミコトは同級生となった。
その後、ミコトとは定期的に遊ぶことになった。とはいっても物心ついたときにはカナエさんは文部科学省のキャリア官僚として全国転勤で会える回数もそれほど多くなく、たまに関東に帰ってきたときによく遊んでいたのだ。
ミコトは昔からあんな感じで、周りは捉えどころがないと評していたものの、感情がストレートに出るだけで俺は仲よく遊んでいた。
ただそれは俺の見方で、ミコトにとって全国転勤はそのまま友人が作れない環境であり、小学生の中学年に差し掛かったころ、友人と呼べる存在が俺だけであることにカナエさんは衝撃を受けた。
その時、当時、かねてから親交のあった歴史はあるが衰退の一図をたどっていた私立近衛学園理事長近衛清一郎から経営権の無償移譲の打診を受ける。
1年間による協議の末、カナエさんはミコトの理想の教育環境を整えるため、文部科学省を退官、理事長就任を了承、名称を連雀学園に改名。
その後、清濁併せのむという校訓、それを基礎として革命的な校則の変革、大学部の創設、高等部の募集枠拡大、そして共学化、地元との密着強化等様々な施策を実施し、見事によみがえらせた。
その敏腕理事長のカナエさんの住まいは、自分の実家、つまりミコトの母方の祖父の家に居を構えている。
今日は、世間ではみどりの日と呼ばれる、ゴールデンウィーク前の祝日、たまには家に帰ってきなさいということで、ミコトは実家に帰省、俺もミコトの家にお呼ばれして昨日はミコトの家に泊まった。
昼食を終えて、今はリビングでくつろいでいる。
「この前はお手柄だったみたいね、活躍したみたいじゃない」
ミコトの家の縁側、3人並んで隣にいるカナエさんが話しかけてくる。
「……あのパソコンの時、協力してくれるとは思わなかった、カナエさん、仕事には厳しいと思ったから」
「ま、仙波君のことだから証拠は残していないんでしょう、それにあの時は私なりのお礼でもあったからね」
「お礼?」
カナエさんは隣に座っていたトウコを抱き寄せる。
「驚いたわ、この子が他人のために動くなんて、しかもユウト君以外の人のために、トモヤ君もスミレさんのことも好きなのね、食事の時にね、ユウト君のこともそうなんだけど、あの2人のことも話していたのよ。ね、ミコト」
「うん、スミレ先輩もトモヤ先輩も優しい、生徒会は居心地がいい」
穏やかなミコトの笑顔に俺もうれしくなる。
「そうだったのか、といっても俺は別に大したことはしてないよ、みんなの協力があってこそだからね」
「あらあら、副会長として頑張っているようでよかったわ」
クスクス笑うカナエさん。その横でミコトはむくれている。
「ユウトは母さんの前だとかっこつけたがる、変わらない」
「な、なんでだよ、そんなことないぞ」
「そんなことある、ユウトは母さんが初恋の人だから」
「ちょ!」
「あらあら、そうだったの? ユウト君、私は今フリーだよ、昔を思い出して一緒にお風呂でも入ろうか?」
「母さん!」
「はいはい」
思わず顔が赤くなるのを感じる、くそう、ばれていたのか、小さいころ、優しくてきれいなカナエさんには憧れに似た感情を抱いていたのだ。
そのあと、カナエさんとミコトで話題に興じる。話題な主に生徒会活動と仙波屋の活動のことだ。
「いいチームなのね、これはなかなか得られることじゃない、萱沼さんも喜んでいるでしょうね」
しみじみとしたカナエさんの言葉。俺からすれば萱沼先輩も十分に凄いと思うけど、萱沼先輩自身も自己評価はあまり高くないし、俺にはそれが疑問に映ってしまう。
「あの、カナエさんから見て、萱沼先輩ってどうとか、聞いていい?」
「そうね、萱沼さんは、理想的な組織リーダーではあったけど、その組織リーダーでずっと悩んでいたのよ」
「え?」
「難しいことだけど、文句がつけようがないというのも問題なのよ、同じやり方では通用しない時が必ず来る、そしてそれは萱沼さんの時に訪れていたのよ」
カナエさんによれば、最初はステータスシンボルだった生徒会も、気づかない範囲で影響力も弱くなってきた。
とはいえ、具体的な対策を取る人物はおらず、それは運営という点では萱沼委員長も同じだった。
「あの子は自分のそういうところをちゃんとわかっていて、引退するまでにちゃんと計画を練っていたのよ」
「計画?」
「それは新しい人材を入れないようにすること」
「え!?」
「あら、気づいていなかったの? いくらなんでも仙波兄妹だけにするなんて不自然でしょう?」
萱沼先輩は就任当時、萱沼先輩は理事長室にあいさつに来た時にこう言ったという。
『このままでは早かれ遅かれ生徒会は機能不全を起こします』
質が悪いのはそれが緩やかに来ることと機能不全を起こした状態でも問題なく進んでしまうことだ。
とはいえ、自分では変えることができない、その下地を作るために、トモヤ先輩の処分権限を自分の専権にして、スミレ先輩をスカウトしたのだそうだ。
「…………」
カナエさんの言葉に絶句するしかない、そうだ、砂先輩も言っていたじゃないか「新しい人材獲得には無関心と言えるほど、一番の失態は仙波兄妹だけに任せた」と、それが意図されたものだったなんて。
(本当にいろいろ面白い学園だよなぁ)
みんな色々なことを考えながら学園生活を送っている。
これがカナエさんが作った学園か、カナエさんはお茶をズズと飲む。
「そろそろゴールデンウィーク合宿の準備が本格化してくると思うから、頑張ってね」
●
「今日の議題はゴールデンウィーク合宿だ」
ホワイトボードに「ゴールデンウィーク合宿」と書いて俺たちに向き直るスミレ先輩。
連雀学園の生徒は5月になれば、すべての生徒がいずれかの部活動に所属している。
親交を深めるためにゴールデンウィークは合宿が義務付けれているのだ。
合宿場所は、部活や同好会が任意の場所ではあるものの、予算の関係で一番安上がりな連雀学園で行うところが多いだとか。
そして我が生徒会も管理という名目で合宿を行うことになっている。
「とはいっても、堅苦しく考える必要はない、遊びがメインだよ、管理や警戒はついで、仕事は見回りぐらいだよ」
生徒会の合宿は生徒会室で行う、仮眠室も用意されておりそこで寝るとのこと、まあそれはいいんだけど。
「すごい量ですね」
全部の部活動の合宿申請が届いている、かなり大量に。
「これを今日中に仕上げなければならない、それと生徒会の合宿には理事長も呼ぼうと考えている、それについて連雀さんに提案したいことがあるんだ、理事長の誕生日パーティーを合宿最終日の打ち上げに合わせてやりたいのだが、いいか?」
「……え? 母さんの? どうして?」
「連雀理事長には、私が中等部のころから色々と世話になっているんだ、いつかきちんとした礼をしなければと思っていた、どうだろう?」
「でも……」
困惑するミコトではあったが、俺は手を挙げる。
「ミコト、俺は賛成だ、トモヤ先輩はどうですか?」
「もちろん賛成だ、理事長の温情のおかげでこうやって学園生活が送れているわけだからな、それに前回の礼もしたい」
もうここまでくればミコトの意思だ、3人の視線がミコトに集まる。
「うん、ありがとう」
嬉しそうにミコトは答えてくれた。
「よし、今回の生徒会の合宿の打ち上げは連雀理事長の誕生パーティーだ!」
●
そんなわけで始まった生徒会合宿、メインはカナエさんの誕生日パーティーだ。
今回の合宿での俺の役割は、生徒会の仕事だ、だから今、学校の中を回り部活の巡回をしている。スミレ先輩の言ったとおり、生徒会の仕事と言っても、見回りぐらいなんだけど、これがやり始めると結構つらい。
効率的に回らなければならないから、一応ルートを決めたものの巡回の途中で声をかけられたり、話し込んでしまったり、相手もほとんどが先輩だから結構緊張もする。
しかもカナエさんの誕生日パーティーもあるのでまとめる時間を考えるとすべての見回りを、明日の昼までには終わらせなければらならないのだ。
「って弱音なんて吐いてられないよな」
なんとか頑張らないと、カナエさんの誕生日パーティーなんて俺だって長いことしていなかった。カナエさんの喜ぶ顔のために頑張らないと。
(それに、スミレ先輩の手料理も食べられるし♪)
スミレ先輩は、その他雑用係に決まったトモヤ先輩を荷物持ちとして張り切って買い物に向かっている。
そう、今回の合宿に当たり、料理担当はスミレ先輩になったのだ。
正直ちょっと不安だったのだが、スミレ先輩は実家に住んでいた時よく食事を作っていたのだそう、味もトモヤ先輩の保証済みだ。
女子の手料理なんて初めて食べる。ミコトは発明に夢中でこういった出来事には無縁だったからな。
「prrrrrrr」
俺のスマホがコールする。発信者を見てみるとミコトからだった。
『ユウト! 誕生日プレゼントが完成した! 見に来てほしい!』
●
誕生日プレゼントの担当は、娘であるミコトに決まった。
ミコトは何か閃いた様子で学園に帰ってからカップラーメンを買い込んで支部にこもった。
『完成するまで誰も入ってこないでほしい』
とはミコトの弁、相当に気合が入っているのだろう、巡回もひと段落ついたところだから、支部へと向かう。
相変わらず白を基調とした無駄に研究室っぽいところだ。
中には、二つのカプセルのようなものが並んでおり、そこから複数のコードがディスプレイに伸びており、カプセルにレバーがついている。
「ユウト! 来てくれてありがとう! やっとできた!」
嬉しそうに駆け寄ってくるミコト。
「ああ、おめでとう、ってなんだこれ?」
「これは強制結婚装置! 両方がカプセルに入り、お互いの思考回路をデジタル解読し、脳の海馬域に空白のスペースを作り、パーテーションをはめ込み、そこに相手の恋愛情報を埋め込み、好きになることができる渾身の作!」
「怖すぎるぞ!!」
「とはいえまだサンプルデータが取れない、だから呼んである」
「呼んであるって……」
「呼ばれて飛びでてじゃじゃじゃじゃ~~ん! 仙波トモヤ参上!」
やっぱりとばかりにトモヤ先輩が現れた、買い物終わったのか。
「トモヤ先輩、例の装置が完成した、実験するからカプセルの中に入って」
「いいぜ~」
なんの躊躇もなく、カプセルに入るトモヤ先輩。それを見届けて、ミコトは機械を操作するとプシュとという音ともにカプセルが閉じる。
その瞬間、ブゥーーンと音ともにカプセルがぼんやりと光り始める。
「最終障壁の対象者の思考シグナル解析開始……解析完了、パーテション開放、神経パルス第1番から第256番まで接続完了」
「ミ、ミコト?」
「神経パルスより、識別確定信号を送信……受信確認、装置との完全リンクを確認、識別確定信号から強制認識信号を送信……受信確認」
「な、なあ、なんか、言葉だけ聞いていると、なんかの法に触れるような……」
「最終安全装置解除」
「最終安全装置!?」
ボタンを押す。
「強制結婚装置、始動」
そのままレバーをいっぱいにひく。
バチバチバチバチバチバチ!!!
あたりが急に薄暗くなったかと思うと、すさまじい音と共に、光が雷みたいにカプセルを包んでいる。
「ちょ、ちょ、ちょ、だ、だいじょうぶなのか!? あれ!?」
「大丈夫、命の危険があるようなことは絶対にない」
「い、いや、命はもちろんなんだけど、別の意味で」
その時に、モニターから不快な警報音のようなものが木霊する。
「ミコト、なんなのこれ、ワーニングって出ているけど」
「…………」
「…………」
「問題ない」
「嘘つくなよ! あるだろ! 俺の目はごまかせないぞ! 目がめっちゃ泳いでいるぞ!」
「というよりも勝手に防壁プログラムがどんどん解析されていく、これがどこから来るかわからない」
「……つまり?」
「前向きに対処します、誠に遺憾です、これって便利な言葉」
「だったら! 早く!! 前向きな対処を!!!」
「ち、ちがう、これは、まさか……私は、騙されたというの!?」
俺の突っ込みを無視するかのように突然ハッとするミコト。
「俺をおいてくなよ! どうしたんだよ!」
「トモヤ先輩、まさか、これは……」
その瞬間、空気が揺れ、包み込むようなすさまじい音が支部内にこだました。
バチバチという音が収まるとプシュという音がしてカプセルのふたが開く。
「トモヤ先輩!」
急いで駆け寄るとトモヤ先輩はムクリと上半身だけ起き上がった。
「…………」
じっと俺を見ているトモヤ先輩。
「…………」
じっとトモヤ先輩を見ている俺。
ふと、トモヤ先輩が視線を外し、立ち上がるとヨロヨロとミコトのほうに近づいてくる。
「き、きみは……」
トモヤ先輩はミコトを見ながらプルプル震えている。
「うっひょひょ~~い!」
そのままルパンダイブでミコトに飛び掛かった。
「ト、トモヤ先輩!」
ま、まさか、誤作動を起こして、ミコトに恋愛感情を。
「ツバサちゃん! ツバサちゃんじゃないか! ついに二次元を超えて俺に会いに来てくれたんだね!」
トモヤ先輩は興奮気味にミコトが使っていたコップに話しかけている。
「……なあ、そろそろオチはいいか?」
「三次元でリアルツバサと妄想の中でもいいから話したかった、そういうプログラムが組み込まれていた、現実の人間だと迷惑がかかるからコップにしたみたい」
「…………」
俺はそのまま、漫画に出てくるような大きなハンマーを振り上げる、これはミコトが発明した大打撃装置だ、確かリアクティブアーマーをヒントに作ったとか言っていた。
「ふんふんふん!!」
ドカドカと何回も打ち付けて原形をとどめないぐらいに破壊した。
「ユウト、どうして……せっかく作ったのに」
「どうしてじゃない! 人に危害を及ぼす発明は駄目だっていつも言っているでしょ!」
「わかった、反省する」
シュンとしている。
「そもそもどうしてこんなもの作ったんだよ」
「前に母さんは私が幸せになる姿が見たいと言っていた、だからユウトと結婚した幸せな姿がプレゼントになると思った」
「お前はいつも極端なんだよ、もっと単純でいいんだよ」
「単純、難しい、どうしよう?」
「押し花とかどうだ?」
声がしたので振り向くと決め顔でトモヤ先輩がディスプレイを指さしながら椅子に座っていた、復活早いな。
「へえ、押し花って、色々なものがあるんですね」
ディスプレイには、カラフルでおしゃれなものがたくさん表示されていた。
業者に頼んだりすると結構高価だけど、手作りなら値段も手ごろだ、凝ることができればいくらでも凝ることができるらしい。
「これ、とってもかわいい、でも難しそう、作ったことない」
ミコトの言を受けてトモヤ先輩がポンとわざとらしく手をたたく。
「おーそうだ、実はな、スミレがこういった手芸がすごい得意なんだ、押し花も作ったことがあるんだ、いや~、すごい偶然だな~」
「でも、スミレ先輩は料理担当……」
「ミコトちゃん、料理は俺たち男性陣が頑張るよ、なんとか食えるものぐらいは作ってみせる、それに誕生日はプレゼントが何よりも大事だと思うんだよ」
「プレゼントが大事……うん! 私もそう思う! 色々ありがとう!」
「なんの、可愛い後輩のためだからな、さあ早くスミレへ連絡を取り給えよ、さあさあ」
「わかった、でも頼りになるトモヤ先輩はちょっと気持ち悪い」
「ぐふっ、なんで今のタイミング?」
ウキウキ気分でスマホを取り出すミコトを見ながら、俺はトモヤ先輩を突っつく。
「トモヤ先輩、俺、スミレ先輩の手料理とか、ちょっと期待していたんですけど」
俺の言葉で振り返ったトモヤ先輩はジト目で俺を見てくる。
「お前は何もわかっていない、いいか? 実はツバサちゃんも料理ベタなんだ、だがそこに萌えるわけだ、強く激しく、でもな、それは二次元だからなんだよ、実際に料理が下手だとこれはやばいと思うんだぞ、結構深刻な感じで」
「や、やばいって、え、でもスミレ先輩、食事を作ることが多いって」
「それは嘘ではない、普通に作れば美味いし作りなれている、だが気合を入れれば入れるほど明後日の方向に飛んでいくんだよ、買い出しの様子を見る限りレッドシグナルだ、だから料理は俺とユウトでレシピ通りに普通に作ろうぞ」
「……今まで気合入れた時はどうしてたんですか?」
「どうしてたんですかって、普段は美味いものを作るわけだからな、へそを曲げられると俺も親父も困るんだよ」
そうなんだ、トモヤ先輩の切実な言葉に俺は頷くしかなかった。
そんなトモヤ先輩をあざ笑うかの如く、直後にスミレ先輩からのメッセージが届いた。
簡単にだけど試食レベルで作ってしまったので食べてほしいと……。
●
スミレ先輩のメッセージを受けて、家庭科室に向かう俺とトモヤ先輩。
あれだけトモヤ先輩が言うんだ、相当に不味いのだろうかと、足取りは重たかったけど。
「あれ?」
家庭科室がある階に差し掛かった時、ふわりといい香りが鼻孔をくすぐる。
「トモヤ先輩、いい匂いするじゃないですか」
「ああ、そうだな、味も美味しいといいな」
とことん信用していないらしい、おいしそうな香りがするんだけどなぁと思いながら、ドアを開けると、純白のエプロン姿のスミレ先輩が出迎えてくれた。
(おお~)
と声が出そうになるのをどうにかこらえる。
うん、知っている女の子のエプロン姿って結構くるよね。
「く、郭町、話は連雀さんから聞いた、私も賛成だ、だけど、連絡来た時に、少し作ってしまったんだ、このまま捨ててしまうのはもったいないと思ってな、だから食べてほしいんだが」
少し作ってしまった……という割には、ちょうど1人前の量で三品ほど並んでいる。
トモヤ先輩がやばいと言っていたスミレ先輩の料理か……。
「美味しそうですね」
「ああ! ありがとう! 結構自信があるんだ!」
別にこれはお世辞ではない、おいしそうな香りに本当にうまそうだ。
トモヤ先輩が、あんなに煽るから不安になったのに、しかも女の子の手料理かと思うと、顔もほころんでしまう、でも見たことがない料理だ、麺料理みたいだけど。
「あの、スミレ先輩、これはなんて料理なんですか?」
「ははっ、何を言っているんだ、ただペペロンチーノだよ」
「え?」
「ふふん、とはいってもレシピ通りに作っても面白くないからな、私なりに自己流のアレンジを加えたんだ! 創作系だったか? ちょっと恥ずかしいが流行りに乗ってみたよ」
「…………」
急に不安になってきた、なんか地雷ズカズカ踏んでいる気がするけど。
ペペロンチーノかー、ペペロンチーノってこんなカーキ色みたいな色だったっけ。
まあとはいえ、しょうがない、トモヤ先輩がいるから一緒に食べるか。
「せっかくだから、一緒に食べまアレ!?」
振り返った先にはそこにはすでにトモヤ先輩の姿はいなかった。
(に、逃げやがった!)
「むっ、ひょっとして疑っているのか? 味はそれなりに自信があるんだぞ、あのバカに確認してみるといい」
(それは知っている……)
まあでも、普段は美味しい食事を作ってくれるのは確か、そして目の前に美味しそうな料理が並んでいるのも事実だ、そのままいただきますと口に含み。
いい香りがそのまま濁流となり脳天を突き抜けた(意味不明)。
(ふぐぅっっっっ!)
なんとかこらえる、香水っていい香りだけど、飲むとこんな味がするのだろうか。
これがペペロンチーノ、ペペロンチーノの概念を覆すという意味では、確かに創作系料理と言ってもいいだろう(まるで伝わらない表現)。
「ひょっとして……おいしくなかったか」
シュンとした不安げなスミレ先輩。考えろ、考えろ郭町ユウト、お前ならできる。
「俺、普段のスミレ先輩の料理が食べたいです」
「え?」
「トモヤ先輩が言っていたんですよ、家で家族の食事を作っているんですよね、俺、家庭的な味の方が好きで、そっちを食べたいです」
俺の言葉にパアっと顔を輝かせるスミレ先輩。
「わかった! 必ず作ってやるからな! じゃあ連雀さんと押し花を作るから!」
「はい、片付けはしておきます」
「ありがとう、押し花は作り始めると結構時間がかかるからな、早く行かないと」
エプロンを外し、上機嫌な様子で家庭科室を後にしたスミレ先輩。
(よし! 嘘は言っていないぞ!)
見送って俺はガッツポーズが出てしまった。
嘘は嘘としてどうしてもぎこちなくなってしまうものだ、人に気持ちを伝えるときには嘘をつかないことが大事だと、本当の言葉で伝えなさい、それが詭弁でも方便って、カナエさんが言っていた。
と自分で自分をほめていると。
「ふい~、危なかったぜ~」
スミレ先輩が出て行ったのを見計らってトモヤ先輩がノコノコ戻ってきた。
「いや~、間一髪! どうだった? 俺の言ったとおりだっただろ~?」
「いやいや、全然美味しいじゃないですか、警戒して損しましたよ」
「え!? マジで!? 珍しく成功したのか!? じゃあちょっと味見~♪」
あーんと、大口を開けてそのままモグモグ食べるトモヤ先輩。
「ウウヴォヴォヴォエエエエエエ!!」