天地天命が覚醒の約束の地 ~漆黒の焔が刻まれた男編~
――風紀
風紀とは社会生活の秩序を保つための規律、ここでいう社会生活の秩序とは男女間の交際についての節度という意味で使われている。
連雀学園での風紀とは、社会生活の秩序を学園生活の秩序という意味で使い、男女間の交際は、その一部として解釈されている。
連雀学園の前身である近衛学園の時は風紀委員会はあくまで「規則を守らせるための補助役」としての意味合いだったが、連雀カナエが理事長に就任したことにより、活動内容が一新、いわゆる「警察活動」も含むこととなった。
風紀委員会委員長萱沼カエデは、新体制に移行してからの9代目の委員長にあたる。
彼女は今、風紀委員会の詰所の隣に設置されている資料室で1冊しかない極秘ファイル「理事長指定案件」を読んでいた。
理事長指定案件、学園内で発生した事件で、理事長が風紀委員会の権力拡大を許可するに至った案件、過去3件しか指定されたことがない重要案件だ。
彼女は、極秘ファイル読み終わり閉じると、金庫にしまい鍵をかけた。
●
授業が終わって放課後になり生徒会役員室に入った時、トモヤ先輩がいた。
珍しい、大抵は支部にこもっているか、ミコトの実験に付き合っているかしているのに。
そんなトモヤ先輩は生徒会長のパソコンをいじっており、俺の来訪に気付いていない様子だ。
「トモヤ先輩」
「うお! あ、なんだユウトか、びっくりさせないでくれよ」
「いや、普通に入ってきただけですけど、何をしているんです?」
「ふふん」
眼鏡をくいっと、実際にかけてないけど、あげる仕草をするトモヤ先輩。
「郭町ユウトよ、そういえばお前には俺が生徒会役員に立候補した理由を話していなかったな」
「え……」
確かに、というより理由なんてあったのか。
「そろそろ教えてもいいころだ、これを見るがよい」
(時々、変なキャラになるよな)
トモヤ先輩が指し示したディスプレイをのぞき込む。
「これって……」
クラスの女子名簿、というかクラス学年問わず並べられており、順位がつけられている。
「ふふん、女子生徒たちの身体データベースだ、今は去年と比べてどれぐらい成長しているか表計算をソフトを使って算出したものだよ」
「いやだから犯罪ですから!」
「わかっているよ、これは俺個人が楽しむものであり男のロマン企画には使わないよ」
「男のロマン企画?」
俺の問いかけに、トモヤ先輩は再び眼鏡を(以下略)。
「郭町ユウトよ、スミレが前に生徒会役員のパソコンは特別だと話していただろう? これはな、教職員クラスのアクセス権限を持っていていてな、普通の生徒だとアクセスできないところにアクセスすることができるのだ」
「……つまりこのパソコンの権限が欲しかったからですか」
「そのとおりだ、テレビやドラマみたいに、ハッキングしてデータベースに潜って~ってよりも、正規のルートが使えるのならそうしたほうが早いのさ!」
トモヤ先輩は、エクセルの画面を閉じると、あるサイトを立ち上げて俺に見せてくる。
「男のロマン企画?」
「男子生徒たちのリクエストに男のロマンをもって答える今では仙波屋のメインの活動になっているのだ、会員の男子生徒だけがアクセスできるようにしてある極秘サイトなのだ、ちょっと待っていてくれ」
トモヤ先輩はカタカタとキーボードをたたいている。
「ほいほいのほ~い、ほら、これがお前のアクセスコードだ、今後これでアクセスしたまえよ」
「はあ、どうも」
メインの活動、という割には、トップページからは掲示板と活動履歴しかない。一番の最新履歴を見てみると、水着女子の盗撮写真が期間制限付きでアップされていた。
「トモヤ先輩……」
「ユウトよ、お前はこのメッセージを呼んでもそういう表情ができるのか?」
トモヤ先輩は掲示板をクリックしていると、企画リクエストに採用のきっかけとなった書き込みが示されていた。
――水着女子が見たいんです! 本当に見たいんです! 水泳の授業があるのに! 女子の方が圧倒的に多いのに! 別々なんてあんまりです!
このスレに多数の男子が同調していた。
「俺はこのメッセージを読んだ時にそうだな、魂に響いた、って表現すればいいかな」
(まあ、わからんでもない……)
「今は新たな計画を遂行している最中だ、これを見てくれ」
「なになに、男のロマン企画第46弾、一番人気女子生徒のコラージュを作る、なんですかこれ?」
俺の言葉にトモヤ先輩は(以下略)。
「よくぞ気づいたな、期間限定で人気投票を行い1位になった女子生徒の希望のコスチュームを作ったコラを作るんだよ」
「コラって……」
「大丈夫だ、前にも言っただろ、尊厳を損なうことはしないって」
「いや、十分に損ねていると思うんですけど、それで一番は誰だったんです?」
「萱沼だよ」
「え!?」
「ん? 好みじゃないのか? 妥当だとは思うぞ、綺麗だし、料理もうまいし、性格もいいし、いい女だからな、あいつ」
「…………」
いつもお仕置きを受けているのに、なんかちょっと意外だ。
「ま、いろいろ世話になっているんだよ、俺が学園生活を送れているのは、あいつのおかげでもあるからな」
「…………」
「ま、まあそれはおいておくとして! 萱沼に着せたい服一番人気はチャイナ服! いや~、みんなわかっているね~」
そのまま、パソコンをいじり始める。
「長時間掲示しているとバレるかもしれないからな、2時間だけ掲示して、あとは削除しないと、さて、さて♪」
ウキウキ気分でトモヤ先輩は萱沼先輩のチャイナ服着用のコラをアップした。
「お仕置きされても知りませんよ」
「甘いな、男のロマン企画は現在第46弾なんだが、今までの45回中45回ばれているんだよ、そのたびにお仕置きされているからもう慣れた」
「い、いや、なんでばれるんですか? 証拠でも残しているんですか?」
「ぬう、いや証拠は残していないがバレるんだ、さすがやり手なだけあって駆け引きやカマかけが上手なんだよ」
「へえ……」
萱沼先輩は、スミレ先輩が尊敬すると公言するような人だ。
風紀委員会、風紀だけではなく、取り締まることもするから疎まれたりもするし、対価も優遇措置はないから、なり手はあまりいない。だがその分嫌われ者を買って出るゆえに団結力と誇りを持っているのだ。
その時、コンコンと生徒会室のノックの音が聞こえる。
「はーい! 誰ですか?」
「風紀委員会の萱沼です、いいかしら?」
「ピョ!」
妙な声で震えているトモヤ先輩は、シュババと目にも止まない早さで処理を終えると、駆け足で扉を開きトモヤ先輩自らが出迎える。
「やあ萱沼、今日も綺麗だな」
イケメン顔で出迎えるトモヤ先輩、うん、むっちゃ不自然、いたずらがバレないように誤魔化す子供のようである。
「こんにちは、トモヤ君、郭町君もね」
さらりと受け流す萱沼先輩は2人の風紀委員会を引き連れて生徒会室に入ってきた。
さっきの話を聞いたばかりだろうか、ちょっと緊張する。
「突然ごめんなさい、トモヤ君に用事があってきたの」
「俺に? なに?」
そのまま2枚の写真を懐から出すと、トモヤ先輩の前に並べる。
そこには水泳の授業での女子達が写っていた。
「プールでの私たちの水着写真なんだけど、何か心当たりがある?」
決して詰め寄らず、いつもと変わらない穏やかな口調でありながら、有無を言わせない様子、それだけで迫力がある。
(一気に場が緊張してきた……)
とはいえ、証拠を残せていないというトモヤ先輩の言は信用していい。証拠がない相手に、逆に萱沼先輩がどう立ち振る舞い、策を弄するの興味がある。
相手は先手を打ってきた、それに対してトモヤ先輩は、こう答えた。
「エ? ナンノコト? オレ、ナニモシテナイヨ?」
(誤魔化すのヘタクソすぎだろ!!)
こっちが表情に出てしまいそうだ、駆け引きもクソもない、最初の応答ですでに半分自供してしまった。
「あらトモヤ君だと思ったのだけど」
「ダカラ、ナニモ、シテナイッテバ」
「盗撮カメラはね、女子更衣室の中にまで仕掛けられていたの」
「そんなバカな! それは冤罪だ! あ!」
トモヤ先輩はそのまま天を仰ぐ。
うん、もう半分自供してしまった。
「……ユウト、これが風紀委員会委員長の実力なんだ」
(トモヤ先輩……)
なんかこっちが泣けてきた。一部が驚異的に凄いけど、一部が致命的に駄目だこの人。
「萱沼! カマかけなんて卑怯だぞ!」
「盗撮していた人間が言うことじゃない、さあ一緒に来てもらうからね」
「グスッ、グスッ」
半泣きになりながらドナドナされていくトモヤ先輩。
俺はただそこに立ち尽くすしかなかった。
●
「さすがに反省したんですかね?」
トモヤ先輩がドナドナされてからすぐに、生徒会室にスミレ先輩とミコトが来た。
「反省するわけないだろう、そうだな、予告しよう、今日の夜には復活しているぞ」
「あの、前々から疑問に思っていたんですけどトモヤ先輩の処分ってどうなっているんです?」
トモヤ先輩は今回の件の他に、数えきれないほどの不祥事を起こしておきながら、ペナルティを課せられる様子は一切ない、いつものとおりに振舞っている。
「付加点の有無なんて一切気にしないからな、というより、あのバカにはすでに処分が下っている」
スミレ先輩はここで一呼吸つくと俺たちに処分内容を伝える。
「萱沼先輩への処分権限の移行だ」
「へ?」
「当時、あのバカが生徒会に入学した後、周りが持て余したのも事実だった、共学にしたばかりだからな、男子をどう扱っていいか迷っていたんだよ」
ちょっと意外だった、意外とお互いさまってこともあるのか、スミレ先輩は続ける。
「その時に、まだポストにもついていない萱沼先輩が一喝してな、簀巻きにして屋上から吊るされた、あの機械は当時中等部だった連雀さんに依頼して作られたものなんだよ」
「そうなのか?」
俺は隣に座っていたミコトに話しかける。
「うん、人が簀巻きにされて吊るされるところが見たかった、トモヤ先輩になら、遠慮しなくていいから」
「いや、しなさすぎだろ、一応先輩だぞ」
「てれてれ」
「褒めてない」
「ごほん! まあ、だから、萱沼先輩は、優しい人なんだよ」
スミレ先輩の言葉に俺とミコトは驚く。
「あのバカが不祥事を起こすたびに派手に処分される、それによって「不祥事を起こしてお仕置きされる風物詩」として印象を和らげているんだ、本当ならとっくに退学処分になっている、ちがうか?」
「…………」
確かに、スミレ先輩の言うとおり、ゴキブリトモヤなんて呼ばれているが「嫌われているだけですんでいる」と解釈もできる。
『俺が学園生活を送れているのはあいつのおかげだ』
先ほどのトモヤ先輩の言葉を思い出す、仲がいいんだな。
「事実、萱沼先輩が処分役となって以降、苦情がかなり減った、驚いたよ、あんなやり方があるなんてな」
懐かしむようなスミレ先輩の言葉、さらにいつも一緒だと飽きてしまうという理由でスミレ先輩と萱沼先輩で色々なお仕置きを編み出したのだという。
前にスミレ先輩が触れていた紙の鳥が空に羽ばたけるわけがないから名付けた「紙の鳥の刑」、跳躍力が半端ではなく、飼育箱に激突して死んでしまうほどの威力を持つことから名付けた「カマドウマ」、そのほかにもいろいろなお仕置きがあるのだそうだ。
うん、スミレ先輩には悪いんだけど、今聞いた処分内容が死を連想させるものばかりだったのだけど、大丈夫かな、トモヤ先輩。
「いやっほーい、思ったより早く解放されたぜー!」
生徒会室の扉が開放されるとトモヤ先輩が現れた。
「郭町、すまない、自信満々に予告しておきながら、予想が外れた」
元気な姿で登場したトモヤ先輩は、クネクネさせながらスミレ先輩に話しかける。
「あ、そうだ、今日はちょっと生徒会活動を休んでいいか?」
「なにかあるのか?」
「もちろん、今日はな、妹パラダイス♪のツバサちゃん本がいっぱい届く予定…………」
ここでピタッと動きが止まる。
「なんだよ~、今日の仕事は何か……」
ここで再びピタッと動きが止まる。
「あるのか? なければツバサちゃんを……」
ここで再びピタッと動きが止まる。
「愛でたいんだけどさ~」
「大丈夫ですかトモヤ先輩!?」
「ん? ああ心配ご無用、今日はなぜか萱沼も優しくてさ、すぐに開放してくれたんだよ」
(違う! 絶対違う!)
どうするかと考えていたところポンとスミレ先輩に背中をたたかれる。
「特に何もない、やりたいことがあるなら勝手にしろ」
「わーい、やった~、今日は……」
ここで再び(以下略)。
と最後まで喜びながら生徒会室を後にした。
「スミレ先輩! 完全に記憶が飛んでますよ! しかも妙なテンポで意識まで飛んでます! 大丈夫なんですかあれ!?」
「心配ない、あれは「デウス、エクス、マキナ」だ、明日には元通りになる」
「デウス、エクス、マキナ!?」
「そのとおり、見てみろ、さすが萱沼先輩だ、相手の心にダメージを与えることなく、記憶が飛ぶほどのお仕置きをする、明日には治る、そんなことが可能なんだな」
「……そうか、デウス、エクス、マキナ、「ご都合主義展開」ってことですね、なんだろう、理解できるのがすごい嫌だ」
というよりも本当にご都合主義で終わるんだよなぁ、不安になる俺であった。
―風紀委員会―
デウスエクスマキナを終えた萱沼カエデは、風紀委員会の委員長席でディスプレイを眺めていた。
「…………」
ディスプレイにはあるファイルが出力されており、それをじっと見ている。
「……時間切れよね」
そう1人ごちると、隣で作業している同級生の副委員長に声をかけ、ディスプレイを見せ、見た瞬間に副委員長の顔色が変わる。
「萱沼! これ! どうしたの!?」
「一週間前に、風紀委員会のデータベースに埋め込まれたものよ」
「一週間前!? どうしてすぐに言ってくれなかったの!?」
「ごめん、状況を整理するために倉庫で例のファイルを読んでていて、色々と考えたかったから」
「まったく、それでも相談ぐらいあってもよさそうなものだけど」
「ほんとごめんね、私たちにとっては早急に手を打たなければならない事件なのにね、みんな! 集まって!」
出ている風紀委員に召集をかける、2人が何か重大な何かを話しているのはわかったのだろう、緊張した面持ちで全員集合する。
「現在、緊急に解決しなければならない議題が浮上したわ」
そのまま萱沼はホワイトボードにこう書いた。
――天地天命が覚醒の約束の地
「これが再び現れたわ」
萱沼の言葉にしんと静まり返る中、中等部2年生の風紀委員員が手を挙げる。
「あの、萱沼委員長、ネーミング……」
「……突っ込まないで」
「で、でも、言いづらいし、長いし、英訳も英訳になってないと思うんですけど、そもそもなんですこれ?」
それを聞いて萱沼委員長は頷く。
「うーん、とはいっても略しようがないのよね、って当時も同じ事言っていたのよね、ただ、もし本当なら最優先に解決しないといけないから、今から説明するから聞いてちょうだい」
●
「……ト」
「……ユ…………ト……」
「ユウト!」
「ふえ!?」
トモヤ先輩の呼び掛ける声に目が覚めた先に、トモヤ先輩のドアップがそこにあった。
「な、なんですか、というか近い! 近いですよ!」
と押しのける形でムクリと起き上がりトモヤ先輩を見る。
トモヤ先輩はコントに出てくる白黒の横じまの囚人服を着ていた。
「……なにベタな服着ているんですか」
「何言ってんだよ、ここは法廷だぞ! しっかりしてくれよ!」
「は?」
言われてあたりを見渡してみると、俺はどこかで見たような公判のセットの弁護人席に座っていた。
ふむ、この脈絡のない唐突な展開。
「ああ、これって夢なんだな」
「夢にしないでくれよう! 俺の学園生活が懸かっているんだよう!」
「はあ……」
と言われても、俺はいったい何の弁護をすればいいんだろう。
「郭町、準備はいいのか?」
正面から声が聞こえる、検事席に背広姿のスミレ先輩がいた。
「へ? ああ、はい」
背広姿が決まっているなさすがと思った、俺の言葉を受けて一段上から声が聞こえる。
「それではこれより開廷します」
裁判官の席には服に身を包んだ萱沼先輩がここにいた。
「まずは今回の被疑事実について、仙波スミレ検事お願いします」
「はい」
スミレ先輩は書類を持ちながら立ち上がる。
「被告人仙波トモヤは、平成××年×月×日から同年同月×日までの間、S県所在の私立連雀学園内において、同学園中等部2年に所属する六軒ミチルを盗撮していた事実についてです」
「…………」
ミチルちゃんって確か、ツバサちゃんに似ているとか言ってた女の子だよな。
スミレ先輩は、被疑事実に続いて萱沼先輩に申し立てる。
「裁判長、被告人の普段の行動を示すため証人を呼んであります、発言の許可を願います」
「認めます、証人は発言をどうぞ」
「連雀学園高等部1年連雀ミコトさん、証言をお願いします」
裁判官席の傍に設けられている証言台にミコトが立つ。
それを確認したスミレ先輩がミコトに問いかける。
「連雀ミコトさん、あなたは仙波トモヤから日常的にセクハラを受けていますね?」
「はい、胸をいやらしい目でじろじろ見る、うえーん」
「これが被告人の普段の行動です、つまり仙波トモヤが六軒ミチルを盗撮していたことは紛れもない事実だと私は訴えます」
スミレ検事の言葉に萱沼裁判官は頷く。
「被告人、本件について弁明しなさい」
萱沼裁判官の言葉に、トモヤ先輩は頷く。
「さあ、弁護人郭町ユウトよ! 異議を申し立ててくれたまえ!」
「ミコト、棒読み過ぎるだろ、それにトモヤ先輩には世話になっているんだから、少しは加減しろよ」
「そっちの異議!?」
講義をするトモヤ先輩に、ミコトは頷きつつもウンウン悩んでいる。
「えーっと、えっと、うーんと、セクハラするし、男としては論外なんだけど、人としては好きです?」
「ぐふっ、疑問形、あの少し手加減して、というかさ、ほら、ここで「異議あり!」とかやってくれないとさ! これじゃ逆○裁判にならないじゃん」
「いや、異議も何もミチルちゃんを盗撮していたのは事実じゃないですか」
「……まあ、そうだよね」
「はい」
「…………」
「…………」
「あの、そろそろ起きないといけないんで、夢から覚めていいですか?」
「ああ、いいんじゃないか、もう有罪は確定したんだし、頑張ってお仕置きを受けるよ」
「それがいいと思います、じゃあ現実世界で」
「おーう、じゃあな~」
ここで、俺の体がふわりと浮かび、トモヤ先輩と手を振って別れた。
●
「…………」
ぱっちりと目が覚める。無理な体制で寝ていたせいか、体の節々が痛い。
「スヤスヤ」
隣でトモヤ先輩が寝ている。夢特有のグダグダ感、そして訳の分からない裁判はたぶん寝る直前までプレイしていたゲームのせいだろう。
あの後、夜にトモヤ先輩から電話がかかってきた、デウスエクスマキナから完全復活したようで、意識が飛ぶことはなく、明日は休みだということで、トモヤ先輩の自室で徹夜でゲームをしていた。
「トモヤ先輩、起きてください、簡単に朝食でも作りますよ」
「ん~、わるいな~」
俺はそのままキッチンに立って、トーストとスクランブルエッグとソーセージを2人分作ると机に並べる。
「うまうま」
それをうまそうに食べてくれるトモヤ先輩、食べてくれるのは嬉しいものだ。
「いやさ、それにしてもモテたいよな~、どうすればいいと思う?」
「どうすればいいと思うって、それはこっちが聞きたいですよ、女子が9割いるから彼女なんてあっという間だろうって、だから合コン企画してくれって、しょっちゅう来ますよ」
「だよな~、できないっちゅーの、それにしても、こう、わかりやすくモテたいよな?」
「というと?」
「ほら、例えばさ、ここに急にたくさんの女子が押し寄せてきてさ、「大好き! 私たちと付き合って!」みたいなさ」
「ここにって、男子寮ですよ、女子は入れないですけど」
「だから、そういったわかりやすさだよ、お前だってわかるだろ?」
「まあ、確かに」
「だろー? まあ女っ気がないのもないで楽しいんだけどさ、でも、女子9割いて彼女出来ないの~とか、微妙に上から目線で言われるのがイラッとする」
「それは確かにわかりますね、みんなお嬢様に夢見ているから」
「はっはっは、お嬢様なんてどこにいるんだよって話だよなぁ」
コンコン。
「ん? はーい! だれ~?」
トモヤ先輩が呼びかけるが答えがない、そのままトモヤ先輩は立つと、扉を開く。
「って、うわ!」
押されるように後ずさるトモヤ先輩、ぞろぞろと女子がたくさん入ってきて、狭い部屋が女子で埋め尽くされた。
その中央にいるのは萱沼委員長。
萱沼委員長は、真剣な顔でトモヤ先輩に問いかける。
「天地天命が覚醒の約束の地」
ポカーンとするトモヤ先輩であったが。
「…………ぷっ! はっはっはっは! なんだそれ!? 中二病!? 萱沼! お前とはいい酒が飲めそう、ふぐう!」
トモヤ先輩の大爆笑は萱沼先輩のアイアンクローで阻止された。
「なに忘れてんのよ、貴方が名付けたんでしょう、高校1年の時になにやらかしたか、今更説明が必要?」
「ぐ、うぐう、ああ、あのこと? え? そんな名前つけたな、そういえば、でも、あれ、お仕置きは、終わったはずじゃ」
「新しく聞きたいことができたの、私たちに付き合ってちょうだい、じっくりとね」
「え、いや、こんな、バイオレンスじゃなくて、もっとこう、チヤホヤが」
「何を訳の分からないこと言っているのよ、郭町君、遊んでいるところごめんなさいね」
そうやってトモヤ先輩は「わかりやすいモテ方」でドナドナされていった。
俺は再び立ち尽くすしかなかった。