人騒がせな依頼人・後半
というわけで、生徒会の取材を受けることになった俺たちは1週間後、約束のとおり、写真部に向かった。
写真部の部室はスタジオ形式で、結構本格的な写真を撮る道具がそろっている。
「…………」
スミレ先輩は相変わらず渋っていて、あまり機嫌がよくない。
一方で、意外とミコトはあっさりと了解してくれて、今も興味深そうに機材をいじりながらあたりを見回っている。
「このカメラはレンズがとてもいい、どのカメラもレンズにこだわっているのがわかる」
「ほほう、連雀さんわかっているね、今はフィルムにこだわる必要はないからね、レンズの善し悪しが全てにかかわってくるのさ~」
寺尾先輩は、ミコトと盛り上がっている。
俺は写真部にあったアルバムを開いてみている。いろいろなイベントを映しており、結構本格的だ。
「新聞と写真はセットみたいなものだからね~、写真部とは良好な関係を築いているんだよ、ここの写真部員たちっていい写真撮るでしょ?」
ミコトとの話が終わったのか、寺尾先輩は俺に話しかけてくる。
「はい、特にこのアルバムを作った人、こう、凄くいい笑顔を撮るんですね」
「…………」
俺の言葉に寺尾先輩はなぜか呆けている。
「……君は着眼点はいいんだね、萱沼から聞いたとおり」
「え?」
「んーとね、人の笑顔を撮るのが好きなんだって、このアルバムを作った部員はね」
「へえ、いいですね、って寺尾先輩、まだ始めないんですか?」
「まあまあ焦りなさんな、たぶんあと1人がもうすぐ来ると思うからさ」
「あと1人ですか……」
あと1人か、あと1人と言えば実は今ここにトモヤ先輩はいない、それはこんなやりとがあったからだ。
―1週間前・仙波屋連雀支部―
「その日は無理だ、すまない」
生徒会の取材を受けてトモヤ先輩に伝えたところ、こんな返事が返ってきた。
「何か予定でもあるんですか?」
「ああ、何よりも大事な用事がな」
何よりも大事な用事、トモヤ先輩は真剣そのものだ。何の用事かと聞いたところ、スマホを取り出すとメールを俺に見せてくれた。
――私は、中等部に所属する14歳の女子中学生です。
――周りからは自分で言うのもなんだけど妹系美少女って言われます。
――仙波先輩かっこいいから、お話ししたいな。
――もし、お話ししてくれるのなら以下のメールアドレスに連絡ください。
「うさんくせーー!! 投げやりで書いたようなスパムメールレベルですよこれ!!」
「ユウト、確かに俺だって怪しいと思った、だが逆に怪しすぎるのが変だと思ってな、そう考えてメールアドレスに連絡してみたら衝撃の事実が発覚したんだよ」
「……なんです?」
「実はこのメールは本人じゃなく代理の子だったんだよ、妹系美少女が俺に恋をしたが恥ずかしくて友達を頼って連絡してくれたんだよ」
「……はあ」
「それで取材の日に会うことになったんだ、場所はまだ連絡が来ないがな、どうだ?」
「どうだといわれても……」
「とはいえこれは千載一遇のチャンス! チャンスは前髪しかない! だから俺は迷わずつかみに行くぞ!」
「……トモヤ先輩、変な壺とか変な宗教だったら迷わず逃げてくださいよ」
「フフン、俺はそこまで愚かではないよ」
―回想終了―
(大丈夫かなあ、トモヤ先輩……)
明らかに騙されているけど、内容が内容なだけにちょっと心配だ。
「いやっほ~い♪ 妹系美少女かも~ん♪」
突然写真部の扉が開く音ともにトモヤ先輩が現れた。
「って、あれ? ユウトじゃないか、何してんだこんなところで?」
「……いや、トモヤ先輩こそ何しているんですか?」
「おう! ほら、前に話した妹系美少女! その代理人が寺尾だってわかったんだよ~」
「え?」
寺尾先輩が代理人、いや、それは変じゃないか。
「って噂をすれば、いるじゃないか! てらおさんや~」
変だと言おうとしたところでトモヤ先輩は座っている寺尾先輩を見つけて駆け寄る。
「やあトモヤ君、約束通り来てくれたね~」
「もちろんだよ、寺尾、ほら、例のさ」
体をクネクネさせてデレデレの顔で話しかける。
「妹系美少女! その子が待っているんだろ!?」
「うん、もう来ているよ」
「マジか!? どこどこ? どこにるんだよ?」
寺尾先輩は、ニコニコ笑いながらスミレ先輩を指さす。
「…………は?」
「だから妹系の美少女」
「…………」
「…………」
「だぁぁぁまぁぁぁぁしぃぃぃぃたぁぁぁなぁぁぁーーー!!!」
血の涙を流しながら訴えるトモヤ先輩。
「なあユウト! あまりにもひどいとは思わないか!? 男の純情を!」
「…………」
「なんで黙っているんだよ!? ミコトちゃんもひどいと思うよな?」
「気持ち悪い」
「ぐふっ、ミコトちゃんに言われると地味に効く……あのー、スミレさん?」
「話しかけるな」
「シクシク、いいんだいいんだ、俺のことなんて」
床にへたり込んで「の」の字を書くトモヤ先輩。
「いや~、だますというか、引っかかるとは思わなかったというか、ブレないな~、相変わらずだよね、でも騙したことについてはごめん、謝るよ」
トモヤ先輩の肩をポンポン叩きながら悪びれる様子はない寺尾先輩、その姿にどうしても違和感が拭えない。
「あの、寺尾先輩」
「まーまー副会長君、深いつっこみはしないでくれたまえよ」
そのままこっそりと耳元で呟く。
「んーとね、ぶっちゃけスミレちゃんが引き受けてくれるとは思わなかったんだよ、あの子って写真嫌いで有名だからさ」
「……え?」
「マジだよ、だから保険をうっておいたのさ、まあ、さっきも言ったとおりこんなにもうまくいくとは思わなかったんだけどね~」
「……ってことは、寺尾先輩、まさか」
「お? 気づいたようだね、流石副会長~」
俺たちの会話、スミレ先輩が寺尾先輩に話しかける。
「寺尾先輩、どういうことなんです?」
スミレ先輩に答えず、寺尾先輩は俺の方を見る、まじか、俺が説明しろというのか。
「つまり取材は口実で、トモヤ先輩……というより、仙波兄妹に用があったってことですか?」
「ご明察~、やっぱり鋭いね、ま、取材したいのは本当だけどね~」
寺尾先輩の言葉にスミレ先輩は自分とトモヤ先輩を交互に指さす。
「私とこのバカに? なら最初からそう言えばいいじゃないですか、どうしてこんな回りくどいことをしたんです?」
「んーとね、理由はね、あの時は、まだ「ゲスト」が来るかどうかわからなかったこととね、頼みごとがちょーっと特殊だったからなんだよ~、でも生徒会は忙しいからね、どうしてもスケジュールだけでも押さえておく必要があったんだよ」
「ゲスト……ですか?」
「うん、スミレちゃんが無理でもトモヤ君だけでもって考えたのが理由なのさ~」
寺尾先輩がまだ「の」の字を書いているトモヤ先輩に話しかける。
「絶対にトモヤ君は喜んでくれると思うんだよね~、騙された価値はあったと思ってもらえると思うよ」
「シクシク、なんだよ、誰なんだよ、俺が喜ぶゲストって」
「もう来るよ、さっき到着したって連絡が入ったからさ、ここのOGだから迷わず来ると思うよ」
寺尾先輩が言い終わらないうちに、コンコンと扉をノックする音が聞こえる。
「そらきた、は~い、今あけるよ~」
足取り軽く部室の扉を開くと、大人の女の人が入ってきた。
年は20代半ばだろうか、地味な感じだけど綺麗な人、でも誰だろう、綺麗な人だからトモヤ先輩が喜ぶってことなのか、いや、それは違うような……。
「トモヤせ、うお!」
俺の隣にはエ○ル顔をしていたトモヤ先輩がいた。
「あなたが……神か?」
そんなどこかで聞いたような言葉とともに、腰が引けた状態でよろよろと近づくトモヤ先輩、というかいったい誰なんだこの女の人。
「あわわわ、まさか、こんなところでお会いすることができるなんて、ありがたやありがたや」
そのままひざまずき、五体投地で崇拝しているトモヤ先輩。
一方、件の女の人は、トモヤ先輩とスミレ先輩を交互に見みながら、ピョンピョン飛び跳ねて寺尾先輩の袖を引っ張っている。
「すごい、すごいよサラ! 本当に、とびっきりの美男美女兄妹! 本当にこんな兄妹がいるなんて! どんどんインスピレーションがわいてくるよ!」
「そう、よかったね、こっちも紹介した甲斐があったってもんだよ」
嬉しそうな寺尾先輩。
そのほかついていけない俺含めて3人。
「あのー、そろそろ、誰だが教えてくれませんか?」
俺の言葉に飛び上がったのはやっぱりトモヤ先輩だった。
「なにー!? ユウト! お前には説明したはずだぞ! 猫キャットさんだよ!」
「猫キャットさんって、あの、妹パラダイス♪の原画家さん?」
俺の言葉に頷いたのは、寺尾先輩だ。
「そう、妹パラダイス♪の原画家さん、猫キャットさんだよ、私の従姉妹なの、学園に美形の兄妹がいるって話したらぜひ会いたいってさ」
寺尾先輩の言葉に猫キャットさんは笑顔で挨拶をしてくれた。
「初めまして、猫キャットです、本名はごめんなさい、秘密ってことで」
(女の人だったんだ、確かエロゲーって話だけど、凄い意外だ)
「ユウト、別にエロゲーの原画家が女の人でも珍しくないんだぞ」
「なるほど、って思考を読まないでください」
「まあ、そんなことはどうでもいい!」
トモヤ先輩は、そのままズボンでゴシゴシ手を拭くと、猫キャットさんの手を握るとぶんぶん振る。
「ああ、あの、俺、いや、ボク、妹パラダイス♪の大ファンで、サイン会にも行きました、えっとファンレターも、何回も出して」
「うん、知っているよ、緋色の貴公子さん」
「ペンネームは言わないでください! 恥ずかしい!」
(確かに恥ずかしいな、緋色の貴公子って)
「サヤに言われたときは正直眉唾だったんだけど、えっと、仙波君だっけ?」
「はい!」
「君たちを次回作のモチーフに使いたいの、頼める?」
「次回作って、ね、ね、猫キャットさん、まさか……」
「そう、「妹パラダイス♪―完全版―」よ、その追加シナリオに使うCGのモデルをしてほしいの」
「なんと! お、俺が、妹パラダイス♪の、モチーフ!? わかりました、脱ぎましょう、妹パラダイスのためです、秘密ですよ」
「いや、脱がなくていいんだけど」
「ちょっと待って」
ここで発言したのは意外にもミコトだ、なにやらじっくりと考えていたようだが。
「今までの話は分かった、トモヤ先輩、確認するけど「妹パラダイス♪」は、ヒロインは妹なんでしょ?」
「おう! 憧れのゲームのモチーフになれるなんて幸せだよ~」
「でも、そのモチーフになるってことは、トモヤ先輩1人だけじゃ無理だと思う」
「…………ノオオオオオォォォォォォォォ!!!!」
ドンドンと激しく床をたたきつけるトモヤ先輩。
うん、それは俺も思っていたがようやく気が付いたようだ。1人だけじゃ無理、つまりヒロイン役のモチーフがいるってことだ。
ここでいうヒロイン役のモチーフは1人しかいない。
自然とそのモチーフに視線が集中する。
「私はここから動かないぞ!! 絶対に動かないぞ!! 死んでも動かないからな!!!」
椅子にしがみついて離れようとしないスミレ先輩、だよなあ。
一方でトモヤ先輩も五体投地をしたまま猫キャットさんに話しかける。
「ね、猫キャットさん、どうか、それだけは、脱ぎますから、そ、そうだ! 誰か他の女の子! あ! ミコトちゃブヘ!」
「セクハラ禁止」
そのまま伸びているトモヤ先輩、そのトモヤ先輩に猫キャットさんはツカツカと近づく。
「仙波君、貴方がくれたファンレターでさ、私が描いた妹パラダイスの原画の中で二つだけ、物足りないって書いていたよね?」
「ほえ!? え、いいえ、それは、一ファンの戯言のようなものでして」
「ううん、いいの、確かに的を射ていたのよ、食べるCGが一枚もないってね、確かに食べるという行為は実に難しいの、特にツバサは、幼い顔立ちをしているけど芯がしっかりしている女の子、あまり上品にしてしまうと「嫌味」が出てしまう、だけど幼くしてしまうと「あざとさ」が出てしまう」
ここで言葉を切り、猫キャットさんは指を2本立てる。
「そして二つ目、これはツバサだけじゃなくて、全員に言えること、最初の色気シーンを全員水着イベントで処理をしてしまったこと、確かに安易に水着って私は好きじゃないの、君がその代替案として提示したのはプライベートのジャージ姿、女の子のちょっと油断した姿のエロス、わかってるなって思ったよ」
「きょ、恐縮です」
「描いてあげようか?」
「……え?」
「だからモチーフを引き受けてくれたら、個人的な付き合いということで描いてあげるよ、でもこれは商業商品だから、二次配布はもちろん、他言無用が条件だけど」
猫キャットさんの言葉にトモヤ先輩はふっとニヒルに微笑む。
「猫キャットさん、私はそんなことで釣られたりはしませんよ」
「え……」
不安そうな猫キャットさんを手で制するトモヤ先輩。
「ですが、人助けのためです、それに私は貴方のファンです、一肌脱ぎましょう」
「仙波君……」
トモヤ先輩の言葉に嬉しそうな猫キャットさん。
(さすがイケメン、決め台詞がよく似合う、鼻血を出していなければ完璧だった)
「さあスミレ、やるぞ」
「嫌だ! 絶対に嫌だ!! 死んでも嫌だ!!!」
「俺だって死んでも嫌だよ! だがな! ツバサちゃんの極秘イラストは死んでも欲しいものなんだよ!」
「私はほしくない! ゲームのいかがわしいシーンに使われるなんてな!」
「それはそれだ! 妄想で補完するんだよ!」
「補完してどうする!? 私は!」
ここでスミレ先輩はピタッと言葉を区切る、言葉を切った理由、それは猫キャットさんを見たからで、そしてスミレ先輩だけじゃなくて、全員が猫キャットさんに注目している。
猫キャットさんが頭を深々と下げていたからだ。
「スミレさん、お願い! 頑張ってほしいの!」
頭を下げながら訴える猫キャットさん、その声には悲壮感が含まれている。
「い、嫌、ですよ、ど、どうしてそこまで」
困惑気味のスミレ先輩の言葉に口をぎゅっと結ぶ猫キャットさん、横で寺尾先輩は目を伏せている。
「私ね、実は、イラストが描けなくなったの」
そんな衝撃的な言葉と共に猫キャットさんは話してくれた。
妹パラダイス♪の発売により一気に有名になった猫キャットさんは、様々な仕事が舞い込むようになり、傍らで同人活動も順調そのものだった。
そして妹パラダイス♪の完全版のプロジェクトが立ち上がり、追加イラストを描いていたのだが、ある日突然、イラストを描く気力がなくなったのだそうだ。
最初は、気分が乗らないだけだと思っていたが、何日たっても気力がわかず、別のイラストを描こうにも線がどんどん乱れていって取り返しがつかなくなった。
あれだけ好きだったイラストが描けなくなり、悩み苦しんでいたが、思いきって寺尾先輩に相談したところ、今の連雀学園に美男美女の兄妹がいる、ゲームとのコンセプトも合うようだし、紹介してあげるということになったのだ。
ただなかなか決心がつかなかった、美男美女兄妹を見たぐらいで本当に気力が戻ってくるのだろうかと。
「でもあなたたち2人を見た時にピンときたの! もう一度書けるようになるって、私はイラストを描く仕事が必要なの! だからお願いスミレさん!」
もう一度深々と頭を下げる猫キャットさん。
「…………」
座りながらよろよろと転げ落ちそうになったスミレ先輩はかろうじて持ちこたえる。
もうこの状況において、スミレ先輩の一存ですべてが決まる。それも痛いほどわかっているのだろう。
「くっ」
スミレ先輩はぴくっと震えた思うと。
「くっくっくっく! っはっはっは!! あーっはっはっはっは!!!」
スミレ先輩のすべて突き抜けたような笑い声が、再びこだました。
●
あの後スミレ先輩はすべてを悟りきった表情で了承、ただどうしても俺とミコトには見られたくないらしく、撮影終了まで俺たちは写真部の外で待っていた。
撮影が終わった後、スミレ先輩は「尼になる」と意味不明な言葉で笑顔で別れようとしたので俺が必死に説得、結果、考え直すまで説得して一晩中かかった。
ちなみにスミレ先輩は休んでいる「次回からちゃんとやるから今回だけは仕事を休ませてほしい」という悲壮感あふれた言葉に俺はただ頷くしかなかった。
トモヤ先輩も休んでいる「今だけは男のロマンを追いかける気力がない」という悲壮感あふれた言葉にやっぱり俺は頷くしかない。
というわけで、今回の依頼の取りまとめは俺の仕事になった。
取りまとめと言っても報告書を一本書くだけなのだけど、これが書き始めると意外と難しく、四苦八苦してようやく書き上げて、今は理事長室でカナエさんにチェックしてもらっている。
「誤字が多いわね」
報告書を読み終えたカナエさんの第一声はそれだった。
「ごめん、見直したんだけど」
「自分で見直しても大して直らないものよ、誤字を治す一番のやりかたは他人に見てもらうこと、誰かに見てもらった?」
「いや、それが、全然」
「なら次はそうしてね、でも読み物としては面白かったわ、人助けは大いに結構、それを込みで今回は30ポイント、これで50ポイントね」
そのまま書類をファイルに閉じるカナエさんは、理事長室にあるパソコンを眺めているミコトに話しかける。
「ミコト、貴方は誤字がなく丁寧だけど面白みがないから、そこはお互いにフォローすることね、それと、貴方が眺めているパソコンは特別なやつだから触っては駄目よ、触るのなら汎用の方にしてね」
「うん、わかった、それよりも、母さんの職場、初めて入った、面白い」
きょろきょろと見て回るミコトに苦笑するカナエさんではあったが、その時に机から封筒を取り出すと俺に手渡してくる。
「そういえば、生徒会あてに手紙が届いていたわ、差出人は猫キャットさんよ」
「猫キャットさん!」
カナエさんから手紙を受け取り便せん開くと、手紙が入っていた。
内容はお礼の内容だった、撮影のあと、絵が描けなくなった理由が自分でもわからないぐらいに筆が進み、無事に締め切りに間に合いそうだとのこと。
本当にありがとうと、特に仙波兄妹に伝えておいてくれと締めていた。
自分が頑張ったわけじゃないけど、何となく気持ちがいい。
「ん?」
便せんが少し膨らんでいる、手紙のほかに何かが入っている、中を再び開いてよく見てみたらプチプチにくるまれたフラッシュメモリが入っていた。
『バックアップは取ったので、生徒会の皆さんにお返しします』
とのことだった。
「…………」
じっとフラッシュメモリを見る。この中に入っているのか、あの例の写真が、スミレ先輩が見ないでくれと言っていた写真が……。
「ほほう、この中に例の仙波兄妹の写真が入っているのね♪」
「なんか嬉しそうだね、カナエさん」
「ふーん、見たくないの?」
「…………見たい」
「だよね~、ミコトはどう?」
「うん、私も見たい」
「ならこうしましょう、このフラッシュメモリの中に「青少年に不健全な影響を与えるデータ」が入っていないか確認するためなの、教育者としての義務よ!」
とノリノリで汎用の方のパソコンにフラッシュメモリを差し込み、添付されている画像ファイルを開く。
「「「おお~」」」
3人して思わず声が出てしまう。
最初はいろいろな服を着た2人の姿が写っていた、衣装は演劇部からでも借りたのだろうか、学生服一つにとってもいろいろなデザインを着ていて、メイド服や執事服やらいろいろ着ている。
「2人とも何着ても似合うわよね~、流石美男美女兄妹」
カナエさんの言葉に同意しかない。トモヤ先輩もしっかりとイケメンしてる、スミレ先輩もクールな知的美人だ。
次は、連雀学園の制服姿で色々なポーズをとっている写真だった、そのポーズは個人のものから2人で一緒のポーズへ移っていく、2人で仲良く映っている姿は実はあまり違和感がなかったのが意外だ。
「おお……これは……」
徐々に刺激的なものへと移っていく、肩を組んでいる写真、いわゆる恋人繋ぎをしている写真、お互いに見つめ合っている写真、衣装も徐々に露出が激しくなっていく。
「ユウトクン! ワタシ! コレ! ダイスキ! マチガイ! キョウイクニヨクナイ!」
興奮気味にカタコトになっているカナエさんが指さす写真は、お互いにギリギリ露出した姿でトモヤ先輩が後ろからスミレ先輩を抱きしめている写真だった。
「ユウト、私は、これが、ドキドキする」
どことなく上気した様子のミコトが指さしたのは、お互いに半裸の状態でトモヤ先輩がスミレ先輩にお姫様抱っこをしている写真だった。
「……俺は、これが、ドキドキするかな」
俺は序盤で見た初々しい感じの恋人繋ぎしている写真だ。こう、普段を知っているだけにまったくの別な2人に見えるというか。
「本当に実の兄妹ってのが、一番ドキドキするかも」
「「それよ!」」
連雀親子に思いっきり同意された。
トモヤ先輩もスミレ先輩も最悪だったんだろうけど、ごめんなさい。
(……え?)
最後に日常シーンにでも使うのだろうか、トモヤ先輩とスミレ先輩、猫キャットさん3人が写っている写真が何枚かあったけど……。
「…………」
「ユウト、どうしたの?」
「ごめん、2人とも、悪いけどちょっと席外す」
●
俺は理事長室を後にした後、ある部室の前に立っていた。ここに来る前に人に聞いたところ、目的の人物は、放課後は用事がなければ大体ここに詰めているらしい。
コンコンと部屋をノックすると、扉が開き目的の人物が出迎えてくれた。
「おお~、これはこれは副会長さん、報道部に何の用事で~?」
出迎えてくれたのは寺尾サヤ先輩、彼女が目的の人物だ。
「寺尾先輩にちょっと話があるんですが、時間いいですか?」
「おや? おやおや~? 告白かな?」
「い、いえ、そういうわけじゃ」
「な~んだ、つまんないな~、男子から告白されるって結構夢なんだけどね、さあさあ中に入りなさいな、君の取材もしたかったからね~」
扉を開けて俺を部屋の中に通してくれると、すぐにお湯を沸かして紅茶を用意してくれる。
「フォートナムメイソンのいいやつが入ったんだ~、特別だよ~」
いい香りがする紅茶、口に含むと味もすごくおいしい。
「そうそう、この前は本当にありがとね」
「あ、はい、猫キャットさんからお礼の手紙が届きました」
「うんうん、スランプを脱したようでこっちも一安心したよ~、それで話ってなに?」
「話というか、確認したいというか、聞きたいことがあって」
「答えられることならなんでもどうぞ~、密着取材をさせてくれるのならスリーサイズも特別に教えてあげようぞ」
「写真部の笑顔を撮るのが好きな部員って、寺尾先輩ですか?」
「……副会長君、一つだけ言っておこうか」
「なんです?」
「あまり鋭すぎると女にモテないよ~、バカなふりをするというのは大事さ、男にも女にも隙が必要だと思うんだよね~、私のようにね!」
えっへんと胸を張る寺尾先輩、やっぱりそうか、ここは兼部も認めているから、もしかしてと思ったけど。
「ちなみにどうして気づいたの? 写真部のみんなもあのアルバムの制作者が私だって気づいていない人の方が多いんだけどさ」
「いえ、3人を映した写真があって、しかもそれ、3人とも撮られていることに気付いていない、でもみんないい笑顔をしていて、それがアルバムの写真と一緒だなって思ったからです」
俺の言葉に椅子にもたれかかる寺尾先輩。
「なるほどね、そのとおりだよ、でも誰にも言わないでね」
「え? すごい良いことじゃないですか?」
「だって恥ずかしいじゃない、人の笑顔を撮るのが好きなんてさ、私は嫌われ者だからね、似合わないのだよ」
「嫌われ者って……」
「嫌われ者はね、人柄が嫌われるパターンと仕事が嫌われるパターンがあるんだって、前者は受け入れなければならない、後者は誇りを持たなければならない、理事長の受け売りだけどね、結構ガツンときたんだよ」
「寺尾先輩……」
「ふふん、他人事ではないよ副会長君、生徒会も嫌われることをするのさ、その時は誇りを持てればいいね」
「はい、そうですね、頑張ります」
といい感じで締めたものの、あの後寺尾先輩は仙波兄妹の写真集を自費出版して、秘密裏に発売,限定100部として印刷したらしいが、あっという間に完売したそうだ。
ちゃっかり臨時収入として部費として計上、新しい機材がそろえられるとウキウキしていたのはまた別の話。