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生徒会はただいま元気に活動中!  作者: GIYANA
第3話:人騒がせな依頼人
4/10

人騒がせな依頼人・前半

「今日は各部活動の巡視だ、会議だけではどうしても生の意見が聞けないからな、活動をちゃんと見るのは大事なんだよ」

 軍艦島お化け騒動から3日後、俺とスミレ先輩は2人で放課後校舎を歩いている。生徒会には様々な仕事があるが、巡視は大事な仕事の一つなのだそうだ。

 学校を知ることが生徒会の仕事、なるほど、俺は副会長ということで、2人で並んで歩く、でも……。

「あの、スミレ先輩、さっきからいろいろな女子に睨まれるんですが」

 静かに睨んでくる女子や露骨に睨んできたりと、その数は結構多い、そういえばファンが多いって言っていたっけ。

「はは、彼氏ができるとあっさりしたもんだぞ」

 そんなものなのか、それにしても、元気だなぁスミレ先輩、あのお化け騒動のあと、気を失ったスミレ先輩を背中におんぶして女子寮の出入口まで連れていき、そのあとはミコトに部屋まで連れて行くように頼んだ。

 大丈夫かなと思ったが次の日、驚くぐらいケロッとした様子で登校してきたのだ。

 なんとなく聞くに聞けなかったけど……。

「あの、スミレ先輩、軍艦島のお化けのことなんですけど、幽霊は大丈夫なんですか?」

「ん? あの軍艦島のお化けは全部あのバカが仕掛けたことじゃないか、何を言っているんだ?」

(いや、スミレ先輩こそ何を言っているんだ?)

 どうやらあの出来事は「無かったこと」になっているようだ。

「それよりも、あの報酬で理事長から20ポイントもらったぞ、これであと80ポイントなんだが……」

 ここで言葉を区切り、そのまま沈んだ表情を見せる。

「郭町、その、軍艦島のお化けの時、頼りにならなくて悪かったな」

「え?」

「今思い出してみれば、本当にみっともなかった、だがお化けだけは、どうしても駄目なんだ、まったく先輩なのにな」

 そんなことを気にしていたのか。

「いや、むしろ俺は、前回の軍艦島で、すごいなって思ったんですよ」

「フォローしないでいい、余計にみじめになる」

「違いますよ!」

 声がでかくなってしまって、びくっとスミレ先輩が震える。

「あ、すみません、でも、お化けが怖くてしょうがないのに、必死でついてきてくれて、へたりこんで動けないのに、逃げろって言ってくれて、スミレ先輩ってそういう人なんだなって、俺だったら、どうだったかなって、だから」

 しどろもどろの俺の言葉にスミレ先輩は微笑んでくれた。

「こっちこそ、ありがとう、後輩に慰められているようじゃしょうがないな、これからもついてきてくれるか?」

「はい!」

 元気になってくれてよかった。

「さて、そろそろ風紀委員会だな♪」

 スミレ先輩は心なしかウキウキしている。次の巡視場所は風紀委員会、学内の秩序を維持するため、風紀をつかさどるところだ。

 今日の巡視場所に風紀委員会があるということでずっと機嫌がいい。

 確か風紀委員会には、先代生徒会長であり、現風紀委員会委員長である萱沼カエデ先輩がいるところだ。

 俺はまだ会ったことがないけど、秩序を維持するための組織と言われるとちょっと緊張する。

 その委員会の部屋にノックして入ると、1人の女子生徒が迎えてくれた。

「萱沼先輩!」

 迎えてくれた女子生徒に駆け寄るスミレ先輩。

 秩序を維持すると聞いて、怖そうな感じを思い浮かべていたけど、そこには穏やかな雰囲気をまとった綺麗な女の人だ。

「あ、えっと、初めまして、副会長の、郭町ユウトです」

「こちらこそ初めまして、萱沼です」

 そのままじっと見られる。なんだろう、露骨に値踏みされている気がする。

「頑張ってね、郭町君」

「は、はあ」

 なんだろう、不思議そうな俺を気にせず、萱沼先輩はスミレ先輩に話しかける。

「トモヤ君は元気?」

「ええ、まあ変わらずというか、クラスでは大丈夫ですか?」

「それこそ相変わらずよ、それとごめんなさいね、あんな形で引き継いでしまって、心配していたのよ」

「い、いえ、そんな、元はと言えばあのバカが全部悪いんですよ!」

 スミレ先輩の言葉にクスクス笑う萱沼先輩は書類を取り出すとスミレ先輩に手渡す。

「これが半月分の活動報告書よ、口頭で特に報告することはないよ」

「はい、確かに受け取りました」

 そのまま熱心に読み始めるスミレ先輩、こうやっていろいろ把握するのか、取りまとめ役も大変だなって思ったところで、ふと気配を感じると隣に萱沼先輩が立っていた。

 萱沼先輩は、優しそうな顔でスミレ先輩から視線を外さないまま俺にこういった。


「郭町君とは、いつか2人で話したいね」



「私は萱沼先輩を尊敬しているんだ、綺麗で有能で、それを決して自慢することもなく優しい、私はあんな女の人になるんだ」

 キラキラしている。話によれば、学園の風紀を守る風紀委員会にやりがいを感じていたが、学園のために1年活動を休止し、生徒会長をこなし、引退と同時に風紀委員長に就任したそうだ。

『郭町君とは、いつか2人で話したいね』

 萱沼先輩の言葉がよみがえる。挨拶とかではなく、結構本気の言葉に聞こえた、値踏みをされたってのは間違いないなさそうだ。

 そのあとも順調に巡視をこなしていく、巡視を終えると報告書をまとめて理事長に提出するそうだ。

 残り1つの場所になったところで、スミレ先輩はため息をつく。

「最後の巡視場所は、仙波屋だ」


 俺とスミレ先輩は校舎から外に行き、倉庫に向かう。

 仙波屋、活動内容は男のロマンを追求すること、部員は部長がトモヤ先輩、部員がミコト、いつの間にか副部長になっていた俺。

 活動場所は軍艦島(非公式)と思いっきり趣味に走って改装した倉庫だ。ミコトが加入したと同時に、使われていない倉庫を改築して使えるようにしたのだそうだ。

「なあ郭町、正直に答えてほしいことがあるんだが」

 倉庫を目の前にしてスミレ先輩がポツリとつぶやく。

「あのバカの行動、お前はどう思う?」

 真剣な表情で俺を見てくるスミレ先輩、正直に真剣に言わなければならない雰囲気。

 トモヤ先輩か、確かにめちゃくちゃな人ではあるんだけど。

「えっと、確かに、男として共感できるところってありますよ、まあ、正直好きですよ、トモヤ先輩、変な意味じゃなくて」

「……そうか」

 とだけ答えて、スミレ先輩は倉庫の扉を開く。


 そこには全身に得体のしれないコードでつながれているトモヤ先輩がいた。


(なんかすごいことしてるぞ!)

「ユウト!」

 コードが集中している機械を操作していたミコトは笑顔で近寄ってくる。

「今ちょうどユウトのことを考えていた、そしたら来た、これは運命」

「はいはい、というか、なにしてんの?」

 トモヤ先輩を見ると「うーんうーん」と悪夢にうなされているようではあるけど。

「これは強制的にレム睡眠状態でひたすら寝続けて、どういう夢を見るのか実験中」

「すごい体に悪そうだな、トモヤ先輩大丈夫なのか?」


「やめてけれぇぇぇー! 紙の鳥の刑はやめてけれぇぇぇーーー!」


「…………」

 いきなりトモヤ先輩が叫んでびっくりした。

「なんで若干なまってんだろう、しかも紙の鳥の刑って、寝言って面白いですよね、スミレ先輩」

「え!? あ、ああ! そうだな! なんだろうな! 紙の鳥の刑って!」

「…………」

 アンタが犯人かい。

「……あの、一応聞きますけど、紙の鳥の刑ってなんです?」

「いやさ、ほら、紙でできた鳥は空に羽ばたくことはできないだろ?」

「怖い! 怖さしかない!」

 あはは、と笑うその横でディスプレイに表示された数値を見ながら頷くのはミコトだ。

「夢は空を飛んだりという空想を実現するけど、過去の体験の追体験もするというのが面白い、脳波にも面白い形状が出ている」

「あのさ、2人ともさ、もう少しトモヤ先輩をいたわるというか、優しくするというか、というよりもトモヤ先輩もよく付き合うよな」

「前にも言ったけど、そういう契約を結んでいる、トモヤ先輩の望むものを作る代わりに実験台となる、だからパワードスーツを作った、その対価として人体実験ができるのなら安いもの、だから浮気はしていない、大丈夫」

「いや、大丈夫って、人体実験って」


「人の体はカマドウマじゃないんですやん! そんな形にはならないんですでんがな!」


「…………」

 カマドウマってなんだよ、俺は今度は無言でスミレ先輩を見る、恥ずかしそうにモジモジしていた。

「というか、そろそろ起こそう、どう考えても体に悪い、トモヤ先輩、起きてください」

 ゆさゆさと揺れるとトモヤ先輩は目を開く。

「……ん? お! ユウトか!」

「大丈夫ですか?」

「へ? もちろんだよ? あ! ミコトちゃん! これはいいものだよ!」

 トモヤ先輩はコードを外してミコトに握手をするとぶんぶん手を振る。

「俺の希望どおりに、ツバサちゃんとラブラブ生活が送れる夢を見れたんだよ!」

(えー! 紙の鳥の刑とかカマドウマとか言ってたですやん!)

「いや~、一途でけなげで、俺がバカなことをやっても、笑って許してくれて、でも秘めたる思いが見え隠れしていてさ、まったくさ、俺の色気ゼロ! 女子力ゼロ! 胸もゼロ! ぜーんぶゼロ! のスミレも見習えっての、はっはっはっは」

「…………」

「はっはっはっは、あのこれはスミレさん、どうしてここに?」

「部活動の巡視だ、なかなか精力的に活動しているようでなによりだ、連雀さん、私も実験に協力しよう、お題はそうだな、寝言と夢の内容の齟齬についてだ、どうだ?」

「うん、面白そう」

「え、いや、さ、もう寝たから、眠くないんだけ

 そのままトモヤ先輩は言葉を紡ぐことなくそのまま膝から崩れ落ちる。その後ろではスタンガンを持ったミコトが立っていた。

「実験♪ 実験♪」

 凄いミコトは嬉しそうだ。

「ここに寝かせればいいのか?」

「うん、ありがとう、スミレ先輩」

 スミレ先輩はぐったりとしているトモヤ先輩をひょいと持ち上げると、そのまま実験台に寝かせる。

「連雀さん、実験が終わったら生徒会活動だぞ、今日の巡視結果のまとめをお願いしたい、できるか?」

「うん、わかった、生徒会活動は楽しい、頑張る」

「楽しいか、ありがとうな、一緒に頑張ろうな」

 頭をなでながら優しい顔をするスミレ先輩にくすぐったそうな顔をしながらも嬉しそうなミコト。

 あまり他人を信用しないミコトが、心を許しているってことは、それだけで2人の人柄がうかがい知れるというもので、俺も嬉しい。

 

 なんだけども白目をむいて寝転んでいるトモヤ先輩がそれを全部台無しにしているし、しかもコードをつなぎながら話しているからすごいシュールな光景になっている。


 ちなみに実験が終了した後、心配になってトモヤ先輩に大丈夫かと声をかけたところ爽やかな笑顔を浮かべてこう答えた。


「大丈夫だよ、なんといっても床に電気が走っていて、それで足がビュンとして、光が入ってきて箪笥の上の赤いランプが点灯したからな」



 次の日、俺とミコトは生徒会室に集められた。

 トモヤ先輩はまずいということで自室で休養してもらっている。

「さて、今日は、生徒会選挙の立候補者の募集の最終日だ」

 5月の頭に行われる生徒会選挙、かつては一大イベントとして立候補者も多数おり、立候補するにも基準が設けられていたそうだ。

 だがスミレ先輩の表情は渋い。

「さっき募集状況を確認してきた、残念ながら立候補者はゼロだ」

 スミレ先輩の言葉にしんと静まり返る。

「女子はともかく、男子もいないというのも変ですね」

「この状況で男子は立候補できないみたいでな、というより郭町ぐらいだよ」

「……あまり落胆していないんですね」

「人事については結論を焦らないことにしたんだ。無理矢理生徒会に入れたところで仕事がこなせるとは思えない。幸いにも郭町と連雀さんが入ってくれたからな、郭町、投書箱の中はどうだった?」

「いえ、それもありませんでした」

「そうか、それも焦らないでいくか」

「……いいんですか?」

「人の困りごとなんて積極的に探すものじゃない、達成出来ないなら勉強を頑張ればいいじゃないか、なあ郭町?」

「はは、が、がんばります」

「生徒会役員なんだからな、赤点だけは勘弁してくれよ」

 スミレ先輩の言葉に俺は苦笑するしかない、もとよりギリギリで入った身だ。気を引き締めて頑張らないと。

「ユウト、テストは心配しなくていい、私が教えるから」

「ああ、いつも悪いな」

 そんなのんびりとした時間、生徒会に入ってから激動の日々だったから、こういった時間はありがたいと感じる。


「たのもー!!」


 突然ドンドン扉をたたく音がする。

 たのもーって、ずいぶん芝居がかっているなあと思ったらスミレ先輩はため息をついて立ち上がる。

「あの元気な声は、確認しなくてもわかる、報道部部長の寺尾先輩だ」

 スミレ先輩につられる形で3人並んで扉を開いたその先に。


「寺尾サラ見参!」


 仮○ライダーを中途半端にパクったポーズで寺尾先輩と副部長である砂先輩が現れた。

「……なんの用です?」

「もちろん、新生生徒会の取材だよ~」

 スミレ先輩の呆れたような声に寺尾先輩達は生徒会室にずかずかと入り込んでくる。

「寺尾先輩、取材ならちゃんと事前に話を通してください、質問は紙で手渡していただければあとで回答を差し上げます」

「相変わらずそっけないな~、スミレちゃん、あ、副会長君、コーヒーを頼むよ~」

「あ、はい、すみません、気が付かなくて……」

 俺はそのまま立ち上がり、豆を挽くとコーヒーを淹れて寺尾先輩に出す。

「ありがとね、おおう、コクがあって私好みの味だよ~」

 美味しそうに飲む傍らでスミレ先輩はむすっとしている。

「寺尾先輩、それを飲んだら帰ってください」

 ずいぶん冷たい対応のスミレ先輩だが、寺尾先輩は「冷たいな~」まったく気にしていない様子だ。


「私は生徒として、萱沼よりも貴方に期待しているんだけどな」


「っ!」

 スミレ先輩は寺尾先輩を睨みつけるが当の本人は涼しい顔だ。


「萱沼「政権」は、確かに安定性については抜群、それについては文句はないけど、保守的すぎる、それ故に変化に弱い、仙波トモヤという毒に耐えられないほどにね」


「それは貴方が恣意的に情報操作をしたからでしょう!」


 我慢できなかったようで勢いよく立ち上がるスミレ先輩ではあったが……。


 俺はそれを手で制して寺尾先輩の前に立つ。


「郭町?」

「寺尾先輩、取材に協力しますよ」

 俺の言葉にキョトンとしたスミレ先輩だったがすぐに俺の肩をつかむ。

「まて、どういうつもりだ郭町?」

「どういうつもりというか、別にいいじゃないですか、新生生徒会がどんなものなのか、みんなに知ってもらういいチャンスじゃないですか」

「だ、だが……」

 俺はフフンと笑うと寺尾先輩に話しかける。

「挑発が露骨すぎですよ、もっとソフトにやらないと、元も子もなくなりますよ」

 俺の言葉にやれやれと肩をすくめる寺尾先輩。

「だね、ごめんねスミレちゃん、期待しているのは本当だよ?」

「…………」

「まあ信用しなくてもいいけどね、ま、いいか、えっとね、写真も撮りたいから、そうだなぁ、1週間後に写真部に来てね」

「1週間後? 別に今でもいいですけど」

「いいからいいから、じゃあね~」

 そういうと寺尾先輩は手をひらひらとさせながら生徒会室を後にした。

「まったく、あの人は」

 憮然とするスミレ先輩ではあったが、いまいち意図がつかめない人だった。


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