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生徒会はただいま元気に活動中!  作者: GIYANA
第1話:プロローグ ~仙波兄妹との出会い~
2/10

プロローグ:後半

 連雀カナエ、私立連雀学園理事長、在任8年、名誉ある歴史だけを持つ潰れかけた当時の連雀学園を見事に立て直す。

 元文部科学省のキャリア官僚で、出世が約束された地位を捨てて地元に貢献する姿勢は支持され、本人は「理事長としての仕事が第一」ということを条件に、県議会選挙に出馬、当選後は議員も兼ねている。

 県知事や国会議員の出馬要請も来ているらしいが「教育者としての仕事ができなくなる」ということを理由に頑なに拒否をしているのだとか。

 綺麗でやり手であり、時に厳しく時に優しいその姿勢は、教育者として生徒たちにも支持を集める。

 こう書けばまさに完全無欠の女、といい意味で畏怖されている人でもある。

 ただ俺にとってのカナエさんは、母親の大親友でミコトの母親というイメージしかない、小さいころは世話になった人でよく遊びにつれて行ってくれた。

 そもそも連雀学園を受験したのは、俺の母親がカナエさんにミコトの面倒を見てほしいと頼まれたらしく、その縁で受験することになったのだ。

「ありがとうね、私のわがままを聞いてくれて」

 理事長室でお茶を飲みながらいつもの上品な笑顔で俺に話しかけるカナエさん、思えば仕事場でカナエさんに会えるの初めてだ、ビシっとスーツを着て決まっている。

「全然気にしないでよ、1人暮らししかったし、というか、ここ偏差値高いのによかったの?」

「あら心外、いくら大親友の息子でも、そこに贔屓も不正もしないわ、ちゃんと合格ラインの点数は取ってたわよ、ギリギリだったけどね」

「はは、ギリギリだったんだ」

「ギリギリでも合格は合格よ、貴方は我が連雀学園の入学試験の規定をきちんとクリアした、その事実は変わらないわ」

 連雀学園の偏差値はさっきも言ったとおり高く、高校受験の時、周りからは「不可能とは言わないが無理じゃないか」というラインだった。

 そこで勉強を手伝ってくれたのはミコトだった、ミコトの教え方は独特だった。

 ミコトは全部の範囲を一から勉強するという手法ではなく、大事なところだけをやれと言われた。

 そのやり方は周りが全部やっている姿を見て随分焦ったものだが、結果的に成績が最後の2か月で飛躍的に伸びて、これが決め手になったのだ。

「ミコト曰く、ユウト君は要領が悪いだけで、その要領を教えてやればなんとかなるから楽だった、だそうよ、あの子もユウト君と一緒の学園に通いたかったから頑張っていたわ、それでどうかしら、連雀学園は?」

「…………」

 どうって、うん、色々すごかった、本当にすごかった、主に仙波兄妹が、ついでにミコトの行動もすごかった、でもこれって言っていいのかな。

「田舎の閉鎖された元名門女子校って、お嬢様で世間知らずだと思った?」

「え、いや、そんな、ことは」

 黙っていた俺をそう受け取ったカナエさん、うん、お嬢様で世間知らずか、入学前にちょっと思っていたけど、今は完全に吹き飛んでいるんだけど。

「ユウト君の思っているとおりその部分はあったの、私も娘を持つ身、箱入りに育てたい気持ちはわかる。だけどそれは親のエゴなのよ、それをミコトを生んだ時にわかったの」

「カナエさん……」

 世間では「エリートの地位を捨てて地元に貢献する」なんて言われているが、官僚をやめたきっかけは、ミコトのために教育環境を整えたいという気持ちだったのだ。

「今は女も働く時代なの、一昔前と比べて待遇は確かに良くなったかもしれない、だけど未だに男性社会なのよ、ユウト君にはあまりピンと来ないかもしれないけど、教育現場だってそれはあるの」

 苦労をにじませるカナエさんの言葉、カナエさんは「男性社会において女は、差別をする男を敵視するのは間違っている、対等なパートナーとして見るべき」って、口癖みたいに言っていて、こういった立場で敵になるのはむしろ女だって、なんだか怖いことも言っていたっけ。

「特に父親を早くに亡くしたあの子には苦労をかけたわ、だから、私はミコトを自立して、誰にも媚びない娘にすると決めたのよ」

 ふうと、ため息をつきながら、目を伏せるカナエさん。

(さて、そろそろ来るな)

 と思った次の瞬間だった。


「それがどうしてこんなことに! まあ確かに自立して媚びずに育ったけれども! なんなのあの簀巻きを吊るす機械!? あんなもの作らせるために私は理事長になったの!?」


(やっぱりきた……)

 机をバンバンたたきながら号泣するカナエさん。それはそうか、確かにへんちくりんな機械を発明する娘ってすごいよね。

「グスッ、そういえば教会で何かひと騒動あったみたいだけど、あの子なにかしたの?」

「え、まあ、ウエディングドレス姿で出迎えて、結婚しようって」

「順序が違うでしょ! まずは親へ挨拶しなさいよ!」

「そっち!?」

 カナエさんの完全無欠なんて外面だ、正直、ミコトと被るところが多々あるのがカナエさんだ、まあそれはそうだよな、親子だし、あ、そういえば簀巻きで思い出した。

「あのー、仙波トモヤ先輩って、わかる?」

「……ああ、あの子、そうね、ふふ、現実を知るという意味では、確かに貢献してくれたわ」

(すげー悲しそうな顔をしている)

「共学化するにあたってね、保護者の間では反対も多かったから、合格させる前段階に面接とともに簡単な素行調査みたいなのをしているんだけど、仙波君の場合は、ほら、顔はすごい良いじゃない、だから心配だったの、仙波君の場合は妹さんが当時中等部にいたから相談してみたのよ」

「うん、それでなんて言ってたの?」


『劇薬を投入するおつもりなら有りかと、それと色恋云々はご心配なく、あのバカに惚れるのはゲームの女だけですから』


(すげー不安なアドバイスだな)

「スミレさんの言葉でちょっと不安になったのだけど」

(ちょっとって……)

「でも正しいことばかりでは教育は成り立たない! 校訓にもしているとおり、立派な大人とは清濁併せ呑むことよ! と思って入学を許可したのだけど」


「どうしてこんなことに! 私には教育者の才能がないのよー!」


 再び机をバンバンたたきながら号泣するカナエさん。うん、素行調査をしたのならこうなることぐらいわかりそうなものだけど。

(カナエさんって昔からずれてたところあったよな)

 と思ったらパッと笑顔になる。

「まあでも、この年で外見に騙されてはいけないということを学べたのは大きいわ、君たちの年だと難しいもんね、年をとってもなかなかわかることじゃないからね」

(そういえばクヨクヨしない人だったな、プラス思考というか)

 まあ教育者というのはそういうものではないと務まらないかもしれないと子供心に変に思った記憶がある。

「まあでも、ユウト君が入学してくれたのはありがたいわ、ミコトのこと、よろしくお願いね」

「はいはい、心配しすぎだと思うけど、一応気にしておくよ」

「ありがとうね、そうそう、貴方に渡すものがあったのよ、これを読んでちょうだい」

 突然1枚の上質紙を手渡されたので、手に取って読んでみる。


 連雀学園高等部1年D組郭町ユウト、生徒会副会長を命ずる。

                  連雀学園理事長 連雀カナエ


「……え? なにこれ?」

「私の教育施策の一つに、生徒会の権力強化があったのよ、貴方の年だと権力というと「悪い」「汚い」というイメージしかないと思うの、だけどね、それはあくまで一つの側面に過ぎないのよ」

「うん、それで?」

「結果的にそれは大成功したんだけど、共学化するにあたってどうしても女子ばかりにポストが占められてしまう、それだと共学化の意味がない、だから副会長のポストを設けてそれを男子固定枠にしたのよ」

「なるほど、それはわかったけど、なんなのこれ?」

「だから生徒会はね、様々な権力を持っているのよ、権力の強さとリスクの強さは正比例の関係にある、つまりリスク管理さえできれば使いたい放題よ」

「いやいや! 完全な職権濫用でしょ! 正規の手続きがあるんじゃないの!?」

「大丈夫よ、私立だから」

「全国の私立学校から怒られるよ!?」

「いい? 国のいうことに盲目的に従うのも愚かだけど、盲目的に逆らうことも愚かなのよ、私立はそれができるのよ」

「…………本音は?」

「何かあったらミコトを助けてほしいの! 仙波君と付き合うようになったらますます変人具合に歯止めがきかなくなったみたいで! あの年だと顔に騙されちゃうじゃない! でもユウト君がいれば大丈夫だと思うのよ!」

「…………」

「それにさ、ユウト君ならミコトと結婚してもいいと思っているのよね、私もユウト君のこと好きなのよ、今なら私もセットでついてくるわよ♪」

「…………」


 これで県議会議員なんだよな、大丈夫かな、うちの県……。



 連雀学園入学2日目。

 トモヤ先輩は、登校したとき下駄箱の正面で「生まれてきてごめんなさい」という札をかけて正座をしていた。

『いや~あの後どうなるかと思ったんだけどさ、盗撮は冤罪だって分かってくれてさ、女子トイレに侵入した罪だけでいいじゃないかって萱沼が、あ、萱沼は俺のクラスメイトね、そいつがスミレに掛け合ってくれてさ、温情措置で済んだんだよ~』

 だそうだ、温情措置については特に突っ込まなかった。

 今日は授業は午前中だけ、本格的な授業は明日から、そして午後は部活動の勧誘合戦、昨日入部したらしき同級生は既に勧誘活動に加わっている。


 俺は授業が終わった後、荷物を持つと生徒会室に向かう。


 結果的に生徒会副会長を引き受けることになった。

 あの後部屋に戻ってカナエさんに渡された資料を読んでみると確かによくできている、学生にしては権力を与える反面、濫用には制裁ともいえる規定を設けている。

 でもどうして俺の就任が認められるのか、それを調べてみたら、空位になった生徒会ポストは「理事長が推薦し、生徒会長が承認して埋めること」になり、改めて信任選挙をおこなうそうなのだ。

 生徒会長が推薦して理事長が承認するわけではないところに面白さを感じる。

 ということは生徒会長は俺の副会長就任を承認してくれたのか、ということは副会長は空位だったってことだけど、俺の前の副会長はどうしたんだろう。

 そこまで考えたところで、生徒会室にたどり着く、生徒会室は部室棟ではなく校舎の一番上に設けられている。

 ずいぶん立派な扉だ、木製の衣装が施されている扉、入るのをためらうような場所に見える……。


『女子全員を敵に回すことになるぞ』


 不意に言葉を思い出す、確かにトモヤ先輩を助けたのは結果的に被害を助長させることになってしまった、でも今のところは何もない。

 今日も普通に女子とも会話できたし、敵視されるとか嫌がらせを受けるとか、そういったものは何もなかった。

 意外と大丈夫だったのかな、気にしすぎだったのかな、まあいいか、無いなら無いに越したことはない、今更気にしてもしょうがないんだと言い聞かせて、制服を整えてコンコンとノックする。

 すると「どうぞ」という声が返ってきたので中に入った。


(す、すごい……)


 というのが部屋に入った一番最初の印象だった。上品な調度品に囲まれた部屋は、なんというか豪華という言葉でくくれない、貴賓室のような印象を受ける。本当に生徒がこんなところを使っていいのかと思ってしまう。

「やあ、よく来てくれたね、歓迎するよ、郭町ユウト君」

 笑顔で出迎えてくれたのは、生徒会長仙波スミレ先輩だ。

「あ、あの! 郭町ユウトです! えっと、俺で、よかったんですか?」

「もちろんだ、理事長の推薦だからな、断る理由なんてないよ」

 仙波スミレ先輩は早速とばかりに副会長の腕章を手渡される。黒色の下地に白色の文字で刺繍が施されている腕章だ。

「何ものにも染まらない黒、何ものにも汚されない白、という意味なんだそうだ、由緒あるものなんだぞ、制服を着るときは必ずつけてくれよ」

 そのままじっと俺を見ている、さっそくつけろということだろう、つけてみると、おお、なんか身が引き締まる感じがする。

「とっても似合うぞ」

 笑顔で俺に話しかけてくれるスミレ先輩、本当にきれいで凛々しい人だ、女子生徒に人気があるのも頷ける。

「あの、スミレ先輩」

「…………」

「あ! すみません仙波先輩!」

「はは、いいよ、仙波だとあのバカと区別がつきにくいからな、それでなんだ?」

「あ、あの、その、トモヤ先輩を助けたのはまずかったですか?」

 俺の言葉にスミレ先輩は一瞬きょとんとした顔をしたが、ふふんと笑う。

「大丈夫だよ、最初は共犯を疑われていたんだがな、郭町は事情を知らず困っていた人物を助けていたから共犯ではない、私がそういったからな、「そうなった」んだよ」

「……なんか怖いですね、事実なのに」

「はは、というよりも事情を知る知らない抜きにしても、あのバカを助けた男子生徒というのは初めてだったからな、骨がありそうだなというのも承認した理由の一つだよ」

「が、がんばります」

「副会長は、私の席の隣だ、さっそく座るといい」

 窓際にあるひときわ立派な席の隣にある少し小さな席、それでも立派だけど役員にはそれぞれ個人の机が与えられるそうだ。

 立派な机に立派な椅子、なんか自分が偉くなった感じがする、生徒にこれを貸し与えるなんて、権力とリスクは正比例する関係とはカナエさんの弁だが、確かに怖い。

 さて、今から生徒会役員としての活動が始まるわけだけど……。

「あの、俺以外の生徒会役員の人ってまだ来ないんですか?」

 そろそろ部活が始まる時間なのに誰1人として姿を見せない、俺の言葉に仙波先輩は生徒会長の席に座ると、沈んだ表情を見せ、引き出しからファイルを持つと俺に手渡す。

「これが現在の生徒会役員名簿だ」

 手渡されたファイルを開くと、そこにはこう記されてあった。


生徒会長:仙波スミレ

副会長:郭町ユウト

ペット:仙波トモヤ


「見てのとおり人材不足なんだ」

「ペットってなんです!?」

「よくぞ聞いてくれた! これには深い訳があるんだよ!」

 机をバンと叩き拳を握り締めるスミレ先輩、なんか兄貴と被るなやっぱり。

「副会長が男子固定枠だということは知っているな?」

「はい、理事長から」

「うむ、生徒会選挙は5月の頭に行われるのだが、その時によりにもよってあのバカが立候補したんだ、当時は見てくれに騙された女子も含めた生徒達からの多数の投票により当選、これが2年前!」

「は、はあ」

「そしてある事件をきっかけに本性が露呈、あの馬鹿のおかげでステータスシンボルだった生徒会の権威はものの見事に失墜、先代生徒会長である萱沼先輩は苦労しっぱなしだった、萱沼先輩の苦労も知らずにあの馬鹿が!」

(怖い……)

「そして今年の3月、先輩方は全員引退した、あのバカが副会長になって以降、新しいなり手は私1人だけだったんだよ……」

「すごいですね、いや、いろんな意味で」

 というか、俺の前の副会長ってトモヤ先輩だったんだ。

「ってトモヤ先輩は引退しないんですか?」

「実は3年になったら引退するという決まりがあるわけじゃない、慣習としてそうするってだけの話なんだ、ただ生徒会長だけは2年生がやることになっているがな」

「あ……そういえば」

 スミレ先輩は2年生だ、普通なら3年生がやるんじゃないのか。

「私たちの年で、先輩を使うというのはプレッシャーになるだろう、だが社会では年上を指揮しなければならないことも普通に起こりうる、そのために必要な経験、という理事長の考えだそうだよ」

 俺の疑問を察して答えてくれるスミレ先輩、その他にもかつて生徒会役員は役職以上の数がいて、部の幹部たちが集まり色々な物事を決める国会のような役割も果たしていたのだとか。そうか、これだけ広いのは多人数で使う必要があったからか。

「まあ、落ち込んでいても始まらない! 私のやることはまず人事だ! そのためにも組織の膿をまず最初に出さなければならなかった!」

「膿?」

「そうだ、そのためにあの馬鹿をペットに降格処分にしたんだよ」

「降格処分ってレベルじゃないと思いますが……」

「問題ない、ペットというポストの新設に理事長も賛同してくれてな」

(賛成したんだカナエさん、というかペットってポスト名なの?)

 でも、確かに仙波スミレ先輩の話は結構深刻な問題だ、国会の役割を果たさなければならないのに人数がいないのでは話にならない、今はまさに機能不全を起こしている状態だ。

「察しのとおり今は苦境だ、入ったばかりで申し訳ないが、苦労をかけることになる、だが生徒会を1から作れるチャンスでもあるんだ、よろしく頼むぞ郭町!」

 苦境をプラスに捉えるスミレ先輩、生徒会会活動を大事にしているんだろう。

 すごいなと思った。何かにこれだけ熱意を向けることができるなんて、なんとなくで副会長になった自分が少し恥ずかしい。

「スミレ先輩、俺もやる気が出てきました、自分の手で連雀学園をよくすることができるのなら、やりがいがありそうです」

「頼もしいな、それでな郭町、人手不足の解消の件で、頼みたいことがあるんだよ、推薦したい人物がいるんだ」

「え? 俺にですか?」

 その次に出てきたスミレ先輩の挙げた人物は俺に取って驚くべき名前だった。


「連雀ミコトさんを生徒会役員に任命したいんだ」


「……ミコト……ですか?」

 まさかここでミコトが出てくるとは思わなかった。

「前々から誘ってはいたんだが断られてな、理事長から連雀さんが一番信用しているのが郭町だと聞いた、エキセントリックな言動が多いから、みんな敬遠しがちだが能力はかなり高いからな、ぜひ欲しいんだ」

「エキセントリックな言動が多くて敬遠しがち、なんですか……」

「い、いや! それは!」

「いいんですよ、スミレ先輩のいうとおりです、あいつは昔から変わっているんですよ」

 ミコトは中学生になってからぐらいからか、妙な機械やら装置のようなものを作り始めた。

 工学的なものを作るためには、数学の知識がいる、そこで幼いころから叩き込まれた英才教育が発揮された形だ。

 そう考えればトモヤ先輩が主催する仙波屋の環境は理想的といえる。

「あの、スミレ先輩はミコトはどうして仙波屋に入ったか知っていますか?」

「あのバカが熱心に勧誘したんだよ、えーっと「真理のトゥルーリメンバーの能力者がいたんだ」とか言っていたな」

「……はい?」

「……冷静に聞き返さないでくれ、当時中二病にはまっていたんだよ、あのバカは……」

(いろいろ外さない人だよな、トモヤ先輩)

「というか私も逆に聞きたいぐらいなんだよ、どうしてあのバカに付き合う気になったのか、まああのバカと付き合える女子は連雀さんぐらいだからな、それも込みでスカウトしたいんだよ」

「うーん」

 ミコトが生徒会役員か、いろいろ想像してみる。

「能力が高いのは認めますけど、正直想像できないというか、自分のしたいことしかしないやつなので、生徒会の仕事をやるかどうかはわかりませんよ」

「郭町の懸念はわかる、だが誘うだけ誘ってみてくれ、郭町が誘って駄目ならあきらめるよ」

「わかりました、あいつにとっても世界を広げるいい機会ですし、頑張ってみます」

 カナエさんからも頼まれていたことだし、生徒会はいろいろと面白そうだ。さてどう説得するかなと思った時に、コンコンと扉をノックをする音が聞こえた。

 お客さんだろうか、そう思って「はーい」と返事をした後、扉を開けた先に……。


 ミコトが立っていた。


「ユウト、副会長就任おめでとう、母さんから聞いた」

「なんだ、それをわざわざ言いに来てくれたのか、しかもいいタイミングで来てくれた、中に入ってくれ」

 俺はミコトを部屋の中に入れると、席に座らせる。

 なんのことだかわからない様子のミコトだったが、こいつの場合は回りくどい手を使う必要はない、単刀直入に俺は用件を伝える。

「ミコト、折り入って頼みがある、生徒会役員としてお前をスカウトしたい、どうだ?」

「うん、ユウトが頼むのなら、やる」

「早いな! 勧誘しておいてなんだが大変みたいだぞ、お前ちゃんとできるのかよ?」

「内容による、私に何をしてほしい?」

 仕事の内容、俺だってまだ全く分からない、スミレ先輩に視線を移す。

 スミレ先輩は、役員室の戸棚から分厚いファイルを持ってくると、それを机の上に開いて置き、ミコトに差し出す。

「これが今年の部費の配分のために使う資料だ、それぞれの実績や人数に応じて額も違ってくる。かなり難しいし、金が絡むから一番嫌われる仕事でもある。しかも学園の部活の数は約300あるんだ。これを……そうだな、1週間で形にしてほしい、できるか?」

 1週間とはかなり厳しい、がミコトは、そのまま分厚いファイルを手に取るとパラパラとめくり、ほんの数分でファイルを閉じた。

「これなら2時間で終わる」

「「2時間!?」」

 ミコトの言葉に今度はスミレ先輩が俺を見る番だ。

「ミコトはできないことは言わないやつです、とにかくやってみてくれ」

「わかった」

 そのまま座ると、ファイルを開いて右手でパラパラとめくりながら、同時に左手で数字を書き連ねる。

 どうやらスミレ先輩の言ったとおり、実績と部員数としかも期待値を込めて計算しているらしいが……。

「く、郭町、連雀さんは全部暗算でやっているのか?」

 スミレ先輩が小声で話しかけてくる。

 数字の結果だけを羅列して書いているだけ、だからはたから見ているだけでは計算過程が全く分からない。

「とにかく頭のいいやつなんです、それだけじゃなくて理事長から英才教育を施されている奴ですから、応用力もききますよ」



「こっちが部費の配分、こっちが部費の配分における想定される質疑応答集、確認して」

 作業を始めてきっかり2時間後、ミコトはパソコンに出力した資料をスミレ先輩に手渡す。信じられない面持ちで受け取ったスミレ先輩は資料を読むと、驚愕の色に染まる。

「か、完璧だ……す、すごいぞ」

 そのまま興奮した様子でミコトと握手をするとぶんぶんと手を振る。

「い、いや、ほんとに凄いぞ! これからも頼むぞ!」

「それは無理、パワーをだいぶ消費する、今日は活動ができないぐらい消費した」

「え?」

 キョトンとするスミレ先輩に慌てて俺がフォローする。

「あ、あの、まあ、気まぐれなやつなんです、気にしてもしょうがないですよ」

「そうか、まあいいか、いや、確かに助かったよ、さっそく登録しないとな」

「登録?」

 スミレ先輩は生徒会長席に備え付けてあるデスクトップ型のパソコンを操作する。

「生徒会役員の登録だよ、これは教職員レベルの権限を持つ唯一のコンピューターだ、これで役員登録が行える」

「そんなにすぐにできるんですか?」

「できるよ、データベースに登録すれば完了だ、だからさっそく理事長に電話をしないとな、名目上は推薦してもらわないと」

 うきうき気分で机の内線でカナエさんに連絡、ミコトの生徒会役員就任を伝えるスミレ先輩。電話越しにカナエさんのうれしそうな声が聞こえてくる、すぐに会話が終わると、そのまま登録作業にうつる。

「よくやったぞ、ミコト」

「えへへ、嫁として夫を支えるのは当然」

「はいはい」

 そんな会話をしているとスミレ先輩が「よし」という言葉とともに作業を終える。

「これで連雀さんは正式な生徒会役員、役職は会計だ、改めて自己紹介、私は仙波スミレ、よろしくな」

「はい、えっと、仙波先輩、連雀ミコト、です」

「郭町にも言ったがスミレでいいよ、仙波だとあのバカと紛らわしいからな」

「あ、そうだ、そのことで思い出した」

 ミコトが突然ポンと手をたたくとスミレ先輩に話しかける。

「スミレ先輩、校庭の使用許可が欲しい」

「校庭の使用許可? それは構わないが、何に使うんだ?」

「男のロマンに使う」

「「は?」」

 俺とスミレ先輩が同時に返事をしたその時……。


「「「「「「キャアアアアアアアーーーーーー!!!!」」」」」」


 校庭からたくさんの女子生徒たちの悲鳴がこだました。

 その悲鳴に弾かれるように、俺とスミレ先輩は慌てて窓から校庭を見る。


「「な、な」」


「「なんじゃありゃああああぁぁぁ!!!」」


 校庭のど真ん中、そこには、巨大パワードスーツを着たトモヤ先輩が立っていた。


「わははは! ロボットだぜ! 男のロマンだぜい!」


 マイクでも仕込んであるのだろうか、トモヤ先輩の声がこだまする。

「ミミ、ミコト!? なんだよあれ!?」

「改良パワードスーツ、トモヤ先輩に作ってくれと頼まれた、だから作った」

「なんでそんなもの作るんだよ!?」

「私の作った発明品を動かすためにはソフトが必要な時がある、私にはそっちの技術は全くない、ゆえに向こうの望むものを作る代わりに、トモヤ先輩がソフトを作ってくれる、そういう約束を交わしている」

「「…………」」

 俺もスミレ先輩も開いた口が塞がらない、校庭の使用許可ってそういうことか……。

「って呆けている場合じゃない! トモヤ先輩! なにしてんですか! 危ないから降りてください!」

 生徒会室から身を乗り出して叫ぶ俺に気が付いたのか、こっちを向くとそのままパワードスーツの手を振ってくれる。

「おお! ユウトじゃないか! いや! 男ならさ、人型ロボットに搭乗するのはロマンじゃないか!」

「いや、それはそうですけども!」

「形はまあガ○ダムやエ○ァとは似ても似つかないが、オリジナルだと言い張ればいい!」

「だめだ! なんかもういろいろだめだ!」

「まあ、見てろ! 秘技! ブラックエル○カイザァー、ナーーックル!」

 とポーズを取ろうとした瞬間。

「いけない! トモヤ先輩!」

 ミコトの悲鳴は届かず、そのまま手を振り上げる形でグルンとバランスを崩し。

「どわーーーー!」

 そのままドガーンとすさまじい音をして昇降口に突っ込んで、そのまま動かなくなった、

「トモヤ先輩!」

 俺は、そのまま生徒会室から飛び出して階段を駆け下りて、昇降口で動かなくなったトモヤ先輩を急いで確認する。

 そこには気を失ったトモヤ先輩がぐったりとした。

「トモヤ先輩! 大丈夫ですか!?」

「ウヒヒ、ツバサちゃんのブラ紐が少しだけ見えるのが全裸よりエロイ」

「ホントに気を失っているの!?」

 いつのまにか、その動かなくなったパワードスーツの周りに、ものすごい野次馬があたりを見守っている。

「歩くことはできても、こんな複雑な動きは無理なのに、事前に説明したのに」

 パワードスーツをペタペタ触りながら「はー」とため息をつくミコトの横で呆然としているスミレ先輩。

「…………なあ、郭町」

「なんですか?」

「生徒会役員って、解任するためには、どうすればいいんだっけ?」

「全校生徒の8割の票が必要とか色々ありますけど、まずは生徒会が解散することになりますね、解散権を持つ生徒会長は行使できる代わりに再選は不可です」

「はっはっは、もちろん知っているぞ、規則を把握しているか試しただけだ、なかなかいい心がけだな、副会長として有望だな」


 はっはっは、あーはっはっはと、何かが突き抜けたようなマイ先輩の笑い声が青い空に吸い込まれた。


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