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生徒会はただいま元気に活動中!  作者: GIYANA
第5話:サプライズぱーてぃー
10/10

サプライズパーティー・後半


 スミレ先輩の弁のとおり押し花の方は作り始めるといくらでも凝ることができるらしく、まずは作ることに慣れるために、試作品を作り、その失敗例をもって完成を目指すという結構本格的に取り組んでいる。2人とも真面目だから、終わるまで支部にこもっているとのことだ。

 今度はちゃんとしたものを作るだろう、完成楽しみだ。

 俺はメッセージを読んでスマホをしまうと、今日の巡回の結果をまとめた書類をファイルに挟み込む。

 時間はすでに午後11時、朝からずっと働きづめで疲れたから、凄い眠い。

 そろそろ寝ようかなと思った時に、生徒会室の扉が開くとトモヤ先輩が入ってきた。

「ふぐう、まだ口の中が香水臭い、香水臭いってなんだよう」

「ふふん、俺に黙って逃げるからですよ」

「シクシク、恨むぞユウト」

「トモヤ先輩、料理の下ごしらえは終わったんですか?」

「ああ、終わったよ、本当ならこれから夜通し遊びたいところだが……」

 トモヤ先輩はあたりを見渡す、スミレ先輩もミコトも押し花を完成させるために支部にこもっている。おそらく戻っては来ないだろう。

「俺は朝から巡視ですから、もう寝ます、スミレ先輩もミコトも頑張っていますから」

「だな、俺も雑用しないといけないから、何気に疲れたよ」

 俺とトモヤ先輩は、生徒会の男子仮眠室に入る。元は倉庫だったようだが共学を機に急きょ作られたものらしい。

 連雀学園はそれぞれのイベントで生徒会が管理したり主催したりするので、泊まり込みになることも多いらしい。

 寝る場所は狭い、鉄パイプでできた2段ベッドで部屋はほとんど埋まっている状態、本当に寝るためだけの部屋だ。

「女子仮眠室はどうなっているんですかね?」

「いやそれがな、一流ホテルみたいな部屋なんだぞ、女尊男卑もいいとこだ、あ、ちなみに女子だらけの部屋はなんかいい匂いがするなんてのは嘘だぞ♪」

 しっかり忍び込んでいるところが本当に基本を外さないなと思った。ちなみに最後の「♪」にちょっとイラッとした。

「俺は二段ベッドの上に寝るぜ~」

 梯子をひょひょいと駆け上がると、そのまま「おやすみ~」とすぐに寝息を立て始めた、「子供か!」と思いつつも2段ベッドの上にロマンを感じるのはわかる。

 さて、俺も寝ないと、布団に潜り込み、そのまま目を閉じるとすぐに睡魔が襲ってきた。



「……ト」

「……ユ…………ト……」

「ユウト!」

「ふえ!?」

 トモヤ先輩の呼び掛ける声に目が覚めた先に、トモヤ先輩のドアップがそこにあった。

「な、なんですか、というか近い! 近いですよ!」

 と押しのける形でムクリと起き上がりトモヤ先輩を見る。


 コントに出てくるような白黒の横縞の囚人服を着ていた。


「……なにベタな服着ているんですか」

「何言ってんだよ、ここは法廷だぞ! しっかりしてくれよ!」

「は?」

 言われてあたりを見渡してみると、俺はどこかで見たような公判のセットがあった。

「またこのパターンですか」

「パターンってなんだよう! お前の学園生活がかかっているんだぞ!」

「え!? 俺の!?」

 よく見れば俺が被告人席にいて、弁護人席にトモヤ先輩がいる、ど、どうして……。

「ってなんで弁護人が囚人服着ているんですか!?」

「え? いや、前に通販で」

「ああ、そうでしたね、自前なんですよね、それ」

「…………」

「…………」

 どうしよう、言葉が出てこない。

「準備はいいの、郭町君?」

 トモヤ先輩と逆側から声が聞こえてきたのでそちらに視線を向けると、検事席に萱沼先輩が座っていた。

 スミレ先輩とはまた違う雰囲気が決まっているなと思ったところで、裁判官役は誰なんだろうと視線を向ける。

「ってミコト? 大丈夫なのか?」

「大丈夫、ユウトに有利な判決を出すから」

「いや、大丈夫じゃないぞ、判決は公平にしなさい」

 俺の言葉にミコトは頷くと木槌をタンタンと叩く。

「それでは、裁判を始めます、まずは萱沼検事、被疑事実を述べてください」

 被疑事実、そういえば俺はなんの罪名でここにいるんだろう、萱沼先輩はそのまま読み上げる。


「郭町ユウトの不純異性交遊の事実について審議します」


 シンと静まり返る。

「ふじゅんいせいこうゆう?」

 聞き返してしまった、ふじゅんいせいこうゆう、不純異性交遊、って女の子と色々イチャイチャすることだよな。

「いや、普通にそんな相手いないんですけど、ねえトモヤ先輩」

「チッ、リア充死ねや」

「…………」

 そんな訳の分からないことで裁判を受けるのか、不純異性交遊か、できるならやりたいぐらいだ。

 帰っちゃダメなのかな。そんな俺の思いをよそに、萱沼先輩は続ける。

「不純異性交遊は風紀委員会委員長として捨て置けない問題です、裁判長、証人の証言を願います」

「はい、えっと、私とユウトは最初の出会いは幼稚園の時でした、その時から孤立がちな私をいつも優しくてくれたのがユウトでした。その時のユウトは本当にかっこよくて、私は幼稚園にして将来の伴侶を見つけたんです。あ、それとかっこいいだけじゃなくて、可愛いところもあるんです、そう、あれは夏、家族で一緒に海水浴に行った時の話なんですが」

「い、いや、裁判長、あの、相手は裁判長じゃなくて、仙波スミレなんですが」

「…………ユウト、どういうことなの?」

「知らないよ! というか目が怖いからやめて! 事実無根だからね!」

「わかった、なら今から確かめる、スミレ先輩、お願い」

 証言台にスミレ先輩が立ち、それを見届けると萱沼先輩が話しかける。

「スミレ、正直に答えて、貴方は郭町ユウトと不純異性交遊をしたことについて話してほしいの」

 問いかける萱沼先輩を見て俺は内心ほっとしていた。これで訳の分からない裁判に終止符が打てる。

 萱沼先輩の問いかけにスミレ先輩は、悲しそうな寂しそうな表情を見せた。


「郭町には……連雀さんがいるからな、私なんか、相手にしてくれないさ」


 再びシンと静まり返る。


 全員が口を閉じて誰も開こうとしない。


 そして全員が俺のことを見ている。

「ちょ、ちょっと、なんですか、この空気……」

 俺はあたりを見渡すが誰も俺に視線を合わせてくれない、俺の無実が証明されたはずなのにこの空気、なんか俺が悪いことをした感じになってないか。

「判決を言い渡す、私というものがありながらスミレ先輩をたぶらかした罪は重い、よって去勢の刑に処す」

「去勢の刑に処す!?」

 いやだ、男してそれだけは絶対に嫌だ。

(トモヤ先輩! なんとかしてください!)

 こういう時にこそ弁護士だ、俺は弁護士席に座っているトモヤ先輩を見る。

「ウヒヒ、ツバサちゃんの「履いてない」は本当に履いてナーイ」

「ってエロゲーやってんじゃねーで、弁護してくだせーよ!」

「え? これはエロゲーじゃないよ、妹パラダイス♪のコンシューマ版でな、追加シナリオが面白くて」

「どうでもいいです! 俺の弁護士なんでしょ! 弁護してくださいよ!」

 俺の言葉にトモヤ先輩はキョトンとした顔をしている。


「夢から覚めればいいんじゃないか?」


「…………」

「…………」

「それ、言っちゃうんですか」

「いや、一番いい解決方法かなって」

 次の瞬間、ふわりと体が浮き上がる。

「え!? え!? マジですか!?」

「マジみたいだな、じゃあなユウト~、現実世界でまた会おう、言っておくが浮気は3回までだぞ、それ以上は駄目だからな~」



「…………」

 まどろみの中で夢を反芻する。なんか変な夢だった、というかグダグダだった。

『郭町には……連雀さんがいるからな、私なんか、相手にしてくれないさ』

 夢の中でのスミレ先輩のセリフ、このセリフは多分……。夢から完全に覚めていないのか、スミレ先輩の姿が目の前に映っている。

 綺麗な人だよな、一生懸命だし、まっすぐだし。

「俺なんか、相手にしてくれないよな」

 思わず声に出てしまった。

 というか、目は覚めていないのか、まだ目の前にスミレ先輩の寝顔がある。

 うん、いつもどこか張りつめている感じじゃなくて、とはいってもよくある漫画であるような綺麗な寝顔じゃなくて、油断した顔がリアリティがあるというか、でもふわりとなにやらいい香りがする。


 ここで覚醒は文字通り爆発的に訪れた。


「ぐっ!」

 思わず声が出そうになったのを必死でこらえる。

 今、目が覚めた、いや最初から目が覚めていていた、目の前にあるスミレ先輩の寝顔は本物だ。

(迂闊すぎというか、えーー! 油断しすぎだろ! なにかあったらどうするんだよ!)

 冷静になって考えろ、多分あれだ、ミコトと2人で押し花を作っていて、それが完成したか、ある程度見通しができたんだろう。

 んで押し花を完成した後に、俺の見回りの活動記録をチェックするためにいったん生徒会室に戻ってきた。

 チェックが完了して、カナエさんに提出できるように書類整理が終わったところで、眠気が限界まで来た。

 ここで俺は視線だけ動かして時計を見てみる、午前10時、もうとっくに日は昇っている。

 いくら眠気が限界でも仮眠室を間違えるとは考えにくいから、寝た後一度トイレか何かで起きて、寝ぼけたままここで寝てしまったのだろう、うん、そうだ、間違いない。

 よし、だんだん落ち着いてきた……で、でも待てよ。


 あの夢だと覚めて終わりだったがこれは現実だ、前回と一緒だ。


 つまりこのパターンだと俺とスミレ先輩が一緒に寝ているところをミコトとか寺尾先輩とか萱沼先輩とか、女性陣に見られてあらぬ疑いをかけられてひと騒動とか、そんなベタな話の展開が容易に想像できる。

「…………」

 でもなかなかそんな展開にならない。思えば、女性陣がここにいる蓋然性がないよな。

 ってことは、スミレ先輩を間近で好きなだけ見れるってことかな、見回りは今日を準備に使うために昼過ぎから始めても十分に終わる量にしてある、こんな近くでスミレ先輩を見られるなんて、多分2度とないだろう……。

 いや、いやいや、女子は寝顔を見られるのは嫌うってどこかで聞いたことがあるぞ、やっぱりこれはなんか卑怯だ。


「くっっ、しょいっっ!」


「…………」

 今のくしゃみの音だ、そして今のくしゃみの音は2段ベッドの上から聞こえた。

 しかも今のくしゃみは音は明らかに「音を出すのを我慢したくしゃみ」だった。

 俺はゆっくりとスミレ先輩を起こさないようにまたぐ形でベッドから降りると、2段ベッドの上段に顔だけ出す。

「…………」

 トモヤ先輩が目を開いたまま気まずそうな顔をしていた。



「いやさ、扉が開いた音がした時に起きてさ、ユウトが起きたのかな~って思って見てみたら、なぜかスミレが寝ていてたさ、凄いびっくりして、どうしようかなって思ったら、お前もその拍子に起きたみたいで、慌てて隠れちゃったんだけどくしゃみが出た」

 仮眠室から外に出て、いつもの机の上でトモヤ先輩は入れたコーヒーをすする。

「そ、そうだったんですか」

 俺もコーヒーをすする。

 なんか気まずい、トモヤ先輩もそんな感じだ、うん、自分の妹のことだもんね、俺もスミレ先輩にドキドキしていて、その兄貴が目の前にいるって変な感じなんだよな。

「あ、えっと、その、すみません」

「な、なんで謝るんだよ~、いや~、それが我が妹がこんなベッタベタなことをしているとはな~、どうも肝心なところで抜けてんだあいつは、もう少し色気があればお前もドキドキできただろうに」

「色気って、怒られますよ」

「はっはっは、いいんだよ寝てるし、あいつもこう胸の谷間とかで誘惑できればいいんだけど、あらゆるものをかき集め、思いっきり寄せてかろうじてできるぐらいなんだよ、痛くないのかねアレは、スレンダーと言えば聞こえはいいが、胸は大事だ! なあユウト?」

「はは……あ! ちょ、ト、トモヤ先輩!」

「なんだよ~? 別にいいだろ男同士なんだから~、可愛いは正義ならばあえて言おう! おっぱいは正義であると!」

「だ、だから!」

「スミレもそうなんだけど、萱沼も無いんだよな~、お仕置きするときにこう揺れるものがないから見ていてなーんも面白くない! ミコトちゃんにトンカチで叩かれるのも、そのときに少しだけ揺れる胸がウヒヒ」

「トモヤ先輩!!」

「ん? ああ、悪かったな、ミコトちゃんは幼馴染だもんな、まあお詫びのしるしにスミレのつまらない体でよければ存分に見てくれ給えよ、兄貴である俺が許可をしよう」

「…………トモヤ先輩、そのまま後ろを振り向いてください」

「…………」

 ここでようやく殺気に気付いたのだろう、そのままギギギギと音がする感じで振り返る。

 スミレ先輩は、スマホを突き出す形で冷たい目で見下ろしていた。

 突き出したスマホはスピーカーモードになっており、無言で机の上に置く。

 カタカタ震えながらトモヤ先輩はスピーカーに呼びかける。

「ももももももももしもししししし」

『揺れるものが無くてごめんなさいね、トモヤ君』

 萱沼先輩の声、穏やかだがドスをきかせた感じで逆に怖い。

「まま! まさか~! 冗談だよ冗談! 萱沼さんはいつも綺麗だな~って思っていて、俺の学園生活は萱沼さんで成り立っているんですよ~、いや本当に~」

 スマホに腰が引けた状態でヘコヘコするトモヤ先輩。

『あらそう、なら前々から試してみたいお仕置きがあって、ちょっと危ないのだけど、私のおかげで成り立っているのなら次はぜひ使うわ、名前は「虹の橋」よ、楽しみにしていてね』

 そのままブツッと無情に切れた。

「…………」

 トモヤ先輩はそのまま固まっている。

「郭町、私はこのまま支部に最後の仕上げをしてくる、後は頼んだぞ」

「わ、わかり、ました」

「そ、それと! 郭町!」

「は、はい!」

「悪かったな! 不愉快な思いをさせた! 連雀さんだったら嬉しかったんだろうな!」

 半ばやけくそ気味に叫ぶと一度も振り返らないまま、生徒会室を後にした。



 男性陣は料理担当、料理で一番大事なのは下ごしらえ、そのために料理本を見ながら四苦八苦……すると思いきや、それをテキパキをこなしているのは復活したトモヤ先輩だった。

「おお~」

 見回りが終わったので様子を見に来たところ、トモヤ先輩から料理が完成したので運ぶのを手伝ってほしいとの連絡を受け調理室に来て、思わず声が出てしまった。

「レシピどおりやっただけだよ、親父が色々やらかした時にお袋が罰という名目で家事をやらせていたんだよ、俺も巻き添えくって、よく一緒にやってたんだ」

 だそうだ、その光景が思い浮かぶようだ。

「すみません、全部やってもらっちゃって」

「かまわないよ、こっちも生徒会の仕事を全部やってもらっているからな、それと生徒会に入ってくれてありがとな」

「え?」

 突然のトモヤ先輩の言葉に言葉が詰まってしまう。

「いつか言おうとは思っていたんだがな、改まるとなかなかに気恥ずかしくてね」

「……どうして、礼なんて」

「萱沼がやりたいことはわかっていたし、賛成もしたんだが、実質1人でやっていけるのか心配だったんだよ、もうその必要はなくなかったからな」

 驚いた、知っていたんだトモヤ先輩。

 萱沼先輩はスミレ先輩をスカウトするにあたり、トモヤ先輩にだけ、現体制を仙波兄妹除いてすべて引退させるように動くと伝えたのだという。

 萱沼先輩は、このままだと生徒会は「存在することが目的の組織」となってしまうことをずっと危惧していた。

 生徒会の代が変わり、人が変わっているのに中身が全く変わっていないことに。

「トモヤ先輩は、反対しなかったんですか?」

「あいつはさ、風紀委員会の仕事も大好きだったんだけど、当時生徒会長のなり手が誰もいなくて、それで一大決心して、1年間風紀委員会を休んで生徒会の仕事を大事にしていたんだよ、だから俺は反対なんてしない、それに人を見る目も確かだからな、まあ、実際あいつの目論見は成功したわけだ、俺も今の生徒会の方が楽しくて好きなんだよね」

 ケラケラ笑うトモヤ先輩。なんだかんだでトモヤ先輩も生徒会を大事にしているのが分かる。

「お礼の言うのはこっちの方ですよ、ここって本当に面白いですよね、みんな色々なことを考えて学園生活を送っているんですから」

 これが連雀学園に入学した一番実感していることだ。

 ほかの高校に通っている中学時代の同級生と話をしていても、全員が中学の延長上という言葉が返ってくる。

 だがここは違う、生徒に権力を持たせリスクを背負わせる、権力を持たずリスクを背負わずとも自ずと、独自の校則を解釈して工夫した学園生活を送っているのだ。

「最初は正直、カナエさんに言われて流されるままに副会長になりましたけど、今は生徒会活動を俺の高校生活の主軸にするって考えているんですよ、自分で自分が信じられないです」

 俺の言葉にじっと耳を傾けるトモヤ先輩。

「……そうか」

 一言だけだが、嬉しそうなトモヤ先輩を見て俺はハッとする、今のトモヤ先輩の会話での違和感。

「トモヤ先輩、まさかトモヤ先輩の普段のそういう言動って、萱沼先輩の計画のためって側面もあるんですか?」

「…………」

 トモヤ先輩は、驚いた顔をして俺を見た。


「へ? なんで?」


「…………」

「…………」

「……ですよね、すみません、雰囲気に流されて聞いちゃいました」

「いいよ別に、そういうことあるよね、ちなみに普段の言動は完全に趣味でやってます」



「「おおー」」

 トモヤ先輩が作った料理を生徒会室に持ってきて、部屋の内装を見て声が出てしまった。

 ホワイトボードに「おめでとう」等のカラフルな文字を書き連ね飾り付けがしてある。

 押し花はプレゼント用の包装紙でくるんでいる。女子はこういう細かいところこだわるよなぁ~。

 トモヤ先輩が作ってくれた料理を並べるとカナエさんを出迎える準備は整って、時間を確認すると午後5時、そろそろカナエさんが来る時間だ。

「料理よし! プレゼントよし! 飾り付けよし! 準備完了だ!」

 満足そうなトモエ先輩、準備は整った、食事もクラッカーも構えた状態、あとはカナエさんを出迎えるだけだ。

「スミレ先輩、母さんから連絡した、今仕事が終わったから、向かうって」

「よし、全員クラッカー構え!」

 軍隊の指揮官のようなスミレ先輩の号令に思わず吹き出しそうになる、テンション高いなスミレ先輩、確かにパーティー前日パーティーグッズで買ってきたクラッカーをそれぞれ構える。

「……大丈夫だよな、このウルトラビッグ特大クラッカー、そんな大きな音しないよな、うん、名前からして頭痛が痛いみたいな感じだし」

 トモヤ先輩だけ大きいのがいいと意気揚々と抱えるぐらいのものを買ってきて、いざとなると怖気づいたのはプルプル震えている。

「ユウト、なんか、凄い緊張する」

 トモヤ先輩とは違う意味でプルプル震えているミコトの頭を撫でてやる。

「あ……」

 突然スミレ先輩が、何かを思い出したようだ。

「そういえば、昨日で理事長に言われた期限が過ぎていた……」

 スミレ先輩の言葉に全員が顔を見合わせる。

 そうだ、途中からそんな事すっかり抜け落ちていた、俺も今スミレ先輩に言われるまで忘れていた。

 ミコトもトモヤ先輩も「ああ、そうだった」とキョトンとした顔をしている。

「俺は今更だからな」

 とはトモヤ先輩。

「別に付加点が無くても成績は取れる」

 とはミコト。

「俺も恥をかかないように頑張りますよ」

 最後は締まらない俺の言葉。

 三者三様の言葉、みんな笑顔だ、俺たちの言葉を受けてスミレ先輩も微笑む。

「そうだな、そのとおりだ、私はいい仲間を持った、それだけで十分だ」

 呼応するかのように扉の外の足音が近づいてきて、コンコンとノックする音。


 扉を開けるのは俺の役目、「はーい」と平静を装いながら扉に近づき。


 ガチャリと扉をあけ放ち。


「お誕生日! おめでとうございます!」


 そのままパンパンとクラッカーを鳴らす。


「…………」


 驚いてそのまま固まっているカナエさん、クラッカーの中身が降り注いでかかってままになっている。


「理事長、どうぞ座ってください」

「……え? ……え?」

 スミレ先輩がカナエさんの肩を両手で押しながらテーブルの椅子に座らせる。

「ああ、お誕生日って、私の? そういえば、今日は……」

 やっと理解が追いついたのか、やっと表情を崩してくれたカナエさん。

「ありがとう、これはサプライズよ、嬉しいわ」

 嬉しそうなカナエさんにミコトも照れくさそうにしている。そうだよな、自分の母親の誕生日を家族以外の人に祝ってもらえるってのは恥ずかしいよな。

 カナエさんが座ったのを確認すると、おずおずとミコトは包装紙でくるんだものをカナエさんに差し出す。

「母さん、プレゼント、生徒会からで、私とスミレ先輩で作った」

「プレゼント……」

 カナエさんは笑顔で受け取り、丁寧に包装紙を解いていく。

「これ……押し花?」

 そのまましげしげと押し花を見る。

「すごい凝って作ってある、とっても可愛いわ、本当にありがとう、どこに飾ろうかしら」

 嬉しそうなカナエさんは次に料理を見る。

「料理は俺が作りました」

「へえ、男の子が作るなんて、時代が変わったのね、食べてもいいの?」

「もちろん、カロリー控えめ塩分控えめ、味は普通でも美容にいいものを選びました」

 トモヤ先輩が作ってくれた料理を一口食べるカナエさん。

「味は普通だなんて謙遜ね、とってもおいしいわ、ありがとう、じゃあ次はユウト君の番ね」

 ニコニコしながら意地悪く問いかけるカナエさん、むう、確かにパーティーの準備は俺は何もしていない、俺の代わりにスミレ先輩が答えてくれた。

「理事長、今回の合宿の生徒会の仕事、私がしたのはチェック程度です、理事長のパーティーのために一番骨を折ってくれたのは郭町です、おかげでこっちは準備に専念できました」

 スミレ先輩の言葉にゆっくりと頷くカナエさん。

「そのとおりね、ありがとう、ユウト君」

 ここでゴホンと咳払いしたスミレ先輩は立ち上がるとカナエさんに向き直る。


「いつも私たちを見守ってくれてありがとうございます! 楽しんでください!」


 スミレ先輩の照れながらの言葉にカナエさんもにっこり笑って、合宿の打ち上げパーティー兼カナエさんの誕生日パーティーがスタートした、

「よっしゃあ! ここは定番! 王様ゲーブヘェ!」

「セクハラ禁止」

 そのままトンカチで叩かれて、倒れながらもどこか嬉しそうなトモヤ先輩を見てカナエさんは驚いていた。

「ユ、ユウト君、ミコトって、いつもあんな感じなの?」

「もっと過激な時もあるよ」

「そ、そうなの、喜んでいいのかしら?」

 困惑気味のカナエさんに俺は笑顔で答える。

「喜んでいいことだよ、間違いないく、少なくとも俺はうれしい」

「……ユウト君」

 カナエさんも嬉しそうだ。

「じーー」

 の横で瞳孔を開いて俺を見ているミコト……は横で同じようにじっと見ていたスミレ先輩の袖を引っ張る。

「スミレ先輩、実はユウトの初恋の人は母さんなの」

「ええー!! 誰に何をばらしているの!?」

 ミコトの突然の指摘にスミレ先輩の顔は引きつる。

「そ、そうなのか、で、でも、むむ、昔の話だもんな、そ、そうだよな?」

「違う、今でも、ちょっと想っている」

「ちょーっと待ちいな! どうしてミコトが代わりに答えるんや!」

 妙な関西弁まで出てくる、顔が真っ赤になるのは自分でもわかる、カナエさんの顔が見れないではないか。

「クスクス、若いわね、羨ましいわ」

「トモヤ先輩! このタイミングで裏声使って言うのやめて!」

「チッ、リア充死ねや」

「…………」

 俺たちのやりとりをカナエさんもニコニコしながら見ていた、と思ったら。

「あ、そうだ、忘れていたわ、スミレさん」

 と思い出したようにスミレ先輩に話しかける。


「生徒会の処分についてなのだけど、昨日をもって目標達成とし、未達成の場合のペナルティは免除とします、これからも生徒会活動に励むように」


「「「「え?」」」」」


 全員でカナエさんを見てしまう、目標達成って言ったのか。

「理事長!」

 カナエさんの言葉にスミレ先輩が心外だとばかりに詰め寄る。

「別にこのパーティーはそういう意味は含んでいません! 付加点が無くても満点は取れるシステムにしているじゃないですか! 清濁併せのむんじゃなかったんですか!?」

 スミレ先輩の言葉に今度はカナエさんが心外とばかりに首を振る。

「スミレさんの言葉は教育者としてとっても頼もしいし嬉しいわ、けど、私は公私混同はしない主義よ」

「でも、ノルマは100ポイントだったはず! 確かまだ!」

「落ち着きなさい」

 スミレ先輩の言葉を手で制するカナエさん。


「実はね、前回の覗きスポットの事件の時に、萱沼さんから生徒会あてに依頼があったのよ、真実を明らかにしてほしいってね」


「「「「え!?」」」」

 今度は爆弾発言に俺たち全員が絶句する、スミレ先輩が困惑した様子で話しかける。

「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください、私は何も聞いていません、く、郭町は何か聞いていないか!?」

「い、いえ! 俺もまったく……」

 必死で萱沼先輩とのやり取りを思い出してみるが、やっぱり何もない、カナエさんはあくまで冷静だ。

「内緒にしてくれと頼まれたからね、それに自分の依頼なしに目標を達成したのなら取り下げるともいわれていたのよ」

 カナエさんの言葉にトモヤ先輩が思いっきりむくれる。

「まったく、しゃらくさい真似してくれるよな、ったくどうするんだよ、飯でも奢ればいいのかよ」

 憮然とするトモヤ先輩がほほえましい、その横でスミレ先輩は涙ぐんでいた。

 しゃらくさい真似か、俺だってそう思う、あんな露骨に俺に対して買収みたいなことしていたくせに、風紀委員会を俺たちに都合がいいように動かしてくれたくせに、最後までどこか悪人ぶっていたくせに……。

 それを温かく見守っているカナエさん、カナエさんだってそうだ、何が公私混同はしないだ、50ポイントはどうやったって甘いとしか思えない、というよりそもそも前回公私混同してたじゃないか。

 清濁併せ呑むか~、本当に面白い学園だ。


 さて、最後は全員で記念撮影をしようということになり、カナエさんを中心にして両脇を仙波兄妹、さらに脇を俺とミコトで固める。

 タイマーを設定し全員で並ぶ。

 カナエさんはシャッターが着られる直前に「ん~!」と体をウズウズさせて。

「「「「うわっ」」」」

 全員をまとめて抱きしめた。その瞬間にカシャリと写真を撮った。


「私は教育者として、貴方たち連雀学園の生徒たちを誇りに思うわ!」


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