表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生徒会はただいま元気に活動中!  作者: GIYANA
第1話:プロローグ ~仙波兄妹との出会い~
1/10

プロローグ:前半

 私立連雀学園、ミッション系の大正モダンな建物、独自の校則を定めた全寮制中高大一貫校。

 全身となる近衛学園はかつて上流階級の女のみを受け入れ高度な教育を実施していた名誉ある歴史を持つも、都心から離れた場所や時代の移り変わりにより徐々に生徒数が減少した。

 しかし8年前に連雀ミコトが理事長に就任し、様々な施策を実施し、生徒数、運動部実績、進学、就職実績が向上し、3年前から高等部に少数ながら男子生徒の募集を開始した。


――連雀学園の校訓はたった一つ、それは「清濁併せのむ」


 正しいことだけ行う、間違ったことだけ行う、それは共に易きに流れることである、という理念のもと様々な校則を設けている。


 その連雀学園が俺が郭町ユウトが選んだ学び舎、今日から俺の母校となるところだ。


 しかも初めての1人暮らし、寂しいどころか、男子寮の入寮も済ませ、楽しみでいっぱいの入学前夜を過ごした。

 そして今日が初登校だ、レンガ造りの壁を横目で見ながら、鉄製の両開き扉から中に入る。


 門扉を潜り抜け、広がった先に見えた光景に俺は目を奪われた……。


 桜吹雪を伴って立っている、生徒会長の腕章をつけていて、横から見える凛とした顔立ち女子生徒……。


 の見上げるその先に簀巻きになって屋上から吊るされている人物に。


(な、なんだあれ!?)

 異様ともいえるこの光景を見て対応は綺麗に二つに分かれていた。

 一つは俺のように何事かとみる人物、それに対して一瞥するだけで、何やらヒソヒソ噂をしながら去っていく人物。

 とはいえ人が簀巻きにされて屋上から吊るされているなんて尋常な事態ではない、それに簀巻きにされている人物は先ほどからピクリとも動かない、気を失っているのだろうかと近づいてみる。

「って、あれ必死にバランスとっているじゃないですか! 大丈夫なんですか!?」

 ここからでもわかる青い顔をしながらつりさげられているのを見て、思わず生徒会長の腕章を付けた先輩に話しかけてしまった。

 俺の言葉に振り替える女子生徒、おおう、横顔も綺麗だと思ったけど、正面から見るともっと綺麗だ、ハッとするようなというか、衆目を集めるというか、思わず見とれてしまった。

 生徒会長は俺を一瞥すると、そのまま簀巻きにされている人物を再び見上げる。

「もちろん大丈夫じゃない、だが命の危険はないように調整してある、暴れると危ないが、暴れなければ安全なようにしてある、だが安全だとばれるのはまずいからな、命の危険は感じてもらわないと」

(言っていることが怖い!)

 絵面だけ見れば、入学初日に桜吹雪の中で美人生徒会長と会話……であるはずなのに胸の鼓動の高まりは一切ない、どうして命の危険レベルで調整なんてしているんだ。

 ここでその生徒会長は再び俺への視線を移すとしげしげと見る。

「君は新入生だな、まあ気にしないでくれ、いつものことだ」

(いつものことなの!?)

「じゃ、入学式に遅れないようにな」

 そのまま生徒会長は手を振って会場である講堂に行こうとするので慌てて止める。

「ちょっと待って下さい! あのままにしておいていいんですか!?」

「大丈夫だ、あのバカの欠席届は代わりに出しておいた、問題ないよ」

(そうじゃないっ!)

「じゃあな、連雀学園はいろいろと面白い学校だぞ、楽しんでくれ」

「…………」

 生徒会長はそのまま本当に立ち去ってしまった。

 いろいろと面白い学校、まあそれは説明されるまでもなく分かったけど、マジで放置するのだろうか。

 助けてあげようかなと思ったが、確かに時間があまりない、申し訳ないと思いつつもその場を後にした。



 立派な講堂での入学式、お決まりの理事長を始めとしたお偉いさん達の挨拶のあと、あの綺麗な生徒会長も在校生代表として挨拶をしていた。

 あの綺麗な生徒会長は、入学式が終わった後、教室に入ったら噂ですぐに分かった。


 仙波スミレ、連雀学園高等部2年生英語科所属、第156代生徒会長。


 剣道部員も兼ねており、いわゆる男前の人らしく、挨拶がカッコ良かったとクラスの女子たちが囃し立てていた。

 しかし、あの簀巻きにされていた人物については不自然なほど触れられていない、というよりも触れないことが暗黙の了解のような空気にも思える。

 たぶんまだ簀巻きにされて吊るされているんだよな、どうしても不思議に思ったので隣で仙波スミレ先輩の噂をしていた女子に聞いたところ、その女子はにっこり笑って。


『ゴキブリの話はしないでね』


 と上品な声ですごい答えが返ってきてびっくりして、それ以上追及できなかった。


 そのあと、今日は新学期初日ということで、授業自体はなく、午前中は担任の先生の挨拶と授業カリキュラムについての説明、そのあとお決まりの俺たちの自己紹介が続き、それが終わった後、教室で昼食をとった。

 ちなみに来週から食堂も営業しているらしいが、建物も趣があり味も上々、しかも特選ランチセットなるものがあり凄く美味しいらしい。


 そして午後は自由時間ではなく、まるまる使って部活動の勧誘が始まるそうだ。


 連雀学園は、いずれかの部活動に所属することが強制となっている。

 高校では珍しいと思ったが、人と人のつながりは大事である、それが一番簡単に手に入るのが部活動というツールなのだ、というの方針だそうだ。

 勧誘活動場所に制限はないらしく、教室を出た瞬間にすごい数の人から勧誘を受けてチラシをいっぱいもらった。

 チラシを読んでみると、本当にいろいろな部活動がある、しかもどんな活動内容でも法に触れない限り認められるのだからすごい。

 5人以上なら同好会ではなく部として認められ部費が支給されるとあってどこも必死だ。

 勧誘をする先輩たちをかき分けながらなんとか校庭にたどり着いた後にふと見上げると、やっぱりまだ簀巻きにされて吊るされていた。

 視線を周りに移すと俺みたいに見上げる人もいたけど、特に興味が無いのかそのままみんな素通りしていった。

(うーん……)

 どうしても気になる、とはいえ女子の反応を見ると情報は入手は難しそう、となると部活動の勧誘をしている男子生徒に聞く必要がある。

 ここは女子に対して男子は1割ほどしかいないから、基本的に女子が主体となるものの、男子も一部は頑張っているのか、男子だけで構成される部活もちらほら見かける。

 ちょっと聞いてみるかと、勧誘活動をしている男の先輩に聞いてみた。

「ああ、仙波先輩のこと?」

 すぐに答えが返ってきた。

 仙波トモヤ、連雀学園高等部3年工業科、人柄については「面倒みがいい」「優しい」「頼りがいがある」「面白い」と、意外や意外、女子から上品な笑顔でゴキブリ呼ばわれるされる評判とは全然違うではないか。

 仙波トモヤ、今の連雀学園の生徒会長の名前を思い浮かべたので先輩に聞いてみる。

「あの、「仙波」って……」

 俺の質問で、合点がいったようでその先輩が説明してくれる。

「ああ、ほら仙波スミレ生徒会長の兄貴なんだよ、この学園の中では一番有名な兄妹なんだ」

「兄貴……」

 だそうだ。でも助けなくていいんだろうか、考えてみれば朝からずっと簀巻き状態で吊るされているではないか、かなりきついんじゃないかと思ったが、俺の表情で考えていることが分かったのか、先輩は真剣な顔で俺に忠告してきた。


「仙波先輩を助けるのはやめたほうがいい、女子達全員を敵に回すことになるぞ」



(女子全員を敵に回すか、確かに怖いよなぁ)

 先輩の言葉を聞いて中学生時代に、失言がもとで女子全員を敵に回してしまった同級生の顔を思い出す。

 どうしてゴキブリ呼ばわりされているか疑問に思ったが、それには言葉を濁して教えてくれなかった。

 と、そんなことを思いながらも、俺はその先輩の忠告を無視する形で屋上に来ていた。

 別に確固たる意志なんてものはない、あえて言うのなら女の顔色を窺って暮らすなんてのは男のプライドが傷つくと、そんな安っぽい理由なんだけど。

 とはいえ、屋上に来て驚いたのは、雑に吊るされているわけではなく、ちゃんとした滑車式の装置で吊るされていたことだ。

 しかもしっかりとしたつくり、暴れなければ命の危険はないというのは本当みたいだ、固定装置を外せばそのままおろすことができる作りになっている、まだ新しい感じではなく、使い込んでいる感じ。

「というか、本当にいつものことなんだな……」

 あの生徒会長の言葉がよみがえる、というか妹にお仕置きされているのか。

「あれ?」

 その簀巻きの機械を見て、なんだろう、どこか見覚えがあるような気がする。機械自体に見覚えがないが、癖というか、そういった抽象的なもの……。

「まさか、これ作ったのって、ミコトか?」

 となれば見覚えがあるのも納得がいく、ミコトのことについては後にするとして、そろそろ助けなければいけない、そのまま屋上から頭だけ顔を出すと仙波先輩に呼びかける。

「仙波先輩! 聞こえますか!?」

 俺の呼びかけに、無言で首だけ動かす仙波先輩、よし、聞こえているようだ。

「今からゆっくりと降ろしますからね! もう少しだけ頑張ってください!」

 そう呼びかけると、固定具を外すとハンドルを回す、テコの原理でスイスイと力を入れなくても動く、女子でも動かせるように設計されているようだ。

 そのままゆっくりと降ろし、仙波先輩が1階の昇降口の上に設置されている出っ張った屋根に着地する。

「今からそっち行きますからね! 待っていてください!」

 俺は屋上後にして簀巻きを解くために階段を駆け下りる、確か位置的にはトイレだったはず、トイレの窓から外に出られると思って、まずはそこに向かうが。

「う……」

 立ち止まってしまう、トイレはトイレでも女子トイレだった、そうだ、ここは男子の数が少ないからトイレの数も必然的に少なくなる。

 さすがにここから入れないし、俺が今いる廊下は部活の勧誘ということで人の往来もかなりある。

(女子トイレなんて入ったら、それこそ何を言われるかわからないな)

 まあ2階ぐらいだったら、飛び降りてもらうかな、そう思っていた時だった。


「いや~、助かったよ、ありがとな~」


 と言いながら女子トイレの中から、堂々と仙波先輩は姿を現した。

「え!?」

 と驚いたのは俺だけじゃない、近くを歩いていた女子生徒数人も一瞬あっけにとられたと思うと。


「いやぁぁぁ!! ゴキブリトモヤが女子トイレからぁぁぁ!!!」


 と大声をあげながら走り出した。

「まずいぞ! 君!」

 女子の叫び声聞いた仙波先輩は、俺の手を取る。

「ここにいると巻き込まれる! いい場所を知っているんだ! 逃げるぞ!」

 そのまま強引に手を引っ張られて、俺を先導する形で逃げ始める。

「って待ってくださいよ! どうして俺まで!?」

 思わずつられて逃げてしまった俺は走りながら仙波先輩に話しかける。

「あの状況で言い訳できる自信があるのなら残ってもいいが、できるのか?」

「…………」

 確かにできない、むしろ助けたことにより共犯扱いされるんじゃないか。

「って待ってくださいよ! そもそも女子トイレから出なければいいじゃないですか!? そのまま地面に飛び降りればよかったんじゃないですか!?」

「バカ野郎! 男だったら女子トイレがどうなっているか気になるだろうが! お前それでも男か! ああん!?」

「ええーーー!! どうして怒られるの!?」



「ふう、ここまで来ればもう安心だ」

 俺と仙波先輩は校舎の外まで走り、敷地の隅にある倉庫に入ったところで鍵を締めてやっと一息ついた。

 相当走った、それにしても広いな、学園の敷地。

「ここは仙波屋の連雀支部でな! 俺の秘密基地の一つなのだよ!」

 エッヘンと胸を張った仙波先輩は倉庫の出入口の近くにあった電気をつけると、ぱあっと倉庫内の光景が広がる。

「おお~」

 外見はただの倉庫だが中は全然違う、洗練された白を基調とした研究室のようなデザイン、数台並ぶパソコンにガラス越しに作業室がある。

「秘密基地か~、なんか憧れますね」

「うんうん、男のロマンだよねぇ~」

 と隣で頷くので、「ですよね~」と仙波先輩を見てみる。

(うお……)

 思わず声が出そうになった、今まで夢中で逃げていて気付かなかったけど。


 仙波トモヤ先輩、俺自身にその気はないけど見惚れてしまうほどの中性的美男子だ。


 しかも生徒会長そっくり、それはそうだよな、兄妹なんだから。

 正直嫉妬すらわいてこなかった。これだけかっこよければ、彼女になんて不自由なんてしたことないだろうなぁ、と思ったところで最初の疑問に立ち返る。

「あの、どうして簀巻きにされて吊るされていたんですか?」

「うむ、よくぞ聞いてくれました!」

 仙波先輩は、そのままズボンの中から、ここでいうズボンの中とは、ポケットではなくそのままズボンの中を指す、そこからデジカメを取り出した。

「さすがにここまでは所持品検査はできないようでな、ふふん、愚かなり女子達よ、ゆえに死守することに成功した、助けてくれた礼だ、戦果を見せてやろう!」

 デジカメを操作して俺に見せてくれると、そこには1人の女の子がたくさん映っていた。

 幼い顔立ちの可愛い女の子がいろいろな角度で写っている、仙波先輩はホクホク顔だけど写真を見て気になることがある。

「あのー、この写真って、本人撮られているのに気づいていないと思うんですけど」

「そうだよ、気づいていないから撮ったんだよ」

「えーー! それって盗撮じゃないですか!」

「盗撮だよ! だがな! 俺はトイレの中とか更衣室の中とか、彼女の尊厳を損ねるような真似だけは絶対にしない! そこをわかってくれないんだよ女子どもは!」

「俺だってわかりませんよ! というよりもどうして盗撮なんてするんです!」

「よくぞ聞いてくれました!」

 再び同じフレーズで、持っていたスマホを操作すると、画面を開いて俺に見せてくれる。そこにはアニメ調の可愛い女の子がキャラクター紹介という名目で映し出されていた。

「なんですかこれ、妹パラダイス♪ ……ことぶき……つばさ?」

「なに!? 貴様! 「妹パラダイス♪」の寿ツバサちゃんを知らないのか!? いいか! 妹パラダイスとはな! シナリオライター煉瓦さん、原画が猫キャットさんの妹萌えに特化した金字塔でな! エロゲーであり、かつ妹ものというジャンルに特化したものでありながら販売本数はなんと6万本! しかも先日完全版の発売が発表されたばっかりでな! どういうところが魅力化というと、紅玉学園に通う主人公のもとに(以下略)」

 ここから仙波先輩はひたすら30分熱弁をふるうことになる、その熱弁をまとめると仙波先輩にとっての「神ゲー」だそうだ。

 ひとしきり熱弁をふるった仙波先輩だったが、ふとおとなしくなり、表情に愁いを帯びる。

「とはいえツバサちゃんは、あくまで2次元の存在、だから俺はツバサちゃんに似ているミチルちゃんに紅玉学園の制服を着てもらって、写真を撮らせてもらおうとしたが断れたんだよ、だから盗撮していたんだ、シクシク」

(ゴキブリトモヤか……)

 あの叫んだ女子生徒のフレーズが頭の中に木霊する。

 ミチルちゃんとやらもかわいそうに、というか助けたはいいけど、完全に仙波先輩が悪いよな。

 とはいえ、妹萌えか、今度は生徒会長のほうの仙波先輩を思い浮かべる、確かにすごい綺麗な人だった。よくリアル妹がいると妹萌えにはならないと聞くけど……。

「まあ、手段はともかく、あんな綺麗な妹さんがいれば妹萌えにもなるんですね」

「グボアァ!!」

 そのまま俺の言葉に弾き飛ばされた仙波先輩、そのまま地面にごろごろ転がるとピタッと動かなくなる。

「あのー、仙波先輩」

「…………」

「仙波先輩?」

「…………」

 本当にピクリとも動かない、呼吸しているのかどうかも疑わしいぐらい動かないので心配なってみてみると、目がハイライトが消えた状態で虚空を見つめていた。

「……現実は厳しい、このごろ兄貴みたいになってきてさ、ははっ、笑ってくれよ」

(笑えねえ……)

 人間こんなにも悲しそうな声を聴いては笑えない。

「しかも兄妹そっくりとか言われるし! 全然似てないだろ!」

(いや、似てる、でも言えない)

「あいつと似てるなんて言われるのは屈辱なんだよ!」

(それは向こうもそうだろうなぁ、でも言えない)

 熱弁している仙波先輩をよそにあたりを見渡す、そこにはいろいろな機材が置いてあったけど……。

「あれ?」

 再び既視感、あの滑車装置を見た時と同じ既視感、ミコトの癖に似ている、そういえば仙波屋の「連雀支部」とか言っていたっけ。

「先輩、仙波屋ってなんです?」

「よくぞ聞いてくれました! 仙波屋はな、そもそも男のロマンを実現するために俺が作った同好会いや、おもちゃ箱なのだ! そもそも(以下略)」

 ここで再び熱弁をふるう、一言でまとめると男が楽しいことをひたすらするための同好会なんだそうだ。

「あの、仙波屋って、ほかに誰かいるんですか?」

「おう、もう1人いるぞ、高等部1年の連雀ミコトちゃんという女の子だ!」

「え!?」

「うんうん、女子部員がいるとは思わないよな~、彼女はな、仙波屋設立に尽力してくれてな、女ながらに男のロマンに理解を示す、いい女なんだぞ!」

 連雀ミコト、まさに俺が知っているその人が出てきて驚く。あの俺以外になついたことなんてない変わり者のミコトが、誰かと一緒になって活動するなんて。

 とはいえ確かに仙波先輩とはお似合いかもしれない、変わり者同士で気も合うだろう、それにミコトだって女の子だ、それはかっこいい男の人のほうが好きだよな。

 それに仙波先輩に彼女がいたところで、それは別に不思議とも思えない。

「仙波先輩って……彼女とかいるんですか?」

「いるよ、ツバサちゃんだよ」

「い、いや、ちがくて、ミコ、いや連雀さんのことなんですけど」

「ああ、なるほどね、いい子だけど、あの子は彼氏がいるからね、いっつもその子の話ばっかりだよ、えーっと、そういえば今年連雀学園に入学したとか言ってたな、郭町ユウトって知ってるか?」

「え!?」

「まあまだ入ったばかりだから知らないか、高校卒業したら結婚するらしいぞ、ま、彼女に目をつけるのはわかる、外見も可愛いし、性格もいいし胸も大きい、ただしセクハラするとトンカチで思いっきり叩かれるぞ、俺もそれで何度意識を失ったことか」

 ここで、仙波先輩は俺の肩に手を置く。

「残念だったな、だが君には借りがある! 俺はハッキングを得意としていてな、好みの女の子をかたっぱしから言うといい、データベースからスリーサイズをとってきてやろう」

「いやいやそれ犯罪ですから!」

「大丈夫だ、証拠を残すような真似はしない、ただミコトちゃんはだめだぞ、仙波屋の仲間だからな、ちなみにスミレもやめたほうがいいぞ、凹凸のないから見てもなーんも面白くない! えーっと……、そういえば、君は名前なんていうんだっけ?」

「あの、郭町……ユウトです……」

「…………………………」

 そのままいきなり立ち上がると血の涙を流して立ち上がる。


「リイイイィィィィ・アアァァァァ・充ゥゥゥ・しぃぃ・ねええぇぇ・やぁぁぁー!!」


 と叫び、血の涙を流しながら体をクネクネさせる。

「仙波せんぱいってぇ~、彼女とかぁ~、いるんですかぁ~? ハイハイ! 勝ち組勝ち組! お前はな! 確かに可愛い彼女がいるかもしれない! それはすごいことだ! だがな、それは容姿だけを見た真実の愛を知らないんだよ! どうだこの僻み!? 面白いだろ!?」

「だから違いますって! 聞いてくださいよ!」

 俺は、いきりたつ仙波先輩をなだめながら説明する。

 連雀ミコトは俺の幼馴染、連雀という苗字と学園の名前の一致は偶然ではない、連雀学園理事長連雀カナエの1人娘だ。

 自分の母親と理事長が大親友で、当時文部科学省のキャリア官僚だったカナエさんは、全国転勤で、たまに関東に戻ってきたときによく一緒になって遊んでいた。

 その後カナエさんはミコトが中学に進学する時を同じくして、官僚をやめて当時の連雀学園の理事長に就任。

 その縁もあってここを受験したことを説明する、彼氏とかは冗談であるということも添えて。

「なんだ、誤解してすまない、俺の仲間だったんだな」

(仲間……)

「ま、でも、さり気なくモテ自慢がちょっぴりイラッとしたが、まあいいだろう」


『おにいちゃん♪ ダ・イ・ス・キ~♪ ルリルラルルル♪ ルリルラルルル♪』


 突然聞こえてきた脳みそがツルツルになりそうな曲、トモヤ先輩は懐からスマホを取り出す、着信音かい。

「おうミコトちゃんか!」

 ミコト、まさに今話していた件の人物からだ。

「ミコトちゃん、いい知らせがあってな、仙波屋に新たな仲間が加わってな! その人物がなんと、え?」

 そのまま黙ってしまう、仙波屋の新たな仲間ってもしかしなくとも俺なんだろうけど、それよりも仙波先輩の表情がふざけた様子は消えて真剣に耳を傾けている。

 何をそんなに真剣に話しているんだろうか、うんうんと相槌を打つトモヤ先輩。

「わかった、俺を誘ってくれることを光栄に思うよ、その役目、謹んで頂戴する、すぐに行く、待っていてくれ」

 真剣な顔のまま電話を切ると、俺に話しかける。


「ユウト、今から俺と一緒に来てほしいところがある、頼めるか?」



 ミッション系スクールとは冒頭に述べた通り、宗教の授業が連雀学園に設けられている。授業の説明では宗教を信じるためではなく、慣れ親しんてほしいというのが目的だそうだ。

 日本人が海外で活動すると、一神教の概念が理解できない発言がトラブルのもとになったり、致命的な状況を生みかねないのだという。

 その宗教の授業は教会で行われる。その教会も歴史を感じさせる荘厳さを持っていて、素直に建物として立派だと思う。

 なんでここでこんな説明をするかというと、一緒に来てほしいところとはなんと教会だったからだ。

 意外と信心深いんだろうか、俺は仙波先輩につられるまま、教会の扉を開いた。


 その時にその目の前に広がった光景に俺は立ち尽くす。


 赤い絨毯の先、2段ほど上がったところでミコトがそこにいた。

 彼女は純白のウエディングドレスに身を包み、ブーケを両手で持っていた。

 ステンドグラスから入ってくる色とりどりの光がミコトを照らし、幻想的な雰囲気を出している。


 俺は、微笑んでいるミコトに話しかけた。


「あのさ、なにやってんの?」


「何って、結婚式、見てわからない?」

「結婚式!? 誰の!?」

「私とユウトに決まっている、だからウエディングドレスを着てみた、綺麗?」

「似合ってるけど! 仙波先輩! なんなんですかこれ!?」

 振り返った先仙波先輩も俺を見ながら優しい笑みを浮かべていた。

「ユウト、先ほどは僻んですまない、さっきの電話でミコトちゃんがいかに本気でお前に惚れているか熱弁されてな、2人の結婚式の唯一の立会人として出席をしてくれと頼まれたんだ」

 仙波先輩は、俺から視線を外すとミコトを見る。

「ミコトちゃん、綺麗だ、こんな綺麗な嫁さんをもらうんだ、まったく、男して非常にうらやましいよ、そして先輩として2人の門出に招待してくれたことを誇りに思う」

「ありがとう、トモヤ先輩は一切喋らず、動かず、呼吸もしなければ彼女ができると思う」

「はっはっは、それは死ねって事かい? 冗談きつぜレディ」


「ちょーっとまったぁ! あの! 2人が言っていることの意味が分かりませんが!」


 俺の言葉に仙波先輩は「オーウ」と外国人がとるようなイラっとするオーバーリアクションをするとミコトに話しかける。

「ミコトちゃん、いいことを教えてやろう、実はな、さっき俺と君が付き合っているんじゃないかって、ヤキモチ焼いてたんだぜ」

 仙波先輩の言葉にミコトはパアっと表情が明るくなる。

「嬉しい、ユウト大丈夫、トモヤ先輩と付き合う確率なんて、サマージャンボ宝くじを毎年当てるぐらいの確率も無いから」

「無いの!?」

 その横で「ミコトちゃんは相変わらず冗談きついぜ、HAHAHA!」と堪えていない様子、ある意味すごいなこの人。

 トモヤ先輩はそのまま牧師の位置に立つ。

「さて、僭越ながらミコトちゃんの依頼のとおり、俺が牧師役をつとめさせてもらう、連雀……いや郭町ミコトよ、君は郭町ユウトを生涯の伴侶とし、ともに添い遂げることを誓いますか?」

「はい、誓います」

「それでは郭町ユウトよ、君は郭町ミコトを」


「だからちょーっとまったぁ! あの! 2人が言っていることの意味が分かりませんが! 2回目! 2回目だから!」


 俺の言葉を一瞥すると仙波先輩は「オーウ」と再びイラッとするオーバーリアクションを取るとなぜか拍手を始める。

「父にありがとう、母にさようなら、そしてすべての子供達チルドレンに、おめでとう」

「適当すぎる! というか作品が違う! もう俺の中で処理しきれないよ!」

 だ、だれか、救世主はいないのか、この場を一切合切解決できる救世主が、もう意味が分からないよ。


 その時、バーンという音が教会内に木霊した。


 その音は扉が開いた音だ、扉を開けた人物は、逆光でシルエットしか見えないが、ツカツカとバージンロードを歩く、徐々に明らかになっていくその姿に誰かが叫んだ。

「げええぇーー!! スミレ!?」

 誰かというか、一発で仙波先輩(兄)だとわかったけど。

「教会で騒いでいる人物がいると思ってきてみれば、まあでもちょうどよかったな」

 そう言いながら後ずさるトモヤ先輩との距離を詰めると、そのまま胸ぐらをつかんで額をガチンと合わせて、スミレ先輩は感情を感じさせない目でトモヤ先輩を睨んでいる。

「今日という今日は見下げ果てた、女子トイレを盗撮していたとはな、もうお前は兄ではない、だがその前に裁きを下す、萱沼委員長が待っている、私と一緒に来てもらおう」

「う、うーん、ブクブク」

 恐怖でブクブクと泡を吹くトモヤ先輩、そのままスミレ先輩は襟首をつかんでズルズルと引きずると、途中でミコトのほうを見る。

「連雀さん、教会の無断使用は禁止だ、わかってるね?」

「はい、ごめんなさい」

「わかればいい、このバカに巻き込まれて災難だったな、失礼する」

 そして泡を吹いたままのトモヤ先輩がドナドナされていった。

 ミコトの姿に特に突っ込み入れないようだ、そうか、慣れてんだな、ていうかウエディングドレス姿に動じないってどういう慣れ方だよ。

「……ミコト、お前はまず着替えなさい」

「うん、まあ結婚式はいつでもできるから、あ、そうだ、母さんが落ち着いたら夜に理事長室に来てくれって、言ってた」

「そうだな、カナエさんにも挨拶しないとな」

「うん、結婚するのに親への挨拶は大事」

「お前それどの口が言うんだよ」

「ユウト、私の部屋は3階、窓のカギは開けておく」

「いや、締めとけよ、危ないだろう、というよりも3階の壁なんてよじ登れるかよ」

「梯子を作る」

「うんうん、わかったから、な、俺は寮の部屋の片づけに戻るから、ちゃんと寮に戻るんだぞ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ