プロローグ終
◯◯病院。
ここはこの辺では一番大きな病院で、救急も受け付けている。
沙倉は昔、高熱で救急搬送されたことがあり、そのおかげでこの病院を目的地に絞り込むことができた。
「すみません!!!」
「は、はい。どうされました?」
汗だくになり病院に到着した沙倉はすぐさま受付へと駆けた。
「さっき事故で救急搬送された人がいると思うんですけど今どこに!?」
「しょ、少々お待ちください」
受付の職員が奥の部屋に行き、電話で確認を取っているのが伺える。
沙倉は願った。どうか自分の間違いであってくれ、思い過ごしであってくれ、と。
1分ほど経ち職員が戻ってきた。
「先ほど搬送された方でしたら現在集中治療室です」
「手術中ってことですか?」
「はい」
「すみません。その方のお名前分かりますか?」
間違いであってくれ、思い過ごしであってくれ、間違いであってくれ、思い過ごしであってくれ。
沙倉は何度も祈った。
しかし、沙倉の読みはまた当たることになってしまった。
「お名前は鳴坂遊舞様です」
沙倉は集中治療室へと走った。
そこにはすでに遊舞の母親がいた。
「沙倉ちゃん…」
「おばさん…、遊舞君は…?」
遊舞の母は下を向き、消えるような声で話し始めた。
「遊舞、道に飛び出した子供を助けようとして事故に遭ったそうよ」
「……」
「その子供は軽い怪我ですんだって」
「……」
「でも……、遊舞が……!!」
泣き崩れる遊舞の母。沙倉は肩に手を置こうと手を振り出した。
その時、集中治療室のライトが消え、ドアが開いた。そして中から術着を着た医者が出てきた。
遊舞の母がその医者に駆け寄った。
「息子は!!遊舞は!?」
医者は静かにマスクを外し、ゆっくりと頭を下げた。
「すみません…。私の力が及ばず…」
その言葉が何を意味するのか一瞬で理解できた。しかし、意味が分かっても頭の中で繋がらない。妙な感覚が沙倉の頭の中をぐるぐると回る。
「ーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
声にならない悲鳴が聞こえた。遊舞の母の声だろうと沙倉はまわりを見渡した。しかし遊舞の母は床に崩れ落ち、医者に抱えられている状態であった。
声にならない悲鳴は沙倉のものであった。
頭では分かっている。でも理解できない。身体は拒否反応を示している。
不思議な感覚。
沙倉はおぼつかない足取りでその場から消えた。