プロローグ3
7月6日午後0時20分。
◯◯図書館前のベンチ。沙倉が立っていた。
(早く来すぎちゃったなー、ゆういつも待ち合わせギリギリで来るしなー)
ここはデートの待ち合わせをいつもしている場所である。遊舞がここに遅れてくるのは日常茶飯事であり、ひどい時は30分も遅れてくることがあった。
(早すぎるし暇だし、せっかくだから家まで迎えに行こうかなー)
沙倉は遊舞の家に向かって歩き出した。
夏の日差しが強くなってきた。日焼け止めは塗ってあるが気になる。
通り過ぎる人は皆半袖の服を着ており、長袖の方が珍しい。
(そういや、この前の誕生日にあげた服今日着てくるって言ってたなー。あれ長袖だから暑いんじゃないかなー)
図書館の前の通りを抜け、交差点の信号で止まった。
その時、どこからかサイレンのような音が聞こえてきた。
救急車であった。
『道を開けてくださーい!』
救急車が通るために車を傍に寄せるドライバー達。目の前を救急車が通って行った。
何事もなかったかのように車は再度動き出し、やがて信号が青に変わり沙倉は歩道を渡った。
15分ほど歩いただろうか。遊舞の自宅へと到着した。ここまでで遊舞に会わなかったということはまだ家なのであろう。
時計は13時50分を指している。これは今出てきたとしても確実に遅刻である。
沙倉はインターフォンを鳴らした。
『はいー』
「あ、沙倉です。遊舞君いますか?」
沙倉は何度か遊舞の家に遊びに来ており、インターフォンから聞こえた声が遊舞の母親であるとすぐに認識した。
『あら沙倉ちゃん!遊舞なら20分くらい前にどっか行ったわよー?』
「あ、そうですか」
(あれ?遊舞いつもと別の道で行ったのかな?それとま寄り道?)
おそらくどこかコンビニにでも寄った時に自分がそこを通り過ぎたのであろう。そう思い沙倉は遊舞の母親に挨拶をし、また図書館へと向かい歩き出した。
(ちょっとLINEしてみよ)
[いまどこ?]
5分ほど経過したがLINEには既読すら付かなかった。
(何してんのよあいつ)
沙倉はスマートフォンをカバンにしまい、また歩き出した。
その時、来た道とは少し違う方に人集りがいるのを確認した。
沙倉はなんとなくそこに足を踏み込んだ。
すると、フロントが少しへこんだ車があり、パトカーが2台停まっており、警察官が何人かいるのが確認できた。
(事故…かな?)
しかもよく見ると道路には血が飛び散っている。
(あ、さっきの救急車ってもしかしてこの事故か)
沙倉の読みは当たっていた。
そしてその瞬間、沙倉の脳裏に考えたくない読みが横切った。
そんな訳ない。そんなことありえない。
逃げるようにその場を離れようとして、現場から背を向けた時、沙倉の耳にまるでナイフで刺すかのように静かに、そして強くひとつの単語が入ってきた。
「鳴坂さんのところの…」
その瞬間、沙倉は走り出した。