世界の違い
それから俺は、この世界に着いてのさまざまな説明を受けた。
まず、この世界は地球と呼ばれる場所にあるとされているらしい。
金星や火星と言った、他の太陽系の惑星は存在が確認されていないらしく、判明しているのは恒星の太陽、惑星の地球、衛星の月の三種類。それと八十八星座だ。
存在している国は元いた世界と全く変わらないらしい。国名に詳しくないから、確認のしようがないのだけれど。
次に、日本は六つの地方で分かれている。
俺が今いるトーキョー、その周りを囲むようにノース、イースト、サウス、ウエストといった感じだ。
地図を見せてもらったが、トーキョーは元いた日本で言う中部地方辺りに位置しており、滋賀と三重辺りも巻き込んでいるようだ。
東北地方がノース、関東地方がイースト、四国・九州地方がサウス、近畿・中国地方がウエストといった感じだ。
北海道は昔の日本みたく未開の地とされており、生きて帰ってきた者はいないとの噂。
歴史的には、ほとんど同じのようだが所々違いが見られた。
日本で『W』の存在が明らかにされたのは平安時代あたりらしく、貴族たちが歌を詠んでいた所、歌の内容が実際に起こった事が始まりのようだ。
それからは貴族の力が強まり、武家や公家といった名称は全て貴族に統一されていた。
本来ならば第二次世界大戦後に貴族、もとい華族制度は廃止されている筈だが、こっちの世界では貴族が武勲をあげたとか何とかで未だに残っているらしいから驚きだ。
有名所で言えば織田家や伊達家など、その殆どがこっちの世界で言う戦国大名の血筋だった。
文化も違っていて、機械といったものは一切存在しない。
街に車が走っていなければ、空を飛ぶ飛行機の影も見えず、座ってスマホをいじる人すらいないらしい。過去で例を挙げれば、三種の神器はないし、なんと原爆を落とされたという史実もない。これも科学が発達していないからだ。
代わりに『W』を応用した技術が発達しており、スマホに近いものはあるし、交通手段も一応存在しているようだ。
試しに、手放さずに持ってきた学生鞄の中にあったスマホを見せてみたが対して驚かれなかった。逆にそういったデバイスを持っている事に驚かれた。
「最後に、『W』の説明をしよう」
「はい!」
正直なところ、これを一番待っていた。
話を聞いている間にリラックス出来たからか、俺の心にはかなりの余裕が生まれてきている。
となると、男の子としてはファンタジー的世界観に心躍らさせずにはいられないのだ。
もしかしたら、俺にだってその『W』が使えるかも知れない。子供の頃に少しだけ夢見た魔法のような力を、操れるかもしれない。
「先程、この世界の歴史は説明したね。『W』はこの国、この世界の歴史を支えてきているんだ」
「と言うと?」
「そうだね……。例えば、日本地図の作成にも『W』が使われていてね。詳しい使用方法は不明なんだけど、距離や日本列島の形がほぼ正確に記録されていたんだ」
「へぇ……」
自らの足で日本中を歩き、正確な地図を完成させた伊能忠敬も、こっちの世界では天才的に『W』の扱いが上手い人物になっているようだ。
「さて、汎用性が高く利便性に富んでいる『W』だが、何も無制限に使えるという訳ではない」
「ですよね」
科学でも限界はあるというのに、『W』に制限がないとしたら……。
かなり、恐ろしい事になるんじゃないのか?
「私達人類には『霊力』と呼ばれるものが備わっている」
「霊力……ですか」
「これはその人がどれだけ『W』を使う事が出来るのか、その容量を示す値になる」
ラノベでよくある、魔力がないと魔法を使えないみたいな感じか?
「『W』を使う時にこの霊力を消費するんだ。『W』として発動する文字一文字につき、霊力を一消費するといった風にね」
「さっきの火の玉を出したのだと、霊力を四つ消費したという事ですか?」
「その通り。この消費する霊力が少ないほど発現は簡単だが、その分力が弱い。火で言うなら火力が低い、物を切る時に使うなら切り口が乱雑と言ったところかな」
「つまり、消費数が多いほど効果は大きく現れる?」
さっきのファイアをビッグファイアと言うとより火力が強まる、だとか。
「そう。だが、ここで気を付けなければいけないのが、想像力。イメージだよ」
「イメージ、ですか?」
「例えば、幸せになりたいという願い。これを『W』で発現させるには不可能に近い」
それは、願いが漠然とし過ぎているから?
人によって、幸せのカタチは様々だ。
好きなだけ寝るのが幸せな人がいるなら、沢山食べる事が幸せな人だっている。
という事は、その口にする願いがどんなものかを固めておく必要がある?
「曖昧な表現が駄目って事ですか?」
「半分正解だね。確かに、願いが曖昧だと叶えようがない。だが、その逆もあるんだ」
逆? イメージが強すぎると、逆に駄目って事なのか?
「イメージが強すぎて生命の死を連想させる『W』は、殆ど発現しない。まるで神様に邪魔でもされてるかのようにね」
これは、機械で言うインターロックか?
勝手に他人の命を奪う。こっちの世界じゃ死刑になりかねないほどの重罪だ。
そんな逸脱した考えから、人々を守る機能。それが『W』の限界?
「何処までが駄目で、何処まで大丈夫か。それはいまだにはっきりとは掴めていないんだ。現に、私はさっき何と言ったかな?」
「【死を連想させる『W』は殆ど発現しない】。……殆ど?」
「そう、『W』による直接的な死亡事件は少なからず存在する」
背筋がゾッとした。まるで、命が危険に晒され続けているような感覚。
「『W』は千年以上も用いられているというのに、全てを理解されていない。……それでも、天才君。君は『W』を使いたいと思うかい?」
……そんなの、答えはとうに決まっている。