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知っているけど知らない場所

うおわああああ……! 落ち着かねー……!


失礼だとは思いつつも、つい視線をあちらこちらに向けてしまう。

俺は結局、おじさんに案内されるがままに着いて来てしまい、この豪華な部屋に通された。今はふっかふかのソファに腰を下ろして、その柔らかさを堪能しているところだ。

しかし豪華だ。俺のボキャブラリーでは言い表せないくらいに。

シャンデリアなんて初めて見たし、如何にも高級品ですと主張している壺や絵画。


す、凄まじすぎる……!


「まあ、そう固くしなくてもいい」


「はいぃっ!」


びしりと姿勢を正す。正しすぎてカチコチになっている気はするけども。


「先ずは互いに自己紹介と行こうか? 私は『じんぐうじ まさひと』という。このアルカディア高等学校の学園長を務めさせていただいているよ」


「お……僕は天才悠太と言います。えと、あの森には気が付いたらいたという感じで……」


しどろもどろになりながらも名前を名乗る。

じんぐうじ まさひと……。苗字は多分、『神宮寺』って漢字かな。

まさひとは……候補が多すぎるなー。


そこまで考えて、ふと重大なことに気づいた。


「あ、あの」


「どうかしたかい?」


「ここって……日本、ですか?」


もしそうだとしたら、俺はただ単に誘拐されただけかもしれない。

森を抜けた時、空は青空だった。意識を失う前は夕方。

つまり、意識を失ってから時間をかけて、あの森に運ばれたという事だ。

だけど、そうなると何故俺は誘拐されたのか。そもそも何故あんな森のど真ん中に置き去りにされていたのか。


分からない事だらけではあるが、まずは返事を聞いてからだ。


「……ああ、そうだよ。見た所、君も日本人のようだね?」


「はい。ところでここは何県の何市ですか?」


ここまで聞いて、少し変だなと思った。

こんなでかい学校、まずニュースにならない筈がない。普段テレビを見ない俺でも、聞いたことくらいはあってもおかしくないくらいに規模の大きそうな学校だ。

そうなると、地名が付いて回るのも当然だ。しかし、全く記憶にはない。


「けん……? し……? 何を言っているのか分からないが、ここは日本国の首都、『トーキョー』だ」


「東京……」


県と市が分からない? 学園長とあろう者が、まさか都道府県の都、市町村区の区だけしか知らないという事はないだろう。


「えーと、俺の地元は中部地方の――」


「……少し待ってくれないか。先ほどから、君の言っている事がいまいち理解できない」


頭痛がした。俺と神宮寺さんの間には、なにやら知識の大きな溝があるらしい。


「一旦、振り出しに戻そう。お互いの知っている部分の共通点を見つけるんだ」


「は、はい」


「まず、ここは主に日本人が住んでいる『日本国』で間違いないね?」


「はい、俺も日本人ですし、間違える筈がありません」


「そして、ここは日本国の中でも特に経済の発達している都市、『トーキョー』だ」


「一度、行ってみたいとは思っていたんです。自分の住んでいる所は田舎だから……」


地方に住んでいる人間からすれば、一度は都会に行ってみたいと思うだろう。まあ、その願いはおかしな形で叶ったわけだが。


「トーキョーを中心にしてノース・イースト・サウス・ウエストの四つの都市があり、ノースの向こうには未開の地がある」


「……ん?」


おかしい。日本は一都一道二府四十三県の四十七都道府県で構成されている筈だ。しかも今の言い方だと、北海道は未開拓と言う事か?


「あの、日本は四十七の都道府県で構成されているんじゃあ……」


「トドウフケン? 聞いた事もないが……」


この時、俺は悟った。いや、悟らざるを得なかった。




ここは俺の住んでいた日本じゃない。同じ国名の全く違う土地だ。




「……守衛に囲まれたりしてまだ混乱しているのかい?」


「いや、違います。俺は間違った事を言っていません」


俺の中では、だ。この国の人から見れば、頭がおかしいのは俺の方だ。


「……そう言えば。君は確か、『W』の存在を知らなかったみたいだね」


「ダブル、ですか? アルファベットの一つだとか、そんな単純な物じゃないんですよね?」


「口で説明するより、見た方が早いな。《ファイア》」


すると、俺の神宮司さんの間に、小さな火の玉が現れた。

目を疑う。手品か? だけど、仕掛けを作るようなそぶりはなかったし、そもそもこんな部屋でわざわざ火の玉を作る仕掛けを作る必要性がない。


「見た事がない、そんな顔をしているね」


「……ええ」


マジックの類では無い事は確かだ。火の玉は消える気配を見せず、一定の大きさを保ち続けて、ゆらゆらと揺らめいている。


「これが、私達人類が『W』と呼ぶ力。言葉に込められた願いを、本物とする力だ」



ぶるりと、体が震えた気がした。

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