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勇者(笑)の異世界珍道中  作者: 達磨
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食戟のオーヴァン


 衆人環視のなか、オーヴァンは器具や材料の準備を始める。

 それを見てこの国の王がはたと声をあげた。


「ふむ。〈おやつの時間〉のオーヴァンとやら、このような衆人環視の中で調理するのかい?何処かで調理して、完成品をここに持ってきてもよいのだぞ?」


「大丈夫ですよ。これからする事柄は、真似したければ真似すればいい事ですので。それに、先程言った通り。叩き潰すなら目の前で何をやっているかを見せた方がいいでしょうしね」


 発言した者が国王とは知らないオーヴァンは、偉い人とわかっていながらもそこまで偉い人とは思っていなかったので少々ぶっきらぼうに答える。

 それを不敬と断じようとした者たちがいたが、国王は手と目でそれを制した。


「ほっほ。此処に集うは我が国最高峰の技術と才能を持った者たちよ。確かに君は、いや、君の国の技術は我が国より先んじているかもしれないが、種が解ってしまえば簡単の真似できてしまうはずだよ?」


「ええ。その事については多分、貴方より私の方がわかっています。だからこそ見せるんです」


「ん?それはなぜなんだい?」


 オーヴァンが言っている意味合いが解らず国王は、いや、その場の全員が首を傾げた。本来、秘匿するべき技術をさらけ出すなど、愚か者のすること。だがオーヴァンはそれを敢えて見せるといっているのだ。

 オーヴァンは準備を進めながらニカッと快活に笑い、それに答えた。

 

「あなた方がまだ知らない調理法があって、まだ食べたことのない物があって、まだ感じたことのない味がある。私がやるのは多少の変化こそあるものの所詮今まで学んできた事をなぞるだけ。でも、あなた方にとっては全く未知の領域。何を感じ、貴方の言う天才達が、これを切っ掛けにどうするのか。それをどう利用していくか。私の所とおんなじ道を行くのか、はたまた別の道を見つけるのか」



 準備が終わったのか、オーヴァンは用意した器具の前で立ち止まり、1つゆっくり息をする。


「俺はそれが見たい」


 途端に発せられる気迫。

 オーヴァンから発せられる気迫に、国王が、審査員が、ノエールが、その場にいた全ての者たちが静かに息を飲んだ。

 オーヴァンが言った“本気で叩き潰す”という言葉が嘘偽りない言葉であったということを、その場にいた全ての者たち理解した。



「さてと。始めますかね?」


 手を一度コキリとならすとオーヴァンは目にも止まらぬ早さで調理を始めた。


 まず始めたのは鍋にバターをいれ溶かし、そこに振るった小麦粉、卵を更に入れてクリーム状にし始める。滑らかになったら火から下ろし、それを冷ますようにして放置した。

 オーヴァンはそれを横に置いた後、鍋にお湯を張り火にかけて、大量の卵を割り始める。卵の入ったボウルにホルホルの乳、砂糖を加えて混ぜ、お湯の上にボウルのまま突っ込んだ。それを見た周りはぎょっとするが、オーヴァンはどこ吹く風、平然と中身を混ぜる。

 オーヴァンがとったこの行動は湯煎といって、直接火にかけず、火を通しすぎないようにする技法。

 現代を生きる者たちには当たり前の技法であるが、異世界である者たちにとっては新たな技法である。ぎょっとした表情のまま、口を挟むこともできずオーヴァンの調理風景をただ見守ることしかできなかった。

 さらさらとしていた液体がドロリと半個体状になるとオーヴァンはそれにリキュールと何やら透明な液体を垂らし、氷水の上にのせ冷ます。少しの間かき混ぜたのち、オーヴァンは放置しておいた鍋にむかう。

 鍋から取り出したものを小さい円上の形にし、それをオーヴァンがもつ魔導式オーブンで焼いていく。他の者たちからすれば突然虚空に空いた穴にオーヴァンがオーブンシートごと突っ込み、数秒後に焼けたものを取り出したのを見て何かの手品か最初から準備をしていたかのようにも見えてしまった。しかし、やはりオーヴァンはその視線などどこ吹く風。調理を進めていく。


「うっし。後はこいつらにカスタードクリームをつめてっと」


 焼き上がったモノに絞り袋で次々と半個体状のものを詰めていくオーヴァン。因みに、結構な量の作業をオーヴァンはいつも通りやっているのだが、端から見ると幾人にも分身して一瞬で終わらせたように見えている。見物人達の空いた口が塞がらない。その中の実力の有りそうな人達はあまりの出来事に某海賊漫画の雷を使う自称神様みたいな驚き顔をしている者たちもいた。


「さて、仕上げといきますか。まずはあめを作って」


 オーヴァンはそう一人ごちると、鍋に大量の砂糖と水を入れカラメルを作り始めた。


「んで、こいつをほいほいと積み上げてっと。最後にこいつでコーティングだ」


 そして、そのカラメルを接着剤がわりにし、どんどんと積み上げていくオーヴァン。自分の伸長ほどの高さにしたら、カラメルを上から掛けて積み上げたものをコーティングしていく。



「はい完成。クロカンブッシュの出来上がりだ!さて皆さん、覚悟はようござんすね?実食の時間だ」


 オーヴァンは積み上げたものをトンカチの様なもので崩しながら全員に配る。もちろん審査員だけでなくノエール達やシルとビャクにも配っていた。

 全員に行き届いたのを確認したオーヴァンは意地の悪そうな笑みを浮かべながら高らかに宣言する。


「さてさて、準備はようござんすね?それでは全員御賞味あれ(死ぬがよい)

 

 オーヴァンの号令の後に全員が配膳されたものを見る。目の前にあるのは茶色でアメでコーティングされているとはいえ、どことなく形がシューに似ている菓子であった。

 この場にいる誰もが見たことのない菓子に少々躊躇していたが、ノエールがまず最初にそれにかぶりついた。

 アメのパリリとした食感を楽しんだあと、それを咀嚼しようとするが、口内に広がるとある風味にノエールは目を見開いた。


「……………嘘、だろ………」


 ノエールがポツリとそう溢す。辺りが静かであったため、ポツリと溢したはずの言葉が響いた。あまりの驚きにノエールはそのまま固まってしまった。

 そんなノエールを固唾を飲んで見守っていた者たちも、とうとう我慢できなくなったのか目の前のものを実食し始めた。

 度合いこそそれぞれであったが、ノエールとさして代わらない反応を周りも示していた。


 あり得ない。信じられない。



 周りの心情はまさにそれだった。


「どうだい?これが俺の築き上げてきたもんよ。なかなかのもんでしょ?」


「お、おオーヴァン。あんた、まさか、ルニラの実を、完全に扱えるようにしたってのかい?」

 

「ええ。きちんと使えるようにするのに苦労したんですぜ?」


 そう。オーヴァンが出したクロカンブッシュという菓子からはルニラの実の薫りがしていたのだ。それも、ノエールが扱っていたルニラ・アロームよりも遥かに濃厚な薫りが。

 数多の者たちが挑戦し、そして敗れていたルニラの実が。なんのエグミもなく使用されていたのだ。


「んで、どうよ?決糖値のほうは?」


 オーヴァンの言葉に、軽くトリップしていた審査員達の意識が戻ってくる。


 審査員達は確認をとるようにお互いに頷き合い、国王へと向く。国王はもう既に決まっているのか、それを受けて大きく頷いた。


「うむ。悪いけど比べるまでもないね」

 

 国王は立ち上がりその場にいる全員に向けて高らかに宣言する。


「勝者!!〈おやつの時間〉オーヴァン!!」


「ふはは!どうよ?お粗末様ってね!!」


 




 

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