神様って………なんなんだろ?
もう6月だよ!待たせてしまって申し訳ない。
────おや?ここは一体?それに、なぜわたくしの意識があるのでしょう?
なにもない真っ白な空間の中、女性の輪郭だけが薄ぼんやりと浮かび上がる。
「それはね。僕が君を呼んだからさ」
そんな真っ白な空間の中に、アースが突如として現れる。しかし、女性の輪郭は驚いた様子もなくペコリと頭を下げた。
───これはこれは、我等の偉大なる母にして父の「ああ、今はアースって呼ばせてるから」
────また御名前を変更なさったんですか?この前はテラで、その前はガイアでしたのに。
「いいじゃんべつに呼び方なんてさ。そういう遊び心がないとなんでもかんでもつまらなくなっちゃうし」
───はぁ……そうですか。まあ、それはいつもの事ですから良いでしょう。して、此度は何故わたくしの意識を再構築なさったので?わたくしは既に信仰を失い、我等の偉大な「アース!!」
アースは少し拗ねたように女性の輪郭の言葉に被せる。それを受け、少し黙っていた女性の輪郭も諦めたように溜め息を吐いて続ける。
───アース様の上より消え失せ、我等─ゴホン、アース様の元へと還られた筈ですが?
それを聞いてアースは満足したようにうなずく。
「うんうん!そうだね!君達神々は信仰により僕から別れ、その信仰により神各(人格みたいなの)を得る。そして、その信仰が失せた時に僕へと還る。そういう事になっていた筈なのに、信仰が失せ、僕へと還った君が呼び出された理由がわからないんだね!」
───ご説明お疲れ様です。はい。その通りです。して、何故でごさいましょうか?
「それはね、君に罰を受けてもらうためさ」
────…………罰?既に存在そのものが失せたわたくしに?
「ああそうだ。君は罰を受けなきゃ。いや、受ける義務がある。何故なら君は──」
アースはそう言うと指をパチンと鳴らす。すると、アースの直ぐ後ろにスクリーンのようなものが浮かび上がり、そこにとある人物が写し出された。
「彼の事を僕に報告しなかったからだ」
スクリーンに写し出されたのは少年時代のオーヴァンであった。それを見た女性の輪郭ははっきりと動揺した様子を見せる。
───は、はて、こ、ここここの者は一体だれでしょうか?皆目検討もつきませぬですはい。一体全体わたくしに一体どういった落ち度があるという証拠でしょうか?
「その日本語おかしい動揺っぷりだよ」
その後も、なんとか弁明しようとわたわたとしていたが楽しそうに無言で見つめてくるアースに、暫くして観念したように息をはいた。
───………………申し訳御座いません。最後の最期、確かにこの者にわたくしの加護を授けました。
「そうそう。最初から素直に言っとけばいいんだよ。それで、どうして彼に力を与えたの?」
───………消え行くわたくしの最期の声をこの者は聞こえてしまったのでしょう。誰からも忘れられ、明日にも消えるわたくしの元へと現れ、姿の見えぬわたくしの為に泣いてくれた。その事が嬉しくて、わたくしの残子のような絞りカスの力を全て、この者に与えました。
「そうだね。そのせいで君は直ぐに消えてしまった。与えた力も弱々しく、本人すら気づけぬ程に小さな力を。だけどね、彼は君が消えた後も暫くそこにいたんだよ?君が見えなくとも、力を与えられたこともわからぬくとも。君を感じていたんだろうね」
────それは………それは、嬉しく、思います。
「感動しているとこ悪いけど、話をもどすね。そして君はその事を僕に報告しなかった」
───ええ。極小な上に、わたくしが消えると同時になくなってしまう力を与えた所で後世に影響などないと判断しましたので。
「そう!そうさ!後世“には”全く影響を及ぼさなかったさ!君の判断通りね!」
───後世“には”?
「フフフ。フフフフフフ」
───アース様?
「ククク。クッアーハッハッハッ!!!」
アースは片手で顔を覆いながら高らかに笑う。
「直ぐに消えるといっても!!どれだけ力が小さくとも!!神は神なんだよ!!彼はね!そのせいで運命が狂ってしまったのさ!本来予定されていた極普通のありふれたつまらなくも慎ましく人並みに幸せな人生ではなく!!
屈辱と!!
後悔と!!
痛みと!!
波乱にまみれた複雑な人生へと!!君が与えた力によってね!!!」
─────………………ぇ?
女性の輪郭から漏れ出る僅かな呟き。
「そして!これがその証拠さ!!」
指をパチンと鳴らすと少年オーヴァンから映像が変わる。
写し出された映像にあるのは成長したオーヴァン。
────………う…嘘………ですよね?こんな………こんな…………。
理喰らいと闘い、両足の殆んどが無くなっている上、右腕がネジ折れて木にもたれ掛かっているオーヴァンであった。流れ出ている血の量は夥しく、呼吸している様子もない。もう既に事切れている体であった。
「嘘なもんか!“これ”に起こった出来事は必然だ!
君が与えたんだ!この運命を!!
君がねじ曲げたんだ!!彼の人生を!!」
────あぁ…………あぁぁぁぁ………ケン…ケン…そんな…わたしくしは……わたしくしはそんなつもりじゃ……。
「君にそんなつもりが無くてもね、彼の人生は変わってしまった。その結果が映像に写っている“これ”の人生さ!!
どう?軽率な善意がもたらしてしまった結末は?」
───わたくしは………わたくしはなんて取り返しのつかない事を………。
輪郭はそのまま泣き崩れるように蹲り、嗚咽を漏らす。
「まあ、罰はこれでお仕舞い。勝手な事をされてしまったけど、犠牲はたった1人だけだし。僕や後世に影響も少なかったから、仕出かしてしまったことを確認してくれたらそれでいいしね!それじゃ、また僕の中に戻すね?」
────待って!待って下さい!!
アースが輪郭に手をかざすと、輪郭はアースの下半身にすがり付く。
────お願いします!ケンに、ケンに会わせて下さい!!
「ええ~。ヤダ~。会わせようとするといろいろやらなきゃならないことがあって面倒臭いし~。それに会ってどうするの?あなたの人生滅茶苦茶にしてしまってすみません、とでも言うの?そんなのスッゴク恨まれるだけじゃん?罵倒されるよ?」
─────それでも構いません!どうかお願いします!!なんでもしますから!
「ん?今なんでもって言ったかい?」
───はい!なんでもしますからお願いします!ケンに「その言葉が聞きたかった!!」会わせて……へ?
さっきまで面倒臭そうにしていたアースだったが、輪郭からの言葉でうきうきした雰囲気へと様変わりしていた。
あまりにも突然な様変わりに付いていけず、輪郭だけで表情などわからないはずが、ポカンと呆けた様子がありありとみてとれた。
「さあ!早速彼の所へ行くよ!何かしらの用がないと頻繁に向こうに行けないからね!今までは様子見って理由がたってたけど、あれだけ順応しちゃってるならもう様子見っていう理由で“彼”の所に行けないし!!」
───あ、あの?アース様?ケンは………死んだのでは?あんな大怪我して……。
「クッアーハッハッハッ!死ぬわけないじゃん!死なせる訳ないじゃん!あんな面白い子!例え世界の法に触れたとしても、僕の力で傷を治癒させるさ!まあでも、その必要もなく彼は彼が紡いだ“縁”で生き長らえたけどね!」
───は、はあ?
「ほんっと!面白い子だよ!やることなすこと!見ていてこんなに飽きない子は久しぶりだよ!しかも!何処ぞの英雄みたいな高潔にして孤高の精神を持っている訳でもなく!何処ぞの聖人君子みたいに何かしらの偉業を成す訳でもない!フツーーの人間がやるってのがいいよね!あるのはついつい肩を持ってしまいたくなるような人柄の良さだけ。だからこそ予想がつかない!未来が見えない!!ああ、楽しい!楽しいな!こんなに楽しいのはいつ以来かな!」
目をキラキラさせ、溌剌といった様子でアースは楽しそうに語る。それを見ていて女性の輪郭は、「あ、これ本当にやらかしたみたいですわ」と呟くのだった。
───そ、それで、ケンは今何処で暮らしているのですか?
「聞いて驚け!彼は今!なんと異世界にいるのさ!」
───い、異世界ですか!?
「そう!異世界でいろいろやらかして、向こうの主神と仲良くなってるよ!」
───た、他世界の主神と仲良くですか!?
「ほら♪驚いた!そんな風に僕達ですら予想外の行動ばかり起こす子でさ!次になにやらかすのか楽しみなんだ!」
アースは何もない空間に手を翳す。するとそこに、ドーム状の靄が浮かび上がる。
「“大場 拳”という男はもう僕の上からは存在しない。僕の上の“縁”に無意識下から引っ張られないようにするために、名前は置いていって貰ったんだ。だから、向こうの世界で彼の事をケンって呼んじゃだめだよ?」
───それは………。
「彼はもう、向こうで新しい人生を送ってる。僕達神は人間を導くことはあっても、引き戻すことはあっちゃいけないんだ。だから、ね?」
アースは幼子に言い聞かせるように優しく、穏やかに語りかける。少しした後、女性の輪郭はコクリと頷いて顔をあげる。
「フフフ。いい子だ。さあ、僕の手をとって。彼に会いに行くよ?」
女性の輪郭は意を決したようにアースの手をとる。
すると、輪郭しかなかった場所に、目に赤い縁取りのある黒髪の和服をきた女性が浮かび上がった。
「さあ行くよ!彼の所に!彼の人生はまだ半ば!!彼の闘いはこれからなんだから!!彼の謳歌する人生を見てわら、いや愉えt、─楽しむために!!先ずは君を向こうの世界の主神に紹介しなきゃね!」
アースは楽しそうに靄をくぐろうと、女性の手をぐいぐいと引っ張っていく。その女性はそのアースの言動からこれからおこる又は、これから起こす事に不安になるのだった。
そして靄を潜り抜けきる直前、アースの顔面を何者かの手が鷲掴みにした。
「ふぇ?」
「聞~こ~え~た~ぞ~」
背後に般若の顔が写る程、素晴らしい笑顔をしたオーヴァンがアースの顔を鷲掴みにしていた。
「な、なんでオーヴァンちゃんがここにぃぃぃい痛い痛い痛い!」
オーヴァンが指に入れる力を強めたのか、アースの顔面に指がくいこんでいく。
「俺の人生見て笑うとか申してたよなぁ?」
「あはは。あ、あれは言葉のあやぁぁぁぁぁぁ!?」
「いくら元いた所の神様だからって容赦できるかぁぁ!!あの世で俺に詫び続けろぉぉ!!」
セッカッコー!ハアアァァン!ユクゾッ!ゲキリュウニミヲマカセゲキリュウニミヲマカセゲキリュウニミヲマカセドウカスル────
”個体名オーヴァンが捕まえて。個体名オーヴァンが画面端。個体名オーヴァンがまだはいる。個体名オーヴァンがバーストよんで!?“
──120%グライカ?ウゥルゥフデス!!
「デストロイ!?」
”個体名オーヴァンが決めたぁぁ“
突然目の前で自分の上位存在が訳もわからずボコ殴りにされ、最後にはエメラルドグリーンの具足による全力の跳び膝蹴りをかまされるというなんともカオスな空間に、女性は呆然とするしかなかったのだった。




