筋肉モリモリマッチョマン
周りの兵士達は俺に対する慰めの言葉でも探しているのか、あーとか、うーとか唸っている。まあ、能力は一般人以下な上、スキルは3つだけ(この世界で闘うことを生業とする人は平均10個のスキルを持つ)。更に運が無いことに、適正属性は無属性ときたもんだ。兵士はおろか町のチンピラにすらなることができないような男だからな。だが、一つ弁解させて欲しいが、自分が泣いているのは適正属性が火じゃないからだ。火なら職場の都合上よく扱っているため。使えた時の利便性を知っているからだ。それに、レティナさんが使った魔法を使いたいともおもっていたからだ。だが、よくよく考えて欲しい。無属性は魔力をただの塊とはいえ物質化するのだ。殴る位の威力があるなら、使用についても問題ない。いくつか頭に浮かんだことが出来るなら、低い能力でも十分やっていける。ほんと、無駄とわかっていながら溜め込んだ知識に助けられるとは、世の中何があるかわからんな。
そう気持ちを入れ直して立ち上がろうとすると、
「そうだ!魔法は駄目でしたが、武器を使った戦いになら光明が見いだせるかも!!」
と、レティナさんが声を張り上げた。それを聞いたレナスさんを始めとする他の兵士達が、「それだ!!」とハモって立ち上がる。すると皆さん全員が修練用の武器を持ち出す。剣や槍、杖に弓、さらにはハンマーや鎖鎌などといった武器もある。
「さあオーヴァン君!これだ、という武器を見つけましょう!!」
レティナさんが俺の手を引きながら外に連れ出そうとする。話の流れについて行けなかった俺は、
「お、おう・・・」
としか答えられなかった。
それからだいたい1時間程たって、この帝国に用意されているあらゆる武器をとり、戦いを見て貰った。結果は周りの沈痛な雰囲気で察して欲しい。そしてレナスさんが意を決したような面構えをして俺につげる。
「命を預ける相棒を探す為だから、偽りを入れずはっきり言おう。君には我が帝国にある武器を扱う才能がない。体さばきはまあそこそこあるんだが・・・」
その事を告げるレナスさんはものすごく残念そうだ。悔しいのか、手を力強く握り絞めている。その後ろでは、レティナさんが両手で顔を隠すように泣いていた。
「酷いです。あんまりです。魔法の才能はおろか、武器を扱う才能もないなんて!
神よ!これはあなたがオーヴァンさんに課した使命なのですか!親族も友人もいないこの異世界で!これで生きていけというのですか!こんなのって酷すぎます!!」
ちょいと毒が混じってないですかい?悪意がないから余計に心にきますわ・・・。
辺りの兵士達も同じような考えてなのか、悔しさのあまり拳を握り締める者。レティナさんと同じように泣くもの。まだ手があるはずだ、と必死に思い悩む者が見受けられた。
あぁ、この人達はなんといい人達なんだろう。こんなに自分の為に思い悩み、なんとかしてくれようとしてくれているのだ。そう思うと心が暖かくなる。と同時に、とても申し訳ない気持ちになる。この人達はこんなに思い悩む必要はないのだ。自分のことなど見捨てて、さっさと業務に戻ることだってできるわけで。
自分のことなら大丈夫だと告げようとしたとき、兵士達の後ろの木に人影が2つ程見えた。それを見て俺は硬直してしまった。無理もないだろう。人影の1つは、腰位はある燃えているような真っ赤な髪を後ろで束ねている女性だった。鎧はレナスさんに比べると幾分か軽装だが、素人が一目見て上等なものだとわかるものだった。因みに、ボンッ、キュッ、ボンだ。そのとなりにいるのは、2mはあるような大柄の男だった。ただ、こっちの男に問題があった。何故ならその男はこちらに熱い視線を送る、上半身裸の筋肉モリモリマッチョマンの―――
「変態だあぁぁぁぁ!?」
声を張り上げると、周りの兵士達も俺の視線をたどって後ろを向く。
「っ!!全員敬礼!!」
レナスさんがその人影を見つけた瞬間叫んだ。その言葉にその場にいた者全員が背筋をビシッとさせ、胸に拳をぶつける。まるでどこぞの軍隊のようだ。いや、騎士団とはいえさして変わらないか。
「よい。皆の者楽にするがよい」
そう声ををかけながら、件の人物がこちらに歩いてくる。筋肉モリモリマッチョマンの視線は俺をロックオンしたままだ。尻を押さえたくなるような視線ではないが、よくわからないので警戒はしたままだ。
「そう警戒しなくても大丈夫である。我輩、この帝国騎士団の総隊長を勤める、ゴードン・ウォレス・アレックスというものである。以後お見知りおきを」
そう言って手を差し出してくる。握手かな?と思い俺はその手を握る。某錬金術アニメの少佐みたいだなと思う。まあこっちは短髪ながらもしっかり金色の髪があるのだが。あとは向こうより偉い人みたいだな、総隊長って言ってたし。―――――
「そ、総隊長!?」
「うむ、いい反応である!」
ゴードン総隊長はどうやらビックリした俺にご満悦のようで、ムハハハハ、と笑った。
「確かにいい反応であったな。見ているこちらとしてはおもしろかったぞ」
フッと漏らすように女性は笑う。
「失礼。自己紹介が遅れたな。私はグランマセール帝国第二王女、セシリウス・アレクセイ・ハイルデン・グランマセールだ。よろしくたのむ」
そう言って、セシリウスさんも手を差し出してくる。俺は咄嗟にその手を掴み握手をする。
「ど、どうも。オーヴァンです。こちらこそよろしく・・」
そこまで言って目の前の女性が何と言っていっていたか思い出す。
「だ、第二王女ぉ!!?」
すぐさま手をはなし、膝まつく。
「も、申し訳ありません!!しらなかったとは言え、粗相をしてまいました!」
高貴な女性が手を差し出してきたら、膝まついて手の甲にキスをするというのが常識だったはずだ。俺はその手を握るという粗相をしでかしてしまった。これは結構ヤバいのではないか?そう考えていたが、かえってきたのは全く別のものだった。
「顔をあげてくれオーヴァン殿。貴殿にはこちらが頭を下げるだけではたりない仕打ちをしてしまったのだから」
そうセシリウスさんが言うが、何か酷い仕打ちをされただろうかと首を捻る。
「貴殿をこの世界に呼んだにも関わらず、称号の付与はおろか説明すらせず放り出したという我が姉の恥態だよ」
「あ、そういやそんなんありましたね。魔法の事で頭一杯したわ」
昔からそうなのだ。1つのことに集中し続けると他のことを忘れてしまうのが多々あった。朝起きて、ゲームを起動させて遊んでいたらいつの間にか1日が終わっていたなんてこともよくあるからな。
「貴殿の人生を壊してしまったというのに、その程度なのか?」
セシリウスさんは怪訝な表情をしている。
「いや、流石に恨んじゃいないわけではないんですが。それをしたのはあの第一王女ですし、それ以外を恨むつもりはないですよ。こうして良くしてもらってますしね」
と、肩を竦める感じで俺は答えた。イライラすることより、楽しい事を考えていたほうが絶対いいに決まってる。魔法の有無はそれだけで頭が一杯になるほど楽しいものなのだ。それをセシリウスさん達に伝えると、呆れたような、感心したような表情をしていた。
「ムハハハハ!なんと器がでかい御仁か!我輩感服である!」
ゴードンさんは俺の発言を気に入ったのか背中をバシバシ叩いてくる。
ちょっ!マジ痛い!痛いって!背中に手形が出来てしまうのでは、という威力だった。




