神々
遅れて申し訳ない!!
そしてまた説明会&会話ばっか。
オーヴァンがギルドへと向かい始めた頃の白い世界。
“…………本当に、これでよかったのでしょうか?”
イリアがそう呟く。それに答えるのは沈痛な顔をしたイデアだった。
「よかったのですよ……これで」
“ですが……”
「言えば、オーヴァンさんは私達を助ける為に動くでしょう。私達の為に怒り、自分の命を省みず、またあのスキルを入手して。イリア、それはあなたも望んだ事ではないでしょう?」
“…はい”
「それに、私は、もうあんなオーヴァンさんは見たくないです。心も体もあんなにボロボロになって……レストちゃんがいなかったら本当に死んでいたでしょう………。いえ、死ぬだけならまだましです。あのスキルは魂すら変容させます。もしそうなってしまったら二度戻ることはない。あの瞬間、何があったかはわかりませんが、オーヴァンさんが元に戻ったのは行幸でした」
イデアは今にも泣きそうな面持ちで手を握る。
「……私も、レストちゃんやあの子達と同じように、オーヴァンさんのあの笑顔が好きなんです。無邪気で、朗らかで、暖かい、あの笑顔が。それが失われるのは、やっぱり嫌なんです」
この世界に呼んだ時のオーヴァンの姿を思う。血涙まで流し、自分の全てを代償にしてまで闘うあの姿を。
その姿を思いだし、イデアの握りしめた拳の上にポタポタと涙が落ちる。
「これは私の我が儘。例え、そのせいで私達が滅ぶ事になっても、オーヴァンさんには最後まで悔いのない、笑顔でいてほしいのです」
「イデア様……」
「大丈夫ですよレストちゃん。ごめんなさいね心配させてしまったようで」
レストはそんなイデアを心配に思うが、イデアは直ぐに涙を拭き、いつもと変わらない慈母のような微笑みを浮かべた。それが無理して作られているものだとは誰が見てもあきらかだった。
「うっわ。なにどうしたの?なにこの空気?おっも!重力よりおっも!!」
「っ!?誰だ貴様!!一体どうやってここに侵入した!!」
そんな場の空気をぶち壊すような、少年のような軽い声色が響く。突然現れた青みがかった緑色の髪をした少年に、レストは牙を見せて威嚇する。
が、直ぐ様イデアの手でそれが制される。
「安心してくださいレストちゃん。この方は、オーヴァンさんが元々いた地球というところの神様で、アース様といいます。私の先輩のような方です」
「おやおや?これは見目麗しい仔犬ちゃんがいるじゃないか?前まではいなかったのにどうしたの?」
「こいっ!?」
仔犬と称されてレストはまたしても牙を見せて威嚇するが、アースにはどこ吹く風といった感じで全く歯牙にすらかけていなかった。
「まあ、仔犬ちゃんで遊ぶのはまた今度にして。どうしたの?なにかあったの?こんな風に重い空気なんて醸し出しちゃって?」
“アース様、実は───”
事の起こりを映像を交えてアースに説明する。因みに、その映像というのはアースがオーヴァンの行動が気になるからという名目でイリアに録画を命じていたものだった。見た目が薄型の大型テレビなのはご愛嬌である。
“──こういうことがあったのです。個体名オーヴァンは、私達の想像を遥かに超え、理喰らいを倒してみせました。代償は、大きかったようですが”
「………………………………………………」
「?………………アース様?」
映像を見たアースは終始無言で、考えるように顎に手を当てていて、イデアの呼び掛けにもぴくりとも反応を示さなかった。
“どうかされましたかアース様?”
イリアも堪らず声をかけるも、アースはやっぱり反応を示さなかった。
だが、そのあと弾かれたように顔をあげ、映像を巻き戻し始め、オーヴァンが世界に呼び出される瞬間まで戻した。
「…………やっぱりあり得ないよねこれ」
アースは真剣な表情でオーヴァンが血涙を流しながら鎖を引きちぎる瞬間を目にし呟く。
「確かにあり得ない話だな。ただの人間であるはずのオーヴァンがイデア様が造り出した物を砕くなど」
「いや、そこじゃないよ仔犬ちゃん。あり得ないのはそこじゃない」
「なに?」
アースは真剣な表情のままレストに返す。仔犬と呼ばれて苛立たしさは確かにあるが、それをうやむやにするほどアースの表情は真剣だった。
「ボクがあり得ないと言ったのは、オーヴァンちゃんが人の身で“この場所で涙を流している”ことだよ。みんなは、その後の非常識な出来事のせいで意識が別に向いてるかもだけど」
「あっ!?」
イデアが思い出したように驚く。イデア自信その時は確かに涙を流すオーヴァンを不思議に思ったが、その後の闘いや死に体のオーヴァンを見て忘れてしまっていたのだ。
「この世界は、ボク達神々の世界だ。それに準ずる者でないかぎり存在することは出来ない。人の身の場合、呼ばれれば来れるだろうけど、それは精神体であって本物の肉体じゃない。だから、人の身から排出されるものはでないはずだ。なのに、オーヴァンちゃんはこの世界で涙を流した。これの意味する所は………」
“個体名オーヴァンが現人神である”
「そうだ。でも、オーヴァンちゃんはまだ現人神の域に達してはいないよね?」
“その、はずです”
「はい。オーヴァンさんは現人神ではありません。私の力を授けたとはいえオーヴァンさんはまだまだ弱い。神格を得るような事もしていませんし、何よりオーヴァンさんはこの世界に来て2ヶ月程しか経っていないのですよ?」
「そうなんだよねぇ……」
うーんと三者三様に考え込む。そんな中、レストがボソリと呟く。
「元の……地球であったか?そこで現人神であった可能性はないのか?」
「はは、それこそあり得ないよ。オーヴァンちゃんには悪いけど、この世界に送ったのはボクの世界でいなくなっても後世になんの影響も及ぼさないという条件付だったからね。現人神なんて後世に多大に影響を与えるような存在だから条件からはずれ………」
そこまでアースが言い止まる。
「どうしましたアース様?」
「………そんなことあり得るの?でもまさか、いやそんな……でも、それが一番確率高いかな?だとしたら………」
アースは映像を早送りし、オーヴァンが最後に禍津乃力を使おうとする場所までとばす。そして、オーヴァンが吹き飛ぶ瞬間で一時停止し、注意深く観察し始める。
暫くするとはっとしたようにポケットに手を突っ込み、A4紙程のサイズのタブレットを取りだしてヒュンヒュンと指を動かし操作し始める。数秒間そうやって操作した後、ピタリと手を止め何かの文章を読んでいた。
「…………ははっ、ハハハハハハハハハ!クッアーハッハッハッハ!!!そうかそうか!!そういうことか!!」
暫くして、アースは突然笑い声をあげた。喜色満面といった感じで、何とも楽しそうに笑っていた。突然笑い始めたアースに周りはポカンと呆けていた。
「ハハハハハハ!!!スゴい!!スゴいやオーヴァンちゃん!!このボクに!手放したのが失敗だったなんて思わせるなんて!!いやでも、手放したからこんなに面白いのかな?まあどちらにせよ………プププ……あーお腹痛い……ほんと、いつか笑い殺されるんじゃないかな」
“………アース様?一体どうなさったのですか?”
「あ?ああ、ごめんごめん。ボクだけわかってても仕方ないよね。教えてあげるよどうしてボクが笑ったのか」
アースは口角をつり上げながら何とも愉快そうに、楽しそうに話始める。
「実はね仔犬ちゃんの言った通りなんだよ。オーヴァンちゃんはボクのところで現人神だったんだよ」
「えっ!?で、でも!私の前に現れたオーヴァンさんにそんな力は感じませんでしたよ!?それに、アース様もいま現人神なら条件からはずれるとおっしゃっていたのでは………」
「だから言ってるじゃん。現人神だったって」
“だったとは?”
「言葉通りだよ。オーヴァンちゃんはボクの世界に存在する神の一柱にその存在を認められ、現人神となっていたのさ!でも、でもでも!プッククク………でも、その存在を認めた神そのものがいなくなってしまったんだよ。可哀想だけど信仰が無くなっちゃったんだろうね。ボクの世界では信仰さえあれば誰だろうが、何だろうが!神様になる事が出来るからね。特に日本の節操の無さはボクもビックリするくらいだけど。
っと、話がずれたね。まあ、今言った通りオーヴァンちゃんを認めた神は信仰が無くなり存在が消え失せ、オーヴァンちゃんに与えていた加護も無くなっちゃった。それでオーヴァンちゃんは元のただの人に元通り、にはならなくてね」
アースはクククッと笑い肩を震わせる。
「加護を与えた神の力が弱すぎた事と、オーヴァンちゃんの生来の人柄の良さのせいで、かなり上手いこと神の力が馴染んじゃったみたいでね。魂の器が人間じゃあり得ないくらい大きくなっちゃったのさ。そして、加護が消えても馴染み広がってしまった器は小さくなることもなく、かといって神の力が宿ることもなかった。だから気づけなかったんだよボク達全員。
……クククッ。そ、そして、プッククク……大きな器があって、他者を丸々受け入れるような度量が、クククッ……仔犬ちゃんの力との完全融合を果たしたというわけさ。しかも、融合なせいで、クククッ、器は更に広がったよ!プッククククッアッーハッハッハッハ!!仔犬ちゃんも結構な力があったみたいだしさ!!オーヴァンちゃんの器!倍近く広がってんの!!クッアッーハッハッハッハ!!!今のオーヴァンちゃんになら、一体どれだけの力が入れられるんだろうね!!もしかしたら、神にだってなれるかもよ!!ただの人間が!!特殊な生まれでもない凡人が!!!どこにでも居るようなただ人のいいだけの男が!!!神に!!!プックククックッアッーハッハッハッハーハッハッハッハッ!!!」
耐えられなくなったのかアースは腹を抱え転げ回る。アースの表情は新しい玩具を与えられた子供のようにきらびやかだった。
「っ!?それほど大きな器を持っているなら、私の力をオーヴァンさんに!!」
「あ、ああ、そ、それは、やめた、ほうがクククッ、い、いいよ」
今のオーヴァンになら強力な加護を、それこそオーヴァンが望まなかった所謂チートというのもバカバカしくなるような程強力な力を与えられるとわかったイデアは、またオーヴァンが自分の身を犠牲にしてボロボロにならないように力を与えようとするが、それは腹を抱えピクピクと動くアースによって阻まれた。
「な、なぜとめるんですかアース様!!アース様も見たでしょう!!あのボロボロのオーヴァンさんを!!私は!私は!!私は嫌です!!あんな人の良い人が!!私達がしてしまった仕打ちすらも笑って許すようなオーヴァンさんが!!私の世界で理不尽に死んでしまうのなんて!!それを、それを!!どうして止めるのですか!!」
ボロボロと大粒の涙を溢しながらアースに食って掛かるイデア。イデアは泣きながらもアースを責める目を向けていた。
その目を見て、アースは大きく息を吐き、笑いで乱れた呼吸を整える。
「なぜとめるかって?そんなことをされたらツマラナイじゃないか。異世界の神様から貰った力で無双?今日日そんな話はありふれてるよ。神様の力を与えられた勇者の冒険譚は確かに王道だけどさ」
「そ、そんな理由で!!」
「それに、これはオーヴァンちゃんのためでもあるよ?」
「え?」
「どういうことだ?」
アースの言っている事がよくわからないためか、ポカンとする。
「理喰らいに勝てたのは、オーヴァンちゃんがオーヴァンちゃんだからだよ。この世界の者じゃないのに、この世界の力を使って、自分の意志の強さでスキルを強化し、最弱と決め付けられた属性を使いこなし強力な属性へと昇華させた。どこまでも理から外れた存在。理喰らいが食べるべき理にオーヴァンちゃんが当てはまらない。だから勝てたんだ。それなのにイデアちゃんが力を与えたら、オーヴァンちゃんは確かに強くなるけど理の枠組みに当てはまってしまう。そうなると、もしまた理喰らいに会った時に勝てなくなっちゃうよ?そしたら今度は理不尽に殺されちゃうだろうね!」
「っ!?」
アースの言っていることが理解できてしまったイデアは強く歯噛みした。
確かに今イデアの力を授ければオーヴァンの力はとてつもない程強くなれるだろう。だが、それは当たり前。神様の力を授かれば強くなるというのは常道であり、理である。そして、それは理喰らいを相手にする場合致命的な弱点となる。イデアはその事が言われて理解できてしまった。してしまった。そうなれば力を授けることは躊躇われる。敵は理喰らいだけではないが、最も注意すべき相手は理喰らいなのだから。
「プッククククッアッーハッハッハッハ!!!オーヴァンちゃん!!オーヴァンちゃんはイデアちゃんの世界でどう生きるんだい?ボクはそれが楽しみで楽しみでしょうがないよ!!ああ、君を手放したのは失敗だったけど、最高に正解だよ!!クッアッーハッハッハッハ!!!」
白い世界に、アースの笑い声が高らかに響くのだった。
この場面だけ見るとアースがすごい悪い神様に見えて仕方ない。
次辺りからまた|不幸な出来事(オーヴァン節)が炸裂したいと思います。




