第零話
彼らは旅人だった。いや、破壊者だったかもしれない。
始まりの地を後にしてから、彼らの進む世界はどれも同じような滅びを迎えた。
しかし彼らは、一つの世界が終わりを迎えるとき、若く逞しい子供達を外の世界に送り出す。年老いた者達は子に希望託して、世界と滅びを共にする。気の遠くなるような時の中で、血に刻まれた教えを繰り返していた。
新しい世界には多くの場合、守護者がいた。世界が豊かであればあるほど、守護者は強力で、彼らには知りえない力さえ持っていた。そして、時には世界さえ、彼らを拒絶する。
それでも、彼らは繰り返すことしか出来ない。
終わりのない旅に、疲れることさえ知らず、ただ生きる為に繰り返される行為。
彼らは自らを変質させ、時には真正面から守護者を叩きのめし、時には守護者を欺いて隠れるように生きた。
世界には幾つもの種類がある。
あまり豊かではないものの、貧弱な守護者しかいない世界。
夢のような豊かさにもかかわらず、彼らには到底、太刀打ちできない守護者がいる世界。
そして、銀の守護者に守られた、楽園。
守護者が強力であればあるほど、その世界は豊かで、長い時間に渡って彼らの繁栄を約束する。
これまでの長い時の中で、極めて稀にではあるが、強力な守護者を倒した父祖達がいた。しかし、銀の守護者が支配する世界だけは手が出せなかった。
銀の守護者を見つけたら、死に物狂いでその世界から退去する。それが、彼らの血に刻まれた教えの一つだった。
しかし、今、若く精強な彼らが訪れた新たな世界には銀の守護者がいた。
常であれば、銀の守護者が彼らを発見すれば、直ちに攻撃し始める。しかし、彼らの訪れに気づいたはずの銀の守護者は、彼らに攻撃をしてこなかった。
何故なら、銀の守護者は彼らの相手をする暇がなかったからだ。
そして、彼らにもそれが何故か分かった。この楽園は、まさに滅びを迎えようとしていた。
彼らのうち、多くの仲間が楽園の滅びを悟って、その地を後にした。しかし、数少ない者達は、避けようのない滅びの中、楽園に留まることを選んだ。
銀の守護者は楽園の滅びを抑える事で手が一杯で、留まった彼らの相手をすることはなかった。
そして、僅かな滅びまでの間、奇妙な共生関係が生まれた。
彼らは生きる上で世界を喰らう。これは、彼らの持って生まれた性質であり、変えることのできない根本原理でもあった。彼らの行いは世界の滅びを早める。それ故、守護者達は世界を守る為に彼らを滅ぼす。
しかし、今、かつてありえなかった彼らと銀の守護者との共生関係は驚くべき結果を迎えた。
彼らは絶えず自らを変質させる。守護者を倒すために、守護者を欺くため、守護者を……。
これまでの彼らの変質は、守護者に対応することでしかなかった。そして、本来の守護者は彼らのような侵入者と戦うことしか出来ない。しかし、銀の守護者はいま滅びを迎える世界を、滅びを食い止めるために力を行使することができた。その力の在りようは、彼らに変革を促すのに十分だった。
そして、彼らのうち、新たに生まれた子供のなかに、不思議な力を持つ者が現れた。銀の守護者と番を作れる者たちが、である。
彼らと銀の守護者による番。いや、同一化、融合とでも言えば良いだろうか。どちらから、手を差し伸べたのかは分からないが、楽園の滅びに生じた奇跡とでも言えば良いのだろうか。
こうして生まれた変わった新たな彼らは、銀の守護者の強い力と知恵、彼ら本来の変質の力を以って楽園の崩壊に立ち向かった。
多くの仲間が生まれ、多くの仲間がその身を楽園に捧げ、世界を、楽園を、自ら修復していった。
結果として、楽園の滅びは避けられた。ただし代償に、彼らは世界を離れる力を失ってしまった。そのため、彼らは二度と再びこのような滅びが訪れないことを、そして、この楽園が永遠に続くことを願った。