表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
美しい鼻血  作者: 子々
13/13

エピローグ


 男の背後に人の気配がした。男はゆっくりと振り返り、自身の背後に立つ人物を見た。男はしばらく黙した後、思い出したように目を大きく見開いた。


「洋平……?」

「よ、久しぶり」


 洋平と呼ばれた男は、金髪で、耳には数個のピアスがしてあった。

 陽気に笑みを浮かべる洋平を男は気まずそうに見ながら、久しぶり、とぼそりと呟いた。


「いつ帰って来たんだ?」

「ついさっき……」

 洋平は、そうかそうか、と怪しく微笑を浮かべながら、男に近づき肩を軽く叩いた。

「今から飲みに行かないか? 昔話でもしようぜ」

「いや、止しておくよ。すぐにまた違うところへ行くから」


 男はそう呟いて、慌しい足取りでその場を去ろうとした。しかし、洋平に腕を掴まれ、足を進めることが出来なかった。

「お前、今十九か?」

「……そうだけど」

「いつ二十歳になる?」

「今月の二十一日に」

「そうか、そうなると来週でお前も大人の仲間入りってわけか」


 洋平は頭を掻きながら、口角を吊り上げて言った。男の顔色が徐々に青白く変色しだし、額にじんわりと汗が滲み出す。

「覚えているか? 六年前の事件。今この付近でまた発生してるんだぜ? それも、あのときと同じで大人ばかりを狙った無差別殺人事件がさ」


 男には人一倍、その事件には覚えがあった。

 洋平がその殺人鬼を「正義」と讃えたこと。担任の先生が被害に合い、殺されてしまったこと。そして、その犯人の正体も。

 さき程まで緊迫していた男だったが、ふと表情を変えた。今にも舌打ちをして洋平に殴りかかりそうな剣幕になり、それでいて瞳に光りが宿っていなかった。男の無造作に伸びた髪を突風が揺さぶり、乾いた土から砂埃が舞い上がった。

 洋平はポケットに入れていた両手を出した。


「俺は六年前からずっと考えていたんだ。先生は一体誰を見たのかって……。それがずっと頭の中に残っててさ、あのときは単なる噂だと思っていたけど、もしかしたら本当に先生は犯人を見たんじゃないかって。それも、先生が見た犯人は……自分のうけ持っていたクラスの生徒……」

 男は俯いたまま、静かに洋平の話を聞いていた。土で汚れた掌を指先でなぞりながら、弄くっていた。

「少年リッパーって、お前なんだろ?」

 ゆっくりと頭を上げた男は、不適に笑みを浮かべ、声をあげて笑いだした。男は、汚れた髪の毛をバサバサ掻き、それがどうした、と呟き、ポケットに手を突っ込んだ。

 洋平は唇を噛みしめ、眉間に皺をいくつも作った。


「洋平は、いつ大人になるの?」

「…………今月だ」

 洋平の額を汗が一筋伝う。

 洋平の手に握られた小型ナイフに、彼の姿が反射し映し出される。惨めなほど、動揺した表情を引きつらせていた。

「この辺で最近起きている事件……。洋平が犯人なの? 六年前の僕に憧れて、洋平は僕になりたがっているんだね。可哀想に」


 洋平の手は小刻みに震え始め、男はそれを冷ややかに見つめた。そして、ポケットから手を出す。そこには六年もの間、何十人もの大人の血を吸い続けたナイフが握られていた。

「洋平、君は見落としていたようだけど、僕はナイフを二本所持しているんだよ。僕がナイフを埋めたのを見て、声を掛けたんだろうけど、残念だったね」

 先に大人になる方が、犠牲になるっていうのはどう? そう言って、男はにんまりと口角を吊り上げて笑んだ。洋平もそれに同意し、お互い握りしめたナイフを構えた。


 ひとつの男の死体がある。

 それはこれでもかというほど切り込まれ、元々公園だった土地の、土管があった場所に棄てられていた。

 どこから生まれた喜びなのか、男の表情は晴れやかだった。

 その死体はまるで、全ての悲しみから抜け出せたように、幸せそうに笑みを浮かべていたそうだ。



ここまで読んでくださってありがとうございました。これで「美しい鼻血」は終わりです(^^)


次回はもって明るいお話を書きたいです。



2007.10.23. 子々

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ