プロローグ
原稿用紙に書いたものなので、読み難い箇所があると思いますが、予めご了承ください。
過激な表現はありませんが、血とかは出ますのでご注意ください。
ある昼下がり、タクシーに乗り込んだ青年はみすぼらしい身なりをしていた。不精髭を生やし、ジャケットの下に着ている白シャツは泥で汚れていた。タクシーの運転手はバックミラー越しに男を一瞥して、ぼそりと呟かれた目的地へ向けて車を走らせた。
走行中、男はタクシー内に提示された注意書きから目を離さなかった。見かねた運転手が、どこから来たのかを尋ねると、男は虚ろな目をしたまま、戻ってきたんだ、と微笑を浮かべて呟いた。
「一人かい?」
「そう見えますか……」
「見えるも何も、現にお客さんは一人だ」
笑う運転手とは裏腹に、男はぽっかりと空いた隣の座席を物寂しげに見つめ、バックミラー越しに運転手へと目線を移した。
「この事件って、どういったものなんですか?」
男は助手席の背もたれから垂れ下がっている紙を指さして尋ねた。運転手は、その通りだよ、と答え、しばらく黙した。
運転手が口を開いたのは、それから六分後だった。
「最近この辺りで無差別に人が切られる事件が起こっていてなぁ……」
男の表情が少しばかり険しくなった。
「数年前に起こった事件、兄ちゃん知ってっか? 少年リッパーって殺人鬼の。あれが復活したんだとよ」
男は小さく舌打ちをした。
男が降りた先は荒地だった。
腐りかけた雑草が生い茂り、その箇所だけが別空間のように殺風景に存在していた。男は倒れて腐ってしまっている看板を踏みつけて、囲いを乗り越え、空き地へと入った。
風が男の前髪を躍らせる。黄昏の眼差しをある一点に向けながら、男はしばらく泣いていた。そして、顔が腐るほど泣いた後、ポケットから一つのナイフを取り出し、固く乾燥した土の中へ埋めた。そしてまた、男は一筋の涙を頬に伝わせた。