Part2 月の刻印と伝承
今回は、あらすじに書いてある『月の刻印』と、月宮玲音の境遇について。
では、どうぞ!
3時間ほど物色を続けて、わかったこと。
まず、この人……いや、今の私の名前は、月宮 玲音。歳は、元の私と同じ17歳らしい。
そして、この街。
『ピットソール』と呼ばれる街らしい。意味は、穴の底。
確かにちょうどいい名前だろう。
この街は、周りが一面草原で、肉食動物も多いらしい。だから、容易に入ってこられないように。もし入ってきても、階段は一つしかないから、すぐにわかる。
あとは麻酔弾でドン、らしい。
全部自分で調べただけだから、『らしい』としか言えないけど。
あと、月宮 玲音の両親は莫大な借金を抱えていたらしい。2年前に、玲音一人を残して失踪した。
借金の額は、5000万キール。
キールというのは、この世界の通貨らしい。ちなみに、5000万キールというのは、小さな国なら一つ丸ごと買える金額。
なんでそんな額の借金を抱えていたのかは、わからなかった。
「それより、当面の問題はこれかな…………」
左の袖を、肩まで捲りあげる。
そこには、紫色の、月を模した刻印があった。これは、先程シャワーを浴びたときに見つけたもの。
何なのか気になり、家中を探り回って、ある本を見つけた。
−−−−−−それは、もう500年以上前に書かれた本。
その本には、ある伝承が書かれていた。
『その身に太陽宿す者現れし時、その地は繁栄に導かれるであろう。
その身に月宿す者現れし時、その地は災厄に見舞われるであろう』
その身に月宿す者。
それはもしかして、この身体…………月宮 玲音の事じゃないか?
災厄に見舞われる…………?
「そんな、人一人にそんな力あるわけ…………」
事実、私がこの世界に来る前から、月宮 玲音はこの街に住んでいる。
なら、すでにこの街は災厄に見舞われていることだろう。
「今は、気にしないようにしよう。あとの問題は、借金か…………」
今日はもう遅い。
日の光が届きづらいからか、外はすでに暗くなっていた。
明日からは、職探しかな。
寝ようとして、ベッドに潜り込んだ、その時。
ドンドンドン!
扉が、荒々しく叩かれた。
これは、まさか…………
「月宮! いるんだろ? 出てこい!」
借金取りと思われる、ドスのきいた声が聞こえてくる。
しかし、鍵がついていない扉なのに、入ってこないとは、中々律儀だな…………
仕方ない。
先延ばしにするわけにはいかない問題だし、なんとか交渉してみよう。
なにぶん、この世界に来たばかりで、お金など持ち合わせていないのだ。
恐々と扉を開ける。
そこに立っていたのは、身長が190センチはありそうな大男2人と、その2人の上司なのか、黒スーツを来た女性だった。
「やっと出てきやがったか。さっさと金返せや!」
「す、すみません。今、持ち合わせがないもので…………」
大男の片方に迫られ、たじろぎながら言うと、もう片方の大男に睨まれた。
「あぁ? お前、2年前からずっとそうじゃねぇか! 嘗めてんのかコラ!」
「待ちな」
私が怯えていると、大男を止めたのは意外にも後ろに立っていた女性だった。
踵をコツコツと鳴らしながら、私の前まで歩いてくると、私の顔を覗き込む。
「…………アンタ、本当に月宮玲音かい?」
「!?」
「昨日までは、アイツはもっと挑発的な表情をしていたけど…………怯えきってるじゃないか」
「な、何を言ってるんですか? 私は月宮玲音、本人ですよ?」
「ふぅん………………」
疑うような目。
借金取りなんかをやってると、嘘にも敏感になったりするのだろうか。
「まあ良いや。コッチは金さえ返してもらえれば良いんだからね」
「すみません…………」
「てなわけで、月宮。アンタ、私と賭けをしないかい?」
「賭け………………ですか?」
突然何を言い出すんだろう。
そんなことをして、この女性に何の得があるのだろうか。
「そうさ。私は1ヶ月の間、アンタのことを見逃す。その1ヶ月の間に、職を見つけな。見つけられなかったら、アンタには、私の下で働いてもらう」
何を企んでいるかはわからない。
けど、今はこの賭けに乗るしかなさそうだ。
「…………わかりました。受けます。その賭け」
女性の顔を見て言うと、女性は唇の端を吊り上げた。
「良いね。1ヶ月後の今日、また来るよ。それまでに職を見つけることだ」
「はい」
「ホラ、行くよアンタら」
大男2人は舌打ちをして、女性の後を追う。
一応、助かったのかな?
「こりゃ、気合い入れて職探さなきゃ…………」
この世界の知識がない状態なのが不安だけど、なんとかするしかない。
とりあえず明日に向けて、休むことにしよう。
………………さっき凄く冷や汗かいたから、もう一回シャワー浴びて寝よう。
借金ある割には、ガスも水道も電気も通ってたのはびっくりしたけど、あるに越したことはないでしょう。
私の頭の中に、『月の刻印』の事はもう、消えてしまっていた。