Part1 見知らぬ身体と見知らぬ世界
アリアンローズに応募するために書きはじめた小説です。
女主人公を書くのは初めてなので、勝手がよくわかりませんが、一生懸命書いていきますので、よろしくお願いします!
目を覚ますと、見知らぬ草原に寝転んでいた。
明らかに日本ではない、地平線まで続く緑。
建物の一つも見えない、完全に自然のままの草原だ。
「ここ…………どこ?」
周りを見渡すが、人っ子一人いない。
ここがどこか聞くことも、出来なさそうだ。
「そうだ、携帯!」
脇に転がっていた自分の鞄を開け、中からピンクのスマートフォンを取り出す。
どこか……とりあえず親に連絡を取ろうとして、画面に映った自分の姿に驚愕した。
黒くて短かったはずの髪は、日の光を浴びて銀に輝く長髪になっていて、同じく黒かった瞳は水色に変化している。
いつもつけていた地味な黒ぶち眼鏡は無くなっていた。
しかし、視界がぼやけたりしないところを考えると、視力が回復しているのだろうか?
…………あと、胸が若干大きくなってる。
これはちょっと嬉しかったり。
なんて思ってみたけど、そんなことを考えている余裕など、もちろんない。
スマートフォンの電源を入れ、電話を掛けようとするが…………
「圏外、か。そりゃそうだよね、こんな何もない草原じゃ」
唯一と言っても過言ではなかった希望が断たれ、その場にへたりこむ。
と、そこへ誰かの足音が聞こえてきた。
草を踏み締める音が、徐々に近づいてきた。
「アンタ、こんなとこにいたのかい。仕事もしないで…………」
近づいてきていたのは、恰幅の良いおばさんだった。
歳は40〜50くらいか?
「えっと、私、ですか?」
「アンタ以外に誰がいるのさ。それより、早くあいつらなんとかしないと。またアンタの家に来てたよ、借金取り」
借金取り?
へぇ……なるほど。私の家に借金取りが。
「借金取り!?」
「今更何を言ってるんだい。もう何年も前からじゃないか。酷い話だけどねぇ、いまどき子供に借金押し付けて逃げちまう親なんてさ」
状況がよく理解出来ない。
え、何?
いつの間にか知らない場所にいて、なんか見た目が変わってて、知らないおばさんに話し掛けられて、借金取りに追われてる?
言葉にすると、ますます信じ難い。
「とりあえず家に戻りな。借金取りの連中はもう帰ったみたいだからね」
「………………」
「どうかしたのかい?」
いや、どうもこうも………………
「家まで、送ってもらって良いですか?」
場所わかんないんだもん。
「そうさねぇ……まあ、またいつ借金取りが来るかもわからないと、怖いか。わかったよ。家まで一緒に行ってあげる」
「ありがとうございます!」
よし、これでなんとか、当面の寝泊まりには困らないだろう。
借金取りのことは気になるけど、状況の確認は家に着いてからでも遅くないだろうし。
スタスタと歩きはじめたおばさんの後ろについて歩く。
それにしても、こんな何もない草原なのに、どこから来たんだろう…………
改めて、歩いている方向を見てみるが、そこには本当に何もない。
山のようなものも見当たらないから、何かの陰になっているようなこともないと思うけど……
5分ほど歩いているが、未だに景色はほとんど変わらない。
時間の感覚が狂いそうなくらいに。
「そら、街が見えてきたよ」
「え?」
おかしい。景色は全然変わってないのに、街が見えてきた?
街どころか、建物の一つも見つからない。
少し先に、大きな穴があるくらい………………穴?
まさか…………
穴の側まで行って、自分の想像が正しかったことが分かった。
「嘘……本当に……?」
何百メートルも下に続いている穴。
その底には、いくつもの建物が建っていた。
そこにあったのは、紛れも無く、街だった。
「何、信じられない物を見たみたいな顔してんだい。ずっと暮らしてきた街じゃないか」
「あ…………そうですね、ハハハハ……」
「変な子だねぇ。ほら、行くよ」
「はい」
穴の壁には、螺旋階段のようなものが作られていた。
けど、この階段をあそこまで降りていくのか……大変だな。
思った通り、階段を降りきったところで私は膝に手を当てて肩で息をしていた。
下りでこれって、上りを想像したくない…………
「大丈夫かい? 体力落ちたね。いつも喜んで上り下りしてたのに」
うぇ!?
この身体の人、そんなことしてたの!?
どんなドM?
「ほら、早く行くよ。ただでさえこの街は夜が長いんだ。日のあるうちに帰った方がいい」
そっか、そういえばそうだ。
こんな穴の底にあるんだから、日の光はほとんど入ってこないんだ。
再び歩きはじめたおばさんについていく。
周りを見渡しながら歩いてみるが、どうやら商店街のような場所のようだ。
八百屋や、雑貨屋、飲食店など、様々なお店が並んでいる。
「(結構賑わってる街なんだ……こんな穴の底なのに)」
意外だな。街の外から物を持ってくるだけでも、重労働だろうに。
けど、働いている人達の表情を見ていると、そんな事は些細なことなんだろうな、と思った。
皆笑顔で、疲れたような表情は一つも見当たらない。
辛さより、ここでの生活の楽しさのほうが勝っている、そういいたげな雰囲気だ。
「何、ボーっとしてんだい。着いたよ」
前方から声をかけられ、そちらに視線をもっていく。
小さなレンガ造りの家の前に、おばさんが立っていた。
あれが、私の家………………
「じゃ、あたしは帰るよ。アンタも、早いとこ仕事見つけなよ」
手を振りながら、隣の家に姿を消すおばさん。
お隣りさんだったのか。
「っと、私も入ろ」
ドアを引いて、中に入る。鍵がかかっていなかったのだが、不用心すぎないか?
と思ったが、そもそも鍵自体ついていなかった。
世界観の違いってやつなのかな…………
とりあえずは、まず情報収集だ。
ここがどこなのか、この家の持ち主だったこの身体の少女は、どんな境遇だったのか。
この歳で借金取りに追われているくらいだ。何かあったと考えるのが自然だ。
そういえばさっきのおばさん、会ったときに「子供に借金押し付けて逃げちまう親」とか言ってたっけ。
ということは、両親に逃げられたのか。
「ちょっと気が引けるけど、今は私の家だもんね」
私は、家の中を物色し始めた…………