危険なエンブレム
新たに選択された道は、対面走行が出来るほどの道幅がなく、道のところどころに対向車とすれ違っても通れるように待避スペースが設けてあった。
私のように運転技術が未熟な者からしたら、出来る事なら通りたくない抜け道である。
でも、ハンドルを握ると人格が変わる豹変ドライバーのナオちゃんは違う。
道が困難であればあるほど、彼女は燃える。
それは運転技術が問われればこそのアピールポイントだと考えているのに違いないからだ。
「この抜け道、結構穴場なんだよね。道が空いててナオちゃん正解だよ!」
「でしょう。対向車が来たら厄介だから敬遠するドライバー多いからね。まぁ、来たら来たで臨機応変に対応したらいいだけなのに、下手くそはそれが出来ないからこの道を走りたがらないんだよ」
二人の会話を聞いていると、やはりナオちゃんは私の予想通りのドライバーだ。
上から目線の物言いといい、自分の運転に対して過度の自信が窺える。私なんかだと対向車が来ただけでドキドキしてしまいハンドルに力が入ってしまうところだが、ナオちゃんは言うだけの事はあって対向車が来ても動じることも無く見事なまでの状況判断で退避ゾーンに入る時は入り、進むべき状況の時は一気に対向車の横を抜けていく。
「うーん。意外と対向車多いな、今日は運が悪いかな?」
めったに対向車とすれちがわない抜け道で二台目の対向車をやり過ごした時にナオちゃんは独り言のようにつぶやいた。
つぶやき一つにも余裕が感じられて癪に障るが実際に運転が上手いから認めざる得ない。
「次のカーブ曲がって、道なりに進んだら国道に出るから、もうちょっとだね。国道出たら電気屋目の前だから……。やっぱりこの道早いわ!」
妻がゴール直前になって感嘆の声をあげる中、車は抜け道の最終コーナーを曲がった。曲がった先は両脇が田んぼで見通しが良いほぼ直線の道だった。
遠くの視界の先には国道らしき大通りが見て取れる。一見するとさっきまでの住宅密集地域の道よりひらけていて走りやすそうに思えたが、道幅は相変わらず狭く、しかも舗装されていないあぜ道ときたものだから、とても国道に直結してるようには思えない悪路で、それゆえに抜け道になってるのだと説明してくれてるような立地だった。
あとは悪路だけに対向車がこないことを祈るばかりなのだが、こういう時に限って思惑通りにいかないのが世の中ってものなのだ。「チェっ」と本日二回目のナオちゃんの舌打ちが聞こえたと思ったら、遠くから直進してくる対向車の姿が見えた。
対向車は退避ゾーンで止まる気などさらさらないようで完全にスルーして向かってくる。
どんどんと、こちらに近づいてくる対向車の姿が大きくなるにつれ、私はゾッとした。
それは、このような悪路を走るには似つかわしくない大型の高級外車だったからだ。
しかも、ただの外車ではなくボンネットにつけられたスリー・ポインテッド・スターのエンブレムが光り輝いていたものだから嫌な汗が出る。
つまり、このような車に乗れる人は金持ちか、怖くて言えない職業の人かの二者に限りなくかぎられる。
そして、悪路を退避ゾーンなど意にも介さずに堂々と走ってるところを考えると後者の人が乗ってる可能性が限りなく高く、万が一にも当たったりしたものなら血を見ることになるのではないかと嫌な予感がするのだった。
その嫌な汗と予感を裏打ちするかのように高級外車はナオちゃんの車を「どけどけ」と言わんばかりにクラクションを鳴らして威嚇しながら迫ってきたのだった。
「ちょー、何こいつ! どうしろって言うのよ」
このような状況になっても、ナオちゃんは臆することなく逆に怒ってクラクションを鳴り返した。
私だったらビビッてしまい邪魔くさくてもバックしながら遥か後方にある退避ゾーンでやり過ごすのだが、高い運転技術が逆にあだとなり自信過剰になってる豹変ドライバーのナオちゃんは一歩も退く気がないのは言動から十分に伝わってくる。
しかし、このままでは道幅がないのでどちらかが止まらない限り衝突してしまう。どうするのだろう? と思っていたらナオちゃんが止まった。
流石、アラフォー。大人の女性ってもんだ。まだ、理性は失っていないように感じる。でも止まったところで正面衝突は回避できるものの通り抜けることは出来ずに立ち往生してしまう。
ここは、やはりナオちゃんが大人の女性としてバックするのが賢明だと考えるのだが、彼女は止まったままでクラクションを鳴らし続ける。
その行動を見て大人の女性だと一瞬でも思った自分が恥ずかしい。
「それでいいよ。向こうが悪いんだから一歩も引くことないよ!」
ここにきて、妻がナオちゃんにとんでもないエールを送る。
「もし、当たってもこっちは止まってるから大丈夫」
何が大丈夫なんだ。当たったら事故じゃないかよ。
ほんと、血の気の多い妻の発言はむちゃくちゃで火に油を注いでいるとしか思えない。
そんな車中の会話を聞いていたかのように急接近していた対向車が衝突寸前の距離で止まった。
さすがに突っ込んでは来ないだろうと思っていたが、停車してくれてひとまず安心した。
だが、一瞬の安堵感もすぐに吹き飛ぶ。あろうことか、両車がほぼ同時にブレーキをべたふみしながらアクセルをふかして挑発しだしたのだ。
そこに両車の鳴り止まないクラクションが加わり、まさに一触即発の様相を呈していた。
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