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ファブリーズ

 聞き分けがよくなったものの、ぷくっと頬を膨らませて拗ねてますよと言いたげな玲愛の頭をなでていると、家の外から「ブォーン」と低いエンジン音が轟き、軒先のどぶ板を車輪で踏む音がした。どうやらナオちゃんが軽自動車で迎えに来たようだ。三人でナオちゃんが家内に入ってくるのを待っていると、ほどなくして「こんにちわ」とナオちゃんが玄関先に現れた。私の顔を見るなり、少し照れ笑いを浮かべて「せっかくの休みの日なのに付き合わせてすいません。今日はよろしくお願いします」とペコっと頭を下げた。ナオちゃんと合うのは久しぶりだが、いつもながらに腰が低く好感が持てる。これで、もうちょっと色白で目が大きく、くせ毛で頬骨が出てなかったら電気屋に一緒に行くテンションが上がるってものだが、妻の友人に高みを求めても痛い思いをするだけなので、ここは愛想よくして外面のいい亭主を演じるのが賢いってものだ。

「いやぁ、いいんですよ。家電とか好きだし、家でゴロゴロしてても身体がなまるだけですしね」

 嘘である。本当は家でごろ寝するのが大好きだし、電化製品は馬とプロ野球が映るテレビしか興味がない。せっかくの憩いの場を邪魔されて腹立たしい気分でもあるのだ。そういった訳で演技とはいえ心にも無いことを言うと胃がチクチクと痛む。

「貴子から、旦那さんは行きつけの電気屋さんがあって、以前にも子供が欲しがっていたゲーム機を簡単に入手してきた――顔が利くって聞いていたのでお願いしたのですけど、やっぱり家電好きなんですね。頼もしいです」

 ナオちゃんが言った「貴子」ってのは妻の名前である。それと、ゲーム機は電気屋に顔が利くから入手出来たのではなく、早朝から並んで当日三台入荷の中を子供相手に後だしジャンケンで勝利してゲットした代物なのだ。妻には男のプライドと我が子達のヒーローになりたい一心から見栄を張って知り合いがいるように装って言っただけの事だったのだが、実際に電気屋にいる知り合いは、買いもしないマーサージ機にいつまでも居座ってる私の事をよく思ってない店員だけなんて事は死んでも言えない。だからこのように伝えられるとなんともバツが悪い。

「まぁ、こんな玄関先で長話もなんですから、電気屋さんに行きましょうか」

 とにかく、こんな邪魔くさい買い物はとっとと片付けないと、明日の仕事に障るってものである。ここは早く用事をこなすのに限るってもんだ。

 そんな事を思いながら靴を履き始めたら、妻が二階の子供べやにいる息子を呼んだ。

「ちょっと勝貴。下に降りてきて」

 だるそうに二階から勝貴が降りてくると、妻は出掛ける間、玲愛の面倒を見てるようにお願いした。

「分かったけど、今度ゲーム買ってよね」

 と息子は妻に見返りを求めたが、「そういう事はお父さんに頼みなさい」と話をふってきた。

 私は軽く「あぁ、出世払いで買ってやるよ」と答えると、それを聞いていた玲愛が「ちゅっせばらい」って何と妻に聞く。妻はすかさず「買ってもらえない」って事だよ。と言葉の意味を教えずに簡単に言ってのけた。

「えぇ~、だったら玲愛とお菓子買いに行くからお小遣い頂戴よ」

 なかなかに我が息子ながら切り替えが早い。

 感心していると、勝貴は私の目の前に手のひらを差し出すと小遣いをせびってきた。

「ばぁちゃんに頼んだら喜んでくれるから、そっちからもらいなさい」

 と言うと、妻が怖い顔で睨んできたから、仕方なく財布から小銭を渡した。

 勝貴は満足したのか「いってらっしゃい」と言うと、玲愛の手を取って二階に上がっていった。

 子供達とのやり取りも終わってやれやれと思いながら、靴を履くことが出来た。

 妻は太ったのか足がむくんだのか分からないが靴を履くのに悪戦苦闘してたが、私の肩口に手を置いてパンプスに足をねじ込んだ。

 こうしてナオちゃんを玄関先で待たせること数分後に、ようやく出発準備が完了した。

 家の外に出ようとドアノブに手をかけた時、頭の上から霧状のものが降ってきた。

 見ると、妻が楽しそうに「ブヒムヒちゃんは臭いですからね」と靴入れの上に常置きしてるファブリーズを私の身体に直射している。誤解があってはいけないので言っておくが、私は決して体臭が臭いわけではない。飲み会の帰りにニンニク入りのラーメンを食べて帰ったことがあって、次の日に部屋中が酒とニンニクで充満してしまった事を根にもっての行為なのだ。なんでも、妻の話によると昔見たアドベンチャー映画の中でヒロインがインド象に乗るシーンがあって、その中で象に香水をかけていたのからヒントを得てのファブリーズ直射だった。

 私は、たまったものじゃないから、素早く家の外に飛び出した。

「もう、逃げたらダメじゃないのよ」

 後を追うように、妻とナオちゃんが笑いながら外に出てきた。

 外にはメタリックシルバーのいかつい顔をしたナオちゃんのターボー仕様の愛車が止まっていた。


 

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