レイア姫。
はてさて、妻と出掛ける用事なんてあっただろうか?
あの口ぶりからすると事前に話をしているみたいだ。しかし、ふだんから妻の話は「昨日テレビつけっぱなしで寝た」とか「たまには夕飯作ってよ」などの文句が多いから、私は、「はいはい」と、から返事する癖がついてる為、肝心な話があったとしても聞き逃している可能性があった。
そして、いい加減に話を聞いていた事がバレると妻の癇癪スイッチが瞬時に入っていろいろと痛くて厄介な事になるのが常なのだ。だから、ここはやんわりと探りを入れて情報を得るのが得策だと思った。
「分かってるよ。どんな服装で行ったらいいんだよ?」
こういう時は逆に質問するのがいいのだ。
「電気屋に行くだけだから、なんでもいいけど。恥ずかしいからそのジャージだけはやめてよね」
一張羅の愛用ジャージを馬鹿にされたものの、私は妻の返答を聞いて「勝った」と思った。
まさか、一発目の探りで答えが出るという超ラッキーな展開だからだ。しかし、行き先は分かったものの、何故ゆえに電気屋に行くのだろうか? 冷蔵庫も洗濯機も掃除機もボロいながらも動いていて生きている。どうせチラシか何かで見た特売品の蛍光灯とか電池でも買いに行くのだろうと私は思ったので敢えて聞くのはやめておくことにした。
「なぁ、着替えるから服出してくれよ」
「もう、子供じゃないんだし、それぐらい自分でやってよね。服はそこの二段目の引き出しの中に入ってるから……」
そう言うと妻は部屋から出ていった。
私は、ジャージのままでもいいのにと思いながら、引き出しからデニムのシャツを出す。着替えていると。
「その汚いジャージは洗濯機の中に入れておくのよ」
リビングから妻のかなきり声が聞こえてくる。
どうやら、脱いだらそのままにしておく私の習性は熟知しているようだ。
くちゃくちゃに脱ぎ捨てたジャージを洗濯機に放り込むと、私は車のキーを取りに玄関先に向かった。
その時、リビングから妻が慌てて飛び出してきた。
「ちょ、あんた何で車のキーがいるのよ!」
そのいいように、なんか嫌な予感がしたものの別に間違った事をしたつもりはない。
「車で行くのだろう。まさか、わざわざバスに乗って行くのか?」
「違うわよ! 今日はナオちゃんが車で迎えに来るのよ。だから早く支度してと言ったのよ。昨日から何度も言ってたのに、ほんとにあんたは人の話を聞かない人ね! このいい加減男」
くそ、思わぬところで墓穴をほってしまった。
しかし、ここまで言われる筋合いはない。が、しかし言い返したところで100倍になって返ってきそうなので悔しい気持ちはグっと胸の中に納めることにした。
「あぁ、悪かったよ。昨日はうとうとしてたから、あんまり頭に入ってなかったけど、何でナオちゃんと電気屋に行くのだっけ?」
「何が、うとうとしてたよ。この嘘つき男! あぁ、何でまた説明しないといけないのよ。今日は、ナオちゃんが春モデルのパソコン買いに行くから、ついてきて欲しいと頼まれたの。それでブヒムヒの仕事は店員と交渉して一円でも値切ってあげる事なの。分かった?」
妻は息を切らしながら一気に話した。
どうやら、私は値切り交渉だけでかり出されるみたいのようだ。ナオちゃんというのは、妻の中学時代からの友人で、妻とは趣味が合うようでアラフォーになったばかりの今でも交流がある女性だった。しかし、妻の奴も癇癪起こさずに普通に話したらいいのにと思ったが諦める。
そんな夫婦のやり取りをしていると、二階から目に入れても痛くない愛娘の玲愛が降りてきた。
ちなみに玲愛って名前は、私が某SF映画の大ファンでそのヒロインからいただいたものだ。
子供の名前に関しては玲愛とつけるに至って妻とひと悶着あったが、その当時の妻は、まだ抑える事が出来ていた。
今から思えば奇跡のような出来事だったと思える。玲愛は今年の春から小学校に入学したばかりの6歳である。
「また、父ちゃん。ママに怒られてるの?」
玲愛は、私の事を呼ぶときは父ちゃんで妻の事はママである。
なんともちぐはぐな感じだがパパって言われるような洋風な面でもいでたちでもないので、それはそれでいいと思っている。
「違うよ。レイちゃん。ママと普通にお話してるだけだから、怒られているわけじゃないから心配しなくていいよ」
そう言ってから、レイちゃんの頭をなでてやろうとしたら、「べつに心配してないもん」と予想外の事を言われて凹む。
女の子は齢を追うごとにおませで生意気になっていくと同じ年頃をもつ同僚もぼやいていたのを思い出しこんなものかと聞き流すが、玲愛はだんだんと妻に似てきて末恐ろしい。そして、すかさず妻は「怒ってるのよ」と教育上非常によろしくない事を娘の前で宣う。
「ねぇねぇ、ママたち出掛けるんでしょう。玲愛もついてく」
こういう時、玲愛は必ず母親に聞く。それは小さいながらも私に決定権がないことを知っているからだった。
「そっかそっか、レイちゃんも行きたいんだな。よし父ちゃんと一緒に手をつないで電気屋さん行こうっか」
そう話してる途中に妻が割って入る。
「ダメよ! 玲愛はおばぁちゃんと勝貴と一緒にお留守番してなさい」
勝貴と言うのは、長男の事で今年から中学生になる玲愛の兄のことである。おばぁちゃんってのは妻の母親で私の義母をさす。
「イヤイヤ。玲愛もついて行く」
娘は留守番するのが嫌みたいで妻の腰周りにからんでせがんだ。
「そうだよ。なんでダメなんだ。一緒に連れて行ってやったらいいじゃないか」
そんな娘の姿を見て、私はすかさず援護射撃をしてやった。
「ナオちゃんの車は軽自動車だからダメなの。
もしパソコン買って持って帰ることになったら後部座席に乗せられなくなるでしょう。
何も分からないあんたは黙ってなさい」
どうやら、そういう事みたいである。
それでも、娘は諦めがつかないみたいで、声のトーンは小さくなったものの「玲愛もついてくもん」と少し拗ねながらつぶやいていた。
「玲愛、聞き分けの無いこと言わないの。そんな事言ってたらお父さんみたいになるわよ! 分かったら手を離しなさい」
駄々をこねている娘に対して妻は強い口調でそう言い放った。
それを聞いて、玲愛は「はーい」と言って、しぶしぶ妻から離れた。
そんな娘の姿を見て、私はなんともせつない感じがするのだった。
しかし、妻の選択はこの後、とんでもない事が起こる私たちにとっては間違っていないものになるのだった。
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