藪歯科医院。
帰宅すると、早速に妻から詰問された。
「今日、残業違うんか? なんで早いの??」
新婚当時は旦那が早く帰ってくると喜ぶ可愛らしい妻だったが今はそのような姿は微塵もなかった。
「歯が痛いから定時で帰ってきたのだよ」
痛みからイライラする。
「あんたは、本当に学習機能がない人だわ。ちゃんと治るまで治療しないからそうなるのよ」
うわぁーー、また小言が始まった。
図星だから言い返すことが出来ない。
言い訳の一つもしたいところだったがしか、今は付きあってる精神力はない。
歯がズキズキと痛むからた。
こういう時は素直に認めるのが得策だと思う。
私にも、危険回避の学習能力は持ち合わせているのだった。
「あぁー、今度は最後まで通うよ」
「ほんとあんたはアホなんだから、歯医者ってどこ行くの? 予約したんか」
案外、小言が少なく済んだが、また文句が出そうなフラグが立ってたりする。
「仕事行く前までは痛くなかったから治ったと思ったんだよ。だから行く予定ないから予約とかしてない。歯医者は藪歯科に行くわ。藪だったら予約なしでもすぐに診てくれるよ」
「はぁ? あんた藪に行くのか。ほんまアホを通りこして大馬鹿だわ」
説明しよう。
妻が大馬鹿呼ばわりするのには、妻なりの理由があった。私の近所には藤田歯科、八木歯科、そして藪歯科あるのだが、藪歯科とは名前が悪いのか近所ではヤブ医者だと悪い噂が立っていて人気がないのだ。だが、私はそんな噂は信じてはいない。歯医者とはすぐに診てくれて痛みを取ってくれたら良い医者だと持論を持っている。行った事もない藪歯科を名前の悪さからヤブだと判断するのはある意味【風評被害】そのものじゃないのか!? そんな気がするのだ。
と、熱く語ったが……。
本当は自分も藤田か八木のどちらかに行きたい。でも、行けないのだ。なぜなら、両歯科とも以前に診てもらった事があったが歯の痛みが治まると通わなくなり診察券が財布の中でボロボロに朽ち果てていたからだ。
つまりはバツが悪いから行けない。いや行きたくないからだった。
その思いは藤田や八木歯科にいる巨乳で治療中に胸を押し当ててくれるカワイイ歯科助手さんがいる誘惑よりも勝るものだったからだ。
察してほしい。ほんとは私も行きたい気持ちは山々なんだ。
でも、行けない辛い気持ちを。
「どうなっても知らないからね」
玄関先で出かける私に追い打ちをかけてくる妻のお見送りを軽く無視すると、私は藪歯科に向かって出かけた。
道すがら、一番近い八木歯科の前を通ると混み合ってる待合室の様子が洋服な建物の窓から垣間見えた。ここには巨乳の歯科助手さんがいるのでスケベな患者がきっと多いから混んでいるのだと思ったりした。
10分ほど歩くと、藪歯科医院の看板が見えた。
藪歯科は一階が駐車上になっていて二階が診療する場所になっていた。
意外と広い3台ほど車が駐めておけるスペースには車は1台もとまっていなく、すぐに診てもらえるチャンスだと嬉しく思う。
藪歯科の螺旋状の階段を駆け上ると振動から歯が痛む。
かなりの重症だとみた。
「早く痛みを取ってもらわないと」
藪医院に入り靴からスリッパに履き替えると受付に行く。
案の定、待合室には誰もいなく、どうやら一番みたいだ。
だが、受付にも誰もいないので困ったものだ。
仕方がないので「すみませーん」
と診察室に向かって声をかけてみた。
返事がないので何度か呼びかけていると、中から「はい、はい」と言ってピンク色をした看護服を着た女性が現れた。
残念ながら、メガネをかけたおばさんで胸は大きそうたがそそられはしない。
というか、治療には全く関係ない。
が、私も含めて男とはつくづくスケベな生き物なのだ。
例えこのような痛みの中でも何気にチェックしてる自分の生命力には呆れてしまう。
「どうされましたか?」
「昨日から歯が痛くて……」
「初めての方ですよね。それじゃ問診票に分かる範囲で痛む場所とか記入してくださいね」
私は健康保険証と引き換えに問診表を受け取った。
問診票には、歯のイラストが書いてあり痛む箇所を記入する。あと、希望する治療に関するものがあり、保険の範囲と痛む箇所のみ治療を希望した。
あとは、住所と連絡先の電話番号を記入して一通りの問診票の記載は終わった。
確認の為にもう一度記載を見る。
邪魔くさい気持ちも手伝って、自分でいうのも何だが汚い走り書きで読めるかギリギリの範囲だったりした。
特に住所は読めたもんじゃない。
書き終わったので、受付に問診票を渡した。
問診票を見た受付のおばさんは、やはり読めない部分があったので、直接聞いてきて、私の言った事を書き足していた。
焦って書いたとはいえ恥ずかしい気持ちではある。
「少々、お待ちくたさいね」
と言うと、受付の方は診察室に消えていった。
ほどなくして診察室から「お入りください」と名前が呼ばれた。
いよいよ、歯の痛みからおさらば出来るってものだ。
私は診察室に入っていった。
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