強い精神でも耐え難い痛み、それは歯痛なのだ。
私は歯の痛みに苦しんでいた。
痛みだしたのは2日ほど前からだった。
なんか、仕事中に歯に違和感があると感じたのが初期症状で、その日の深夜には歯の痛みで目を覚ましてしまう始末。
このまま、ズキズキと痛さを我慢しながら夜明けを迎えて仕事に行くのも業務に支障をきたすと考えたので、私は胃に優しい鎮痛剤を求めて、一人寝室からリビングに行った。
さてさて、薬箱はどこに置いてあるのか? と室内を物色していると、二階から「ドタドタ」と階段を駆け降りてくる音がして、「バン」と引戸を開く大きな音が歯にしみた。
「ブヒムヒ何してるのや? わたしのプリン食べたらしばくからな」
なぜ、このような深夜に起きて登場するのかは謎だが、このタイミングはある意味怖い。深夜までアニメとか見ている妻の夜行性を舐めてはいけないのだ。
しかし、以前食べてしまったプリンを未だに根に持っているとは。
ちなみにブヒムヒと言うのは妻が携帯ゲームで育成している豚に似ていることからつけられた呼び名だった。
耳と歯に響く金切り声で私を詰問する妻の金切り声が一瞬だけ歯の痛みを忘れさせてくれる。
ヤバい。
歯が痛いから薬箱を探しているなどと言うと、また小言が始まってしまうではないか。
だが、この状況で嘘の言い逃れは出来ないから正直に状況を説明しないといけない。
正に大人が悪さを隠してるような子供みたいで、情けない事この上なかった。
「歯が痛いから、薬探してるんや。夜中にギャーギャー言うなよ」
歯の痛みからアドレナリンが出ていたからか、私は強く文句が言えた。
しかし、次の瞬間、腰がくだけてしまうような激痛が身体を走り抜けた。
「このあたりが痛いんか」
と妻がほっぺをツンツン指で押したからだ。
「うわぁーー、痛い、痛い」と叫び声が思わず出て、目からは涙がちょちょぎれる。
「ほんま、あんたはたいそうやわ」
悶絶している私を尻目に食器棚の脇に置いてあった薬箱から上部に放置してあった絆創膏をかき分け鎮痛剤を渡してくれた。
コップに水を入れて、この痛みから少しでも早く開放されたく錠剤を流し込む。
今からなら後4時間は寝れると思い寝所に戻ろうとしたら、妻も一緒についてきて、案の定「歯医者の治療、最後まで治療しないからこうなるやわ。また、行くのだろうし初診料もったいないやろ。ほんとにあんたはアホやわ」と小言を放って二階に戻っていった。
確かに、妻の言うことは的を得ていて図星だから反論しようがなく黙るしかなかった。
そう、私は度々歯が痛くなる。
最初はどうしようもないので近所の歯医者さんに泣きつくのだが、応急処置的をされて歯の痛みが取れたら根治していないのに通うのが邪魔くさくなり治療をやめてしまっていたからだった。
だって、歯医者の治療なんて虫歯箇所をグリグリと弄っては薬を詰めては、また取っては詰めるの繰り返しで、いつまでも通い続かないといけない気が個人的に思っていたからだった。しかも予約制とはいえ時間を定期的に作らないといけないし忙しい歯医者さんだと実際の治療は数分でなかなか治療は終了せず、根治まで数ヶ月かかったりするのはあるあるだからだ。
だから、治療が完治されない虫歯は処置された期間内は治まっているが、また時期が来ると痛みだす。
ワンちゃんで、今みたいに鎮痛剤を何回か飲めば痛みが治まる事も何度もあったので、それに賭けてたりしている次第だったりした。
朝、目が冷めると歯の痛みは感じなくなっていた。
ラッキーちゃちゃで仕事に行く。
このまま、歯の痛みが再発しない事を願いつつ仕事をしていると、些細な事で仕事でミスをしてしまい、歳下の上司に注意されてしまった。
畜生と思っているときに、また歯が痛みだした。
明らかにストレスがトリガーとなってしまったようだ。
痛みだした時は軽く時折痛む程度だったが、時間が経つ度に痛みは増してきて、定時の時間か近づく頃には「ズキっ」とする痛みに襲われて我慢ならなくなってしまっていた。
そんな時に、思い出すのがかの残留軍人だった【横井庄一】さんのエピソードだった。
太平洋戦争が終戦しても、グアムのジャングルで27年間もの間潜伏されていた御仁であり、発見時に時の人になった横井さん。当時のインタビューの映像をなにかの番組で言っていたのが、「潜伏していた時、何が一番辛かった」とインタビュアに聞かれた横井さんは、即答で「歯の痛み」だったそうだ。
かの辛い戦争下でもお国の為に戦い、終戦してもジャングル内に対して行われた投降の呼びかけにも応じずに日本の敗戦を疑い一人戦い続けた横井さん、自給自足生活で飢えにも耐えた日々があっただろうに。
それでも、発見されるまでに耐えに耐えた方が「投降しようか」と何度も思ったのが歯の痛みだったそうだ。
それだけ強い精神力の持ち主でも心に迷いを起こさせる歯痛。
日々、妻に怯えながら家庭という名のジャングルに潜伏してる身の上の自分をこういう時だけ置き換えて見ると初日で投降してしまうグラスの心である。耐えられるはずもないのだった。
私は、「そうだ。歯医者に行こう!」と強く決意すると、本来は残業たったが上司に言って帰宅することにしたのだった。
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