プロメシューム登場
「これってプレミアですかぁ?」
突然に、どこか夜のお店で働いているような色っぽくていい香りのするお姉ちゃんに隣から声をかけられて条件反射的に自然と頬が緩んでしまうのが自分でもわかった。しかし、「プレミアですか?」とはどういう意味なのだろうか?
どうやら、お姉ちゃんは自分の打っているエヴァで熱い演出が出て当たりに繋がるのか確信が欲しいようである。数分後には結果が出るパチンコの演出なのであるが、こういった鉄火場ではとかく人はせっかちになってしまうのが世の常なのだ。
エヴァは以前打ったことがある台で、その時はたまたま勝てたものだから帰りにコンビニでパチンコ攻略雑誌を立ち読みして勝利の余韻に浸った経験があったので、なんとなく台の演出は分かった。そういった事で当時の記憶を思い出しながらお姉ちゃんの台の演出を見てみると、エヴァの初号機が発進する際に、本来はみさとという主人公の保護者的存在の女性が「エヴァンゲリオン発進」とアニメ映像が流れるのが、お姉ちゃんの台では主人公の父親である碇ゲンドウが出てきていたので、雑誌に書いてあった情報ではプレミア演出発生で大当たり濃厚であった。
「プレミアですね」と、このような場所で打っているのに、ちょっとした紳士気取りで私は返事をしていた。
「やったぁ。嬉しい」とお姉ちゃんははしゃいだ声をあげていた。
「たぶん、当たったら確変だよ」私は更にお姉ちゃんを喜ばすことを言っていた。パチンコでプレミア演出が出たらほぼ確変になるのは経験上相場ってものだからだ。
案の定、お姉ちゃんの台はエヴァの初号機が使徒のATフィールドをこじ開け核を破壊するアニメが繰り広げられて見事確変絵柄をそろえていた。絵柄が揃う瞬間に台上部に取り付けられていたエヴァの精密に作られたギミックが吠えて大当たりを盛り上げている。隣で見ていた私ですら「かっこいい」と思ったぐらいだから、お姉ちゃんの脳内エンドルフィンやドーパミンといったいわゆる脳汁が激しく分泌されて頭が逝ってしまったのは明らかだった。それが証拠にお姉ちゃんは「よっしゃー」と先ほどよりワンオクターブ高い声を出すと、軽く拳を上げ、その後、私にボーリング場でストライクを出した時のようにハイタッチしてきた。
その出来事がきっかけで、私とお姉ちゃんはお互いに当たりや熱いリーチが来る度に気分上々で話すようになっていった。それもそのはずで、私の打ってる銀河鉄道999は機械伯爵を打倒し、発生した時点で大当たり濃厚となるプロメシューム(メーテルの母親で機械化帝国の女王。童話に出てくる悪い魔女みたいな風貌をしている)という999のラスボス的存在を幾度もやっつけ大当たりを積み重ねていたし、お姉ちゃんの台はエヴァが次々と使徒を撃破してドル箱の山を高く築いていたからだ。当たりを重ねる度に脳内の快感物質が射出されているようで楽しくて仕方がなかった。おそらくお姉ちゃんも同じに違いなく、時折、私の肩や腕を触るといったボディタッチが多くなり、台同様に股間も熱くなるいったもので、正に至福の時だった。
私は更にお姉ちゃんと親しくなりたかったので用足しのついでに自販機で飲み物を買ってくると差し入れをしたりした。その姑息な手段が功を奏したのか、お姉ちゃんは「何歳なんですか?」や「あたし、仕事休みなのですよ」とかパチンコ以外のプライベートな話を言ったり聞いたりするようになっていった。私も「仕事なにしてる人?」など、なるべく話の流れにそってお姉ちゃんのブライベートな事を聞いていた。うまくやれば、食事に誘ってその後ムフフな展開がワンちゃんあるような気分になっていき、パチンコからは金欲が刺激され、お姉ちゃんの会話や過剰気味なボディタッチからは性欲が刺激され、脳内は邪な欲が混ざりあって軽いパニック状態になったような気分である。あとは、お姉ちゃんをもうちょい和ませて食事に誘うタイミングを待つばかりってものなのだった。パチンコの方も、プロメシュームという眉が吊り上がった魔女みたいな大ボスを無限ループのように何度も打ち倒し、相変わらず絶好調である、ざっと後ろに積まれたドル箱を換金したとすると、お姉ちゃんと食事をしてその後発展してムフフな場所にいったとしても十分にお釣りがくるぐらいだと皮算用している自分がいた。そして、こういうラッキーな日ってものは他の事でも幸運が連鎖する事を人生経験から分かっていたので、思いきってお姉ちゃんに勝負をかける事にした。
「今日良かったら、パチンコ終わってから飲みにでもいきません」先ほどからのボディタッチや「仕事休み」だと私にアピールしていることから、フラレることはないだろうと確信はしているものの、やはり女性を誘って返事をきくのは、幾つになってもドキドキするものである。そういった訳でお姉ちゃんの返事を緊張しながら待つこと数秒。お姉ちゃんの返事は「あんまりお酒強くないですけど、いいですか」と思わずガッツポーズがでて顔がにやけてしまうものだった。あとは、夕方過ぎにパチンコはやめて、嫁さんには、次に用足しに行くときに「同僚に飲みに誘われたから飯はいらない」と電話する事を忘れないようにするのみである。そうして、私はこれから起こるであろうロマンスに胸熱になりながら、確変を着々と消化するという正に一生のうちに何度かしか訪れないであろう至福の時を満喫していた。だが、そんな幸せが一瞬のうちに崩れさるような悲劇が私の耳に走った激痛から始まりをつげたのだ。その耳の痛さの原因は、誰かが親指と人差し指で耳を摘まんで引っ張りあげているものであって、私は不幸な事にも、この痛さを度々味わっており身体が覚えているものであった。私は「まさか」と思いながら、その耳を引っ張りあげてる奴に対して目をやった。そこには、先ほどまでパチンコ台で何度も打ち倒していたプロメシュームのように目が吊り上がっている鬼嫁の姿が浮かんでいたのであった。




