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愛妻白書。(手のひらの孫悟空状態)  作者: カトラス


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ネロの末路

 そんな願いが通じたのか、初当たりを契機に私は何度も確変図柄を引き当てると、みるみるうちに椅子の後ろにはドル箱の山が積みあがっていった。私のドル箱に釣られてだろうか。朝から空台だった両隣に客が座り遊戯を始める。しかも左隣のエヴァには開店前に見かけた訳あり風のお姉ちゃんが着席。お姉ちゃんは香水をつけているのか、夜のお店の匂いがプンプンしていて妙な色気を感じてしまう。右隣の世界名作劇場をモチーフにした台には明らかに女を捨てたような水玉柄のワンピースを着た太ったオバちゃんが座りだして残念な気持ちになったが、加齢臭のキツイおっさんが座るよりましだと思う事にした。自分の打ってる台は相変わらず調子よく、リーチになる度に大当たりにつながり10連チャン以上していた。そのせいなのか隣に座ってる女を捨てたようなオバちゃんは自分に当たりが来ないのにイラつき出したようで台についてるボタンを激しく叩きだし、「クソっ」と汚い言葉を吐き出し初めたのだ。オバちゃんが台にうっぷんをぶつけ「バシバシ、ガン」と打音が聞こえる度に大当たりを続ける自分が申し訳ないような気持ちに不思議となってしまいオバちゃんの台も当たりを引けと思ってしまう。だから、自然とオバちゃんの台の挙動が良さげで熱そうなリーチになった時は横目で経過を見ている自分がいた。何度もリーチがかかっては外れる様を目の当たりにしているうちに、オバちゃんの打っている世界名作劇場なる台の演出があまりにカオス過ぎて涙目になってしまう。それは子供時代に見ていた名作アニメのパチンコ台での使われようがあまりにも酷かったからだ。この台に出てくるアニメは不思議な島のフローネ、母を訪ねて三千里、フランダースの犬といった誰しもが一度は見たり聞いたりしたことがある正に教育委員会あたりが手を叩いてお薦めしそうなアニメのラインナップであって、決してパチンコ台みたいなギャンブル遊戯に使われるような題材ではない。にも関わらず、このような子供向けのアニメを大人が楽しめるパチンコの演出にしたものだから、それは、それは、突っ込み処満載の凄まじいものとなっていたのだ。特にリーチ演出が群を抜いて酷く名作アニメファンならこの台を出したメーカー及び開発陣に説教の一つもしてやりたいほどの出来映えだった。つまり、パチンコの大当たりに繋がる演出=アニメのハッピーエンドではない作り方がされていたのが原因であった。極端に言うとアニメの主人公が不幸になればなるほど大当たりに繋がるようにしているからだった。しかし、そのような酷いと思える感覚は一般人のものであってリーチが外れる度に打っている台をどついて憂さ晴らししているような隣のオバちゃんみたいな人種にとってはリーチの演出が公共倫理的に首を傾げてしまうような事など、どうでもいい事なのだとまざまざと見せつけられてしまう。そうしてそのような酷いと思うシーンを私は何度も垣間見て度肝を抜かれてしまうのだった。その極めつけのような酷い演出がオバちゃんの台で起こった。それは、私が打ってる台が初当たりした時のような激しく台が光輝き賑やかになった時の事である。いやが上にも打ち手に大当たりを期待させてしまうようなはげしい台の挙動で台の数字がテンパイしてリーチになった瞬間だ。台の液晶には「激熱」の文字が表示され、打ってるオバちゃんは座ってる椅子から尻を浮かせながら喜んでいる。私はこのような状況になっても、まだ喜ぶのは早い、喜ぶのは当たってからだと思いながら他人事ながら大当たりの行方を気にしていた。台の方は上部に取りつけられている「フランダースの犬と世界名作劇場」と書かれた役物が上下にガタガタと小刻みに震えていると思ったら、突然に「ガーン」と落下して、これまたオバちゃんを驚かせよろこばせていた。そして、落下したロゴ役物が元の位置に戻りだした時に液晶には「フランダースの犬ネロ昇天リーチ」と表示され、アニメフランダースの犬の最終回で最大の見せ場であるアントワープの大聖堂で主人公であるネロが飼い犬のパトラッシュと一緒にルーベンスの絵を見ながら天国に召されるアニメがダイジェストで展開され始めた。そしてネロが最後のセリフ「パトラッシュ疲れたろう。僕も疲れて眠くなってきた……」を発し大聖堂の天井ステンドグラスをバックに空から天使が舞い降りてきてネロの身体を幽体離脱みたいに引っ張り上げ出した時に、あろうことか、このパチンコ台は「ネロが昇天すれば大当たり」と、とんでもないナレーションで説明が入ったのだった。なんとも人の死という不幸な事を不謹慎にもリーチにするとは……。しかも、劇中では報われなかった少年の死ぬシーンである。これはさすがに「ダメやろ」と心の中で残念な気分になってしまう。きっと、オバちゃんも自分と同じでこのようなパチンコ演出に心が痛んでいるに違いないと思い打ち手の様子を見てみると、そこに私はギャンブル場という鉄火場の地獄を見てしまったのだった。オバちゃんは中腰で椅子から尻を浮かせながら鬼気迫る表情で液晶画面内で繰り広げられるネロ昇天なるものに注視していた。そして、演出が佳境ともいうべき最終段階に入り、図柄が揃うか、揃わないかという二者択一状態になると、両手を合掌して「ネロー死ねー、死んでくれー」と拝みだしたのだった。もう、この光景を見てしまうと、もはやフランダースの犬に対する昔見た時に覚えた「感動」とか「涙」など吹き飛んでしまう破壊力である。オバちゃんの大当たりに対する執念を見た時から、ネロは台の中で死ぬしかないのだと思ってしまうのだった。そういったオバちゃんの執念めいた祈りが通じたのか、ネロは天使に導かれ、本懐を遂げると液晶内の図柄は7の数字を見事に揃えていた。オバちゃんは勿論、手を叩いて大喜びしており、「ネロ逝ってくれよったわ」と人間を捨てたような言葉を発しておられていたのだった。

 私はそんな見てはいけないものを見てしまったような気分に一時襲われて、一瞬気分が消沈していたのだが、所詮はギャンブル場、30分で諭吉が一枚溶けてしまうパチンコ屋だと思い、再び自分の台に集中して更なる当たりを求めることにした。結局のところ、私もオバちゃんも感情の表し方は別だとしても、ちょっとでも出して楽しくお金儲けをしたいという気持ちは一緒なのである。とどのつまり同じ穴の狢のだ。そんな事を思いながら、999を打っていると、隣の色っぽいお姉ちゃんが、突然、私に声をかけてきたのだった。

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