脳汁
私が店内に数多くある台の中から、銀河鉄道999を選んだのは、液晶画面が大きくて、台の右横に設置されてる役物がとにかく大きくて目立っていたからだ。役物はこのアニメのヒロインであるところのメーテルがフィギアで作られていて、細部まで丁寧に再現されていて精巧なものだった。たかが、パチンコ台にこのような物が取り付けられているのには驚きを感じずにはいられない。おそらく、この巨大メーテルが大当たりに絡む台の演出で動くと思うと打つ前から楽しみになってしまう。
店長一押しアニメ台コーナーと言うだけあって、右隣はエヴァンゲリオン、左隣は世界名作劇場と他にもメゾン一刻や北斗の拳等々、この列に並んでいる台は全てアニメ台ばかりであった。しかし、一押しコーナーという店の看板台の割には座っているのが自分だけなのが気になるところでもある。それでも、大将の言っていた初心者作戦を一通り敢行したので、半信半疑なれど、なけなしの諭吉を玉貸しサンドに投入し500円分の玉を上皿に流しこむと打ち出しハンドルに手をかけた。
大当たりの抽選が行われるスタートチャッカーという台の中心部分めがけてパチンコ玉を打ち出すのだが、ハンドルから玉を飛ばす力加減が難しく瞬く間にワンコインが溶けていた。すぐに貸し出しボタンを押して上皿に玉を補充して遊戯を続行する。気がつくとスタートチャッカーが安定して回るストロークを見つけるのに1000円近くも消費していた。しかも、その間に台はうんともすんとも言わずに沈黙を続け大当たりに繋がるリーチすらもかからない有り様だった。いくら低貸し遊戯の一円パチンコといえども、このままでは午前中だけで撤収する憂き目にあいそうだ。「何が初心者偽装作戦だ」と脳内ではお座り一発大フィーバーお祭りわっしょいを夢見ただけに無反応の台に物足りなさを感るじてしまい、大将の言っていた事を真に受けた自分がアホらしく思えてきた。こうなってくると台に取りつけられたメーテル巨大役物がただのお飾りで全く何の役にも立たない木偶の坊ぶりに憤りすら感じてくるのが人ってものだ。リーチすらかからないこのクソ台に投資が2000円、3000円とかさむ度に八つ当たりとばかりにメーテルの額に人差し指を曲げてデコピンを喰らわしていた。そんなパチンカスの極みのような行動をしている時だった。突然、台から999らしく、けたたましい汽車の汽笛が鳴り出し、3回目のデコピンをしてやろうと思っていたメーテルのフィギアが右から左にスライドして動きだしたのだ。そして液晶内でもメーテルが登場し「鉄郎999にのりなさい」と赤文字のセリフが出てきて何やら起こりそうな雰囲気がしてきたのだ。しかも、液晶内の数字もテンパイしそうでしないのを繰り返し「継続」というアイコンがでる度に次回転に演出が引き継がれその都度台が賑やかになっていく。画面では昔見た懐かしいアニメの名場面が流れていていやが上にも気分が盛り上がり大当たりの期待を持ってしまう。そして、4度目の継続が出た時に数字の9がテンパイし、その瞬間に再度フィギアが激しく振動しだして「鉄郎、激アツよ」とのメーテルボイスがしたのだ。私は大当たりの確信が欲しいので、椅子の横に置いてあった台の大まかな説明が書いてある冊子を手に取った。冊子には大当たりが期待出来るいくつかの激アツポイントなるものが書かれていて、それによるとメーテルフィギアが動いた時の信頼度は80%以上で外れたら泣いて良しレベルとの事。その情報を見る限りではほぼ貰ったと思ってもいい感じがする。あとはその後の展開を注視することになるのだが、ここは何としても当たって欲しいと祈ってしまう。信頼度がめちゃくちゃ高い予告が出ただけあって液晶内は眩しいほどに様々な色で光輝き、画面の中を999号が疾走する映像を流しながら「プォー」と汽笛を鳴らし期待を煽ってとにかく賑やかだ。そして999号が一段と高い汽笛を鳴らすと画面内を切り裂いてリーチの演出になった。画面内ではこのアニメの主人公である鉄郎が機械伯爵という母親の敵と対決する演出になり、鉄郎が機械伯爵を倒したら大当たりとなるようであった。液晶内ではアニメの白熱した対決シーンが流れていて、鉄郎が伯爵めがけて戦士の銃を狙い定め「母さんの敵だぁ」と言い放ち引き金をひこうとしていた正にその瞬間、画面中央に巨大な虹色に輝いたボタンのアイコンが出現して「押せ」とナビで指示が出たのだ。すかさず、台にあるPUSHボタンを押すと「キュインキュイン」と大きな音と同時に、液晶内の鉄郎が見事に伯爵を射抜き大当たりとなった。当たった数字が赤文字の9なので次回大当たりまで確率が甘くなり、しかも、電動チューリップという羽が数秒ごとに開いてくれるので持ち玉を減らすことなく次の当たりまで遊戯させてくれるラッキーな初当たりをひいたのだった。つまり次回の当たりも奇数図柄なら確率変動といって、確率変動図柄を引き続ける限り出玉がどんどん増えて儲かるのである。ちなみにこの機種の確率変動継続率は70%と冊子に書いてあるので、己の引きがよければ一撃大連ちゃんも期待出来るみたいだ。私は取らぬ狸の皮算用をしながら、液晶に表示された「右うちせよ」の指示にしたがいながらハンドルを最大限に右方向にきった。右に打ち出された玉は大当たりの時にしか開かないアタッカーというところに吸い込まれていき1つ玉が入る度に15個玉が払い出されるので、みるみるうちに上皿に玉が蓄積され溢れそうになっていく。実際には台の内部で貯まるので上皿が溢れる事はないのだが、玉を抜かないと「玉を抜いてください」とメーテルの声で催促されてうるさいので下皿に玉を抜き、更に下皿がいっぱいになればドル箱に玉を移動させるのである。「ガシャン、ジャラジャラ」下皿から空のドル箱にパチンコ玉が落ちる瞬間の音がやったった感があり凄く快感で脳汁が激しく出る。世間でギャンブル依存症なるものが取り沙汰される事が多いが、この大当たりを実感してしまうと分からない気がしないでもなく思ってしまう。そのように高揚した気分の時に右打ち中の液晶内では懐かしのゴダイゴが歌う999の歌が流れアニメの映像が出し惜しみせずに流れるものだから、また同じような快感を得る為に大当たりしたいと願ってしまう。しかも当たれば当たるほど懐も潤うと思うと、一円パチンコといえども妄想が浮かぶってものだ。




