たなぼた
「それだったら、別に休んでもいいぞ」
一瞬上司の放った言葉に耳を疑ったが、私は聞き返すまでもなく条件反射的に「いいんすか」と返事をしていた。
「あぁ、有給あまり取ってみたいだし、急いで事故でもしたら大変だから休みでいいよ」この思ってもいなかった出来事にハンドルごしに思わずガッツポーズを取ってしまった。
「気をつかっていただきありがとうございます。それじゃ遠慮なく今日は有給取らせていただきます」とお礼を言うと上司の気が変わらないうちに早々に電話を切った。
いやいや、しかし、まさか、休暇が貰えるとは棚ぼたとは正にこのような状況なのだと妙に納得してしまう。一気に気だるい月曜の朝がバラ色に思えてきて気分が高揚し、おにぎりに異物を入れられたという妻からされた酷い仕打ちも吹き飛んでしまうってものだ。そして、物事というものは展開が良くなれば良いように動くみたいで、電話を切ってすぐに事故渋滞が緩和されて前の車が動き出した。あれほどびくともしなかった渋滞が嘘のように無くなり、数分後にはいつもと変わらない道路状況となっている。
こうなってくると、たなぼた休日をいかに有効利用するかが重要になってくる。無論、今さら自宅に戻って妻に休みになったなど報告するのは愚の骨頂というものだ。言ったところで「暇なのだからトイレ掃除ぐらいしろ」と命令されるのが関の山ってところだ。そういった訳で、私は通勤中によく目にしていたパチンコ屋で休日を過ごすことに決めたのだった。ちょうどパチンコで一勝負できるだけの軍資金も給料出たてなので持っている。と言ってもショボいサラリーマンなので勝負できるお金は諭吉一枚といったところ。正規のレートである4円パチンコなら30分で溶けてしまう。ここは1円パチンコで勝負した方がワンチャンスあると思いながら、まずはパチンコ店の開店まで2時間近くあるのでインターネットカフェで漫画を読みながら時間をつぶすことにした。気になっていた連載漫画を数冊読んでいたらあっという間にパチンコ店の開店時間が迫ってきたので、この地域ではワンチャンスあると評判の店に足を運んだ。
パチンコ店の入口前には開店待ちの先客が既に列を作って並んでいた。しかし、平日なのによくも朝から暇な人間がこうも沢山いるものだと自分の事は棚にあげて思ってしまう。客層は主にじいちゃん、ばあちゃんといった年配の方が中心のようだが、私と同年代とおぼしき、おっさんや訳ありそうなお姉さんに学生風といった感じで老若男女問わず人間観察してるだけでも楽しくなる面々が開店を待ちわびていた。ほどなくして自動ドアの前に店員が現れると店の遊戯上のルールや禁止事項の説明があり、終わると店が開店した。店内に入ると「いらっしゃいます」の掛け声の中、女性従業員が深々とお辞儀をしてお出迎えしていた。F1番組のオープニングに使われていた聞き覚えのある軽快なBGMが店内に流れる中、先ほどまで並んでいた連中が蜘蛛の子を散らすかのように自分の狙っているであろうパチンコやスロットに向かって小走りで遊戯台を取りに姿が消えていく。私は、特に狙ってる台などなかったので、周りの様子を覗いつつゆっくりと入場した。さて、何を打とうかと思案している時、ふと以前にギャンブル大将が言っていたパチンコ必勝法を思い出した。ギャンブル大将というのは、会社の先輩社員でパチンコは無論のこと、競馬、競艇、競輪等々のギャンブルが大好きで、常に先輩の話はギャンブルの事ばかり。顔が最近暗殺された金正男に似ているので、ついたあだ名がギャンブル大将。しかも常勝しているらしく、いつも「勝った、勝った」と自慢ばかりの御仁である。まぁ、同僚の間ではギャンブル大将の言ってることは話半分で信頼度は魚群より低いというのがもっぱらの噂なのである。とは言えども、信じる者は救われるというか、ギャンブル大将の言っているパチンコ必勝なるものを実践して話しのネタ的にも試してみるのも面白いのではないかと思った。そもそも、ギャンブル大将の言っている必勝法とは、簡単に説明すると、「パチンコってビギナーズラック多いよね、初めて行く店で勝つことが多い」というパチンコあるあるが元になってるようで、大将曰く、パチンコ屋って最初は客に餌をばらまいて適度に勝たせるのだそうだ。そして味をしめた客は再度来店して、その時に前回勝たせた分を回収し、さらに店の儲け分も負けさせるという、ギャンブルの胴元にとっては昔から取られてるやり方なのだそうだ。要するに損して徳とれ的手法でビギナーズラックと呼ばれる勝ちは店によって演出されたもの。つまりは遠隔スイッチで当たりを演出してもらうといった仕掛けだそうだ。言葉は悪いがいかさまの要素が多分にあるとのこと。だから、勝ちたい人は初心者を装って初めて行く店で遊戯すると勝率が飛躍的にアップするらしいのだ。「パチンコは釘じゃない、いかに店側に当たりスイッチを押させるかや」と、どや顔して大将が熱弁をふるってる姿を私は何度も見てきたのだ。具体的に大将の言っている当たりを店側に演出してもらう遠隔スイッチなるまことしやかな発動方法論はいたってシンプルなもので、店の店長クラスの従業員に自分は初心者で初めての来店者だと思わすこと。では、どうすれば初心者に思われるかと言うと、意味なく店内を散策して防犯カメラ前ではキョロキョロして挙動不審なふりをする。その行為を二度、三度する。そうやって店側に自分を印象づけるのだ。次に自分の打ちたい台に向かい着席すると、すぐに台の上部についているデータロボの呼び出しボタンを押して従業員を呼ぶ。そして、従業員が来たら諭吉をかざしながら、「どうやって遊んだらいいの」と、やや困った顔をして聞くのだ。すると従業員は呼ばれた内容を口元につけたインカムで上役に報告するので、自分がパチンコデビューする初心者だと店側に認識させることが出来るのである。
私は大将の言っていた手順を忠実にこなすと、一円パチンコの「店長一押しアニメ台コーナー」にあったCR銀河鉄道999という台に腰をおろした。




