泣かせてくれないぢゃん!
諸事情のため、短めになってしまいました。
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すごく励みになりました。
「バカか!お前は!」
あれ?
怒られてる…?
頑張って歩いたら、泣いていいんじゃなかったっけ?すっごく頑張ったんだけどなっ。
たった今、犀川氏にカミングアウトした。
そして…怒られた。
『カレと不倫してました。奥さんが妊娠したのが判って捨てられました。』
言葉はもうちょっと選んだけど、要約すればそんな感じ。
不道徳なのはわかってるよ。家庭を壊す罪深さもさっき思い知った。
バカと言われれば、甘んじて受けましょう!
「自分でもバカだと思うけど、妻子持ちって知った時には、もう気持ちが止められなかったんだもん。」
「開き直るな! 俺が怒っているのはそこじゃねぇよ。好きだなんだっつーのは当事者同士の問題で、俺が口をはさむべきとこじゃねえだろ。俺が怒っているのは、なんでさっきあの男に何も言わなかったんだって事だ。『あ〜ら、あの時のお子さん?』ぐらいのイヤミ、言ってやりゃ良かったんだよ。」
犀川氏、何だか柄悪いし。そのオバチャンみたいな口調は私の口真似?
「だ、だって、下手なこと言ったら関係がばれちゃうじゃん。」
「だから、どうしてお前がそこまで気を遣わなくちゃいけないんだよ! あんなに傷ついた顔をしてたくせに。そうまでしてあの男を守りたかったのか?」
私はそんなに傷ついた顔をしてたのか。
そして、カレを守りたい…のか?
いや全然。これっぽっちもそんな気持ちない。そんな風に見られてたなんて、びっくりだよ。
思い出に引きずられてはいたけれど、カレへの気持ちは冷めてる。
キッパリはっきり言える。カレより自分がかわいい。
「カレをじゃなくて、私を守るため…かな? あと自己満足。今さらだけど私のした事で、涼太君や奥さんの人生が狂ってしまうのが恐かったんです。そうまでしてカレを欲しいとは、今はもう思ってないから。カレに会って動揺したのは、単に嫌な過去から逃げたかっただけ。かわいそうで惨めな自分を見たくなかっただけ。だから、私が守りたかったのは…自分なんです。」
呆れられたかな。結局自分の事しか考えてないって。「最低ですよね。…呆れ…ました?」
犀川氏は少しの間、何かを考えているようだったが、やがて口を開いた。
「いや。別に。で、守れたのか?」
ホッとしながら、首を縦に振る。
「『守った。』というより守られちゃいました! あなたに。」
びっくりした顔でこちらを見るが、私は心を曝け出してんの! 恥ずかしいの!
目なんか合わせられないよ。
「さっき、『後で泣いていい』って言ってくれましたよね。少なくともここに一人、私の感情を理解して受け容れてくれる人がいるんだって思ったら、気が楽になっちゃいました。ありがとうございました。」
お礼だけは目を合わせて。恥ずかしくても、お礼だけは言いたかった。
「泣かせてもらう前に、怒られましたけどね。」
これは照れ隠し。ホントはもう、自分を憐れんで泣かなくても平気なんだ。怒ってたのも私を心配してくれてたから、だよね。
「すまない。途中から、どうにも冷静でいられなくなった。」
そっか。犀川氏も、辛い恋をしてるんだもんね。重ね合わせて見ちゃったのかもね。
「ごめんなさい。嫌な思いさせて。」
亜美の気持ちが誠司くんにある以上、応援はできないけど、辛いときは相談にのるよ。
「イヤ。俺は別に、そんな嫌な思いはしてないけど。そんな顔で見てんなよ。」
「へ? どんな顔ですか!?」
「勝手に妄想してる、まぬけ顔。」
と言って、ホッペを引っ張った。
「痛っ! 痛いっ! 痛いってば!」
「ははは! それだけ元気があれば大丈夫だな。」
優しい顔に、優しい口調。ちょっぴりドキッとしちゃった。
ぐう〜っ!
盛大なお腹の音。
時刻は午後1時。お腹空いたよ〜。
そうだ。朝早かったんだもんね。
「お弁当にしませんか?」
「心配なんて要らないようだな。」
すみません…。
犀川氏がペットボトルのお茶をおごってくれた。
おにぎりを二個ずつ分けておっきい口で頬張ると、何だかちょっと、しょっぱかった。
「ちょっと塩気強過ぎでしたね。」
って言ったら、何でもないような声で、
「いや、別に。」
って応えて、何でもないように食べてくれた。
青空の下で食べるお弁当は格別だった。
今日、来て良かった。
何もかもが片付いたかのような、晴れ晴れとした気持ちだった。




