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作戦会議

「こちら、高校からの親友の立川美穂さんです。美穂、こちらが誠二の先輩で犀川律さん。」



土曜の夜7時。駅に近い居酒屋は結構繁盛していた。アルバイトらしき若い女の子たちが、店内をバタバタと走り回っている。個室だからあまり気にならないけどね。

そんな中、私たちはテーブルをはさんで作戦会議をしている。


会議の始まりは自己紹介から。

「犀川です。誠二と同じ自動車メーカーに勤務しています。よろしく。」

ちょっと桜井翔くんに似ている顔をニコリと綻ばせ、私を見つめた。

ボーッとしてしまった私を、亜美が肘でつつく。

「美穂。美穂の番だよ。」

「た、立川美穂です。小さな印刷会社で営業やってます。亜美とは高校1年からの付き合いです。誠二くんとは大学で同じサークルでした。よろしくお願いします。」

頭をペコリと下げ、微笑み返し。

む?

そこで犀川氏の異変を感じ取る。

おや。真っ赤っか。

亜美も気付いてケタケタ笑いだした。

「相変わらず苦手なんですね。」

「うるせー。」

犀川氏は真っ赤に染まった顔を、プイッと逸らした。亜美はヒィヒィ言いながら、訳がわからないでいる私に説明してくれた。

「犀川さんね、女性恐怖症なの。若い女性と話そうとすると、緊張して赤くなるか青くなるかするの。割とイケメンなのに、残念なひとだよね〜。だから未だに独り者なんだよ。」

犀川氏はチラッと亜美を見て、不機嫌そうに片眉を上げた。

「大きなお世話だ。お前、俺に相談があるんじゃないのか?そんな態度でいいのかな?」

「はっ!そうでした!平にご容赦を!」

そう言って、両手を上げてテーブルにつっぷした。

「そういう訳で立川さん。俺、慣れるまではこうだけど、ごめん。でも、話せないことはないから大丈夫。」

と、赤い顔で話し掛けてきた。

なんか…かわいい。

「はい。」

つられてこちらも顔が火照ってきて、俯いて返事をした。


「大体のところは、この間電話で聞いたからわかったけど、誠二のやつ、俺には『亜美が亜美が』って今も毎日惚気てるぜ。」

亜美は肩をすくめて答える。

「会社のひとに悟られたくないんでしょ。離婚の危機だって。」

「じゃあ、あの、…浮気ってことも…」

言いづらそうにしていると、犀川氏が「ああ。」って言って答えてくれた。赤い顔で。

「浮気してるようには見えないな。もしくは、余程上手くやっているか、かな。朝帰りってのは、本当に仕事だと思う。あいつの部署、すごく忙しいからな。」

「そんなにちょくちょく明け方まで残業するんですか? 偏った仕事量で個人に皺寄せがくるなんて、間違ってませんか? あ…すみません。年上の方に生意気言って。」

そう言って私が俯くと、犀川氏は苦笑して

「俺もそう思うよ。全てを否定する訳じゃないけど。」

と、肩をすくめた。



「生三つ。」

店員さんに追加注文をすると、犀川氏は「さて」と言ってこちらに向き直った。

「想像で話していても、埒があかないな。今後の事を話し合っておこうか。」


亜美はコクコクと頷き、箸を置いた。

こいつ意外と図太いな。亜美の前に置かれた、空の皿達を見ながら、私はそう思ったのだった。


「私、別れないよ。でも、誠二が私を見てくれないのはつらい。」

「うん。」

優しく目を細めて亜美を見つめる犀川氏に、何か違和感を感じた。

なんだろう、この感じ。

私がモヤモヤと考えている間に、話は進んでいったらしい。

「美穂!」

名前を呼ばれてハッとすると、心配そうな亜美の顔があった。

「どうしたの? 美穂。」

「ごめん。なんでもないよ。酔ったのかな。ボーッとしちゃった。」

「大丈夫?」

「うん。大丈夫だよ。で、何話してたんだっけ?」

亜美はプーッとほっぺたを膨らませた。

「今後の事だよ〜。犀川さんと美穂にカップルになってもらって、私と誠二とで、ダブルデートするの!」


はい?


「大丈夫。犀川さんから誘われたら、誠二は断れないから。」


いやいや。そこじゃなくて。


「デートっていったら、やっぱ『ネズミーランド』だよね!」


いやいや。そこでもなく。


「車一台で4人で一緒に行くのがいいよね!」

車が何台だろうと、どうでもいいわい!!


「私と犀川氏がカップルって何!? カップルって恋人になるってこと!?」

「ああ。立川さん、違う違う。恋人のふりだよ。誠二には、今日俺に立川さんを紹介するって言ってきたんだって。ちょうどいいからそれを利用させてもらって、二人の様子を探ろうと思ったんだよ。フリでも嫌?」

イヤかと言われたらそうでもないけど、そんな事言われましても…

「だって。彼女の顔見て顔真っ赤にする彼氏って、いませんよ。すぐにバレちゃわないですか。」

バレたら誠二くん、もっと頑なになっちゃったりして。

犀川氏はプッと吹き出すと

「付き合い始めなら大丈夫だと思うけど。心配なら今日から練習しようか。」

と言った。


そして、断りきれない意思の弱い私がいた…



帰り道。

早速『練習』を始める。

「俺は美穂に慣れて、赤くならないようにする。美穂は、俺を『律』と呼べるようにする。もちろん自然に、だよ。」

自然。自然。自然。

律。律。律。

「無理。絶対無理。」

「はいはい。じゃ、腕組んで歩こう。」

犀川氏、私の手を取って自分の腕に絡める。

言葉だけ聞いてると騙されちゃうけど、犀川氏、顔赤いじゃん!


私は、さっき別れた亜美の顔を思い出しながら、犀川氏に気になっていたことを話した。そう。話し合いの最中に感じたモヤモヤ。


「犀川氏。」

「頑固だね。『律』だよ」

「う〜。犀川氏は亜美を好きなんでしょ? なんで協力するの? チャンスじゃん。今なら奪えるかも、だよ。はっ! それとも何か企んでるの?」

「会話は普通にできるようになったね。」

そう言えば、ショックで敬語忘れてた。

「で、なんでそう思ったの? 俺、そんな言動とったかな。」

少し困ったような犀川氏。

「う〜。目かな。好き好き光線が出てる感じ。亜美には赤くならないし。」

「あぁ。」と言って、犀川氏は小さく笑った。

「どうなんだろうね?」

チラリと私を見た犀川氏は、赤くなっていなかった…


結局答えてもらえず、駅までの道をひたすら歩いた。


律。律。律。

やっぱ無理だ〜。


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