真相究明
すみません。
また間違いを発見してしまいましたので、後で修正します。
サブタイトルが『思いが通じ合えるとき』です。
大町さん家族がお花見をしていたのは、幼稚園のママ友家族ではなく、保育園のママ友家族です。
二歳じゃ幼稚園には入れないよ〜(涙)
これもまた、物語には影響ないんですけどね。
「律さん、お聞きしたい事があります。」
余程強張った顔をしていたのだろう。律さんは訝しげに私を見つめた。
「あまりいい話じゃなさそうだな。長くなりそうか?」
コクンと頷くと、ため息をつき、ベッドに私を誘導した。
私はギョッとして律さんを睨んだが、彼は平気な顔で
「座って。」
と言った。
なんだ。座ってゆっくり話そうとしてたのか。
ホッとして、私がベッドに座ると、律さんはその隣に腰を下ろした。
「さて。聞こうか。」
「この前、律さんは、亜美のことは女として見てないって言ってましたけど、ホントは違うんじゃないですか?」
「どういう意味だ?」
「亜美と、不倫してたんですよね。」
「は?」
余程度肝を抜かれたらしい。すっとんきょうな声を上げて、視線で私の瞳を射ぬいた。
「亜美と誰が?」
あ。亜美って言った。心の中で、こっそりチェック。
この前は『亜美ちゃん』って言ってたのに。
「律さんですよ。」
「今朝は何も言ってなかったよな。たった一日でなにがあった。誰に何を言われたんだ?」
うっ。そこが強気に出られないところ。
何せ覗き見メールの話はできない。
「えっと。誠二くんから電話があって〜、亜美と律さんは付き合っているって。えっと。誠二くんが亜美に『好きじゃなくなった』って言ったのも〜、それを知ったからだって〜。」
しどろもどろになるのは、仕方ないよね!?
髪を触って、律さんの視界から、泳ぎまくってる私の目を隠す。
「何だってそんな。お前は、そんな話信じたのか?」
怒りのオーラを感じて縮こまる。
「信じたくないから、直接聞いたんじゃないですか。」
「誠二はどうしてそんな誤解をしたんだ。何を言われたのか、詳しく言ってみろよ。」
「去年の誠二くんの誕生日に、律さんを家の傍で見かけたそうです。誠二くんが留守なのに、遅い時間に。」
律さんは、少し考えて頷いた。
「ああ。確かに仕事が終わってから、誠二の誕生日プレゼントを届けに行った。飲みに誘われたりして、よく遊びに行ってたからな。お礼のつもりで届けた。届けただけだぞ。別に誠二が居ないのを狙って行った訳じゃない。そんな事で疑ってんのか?」
ソレだけで疑うほど、嫉妬深くありませんよ!
鼻を膨らませ、勢い込んで続きをまくしたてる。
「まだありますよ。『誠二は気付いてないか』って電話で話してるのを聞いたそうです。」
ホントはメールですけど。
律さんは、また少し考えると眉間に皺を寄せた。
「おかしいな。それ、俺が話してるのを聞いたんだろ?」
しつこいようですが、メールです。でも、とぼけとこう。
コクンと頷く。
「そうみたいですよ。」
「会社から亜美に電話したのは昨日だけだ。昨日はそんな話してないぞ。どこでそんな電話聞いたんだ?」
ふーん。
「他の時に他の場所では言ったんだ〜。」
「変に勘繰るな。亜美とは何でもない。ただ、相談を受けていた事があって、心当たりはある。」
「何の相談ですか?」
「それは言えない。あいつの許可ナシに言える事じゃない。」
そういう事言ってるから疑われるんじゃない。
唇を尖らせていると、律さんがいきなり核心を突いてきた。
「誠二のやつ、メールを見たな。」
「えっ!」
もうバレちゃった!
律さんの勘の良さに舌を巻く。
「なんでそんな事わかるんですか。律さんが忘れてるだけかもしれないじゃないですか。」
「俺の記憶力をなめんなよ。それを言ったのはメールでだ。」
「仮にメールだったとしても、私にはどっちでもいい事ですよ。言ったことには変わりないんですよね。」
「さっきも言ったが、亜美とは何でもない。不倫を気付かれてないかと聞いたわけじゃなくて、亜美の悩みを気付かれてないか聞いただけだ。で、他にどのメールを見たって言ってた?」
「ちょっと待ってくださいよ。夫が知らないことを、他の男性が知ってるなんておかしいですよ。悩み事だって、誠二くんに相談するのが筋ってモンですよね。」
「ま、そうかもな。だが、夫だから相談できない事もあるんじゃないか?」
「それ、怪しいです。凄く不審です。」
「その事については話せない。疑われても、だ。」
キッパリと言い切られ、私もそれ以上は追及できない。
「で? 他に何て?」
仕方がない。ここは腹をくくって、全て話してしまおう。誠二くんも腹をくくってくれ。
「律さんが亜美に『どんな理由をつけてでも会いたい』って。」
「!」
律さんの目が大きく見開かれて、たちまち顔を真っ赤にした。
「…それは忘れろ。」
それはホントなんだ。やっぱり亜美を好きだったんだ。そんな情熱的な言葉を言うくらい。
しかも、こんなに動揺するなんて。不倫が事実としか思えないよ。
多分私、今までの人生で一番情けない顔をしてる…
「違う。」
「え?」
「亜美に会いたかったわけじゃない。」
じゃあ誰に?
亜美へのメールになんで他の人へのメッセージを入れるの?
おかしいじゃない。
「亜美に頼んでたんだ。お前に会わせてくれって。」「へ?」
今度は多分、今世紀最大の間抜け顔。
「なんで律さんが知り合う前の私を知ってるんですか。適当なこと言わないでくださいよ。」
「言いたくないよ。ストーカーみたいで。でも言わないと、お前の妄想が暴走するだろ!」
む。私が悪いのか!?
「亜美からお前の話は聞いていた。写真も高校時代から今までのものを、たくさん見せてもらった。段々と成長して、『女の子』から『女』になっていくお前に興味を抱いたんだ。好きになったのは会ってからだけど、俺はもう何年も前から『立川美穂』という人物を知っている。亜美の目から見た『立川美穂』より、実物の方がよっぽど面白かったけどな。」
『引いたか?』と、私の視線を避ける律さんが、何だか可愛くて、私は首を横に振った。
「でも、律さんに恋していなかったら、気持ち悪く思ったかも。」
時々正直なのが、私の美点。
あれ? ダメージ与えたみたい。ガックリうなだれてる。
「でも、おかしいです。その後に、『お前たちの仲は壊さない』って。私に会いたいって話なら、誠二くんと亜美の仲が壊れる事なんてないですよ。やっぱりウソ…」
「解釈が間違ってる。そうか。俺のメールだけ見たんだな。その時亜美が、『会わせて上手く行かなかったら、私と美穂の友情にヒビが入るから嫌だ』と言ってきたんだ。だから俺が言ったのは、『美穂と亜美の仲は壊さない。万が一そんな事になったら、俺は美穂から手を引く』って事なんだが?」
……せ〜い〜じ〜っ!!
話が全然違うじゃない!
あんぽんたん!
どうせ見るなら両サイドの話を見なさいよっ!
誠二くんの話を鵜呑みにしていた自分を棚に上げて、思いっきり彼を扱き下ろす。
まぁ、それは置いておくとして…
律さんの話は筋が通っているし、話し方に淀みがない。信じられそうだ。
秘密を共有しているのは気になるところだけど、律さんには後ろめたさがみられない。疾しい秘密ではないのかな。
でも、秘密を共有したり、メールをやり取りしたり、親し過ぎるんじゃない?
会社の後輩の奥さんと、それほどまでに親しくするものなの?
「あっ!」
「なんだ?」
そうだよ。メールに意識を向けてて忘れてたけど、亜美、言ってたじゃん。
「亜美が言ってたんですけど…」
「うん?」
「律さんが私を選んだから、もう自分には誠二くんしかいないって。亜美も、律さんと誠二くんのどちらかを選択しなくちゃいけない今、誠二くんを選んで後悔はないって。」
うん。要約すると、こんな感じだよね。
律さんはビックリした顔でこちらを見て、目をパチパチさせた。
「嘘だろ?」
「事実です。」
「それだと、亜美が俺の事を好きだったように聞こえるが?」
「私にも、そう聞こえますね。」
「本当に亜美がそう言ったのか?」
「はい。だから、もうコレは間違いないなって思ったんです。」
どうやら律さんは、亜美の気持ちに気付いてなかったみたいだな。だとしたら複雑な心境だろうな。
私も複雑だけど。
二人が不倫してると思ってたから、亜美に変な態度をとっちゃったし、意地悪も言っちゃった。
最後の最後で、亜美は思い止まったのに。
しかも、片思いの相手を奪っちゃったんだ。
夫がいるのに、片思いの恋をしてるってのも問題だけど。
「美穂が嘘を言ってるとは思わないけど、勘違いって事はないか?」
律さんの問いかけに首を振る。
「信じられないんだよ。あいつ、さっき言った『誠二に言えない事』で悩んでいる時に、『誠二と別れたくないけど、別れてあげた方がいいのかな』って言って泣いていたんだ。」
「相談してるうちに好きになっちゃったんじゃないですか?」
「そんなはずはない! お前に初めて会った日の前日に、メールをもらってるんだ。『誠二と別れるくらいなら、嘘をつく事だって平気だ』って。」
私は誠二くんから聞いた話を思い出していた。
ああ。『好きじゃなくなった』って誠二くんが言い出した原因のメールね。
って。ええっ!
別れたくないのは誠二くんとなんだ!
完全に誠二くんの誤解だったんだ。あのバカ。散々人を振り回しやがって!
「亜美が俺を好きだったとなると、俺は誠二に対して後ろめたいよ。」
心の中で誠二くんに悪態をついていた私は、律さんの言葉にハッとした。
「近くなりすぎたかな。」
律さんはそう言うと、自嘲気味に笑った。
「それでも、俺が選んだのは美穂だ。俺の出会った全ての女の中から、俺はお前を見つけたんだ。何があっても手放す気はないからな。」
そして唇に唇を合わせ、触れ合うだけのキスをした。
離れる瞬間、もう一度軽く触れ合い、律さんは立ち上がった。
「今日は帰るよ。」
「電車、もうないですよ。」
「途中でタクシーを拾うから。」
同じ夜を過ごせない事を残念に思いつつも、亜美の事を考えると私の気持ちも萎んでしまい、律さんの後に続いた。
律さんは、玄関まで来てサンダルをはく私に『外は危ないからここで』と言って、また一つ、キスを落とした。
「じゃあ、またな。鍵、忘れるなよ。」
ドアがバタンと閉まり、カッカッと靴音が遠ざかって行った。
私は、亜美の思いと、彼女が律さんと共有する秘密に微かな不安を感じながら、そっと鍵を締めた。