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闇色の翅  作者: 李音
妖精章Ⅹ 地獄の季節
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地獄の季節-14

 シルフリアの都心部の大通りでは人々が外に出てきて、空に集まるフェアリー達を見上げていた。彼らは妖精達が何の為にシルフリアに集まっているのかまだ知らない。

 一体のフェアリーが超高速で降下してくる。そして音もなく人々の中に降り立ち、六枚の闇色の翅を開いた。コッペリアであった。

「何だこのフェアリーは?」

「きれいな翅をしているな」

 コッペリアの姿に気づいた人々は、何となく流麗な妖精の姿を見ていた。

「よう人間ども、死にな」

 コッペリアがピジョンブラッドの瞳を見開いた瞬間、無数の衝撃波が周囲にあるものを切り裂いた。十数人という人間が一瞬でバラバラになって吹き飛ぶ。辺りに血と肉片の雨が降り、それを目撃した人々が悲鳴をあげて逃げ出した。何が起こったのか分からずに呆然とする人々を、恐怖に駆られた人間が押し倒し、無数の悲惨な死体を新たに目撃した人々が新たな悲鳴をあげて逃げ惑う。コッペリアの周囲では見る間に混乱が極まっていった。そこに上空から無数の緑色の光線が降った。エインフェリアたちが槍から放った光に、人間たちが次々と撃ち抜かれて殺されていく。数分で大通りは屍の園と化した。その中で、無傷で生きている人が何人かいた。少年や少女が多かったが、中には大人もいる。フェアリー達が生き残った人間の近くに降りてくる。生き残りの一人の少年が、数人のフェアリーに腕や服を掴まれた。

「何するの、離して、怖いよ!」

 少年の近くでは、父親が胸に風穴を開けて死んでいた。少年は自分も殺されると思って諦め、体中の力を抜いた。周囲に開かれた惨劇を見れば、生き残った誰もが、もはや望みは無いと諦めの境地に達した。

 フェアリー達は少年を掴んだまま飛び上がる。どんどん上昇し、少年の目下で街はどんどん小さくなっていく。

「ど、どうするつもりなの?」

 フェアリー達は何も言わずに、少年と一緒に飛び続ける。少年は最初、落とされるかと思ったが、その反面、恐怖心がなくなっていった。大人にはない感受性が、フェアリー達の目的が殺すことでない事を理解させてくれた。やがて少年は、フェアリー達の手によって、街を見下ろすことが出来る丘へと運ばれた。少年だけではない、フェアリー達は次々と生き残った街の人間を、その丘へと運んでいた。人間を導く妖精たち、その光景は少年から目の前で父親が殺された悲劇を忘れさせるほどに幻想的であった。


 街の中心部で多くの人間を殺したフェアリーの大群は、コッペリアの先導により次の殺戮の舞台へと移動していた。コッペリアが目指したのは、街に不釣合いな建造物、フェアリープラント社のビルであった。フェアリープラントが崩壊した今も、ビル内では多くの社員が残務整理をしていた。百体を越えるエインフェリアが、そのビルを包囲した。フェアリー達の姿に気づいた人間達は、窓辺に集まり妖精達の姿を見ていた。すると、エインフェリア達が光り輝く槍を一分の差もない動作で同時にビルの方に向ける。そして、彼女らの槍先のフォトンのエネルギーが増大して輝きが増していく。その時点で窓辺で見ていた人間達は危険を感じて逃げ出したが遅かった。全てのエインフェリアの槍から一斉に光線が放たれ、全てビルに撃ち込まれた。ビルの無数の箇所から爆発が起こり、窓という窓かが割れて爆炎が吹き出る。同時に多くの人間が火達磨になりながら窓から投げ出された。中に残ったほとんどの人間も炎に焼かれ、ビル全体が悲惨な悲鳴とうめき声に包まれた。運よくビルの外に逃げ出した人間もいたが、エインフェリアが空から襲ってきて全員槍で刺し殺された。そして、ビルの頂上に降りたコッペリアが六枚の闇色の翅を開いた。同時にコッペリアの周りに白い光が収束していく。

「ククッ、アハハ、アハハハ、アーッハハハハハ!」

 コッペリアの狂気をはらんだ笑い声と共に、かつて帝国の城を消し去った、全てを破壊する死の閃光が放たれた。白い光がコッペリアから球形に広がり、あっという間にビルの半分以上を飲み込んだ。


 妖精達がフェアリープラント社のビルを襲っていた正にその時、サーヤはやっとの思いでフェアリーラントからシルフリアの近くまで帰ってきていた。そしてサーヤは見た、いつも見慣れていた忌まわしいビルが光に飲み込まれ、街からは炎や煙が上がっているのを。

「たくさんのフェアリー達がシルフリアを襲ってる!? 何これ、何がどうなってるの!?」

「コッペリアの仕業だ! あいつがフェアリーを集めてシルフリアを襲わせているんだ!」

 シルメラが言うと、いつも希望を灯すサーヤの胸の中に暗い感情があふれ出し、それに合わせて表情が悲愴の色に染まった。いつもサーヤの側にいるシルメラだが、サーヤのそんな顔は初めて見た。

「どうしてコッペリアがそんな事をするの……?」

「フェアリーに対して罪を負った人間を殺すのが、あいつの本質だ。多くの人間がフェアリーに対して積み上げた業を浄化する。シルフリアにはフェアリーを傷つける人間が多すぎた、だから浄化の対象になってしまったんだ」

 ああ、そうか、とサーヤは思わず納得してしまった。本当はシルフリアから火の手が上がっているのを見たその時に、半分以上は理解していた。

「このままじゃ街は全滅だ。わたしとサーヤなら止められる、早く行こう!」

「え? う、うん……」

 フェアリー達に街が襲われているというのに、何故かサーヤは迷いを見せていた。シルメラはそれがとても気になったが、詮索している暇はないので、先に飛んで街へ向かった。

「あ、シルメラ、待って!」

 サーヤは走ってシルメラの後を追う。その右手にはまだウィンディの命の残骸であるアメシストが握られていた。


 シャイアはひしめく様に死人が倒れている通りをゆっくりと歩いていた。まるで初めて来た街を物珍しそうに観光するような風情で、彼女はフェアリーに殺された人間など道端に転がる石ころ同様に気にしていなかった。その代わりに目に付いたのが、地獄と化した街の中で無傷でいる人間だ。シャイアには、フェアリー達が殺す人間を選んでいる事が分かっていた。

 そしてシャイアは足を止める。目前には返り血を浴びた自分よりも年下の少女が座り込んでいた。彼女の周りには屍が折り重なっている。それは少女の関係者かもしれなかった。少女は抜けるような青の上を飛び交うフェアリーの群れをただただ見上げていた。その現実離れした光景は、青い画板に描かれた一枚の絵のようにも見える。少女の青い瞳の中に見えるものは、絶望よりも希望、地獄よりも幻想、フェアリーに選ばれた人間達は、何となくではあるが自分がなぜ生き残っているのか理解していた。そのようにして生き残った人間たちを何人か見てシャイアは思った。

 ――プラントが崩壊しなければ、世界中にエインフェリアがばら撒かれて、世界中でこれと同じことが起こるはずだった。フェアリーに適応しない人間は全て淘汰され、フェアリーと共存できる人間だけが生き残る。そうなれば例えフェアリーが人間に従う存在だとしても、フェアリーによる間接的な支配が成立する。サーヤが人間を信じなければ、妖精帝国が出来上がっていたというわけね。けれど、そうなはらなかった。サーヤは人間を信じた。だからコッペリア、あなたは要らない子になってしまったのね、可愛そうに……。

 シャイアは走り出した。一秒でも早く、コッペリアに会いたい。心の中はそう言う気持ちで一杯で、後ろからついてくるメイルリンクの事など見えていなかった。

「ねぇねぇシャイア、遊びに行ってもいいでしょ?」

 シャイアは何も答えず走っている。

「ねぇったら! メイルもみんなと一緒に遊びたいの!」

 答えはなかった。メイルはむくれて宙に止まった。

「むぅ、もういいよ! メイル一人で遊びに行っちゃうからね!」

 メイルリンクはシャイアから離れると、気の赴くままに飛んでいった。その先には立派な屋敷が見えていた。


 フェアリーに選ばれる人間は圧倒的に子供が多い。中には成熟した大人もいるが、その数は子供に比べて十分の一程度だ。なぜ子供が選ばれるのか、少年少女は穢れの少ない純粋な心を持っている為、フェアリーを素直に受け入れる事ができるからだ。しかし、中には例外もあった。

 エルシド・コンダルタは、シルフリア・シューレを退学にされてからというもの、自分の屋敷で働いているフェアリーワーカーに毎日のように凄まじい虐待を加えていた。学校を退学になったのは自分が悪いのだが、それを全てフェアリーのせいにして、何の抵抗も出来ないフェアリーワーカーに対して恨みをぶつけるのだ。フェアリーを殺すことなど日常茶飯事で、酷い時は日に3人以上のフェアリーを殺す事もあった。だいたいはストレス解消の為に棒や鈍器で叩き殺す事が多かったが、手足を一本ずつ切り落としていったり、首をノコギリで切ったりと、恐ろしく残酷な殺し方をする事もある。

 シルフリアの上空をフェアリーが埋め尽くしたその日も、エルシドは当然の権利と言わんばかりに一人のフェアリーワーカーに虐待を加えていた。

「お前、目障りなんだよ!!」

 庭で植木の剪定をしていたフェアリーに目をつけたエルシドは、罵声と共に力いっぱい持っていた鉄の棒で小さな頭を殴った。フェアリーの持っていた鋏が衝撃で吹っ飛び、頭から血を飛び散らせながら、小さな体が地面に叩きつけられた。

「うう、ふううぅ……」

 暴行を加えられたフェアリーワーカーが泣き始めた。エルシドはワーカーが泣くところなど初めて見たので、一瞬眉をひそめる。今まで殺してきたワーカーは、どんな事をしても声など出さなかった。

「なんだこいつ、泣いてるぞ! こりゃいいや! もっともっと泣き叫べ! 泣いて僕を楽しませろ!」

 エルシドは深くは考えずに、嗜虐性の赴くままに頭から血を流して泣いているフェアリーを何度も踏みつけた。

「あうぅ、痛いよ、やめてよぅ……」

「あはははっ、いいぞ!! もっと苦しめ!! 僕の恨みを思い知るがいい!!」

 エルシドはますます残虐性を増し、次で踏み潰すつもりで全体重をかけて足を踏みおろした。その時、小さな影が飛び込んできて、エルシドの足を止めた。

「な、何だ!!?」

 エルシドが足の下を良く見ると、闇の中にオーロラが浮かんだような色彩の翅のフェアリーが、エルシドの足を支えて虐待を受けていたフェアリーを守っていた。メイルリンクであった。

「悪いことする奴は許さないんだからね!」

 メイルリンクがジャンプすると、エルシドは足を押し上げられて後ろに倒れこんだ。

「うわわっ!?」

 尻餅をついた彼は、すぐ先の視界で傷ついた仲間を労わる見たこともないフェアリーを凝視していた。なぜだか足がすくみ、体が得体の知れない恐怖で震えた。逃げなければ思うのだが、余りにも衝撃的な恐怖の為に体が動かなかった。おかしい、と彼は思った。目の前にいるのはちっぽけなフェアリーで、見た目は怖くないどころか、限りなく愛くるしい。それなのに恐ろしくて体が動かない。尋常ではない感覚だった。

「大丈夫?」

「あうぅ、いたぁい……」

「酷いことするねー」

 メイルリンクは暴行を受けて傷だらけのフェアリーを助け起こしながら言った。そこへ他のフェアリーワーカーも近づいてきて、傷ついた仲間を心配するような様子を見せていた。エルシドはその光景の余りの異様さに言葉もなかった。意思を持たないはずのフェアリーワーカーにはあり得ない行動だ。何かが狂っている、エルシドはここまできてそう思い始めた。その時、メイルリンクのピジョンブラッドとオレンジサファイアの中間色の瞳がエルシドを睨み付ける、それとほぼ同時に、他のフェアリー達の恨みのこもった視線もエルシドの一身に集まった。まるで全てのフェアリーが、メイルリンクに従っているかのようだ。

「ううっ!! っああぁ!!」

 エルシドは叫び声をあげたつもりだったが、恐怖で体が固まってうまく声が出なかった。

 ――逃げなきゃ、逃げなきゃ!!!

 エルシドは体をばたつかせ、硬直する体を無理やり動かし、やっとの思いで立ち上がると、言うことをきかない足で転びそうになりながら前に進んだ。すると、ようやく逃げられると思ったエルシドをあざ笑うかのように、小さな手が彼の後ろ髪を掴んで強靭な力で引き倒した。

「いてぇっ!? うわああぁぁっ!!! やめてぇっ!!!」

「逃げちゃ駄目なんだよ、メイル達はこれからお兄ちゃんで遊ぶんだからね!」

 エルシドの頭上でメイルリンクの声がした。

「あ、遊ぶって何だよ!!? やめろよ、離せよ!!」

 エルシドは狂ったように叫んで暴れるが、そんな事は意に介さずにメイルリンクはものすごい力で引っ張った。そうして他のフェアリーが集まっているところまでエルシドを引きずっていく。

「みんな、こいつどうしようか?」

「この人間は、わたしたちの仲間に酷いことをしてきたわ」

 一人のフェアリーが言った。

「僕達は、こいつに沢山の仲間が殺されるところを見てきた」

 もう一人のフェアリーが言って涙を流した。

「殺された仲間は本当に可愛そうだった、みんなすごく痛かったでしょう、すごく苦しかったでしょう」

 三人目のフェアリーが言って、やはり涙を零した。メイルリンクは名案を閃き、仲間たちに向かって言った。

「じゃあ、こいつも同じ目に合わせてやろうよ!」

 すると、周りにいるフェアリー達が同時に頷き、その中の一人が言った。

「なら、地下室へ。そこにはこいつが僕たちの仲間をいじめていた場所があるんだ」

「じゃあ、こいつを皆で運ぼ~う」

 メイルリンクの一声で、十人程のフェアリーがエルシドの体のあちこちを掴んで飛んだ。

「な、何するつもりだ!!? やめろ、やめろーーーっ!!! 下ろせぇーーーっ!!!」

 エルシドがフェアリー達の手で運ばれていく。屋敷の中に入ると、エルシドが鬼気迫る声をあげているのですぐに屋敷中の執事やメイドが集まってきた。

「な、何をしているお前たち! 坊ちゃまを放さんか!」

 年老いた使用人のリーダー格の男が、フェアリー達の奇妙な行動に面食らいながらも、強気を保って言った。フェアリー達は人間共の存在などまるで気にしていない。ただ黙ってエルシドを運んでいた。

「おい、猟銃を持って来い! 全部撃ち殺すんだ!」

 執事の何人かが姿を消し、やがて銃を片手に戻ってくる。彼らはエルシドを運ぶフェアリー達に銃口を向けた。その瞬間、何かがさっと延びてきて、その鋭い切っ先が銃を構える執事の一人の額に突き刺さり、後頭部へと突き抜けた。頭を貫かれた男は銃を落とし、白目をむいて痙攣した。メイルリンクの鮮やかな色彩の翅が、執事の額に向かって伸びていた。

「邪魔をしてはいけないの」

 メイルリンクが笑みを浮かべながら言うと、銃を持っていた他の男たちが戦慄し、反射的にメイルに向かって銃を向けた。銃口が火を噴くのとほぼ同時に、銃弾が見えない力によってメイルの直前で弾かれて壁や天井を穿った。メイルはもう動かなくなっている執事の額から翅を引き抜くと、今度は四枚の翅全てで隣にいた執事の体中を貫いた。絶命寸前に凄まじい悲鳴があがる。銃を持った最後の一人が、震えながらまた銃を構えた。

「う、うわあああぁっ!!」

 恐怖を振り切ろうと凄まじい声を上げ、引き金を引こうとしたその時、メイルリンクが赤い瞳で男を見つめた。そして男は衝撃を受けて上に吹き飛んだ。男が落下を始めたとき、宙に血や内臓がばらまかれ、上半身が切断された胴部から足はまだ床の上に立っていた。途端にメイドたちの悲鳴があがり、余りの凄惨さと恐怖に耐え切れずに、ほとんどの人間がその場から逃げ出した。

「あははっ、追いかけっこ追いかけっこ! メイルが鬼だよ!」

 メイルリンクは逃げた人間たちを追いかけ始めた。彼女は空を飛んでいる上に恐ろしく素早いので、誰一人として逃げ切ることは不可能であった。まず犠牲になったのは、使用人のリーダー格の男だった。メイルリンクは彼に真っ先に目をつけて追いかける。

「あはは、早く逃げなきゃ捕まえちゃうよ~」

「うあああ!! く、来るな、こっち来るな!!」

「つかまえた~」

 その声が男の真後ろで聞こえたと同時に、メイルリンクが放った衝撃波で首が切断された。頭が床に転がるのと一緒に、体は血を吹きながら前のめりに倒れた。次に犠牲になったのも執事の男で、メイルリンクは首に翅を巻きつけて捕まえると、持ち上げてから別の翅で死ぬまで体を突き刺しまくった。そのようにして屋敷中の人間が次々と惨殺されていった。それはメイルリンクにとっては遊びに過ぎない。

 エルシドはメイルリンクの起こす惨劇を目の当たりにして、自分がどんな恐ろしい状況に置かれているのかようやく理解した。体が凄まじく震え、冷や汗が体中から噴出す。恐ろしさの余り体に怖気が走った。もう声を上げることも、暴れることもできなかった。

 屋敷の使用人の中で、たった一人だけ生き残った少女がいた。彼女はいつも一緒に働いているフェアリーワーカーをぎゅっと抱いて震えていた。

「あなたは大丈夫、殺されないわ」

「え?」

 少女に抱かれているフェアリーが言った。少女は周りで起こっている惨劇を忘れるくらいに驚いた。

「あなた、しゃべれるの?」

「しゃべれるようにしてくれたの、いま屋敷の人間を殺しているフェアリーがね」

「あのフェアリーは何なの?」

「分からないわ。とても強くて不安定な存在、狂気と純粋さを併せ持つ無垢の存在、そして妖精達の心の扉を開くことが出来る存在、妖精(わたし)(たち)にとっては天使だけれど、人間たちにとっては悪魔ね」


 エルシドは淡々とフェアリー達によって地下室へと運ばれていた。彼はフェアリーを寝かすための小さな寝台の上に下ろされ、荷造りや荷運びを専門に行うフェアリーワーカー達が縄を持ってきて、エルシドの手足をうまい具合に縛り上げた。

「な、何する気だよ、お願い、許して……」

 エルシドは今までいじめ殺してきた存在に、震える声で許しをこうた。そこへ屋敷中の人間を殺したメイルリンクがやってきて、寝台で動けない状態のエルシドを見ると楽しそうな笑みを浮かべた。まるでゲームを始める前の子供のように浮き浮きしている。それからメイルリンクは、壁にぶら下がっている様々な器具に興味を示した。

「うわぁ、何これ! 色々あるよ、おもしろ~い!」

 壁にはコノギリや鉈や斧、ナイフやメス、鋏から拷問器具まで様々な凶器がそろっていた。エルシドが気に入らないフェアリーを解体する時に使っていたものだ。メイルリンクはその中からナイフを握ると言った。

「みんなで好きなの選んで、こいつで遊ぼうよ!」

 その言葉に従い、フェアリー達は思い思いの凶器を手にしてからエルシドの周りに集まった。

「い、い、いやだっ!! やめろ、やめてくれぇーーーっ!!!」

「えへへっ、お兄ちゃんはここでわたしの仲間をたくさん殺したんでしょ? だからわたし達も同じことしていいんだよ、これは当然の権利って言うんだよ」

 メイルリンクがエルシドの上に立ってナイフを振り上げた。エルシドは泣きながら言った。

「止めて、止めてくれよぉ!!! お願いだよ!!! 謝るから、全部謝るからっ!!!」

「えいっ!」

 可愛らしい掛け声と共に、メイルリンクがナイフをエルシドの鳩尾に突き刺した。

「ぶがあっ!!? 痛い!!! 痛いよぉーーーっ!!!」

「え~いっ!」

 メイルリンクは一気にナイフを動かして、鳩尾から下腹部まで引き裂いた。その時、ただ一人屋敷の中で生き残ったメイドの少女は、地下から広い屋敷の隅々まで行き渡るような凄まじい悲鳴を聞いた。

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