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闇色の翅  作者: 李音
妖精章Ⅵ 破滅への序曲
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破滅への序曲‐2

「残念だよ、クライン君」

 日曜日の朝に、クラインは院長室に呼ばれ、院長のマレシュトロフ・シラクの前に立っていた。院長の傍らには、まるで秘書でもあるかのように、ニルヴァーナを肩に座らせるセリアリスがいて、閉じた両目をクラインの方に向けていた。

「悪いのはエルシド・コンダルタだという事は分かる。だが、それを踏まえた上でも、君の行動は軽率すぎた。シルメラにレディメリーをぶつけたおかげで、多くの生徒が巻き添えに合って怪我をしたのだよ」

「返す言葉もありません…………」

「たった今より、君から教員の資格を剥奪する。当然、副院長の座からも降りてもらう事になるよ。代わりに、ここにいるセリアリスに、副院長になってもらう。異論はないね」

「ありません」

「君には別の仕事を与える。ガーディアン・ティンクの研究を進めたまえ」

「院長、良いのですか!?」

「研究室は今まで通りに使用を許そう。わたしは興味があるのだよ。マスターとの絆によって、無限の力を発揮するというフェアリーにね」

「一人の妖精使いと、そのフェアリーが、ガーディアン・ティンクの構想を完成させてくれました」

「うむ。わたしはガーディアン・ティンクが人間と妖精に平和をもたらしてくれる様な気がしているのだよ」

 院長が言うと、セリアリスが笑い出した。クラインはそれを鋭く睨み付けた。

「何がおかしい!」

「だって、あんなどうしようもない生徒を平然と黙認していた人たちが、人と妖精の平和を語るなんて、笑っちゃう」

「君、失礼ではないか!」

「エリアノは、人と妖精が手を取り合って平和な世界を築く事を願って、この学校を作りました。それが今となっては、お金と権力の力で、妖精使いに相応しくない人間でもマイスタークラスに入れてしまう。ほんと、どうしようもなく腐っているわ。ニルヴァーナもそう思うでしょ?」

 セリアリスの肩に座っているフェアリーが一つ頷く。クラインはむきになって言った。

「いい加減にしたまえ!」

「いいのだ、クライン君。彼女の言っている事は正しい。エリアノの娘もそれを認めているのでは、反論のしようもあるまい」

 マレシュトロフは、窓際まで歩いて誰もいない庭園を見下ろして言った。

「多額の寄付金に目が眩んだと言うのも事実だが、何よりも多くの権力を持つフェアリープラント社が恐ろしい。わたしには、その身を犠牲にしてまで、人と妖精の為に戦う事が出来なかった。歴代の院長たちも、同じ気持ちだったに違いない。だから、野放しにされたフェアリープラントによって、人と妖精の関係がこれほどまでに破壊されてしまったのだ」

「エリアノが信じていたもの全てが、彼女を裏切ったわ。このままでは、人と妖精の世界が完全に壊れてしまう」

「変えるなら今しかない。これ以上時が過ぎれば、手遅れになる」

 マレシュトロフは振り返り、真剣な表情に固い決意を込めて若い二人に言った。

「君たちの前で誓おう。わたしはこの命を賭けて、人と妖精の平和を取り戻す。その為にまずは、エルシド・コンダルタを退学処分とし、寄付金も全て返還する。フェアリープラント社と完全に手を切り、シルフィア・シューレを真の妖精使いを育て上げる学校にしていこう」

 セリアリスが賛同の意を込めて拍手をすると、ニルヴァーナもそれを真似して小さな手を叩いた。一方、クラインの方は手放しには賛成できないような、強張った顔をしていた。

「院長がそう言うのならば、わたしは出来る限りの事をさせてもらいます。しかし、お気をつけ下さい。奴らは必ず報復をしてきます」

「分かっている。大きな変革には必ず大きな反発が伴う。わたしはこの命がないものと思って臨んでいくつもりだ」

「わたしとニルヴァーナが院長をお守りします」

「君にそう言って貰えると、心強いね」

 何かが変わっていくのを感じたセリアリスは微笑を浮かべていた。


 シェルリはテスラと一緒に、町外れの妖精の墓場に来ていた。彼女はサーヤの戦いの証の一つ一つに、一輪の花を手向けながら言った。

「サーヤは、意味があるかも分からない戦いをずっと続けている。わたしも、フェアリーの為にどんな事でもしようと思っている。人間は苦しんだり悲しんだり頑張ったりして、生きていくものだし、それはフェアリーも同じだと思うの」

「フェアリーと人間が同じ?」

「そうよ。フェアリーは人間の使い魔じゃなくて、共生者なのよ。だから、フェアリーも人間と同じ様に、辛い事や苦しい事を乗り越えていかなくちゃいけないの」

 シェルリの言いたい事を何となく悟ったテスラは、下を向いて黙ってしまった。

「あなたは過去にすごく辛い思いをしているんだよね。けど、戦うべきときに何も出来なければ、もっと辛い思いをする事になるんだよ」

「ふうぅ……」

「わたしは本当に必要な時だけしか命令しないよ。昨日はウィンディが頑張ったから、サーヤは無事に済んだけど、テスラがシルメラを止めてくれれば、少なくともレディメリーはあんなに酷い怪我をしなくても済んだし、たくさんの生徒が傷つく事もなかったわ」

「シェルリ、ごめんなさい……」

「済んだ事は仕方がないよ。次は頑張ろう。わたしはテスラを信じているからね」

「うん!」

 元気の良い返事を聞いたシェルリは、愛しいフェアリーを抱いて、その頭を撫でてやった。

「あなたなら出来るわ」

 テスラは遠い昔に聞いた言葉に胸を突き動かされ、コーンフラワーブルーの瞳に涙を浮かべた。


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