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闇色の翅  作者: 李音
妖精章Ⅳ フェアリーに祝福されし少女たち
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フェアリーに祝福されし少女たち-1

 今や季節は夏の初め、少しずつ気温が上がり、森の色はよりいっそう緑が濃くなり、自然はにわかに活気付いてきた。  

この頃、サーヤが来たのとは逆方向の門から、シルフリアの町に入ってきた少女がいた。

「あれが噂に聞くフェアリープラント社のビルかぁ」

 少女は額に手をかざして遠くに見える円柱形のビルを眺めていた。

「でかい・・・」

 後ろから風が駆け抜け、長い薄桃色の髪が騒いだ。大きな旅嚢を背負い、空色のローブを着た少女は、青い瞳を輝かせて「よし!」と気合を入れた。

「この街が、わたしたちの活躍のステージとなるのね。さあ、行くよ、テスラ」

 と少女が肩に手を伸ばすと、そこに乗っていたはずのものが忽然と消えていた。

「あれ、テスラ?」

 少女がその者の姿を探すと、旅嚢の口から青色の透き通った翅がはみ出していた。

「ちょっと、あんた、何隠れてんのよ!」

 少女が旅嚢に手を突っ込んでそれを捕まえると、それは中の荷物にしがみついて激しく抵抗した。

「いやだっ、怖いぃっ」

「何が怖いのよ、臆病にも程があるわよ!」

 少女が無理やり引っ張り出すと、中から青いドレスのフェアリーが出てくると同時に、桃色や白など淡色の生地がぱっと空中に舞った。前と後ろからやってくる通行人たちが注目する。一瞬だけ少女の時が止まった。

 宙に舞ったのは少女の下着類だった。

「きゃあぁぁ!? 何てことするのよ、恥ずかしい!」

「ごめんなさい・・・」

「見てないであんたも手伝いなさい!」

 少女は紅潮しながら下着を掻き集め、青いフェアリーはあまりやる気がなさそうに、下着を一枚拾っては旅嚢に詰め込んだ。その緩慢な動作のために、再び少女にどやされるフェアリーであった。

 少女の名はシェルリ・ミエルと言い、彼女はセリアリス・ミエルの妹だった。


 リーリアの通うシルフィア・シューレは、妖精使いを養成するための学校である。この学校には実力主義的な要素があった。一年から三年までの学年は存在するものの、それ以外にマイスタークラスというものがあり、そこには学年の枠を越えて優秀な生徒だけが集められていた。リーリアは今年入学したばかりだが、すでにマイスタークラスに在籍していた。

 この日の学校は、何かがいつもと違っていた。それはとても小さな変化と、非常に大きな変化が一つずつ紛れ込んでいたからだ。小さな変化は、学校にフェアリーを連れた新しい掃除係が来たという事だった。

 マイスタークラスの教室はやたらと広い扇形で、固定された木机は階段状に配置されていた。

教室にいる生徒たちは、半数程度がフェアリーを連れていた。フェアリーは人間よりも髪の色が豊富で、さらに明色の服を着ているのが多いので、フェアリーの存在があるだけで、教室の雰囲気は数段明るくなった。

 リーリアとエクレアは、一番外側の席で教壇を眺めていた。他の生徒たちも同じだった。ちょっとした期待の込められた視線が集中している。

 教室に教師が入ってくると、視線が一斉に移動した。それらを一心に浴びるのは、教員の後ろについて堂々と歩くシェルリだった。

 眼鏡をかけた人の良さそうな男の教師が、咳払いをした。すると、教室は水を打ったように静まった。

「皆も知っていると思うが、本日このマイスタークラスに転校生が来た。それでは早速・・・」

 教師が言い終わらない内に、シェルリは前に出てきて勢い付いて言った。

「シェルリ・ミエルと言います。血液型はO型、趣味はお散歩とか、美味しいもの食べ歩いたりとか、フェアリーと一緒に遊んだりとか、ええっと、優柔不断は大嫌いで何事にも白黒付けたいって性格で、あと目標は世界中の可愛そうなフェアリーを救って、平和の為に役に立つこと! 以上、よろしくっ!」

 いきなり予想外の自己紹介に誰もが唖然とした。シェルリはそんな事はまったく気にせずに続けた。

「さらにっ! わたしの相棒を紹介するわ。黒妖精のテスラよ」

 黒妖精という単語が出てきた瞬間に、生徒たちの間からざわめきが起こった。世界で四体しかないフェアリーを目の前の少女が持っていると言うのだから驚くのは当然だ。

 しかし、シェリルが指し示した肩の上には何もいなかった。

「あら? どこいったの?」

「シェルリ君、背中に・・・」

 担任が苦笑いを浮かべていた。テスラはシェルリの背中にしがみついて隠れていた。

「ちょっ、何やってんのよあんた」

「やだぁっ」

「やだじゃない、自己紹介しなさいよ」

 シェルリは背中に手を伸ばすが、テスラは絶妙な場所にぶら下がっているので、なかなか捕まえることが出来なかった。

「先生すみません。ちょっとこれ取ってもらえます?」

 シェルリは顔を赤らめながら仕方なく担任に頼んだ。次第に抑えた笑い声が増えていく。

 担任は戸惑いながらもテスラの両足を掴んで引っ張った。

「いや~っ」

 テスラは思いのほか強い力でシェルリの服を掴んで離さない。

「こら、服が伸びるって! いい加減離しなさいよ!」

 ついに誰かがこらえきれずに笑い出すと、堰を切ったように笑いが渦となった。

 テスラは手を離すと、ツバメのような速さでシェルリの胸に飛び込んだ。

 教室は大騒ぎで、もう自己紹介どころではなかった。

 シェルリは絶頂に恥ずかしい中を、担任の指示した席に下を向いて歩いていった。シェルリの席は、リーリアの隣だった。

「まったく、テスラのせいで大恥だよ」

「ふうぅ・・・」

 テスラは怖がる幼子のように、シェルリにしがみついているばかりだった。

 授業が始まって教室が落ち着きを取り戻した頃合に、リーリアはシェルリに話しかけた。

「あなた、さっき世界中の可愛そうなフェアリーを救いたいと言っていたわね。そんな事が本当に出来ると思っているの?」

「もちろんよ! 人間、やろうと思えばどんな事だってできる!」

 シェルリは握り拳を作り、力を込めて言った。その姿に迷いは微塵もなかった。

「なるほどね」

 すると、エクレアが邪魔するように二人の間に割って入ってきた。

「そんなの無理に決まってるでしょう。世の中見てみなさいよ。今やフェアリーの暗黒時代よ」

「貴方は黙りなさい」

 リーリアは後ろからエクレアを捕まえて、机の端に座らせて強制退去させた。エクレアは小さな子供のように足をぶらぶらさせて、むくれた顔をしていた。

「確かに貴方の言うとおりだわ」

「へぇ、驚いた」

「何が?」

「今まで、わたしが言ったことを本気にしてくれた人なんていなかったから」

「わたしも今の人間とフェアリーの関係を何とかしたいと思っているの」

 リーリアが言うと、シェルリは笑顔で手を出してきた。

「わたしたちはもう友達だよ。フェアリーの為に一緒に頑張ろう!」

「ええ、よろしく、シェルリ」

 友情を育む主人を見ながら、エクレアは面白くない顔をしていた。それからエクレアは退屈な講義を紛らわす為に、テスラをじっと見つめていた。テスラはその視線に気付き、怯えて小さく縮こまった。

 ―う~ん、この子、ずっと前に見たことあるよねぇ。

 エクレアは遠い過去を掘り起こそうと試みたが、何も思い出す事ができなかった。


 一時間目の授業が終わる頃、サーヤは校舎の中をうろついていた。

「掃除用具ってどこにあるんだろうなぁ。ちゃんと聞いとけばよかった・・・」

 サーヤはシルフィア・シューレに掃除係として雇われたのに、掃除用具のある場所が分からずに途方にくれていた。

「どうしよう、ウィンディ・・・」

 サーヤが目の前を飛んでいる相棒を見上げると、ウィンディはにっこり笑って、勝手にどこかへ飛んでいった。

「あれ? どこ行くの?」

 といっている間に、ウィンディはサーヤの前から消えた。

 サーヤがウィンディを探して歩いていると、しばらくしてからウィンディがやたらと長いパンを抱えて戻ってきた。

「はい!」

 ウィンディは得意げに、パンをサーヤに差し出した。

「はいって、パンで掃除はできないよぉ・・・」

 サーヤが顔を引きつらせて言うと、ウィンディはパンを持ったまま何食わぬ顔でサーヤの頭の上に腹ばいに乗っかった。そのとき、サーヤは大変なことに気付いた。

「って、そのパンどっからもってきたの?」

 その答えはすぐに明かされた。コック帽をかぶったエプロン姿の若い男が、肩で息をしながら走ってくるのだ。厨房の人間に間違いなかった。

「駄目じゃないか、厨房のものを勝手に持ち出しちゃあ!」

 男はサーヤに向かって言った。フェアリーの犯した罪は主の責任なのだ。

「すいません! ごめんなさい! すぐに返します!」

 シェルリが頭を下げると、目の前に雪が降ってきた。

「え?」

 頭の上では、ウィンディがパンをかじっていた。雪だと思ったものはパン屑だった。

「あ、こら、食うなっ!」

 と言っても全てが遅かった。幸い、厨房の男は優しい青年だったので、笑って許してくれた。

 妙なアクシデントで、サーヤは一気に疲れてしまい、足取りが重くなった。ウィンディは主人の気持ちなど知らずに、主人の頭の上でパンにかじりついていた。

「もう、頭の上にパン屑こぼさないで」

「サーヤも食べる?」

 上からサーヤの目の前に、ぬっと食べかけのパンが現れる。

「いらない・・・」

 サーヤは苦笑いして言った。

 とにかく掃除道具を見つけなければいけないので、サーヤは気を取り直して学校の中を歩いた。結局は途中でフェアリーを連れた教員らしい男と出会って尋ねる事になった。

 男はまだ若い教員で、いいところ二十代後半というところだろう。銀髪に青い目をしていてる優男で、金色のボタンのついた青いジャケットを着ていて、ゆったりとしたズボンも青色だった。側に浮いているフェアリーは対照的に明るい色合いをしていた。透き通った蝶の形の翅は桃色で、サーヤを見つめる瞳も美しい桃色だった。肩にかかる金髪はウェーブしていて、両方の耳の上から首のあたりまで流れている垂髪を三つ編みにして、さきっちょを小さな白いリボンで結んでいる。水色のドレスは肩に膨らみがあり、スカートも縦溝があって大きく膨らんでいた。袖にはピンクのリボンが縫い付けてあり、超結びにされたそれが可愛らしい飾りになっていた。

「あのう、すみません」

「やあ」

「掃除用具ってどこにあるんですか? さっきから探してるんですけど分からなくって」

「ああ、一階の階段の下の倉庫にあるよ。生徒が授業中に掃除なんてするのかい?」

「いえ、わたし生徒じゃなくて、ただのお手伝いなんです」

「本当かい?」

 男は心底驚いたような顔をした。サーヤにとってはそんな顔をされるのが驚きだった。

「そんなに良いフェアリーと一緒なのに、君が生徒じゃないなんて信じられないよ・・・」

「え? 良いフェアリー?」

「あう~っ」

 サーヤが頭の上を指差すと、ウィンディが手を上げた。

「この子、ワーカーじゃないの?」

「はは、レディメリー、冗談を言ってはいけないよ」

「冗談なんかじゃないよ。ほんの少しだけど、ワーカーと同じ感じがする」

「ウィンディは、荷車を引いていたワーカーだったの。前の主人に殺されそうになってたから、わたしが引き取ったの」

 サーヤが言うと、教師は目を見開いて絶句した。サーヤには目の前の人が何故そんな反応をするのかさっぱりだった。言葉も出ない主人の変わりに、レディメリーと呼ばれたフェアリーが言った。

「人間がワーカーの心を開くって、ものすごい事だよ」

「え? そうなの?」

「なるほど、だから契約もしていないんだね。おかしいとは思ったよ」

「契約って?」

「ふーむ、それを教えるには足りないものがあるね。放課後にわたしの所へ来たまえ、そうすればわかるよ」

「あ、はい」

 サーヤは名も知らぬ教員と約束を交わした。

それから急いで一階にある倉庫に向かった。その途中の廊下で、胸に十字架の絵柄が入った丈の長い貫頭衣を着た聖職者とおぼしき初老の男と、黒いドレスにダイヤをあしらったブレスレットやピジョンブラッドのペンダントで身を飾る銀髪の女が前から歩いてくるのが見えた。女の後ろからは明らかに普通ではないフェアリーがついてきていた。

「あなたのようなお方に援助していただけるとは、本当に心強い限りですよ」

「わたくしも妖精使いの一人として、この学校を見守りたいと思っていますのよ」

「セイン財団に加えて、黒妖精のマスターである貴方様がオーナーともなれば、妖精使いを育てる学校として格も上がります」

 前から来るのはサーヤの記憶から決して消す事の出来ない恐ろしい夢魔だった。サーヤは廊下の真ん中で立ち尽くして恐怖に歪んだ顔で女を見つめた。

「あ、ああ、あなたは・・・・・・」

「だれ?」

 シャイアはおかしな様子の少女の前に立ち止まって訝しげに言った。

「あの、船にいた・・・・・・」

「船!!?」

 シャイアはほんの一瞬だけこれ以上にないくらいの驚きで顔を歪ませたが、すぐに元の鉄仮面のような冷徹な無表情を取り戻した。

「お知り合いですか?」

「さあ、こんな子は見た事もありませんわ」

 シャイアがそう言うのは当然なのだが、サーヤの方がシャイアを見ているのは、船という単語によって確実だと分からされていた。

「あなた、船がどうのとか言ったわね」

「はい・・・・・・」

「あの時の豪華客船にでも乗っていたのかしら? でも、あなたがそんな船に乗れるようには見えないわねぇ」

「あ、あの、わたしの見間違いだと思います・・・」

「そうでしょうねぇ」

 サーヤはコッペリアの姿もはっきり覚えていたので、見間違いであるはずはなかった。それでも否定しなければいけない気がした。それはシャイアの言葉の奥に隠されたとてつもない殺意によって、そう言わされたのだった。

 サーヤとシャイアが話している間、コッペリアはマスターの頭の上にいるウィンディをじっと見つめていた。ウィンディの方もコッペリアを見て、愛嬌のある笑顔を振りまいていた。

「お仕事頑張って下さいね」

 シャイアの隣にいた老人が穏やかな笑顔で言うと、サーヤは必要以上に頭を深く下げた。シャイアは何食わぬ顔で老人と笑談しながら去っていった。その後をついていくコッペリアが、やたらとサーヤの事を気にして何度も振り返って見ていた。

 それからサーヤは何も考えないようにして、掃除だけに集中した。そうして二時間ほど仕事をしていると、ずっと頭の上で見ていたウィンディが降りてきて、バケツの横に垂れ下がっている雑巾を掴んでサーヤに見せた。

「ウィンディもやる~」

「手伝ってくれるの?」

 サーヤの問いに、ウィンディは生まれたばかりの赤子に匹敵する純粋で無垢な笑みを浮かべた。

「いい子だね。じゃあ、あの上の方にある窓を拭いてくれる?」

「お~う!」

 ウィンディはサーヤがやっていたのを真似て、人間ではとても手が届かない高い窓まで飛んでいって、それを拭き始めた。

「いいよウィンディ、その調子!」

 ウィンディがあまりにも健気なので、サーヤはシャイアのことを忘れて掃除に打ち込んだ。だが、宿命がその安らぎをいつまでも許さなかった。

 サーヤが掃除に夢中になっていると、廊下を歩いてきた誰かがその手を掴んで、無理やり引っ張って連れ出したのだ。それを目撃したウィンディは慌てて後を追った。

「あ、サーヤっ!」

「何!? 誰なの!?」

 サーヤは抵抗できずに、引きずられるようにして誰も居ない教室に連れ込まれた。そして首を片手で捕まれ、黒板に押し付けられる。サーヤが恐怖に歪んだ顔を上げると、その瞳に先ほど廊下で会った麗人の姿が飛び込んできた。シャイアの雰囲気は先ほどサーヤと会ったときとは別人で、薄笑いを浮かべる顔には、殺人鬼にも匹敵する悪意が込められていた。

「あなた、あの時の奴隷船に乗っていたのよね?」

 静かだが、嘘をつくことは許されない高圧的な声色だった。元々素直な気性のサーヤは率直に答えた。

「そ、そうよ。あなたと、そのフェアリーを見たわ・・・・・・」

 シャイアの後ろにはコッペリアが翅を広げて飛んでいた。

「あうあう・・・」

 ウィンディも側にいて、どうしていいか分からずにサーヤを見下ろしている。

「コッペリア、そいつを黙らせなさい」

「ああ」

 コッペリアはウィンディに近づくと言った。

「わたしはコッペリアだ。お前の名前は?」

「ウィンディ・・・・・・」

「お前のマスターは大丈夫だ。それよりもほら、わたしの取っておきを分けてやるよ」

 コッペリアはドレスの中から両手一杯の飴玉を出して、その半分をウィンディに渡した。

「あう~~~っ!?」

 ウィンディは手渡された三粒の飴玉に、まるで至高の宝石でもあるかのように見とれていた。

「おい、飴玉ごときで懐柔されてんじゃないよ!」

 サーヤが思わず言った。シャイアもコッペリアが同族には限りなく優しいという事をすっかり忘れていて、コッペリアには似つかわしくない平和的な解決法に、雰囲気を完全にぶち壊されて苦笑いした。だが、そんな事でシャイアの暗い殺意がぶれる事はなかった。

 シャイアはさらにもう片方の手でサーヤの華奢な首を掴んで、両手に力を込めた。

「ぐぅっ、く、苦しいよ・・・・・・」

「あの時に見た事は全て忘れなさい。そう、あれは幻想だったのよ」

 シャイアはサーヤに顔をぐっと近づけて言った。サーヤは息が止まりそうになりながらも、シャイアの狂気に満ちた整端な顔を見て、深い憎悪の醸し出す魅力に取り付かれてしまった。

「いい、あの事を誰かに喋ったら命はないわよ。貴方を消す事くらい簡単なんだから」

 シャイアが手を離すと、サーヤはその場に蹲って激しく咳き込み、久しぶりに新鮮な空気を吸い込んだ。

「今言った事は脅しなんかじゃないわよ」

「誰にも言わないわ。あなたの邪魔はしたくないから・・・・・・」

「いい子ね。名前を教えなさい。貴方が裏切ったらすぐに探し出して殺せるようにね」

「サーヤ・カナリー・・・・・・」

「サーヤね、覚えておくわ」

 シャイアが教室から出て行こうとすると、サーヤは慌てて麗人の背中に声を浴びせた。

「待って!!?」

「何?」

「名前を教えて下さい!」

「わたしの名前など聞いてどうするのかしら?」

「わ、わたしだけ名前を教えるなんて不公平だよ!!」

 サーヤはどうしても相手の名前が知りたくて、やけくそ気味に言った。

「シャイアよ」

 麗人はそれだけ言い残して教室から出て行った。コッペリアもそれを追って出て行く。その後にサーヤはその場に座り込み、両膝を抱えてやるせない吐息をついた。

「シャイアさん・・・本当に綺麗な人・・・・・・」

 ウィンディは飴玉を舐めながら、そんなサーヤの様子を不思議そうに見下ろしていた。


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