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ゴリラ対ゴリラキラー

ゴリラ対ゴリラキラー最終章

作者: 蟹地獄

夕暮れの森。

木々のざわめきが、戦の太鼓のように鳴っていた。

半年の修行を経て、男は戻ってきた。 

かつて敗れ、地に沈んだ場所。

ここで、再びすべてが始まる。


名を呼ぶ声が背中からした。


「行くのね、ゴリラキラー」


振り返ると、そこにいつのまにか隈取くまどり模様の濃い化粧で気合を入れたゴリラ妻が立っていた。

はかまに白いたすきを巻き、手には古びたでんでん太鼓だいこ

瞳には恐れではなく、絶対に勝たせるんだという決意があった。


「ここまで導いてくれたこと、感謝してる」


「まだ終わってないわ」


「いや、あんたの教えで十分だ。今の俺には“リズム”がある」


そう言って、ゴリラキラーは笑った。

以前とは違う。

拳ではなく、全身で戦う男の笑みだった。


すると突然森の奥で、木々がざわめく。

大地が揺れる。

その振動が、巨大な影の接近を知らせた。


ズシン、ズシン、ズシン。

ゴリラが来た。


森の王。

漆黒の毛並みに黄金の瞳。

250キロの銀背の巨獣。

その歩み一つで、空気が張りつめる。


「ウッホホーイ!!!【また俺に無謀な戦いを挑もうとする人間が来たか……ウオーーーーッ!】」


低く響く咆哮が、森を震わせた。


「俺はおまえに一度負けた。だが今回は違う。もう一度勝負だ!」


ゴリラキラーは地を蹴り、構えを取る。

腰を落とし、体を揺らし、足でリズムを刻む。

カポエラの舞だ。


「ウホ?ウホウホ。【ん?まさかおまえは…ゴリラキラー!……生きていたのか!】」


「そうだゴリラよ。俺はおまえを倒す為、地獄の淵から舞いも…」


いきなりゴリラが突撃した。

その剛腕が風を裂き、木々をなぎ倒しながらむちのように飛んできた。


だが、ゴリラキラーは華麗に避けた。

踊るように。

風のように。

こんなことも想定していたと言わんばかりに。


そして次の瞬間…ゴリラキラーの攻撃。


胴への回し蹴りからの回転して起き上がってくる勢いをつけてのアッパー!。


ゴリラのあごをかすめた。

火花が散る。

ゴリラがうなり声を上げ、笑った。


「ウッホ……ウホウホ!【いいぞ……前よりも“生きている”拳だ!】」


そしてゴリラは笑いながら次の一撃を放つ。


ゴリラフックだ。


しかしゴリラキラーはゴリラ妻直伝のカポエラの動きでフックをかわし、流れるような動きから蹴りを放った。


バシッ!


蹴り!


バシッ!


蹴り!


ガツン!


さらに蹴り!


スカッ!


それでも蹴り!


バンバンッ!


そして蹴り!


バンバンバンッ!


蹴り!蹴り!蹴り!


ゴリラキラーのカポエラの蹴りが躍動する!


ゴリラも負けずに技を繰り出し応戦する。


バコンッ!


ハンマーフック!


バコンッ!


ハンマーフック!


バココン!


ハンマーフック!


バッコーン!


キノコ投げフック!


シュバゴーン!


フェイントからのフック!


バゴゴーン!


カエルパンチ!

 

ドン!ドン!ドンッ!


ハンマーフック!ハンマーフック!大ハンマーフック!


普通のフックの連打に思わずゴリラキラーはよろけながら尻もちをついた。

やはり250キロのゴリラは普通のフックでもパワフルさが段違い。


「クッ。」


ふとゴリラキラーの脳裏に最初の戦いで敗戦した時の苦い記憶が蘇る。


「くそっ、まだ俺の中にこのゴリラへのコンプレックスがあるのか……?」


そんな思いがふとよぎった、そのときだった。


森の端ででんでん太鼓が鳴った。


「ポコポコポコポコ…ッ!ポコポコポコポコ…ッ!」


見れば、ゴリラ妻が木の上に登り、でんでん太鼓を両手に持って激しく回していた。

頭には必勝と書いた応援ハチマキとピヨピヨ鳴く小鳥のおもちゃ、腰にはヤシの葉っぱをぶら下げただけのミニスカート、そしてどこから調達したのか両脇にバナナを抱えている。

そう。いつの間にか衣装を変えて叫んでいた。


「うほっ!ゴリラキラー!うほっ!ゴリラキラー!うっほほいっ!うっほほいっ!そーれうっほほーい!」


珍妙な応援の掛け声が森に響く。

しかし不思議とリズムが妙に心地よく、戦いの拍子とシンクロしていた。


気づけば彼女が抱えていたバナナはいつの間にかマラカスのように振られ、甘い香りを漂わせている。

その匂いに誘われて、どこからともなく猿たちが集まってきた。


猿たちは「ウキ!ウキ!」とコーラスを始めた。


森が応援団になった。

戦場が、祭りになった。


その熱気に呼応するように、ゴリラキラーは立ち上がる。


「そうか。カポエラを身に付けて強くなったつもりでいたが…肝心の心が不完全だったようだ。俺のパンチとゴリラ妻のカポエラの本当の融合は、心が伴って初めて完成するんだ。それさえわかればもう大丈夫。俺はもう以前の俺ではない!特訓を積んでさらに強くなったじゃないか!ようし!もう折れない!俺は進化する!そう!今の俺は完全体!そうだ、俺はたった今からニューゴリラキラーツーだ!」


ゴリラ妻のでんでん太鼓で持ち直したゴリラキラー改めニューゴリラキラーツーは再びゆっくりとカポエラの動きを始めた。

そして徐々に速度を上げ………、今度はその動きがさらに鋭くなる。

そしてとうとう足が、風そのものになった。

シュンシュンシュンシュンシュン!


「ウホ?ウホウホー!ウッフォフォーーーイ!【何を一人でブツブツ言っている?何がニューゴリラキラーツーだ!何かする前にこっちから行ってやる!】」


ゴリラが再び突っ込んでくる。


しかし覚醒したニューゴリラキラーツーの動きは速い。


「ハッ!ホッ!ハッ!」


即座にゴリラ妻式カポエラの動きでかわし、心と体が一体となり強靭なパワーを得て風になった蹴りがゴリラの顔面に叩き込まれる。


バゴーン!


今度はゴリラがたたらを踏みながらうしろに下がりよろけて尻もちをついた。

ゴリラの顔から血が流れる。


ゴリラ妻は思った。


〔よし!これでもう彼が負けることはないわ!完全体となったニューゴリラキラーツーがゴリラを圧倒して倒すわ!〕


そして再びでんでん太鼓をポコポコ鳴らしながらゴリラ妻が木の上で叫ぶ。


「行けーっ!ゴリラにトドメを刺して!ニューゴリラキラーツー、今よ!」


ニューゴリラキラーツーもコクッとうなづく。


しかし足を踏み出そうとしたその瞬間、突然ゴリラからビリビリとした物凄い殺気がふくらみニューゴリラキラーツーは足を踏み出せなかった。


百戦錬磨のゴリラはこれまで負け知らず。

相手がゴリラだろうと人間だろうと全てを圧倒してきた森の王。

それが初めて負けるかもしれないという最大のピンチを迎えた。 

負けはゴリラのプライドが許さなかった。

この戦いで初めて流したその血が今度はゴリラの心に火をつけた。


「ウホオオオオオオオオオオオオオオオッ!ウフォ!ウフォーーーッ!【うおおおおおああ!ふざけんな!だったらこっちもニューゴリラツーだ!】」


ゴリラがキレた。

思い切り咆哮を上げ物凄いオーラを放ち、さらなる大声で叫びながらその拳をニューゴリラキラーツーに叩きつけた。


ボガーン!


紙一重だった。


なんとかニューゴリラキラーツーはゴリラの攻撃をかわしたが怒りのパワーでパワーアップしたニューゴリラツーの攻撃で地面が思い切りへこんだ。


さらにニューゴリラツーは追撃のフックを飛ばしてくる。さらにこれまでにはなかったストレート、アッパーも加わった。


しかしニューゴリラキラーツーも完全体。それに呼応してカポエラの秘技、回転跳び蹴りを繰り出した。


「必殺パラフーゾ!」 


拳と踵がぶつかり合う。


火花が散り、地面がきしむ。

ゴリラ改めニューゴリラツーの拳が岩を砕き、飛び散った破片がニューゴリラキラーツーの頬をかすめた。


だが、彼は顔を血でにじませながら笑っていた。


〔俺は…この痛みを、ずっと待っていた。〕


「どうしたの! 前より遅いよ!」


遠くからゴリラ妻の(げき)が飛ぶ。


「まだこの森のリズムを聴けてないのね!」


ゴリラ妻の声がさらに響いてくる。


その言葉に、ニューゴリラキラーツーは一瞬、呼吸を整えた。

耳を澄ませば、風が鳴っていた。

木の葉が震えていた。


ニューゴリラキラーツーはゴリラ妻のアドバイスに心を落ち着け森のリズムを聴いていた。


森のリズムが聴こえてくる。


「すふぅー。」


ニューゴリラキラーツーは静かに呼吸を吐いた。


森は完全に静まり返り、雰囲気を変えた。


そして木の葉が一枚落ちたとき、一気にオーラを解き放ち物凄い形相で構えを取った。


ゴリラ妻のまわりで応援していた猿はいつしか怯えてた。

大地は揺れている。


ニューゴリラキラーツーの動きが変わった。

これまでのただ流れるようなカポエラの動きではなく、さらに速くさらに重くさらに鋭くさらに流れるようなカポエラの動きに。

流れにつぐ流れががさらに加速する。

ゴリラの突進を受け流し、逆に体を回転させ、かかとあごを狙う。


〔ここだ、“メイア・ルーア・ジ・コンパッソ”!!〕


彼女に教わったカポエラの奥義が、ついに形をなす。


「メイア・ルーア・ジ・コンパッソ(羅針盤の半月蹴り)!!」


片手を地につき、身体を半円のように回転させながら放つ、旋風の蹴り。

舞うようでいて、刃のような威力を持つ技だった。


風が鳴った。

空気が裂け、ニューゴリラツー頬毛ほおげが一本、宙を舞う。


だが、ニューゴリラツーもただのけものではなかった。


それをギリギリでかわし胸を叩き、咆哮を上げ、体毛を逆立てると、次の瞬間、信じがたい速度で地を蹴った。


そして飛び上がって近くの大木を蹴り、反動をつけて戻ってきた。

加速された巨体から放たれる魔獣の一撃!


重力が、歪む。


衝撃波が走り、森の鳥たちが一斉に飛び立った。

ニューゴリラキラーツーの体は宙を舞い、巨木に叩きつけられる。

骨が軋む。視界が揺れる。


9秒後、ニューゴリラキラーツーは立ち上がった。

ダメージを9カウントまで回復させ、これ以上寝ていたら踏み殺されるというゴリラが動き出すギリギリのタイミングでムクッと立ち上がった。


しかしニューゴリラキラーツーの心は再び揺れた。


だが、内心パワーアップをしたニューゴリラツーに焦っても、先ほど格好つけた手前、ニューゴリラキラーツーは虚勢を張る。


「そうきたか。やるじゃねぇかニューゴリラツーだぁ?!楽しいぜ。互いに実力は五分と五分。とことんやってやるぜ!今度こそ俺の番だ!」


意外と虚勢を張ってみると虚が実になり再び落ち着きと心を取り戻した。


彼は地面に手をつき、低く構えた。

両手を交差し、次の瞬間——


パッと空中に舞い上がったかと思うと、鼻の穴に両手の人さし指を突っ込んでハニカミながら空中で踊った。


「行くぜ!ライバルよ!」


そしてニューゴリラキラーツーも同じように大木を蹴り反動をつけて蹴りかかる。


負けじとニューゴリラツーも拳で応戦する。


体が風に溶け、拳が舞い、踵が歌う。


跳び、回り、流れるように一人と一匹の攻防が入れ替わる。


ニューゴリラツーが吠え、両腕を振り下ろすたびに衝撃波が走る。

だが、その合間を縫うように、男はしなやかに動き続けた。


森のリズムと彼の動きが、やがて一つに溶け合っていく。

呼吸が風と重なり、拳が雷鳴のように響いた。


ゴリラの胸に、幾度も蹴りが刺さる。

それでも王者は膝をつかない。

両者の息が荒く、森が震える。

 

戦いはさらに加速する。


森の動物たちが見守る中、二人の戦士は夜明けまでぶつかり合った。


そしてとうとう両者はあと一撃分の力だけとなり、次の一撃が両者の命運をかけた最後の一撃となることと悟る。


刹那、、、再びでんでん太鼓の音が鳴る。


ポコポコポコポコポコ……。ポコポコポコポコポコ……。


同じように次が最後の一撃になると悟ったゴリラ妻が一層激しくでんでん太鼓を回しニューゴリラキラーツーに最後の喝を入れる。


そして直後…


「ニューゴリラキラーツー!こっちを見て!」


ゴリラ妻が叫んだ。


「ん?」


ニューゴリラキラーツーは振り返る。


するとゴリラ妻はヤシの葉っぱのミニスカートから葉っぱ一枚を即座に剥ぎ取り太ももの付け根の一部をあらわにしながらこう叫ぶ!


「頑張って!あなたは今からニューゴリラキラースリーよ!」


刹那、、、、


ニューゴリラキラーツーの目の奥に、燃えるような光が宿った。

恐怖も怒りもない。あるのはただ、リズムと共鳴する魂……いや太もも。


そして、ニューゴリラキラーツーはニューゴリラキラースリーとなった。


決着の時。


互いに勝負を賭けた最後の一撃。

ゴリラキラーの踵が、ゴリラの胸に直撃した。

風が止まり、静寂が訪れる。


やがて、ゴリラがゆっくりと膝をついた。


「……見事だ、人間。まさかもう一段階パワーアップするとはな…。もはやおまえは“ゴリラキラー”ではない。“森の戦士”だ」


そう言い残し、ゴリラはその場に崩れ落ちた。

勝負は、終わった。


そして、夜明け。


燃えるような朝日を背に、ゴリラ妻が歩み寄ってきた。


「やったわね」

「ああ……終わった」


ニューゴリラキラースリーは倒れそうになりながらも笑った。


だが、ふと気づく。

ゴリラ妻の首元から、一枚の古びた証書がこぼれ落ちた。


そこにはこう書かれていた。


『ブラジル武術連盟 カポエラ師範 アヤ・モリサワ』

婚姻欄——未婚。


「……あんた、“妻”じゃなかったのか?」

ゴリラキラーが呆然と聞く。


彼女は笑った。

「ええ。あの“ゴリラ妻”って呼び名、勝手に誰かが言ってただけ。私は“森の母”みたいな意味って捉えてるけどね。」


風が吹いた。

彼女の髪が舞い、陽光が二人を包む。


「……じゃあ、今は?」


「今は……あなたの師であり、これからは……どうなるかしらね?」


ゴリラキラーは、傷だらけの手を差し出した。

「なら、これからは“俺の妻”になってくれ」


一瞬の沈黙。

そして、彼女は笑ってその手を取った。


「はい、“ゴリラキラー”。……いえ、“私の夫”ね。」


森の奥で、再び風が吹いた。

動物たちが鳴き、太陽が昇る。


その日、森に新しい伝説が生まれた。


踊る拳と吠える森。

そして、愛する者と共に生きる新たなゴリラキラーの物語が始まった。




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