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3話 「エルム区魔物掃討戦」

 エルム区の大通りの様子は、まさに地獄絵図だった。


 視認できるだけでも5体の魔物が人の体を貪り始め、それを泣きながら引き剥がそうとする人に、逃げ惑う人の群れ。


 俺は早まる鼓動を抑え、自分の中で成功するイメージを反復する。




「グロム、お前は左をやれ。俺は右だ」


「めっ、命令すんなって……!」




 対象は4m弱、目玉と口がでかいヘドロみたいな魔物だ。こいつには水魔法は使えない。水を使うと幾重にも分裂され、厄介なのだ。


 最も有効なのは高温の火で炙り蒸発させることだが、この街中じゃ二次災害を考慮しなくてはならない。


 それに何より、捕まって肩口からじっとりと溶けながら捕食されている女を巻き込んでしまう。




 まずは人質を奴から引き剥がすことにした。


 意識を指先に集中させ、対象の口の中に狙いを定める。 内側から外へ、豪風を放つ。


 ゲホッァとヘドロが女を吐き出し、それを風でこちらに運び外傷を確認する。




 肩の皮膚が溶かされ、骨が露出している。


 惨い状態だが、恐らく片腕が動かなくなるだけで命は助かるだろう。俺は彼女に治癒魔術と解毒魔術をかけ、魔物と向き直った。




 ヘドロはギョロリとこちらを睨むと、踵を返して去っていこうとする。勿論逃がしはしない。


 イメージするのは箱だ。土魔法で、こいつを完全に隔離する箱を作れ。




 ヘドロは液体の要領で箱の僅かな隙間から必死に抜け出そうとするが、その小さな空間からは絶対に巨大な目が抜け出せない。


 二次災害の可能性を完全に消し去った所で、箱の中を高温の炎で満たしていく。ギャアァとけたたましい声が響いたあと、ヘドロが消滅したのを確認した。




 急いでグロムの方を確認する。


 問題ない様子で、2本足なスケルトンの魔物を2撃、3撃とバラバラにしていく。




 グロムの良い所は五感、特に目だ。


 彼の観察眼は一般兵の次元を超えており、魔物の攻撃の起こりを見逃さない。


 両腕を失ったスケルトンが決死の覚悟で頭突きを繰り出してくるが、そんなものは彼には視えている。


 その予備動作に対して合わせるようにするりと横を抜け、首を斬り落としていた。




「へっ。まぁ、太陽の下で殺すのと変わりはねぇな」




 外層で生きる自信も付いてきたようで、声を震わせずにそう言い切る。




「次の休憩時間は鮮明な話が出来そうだな」


「うるせぇって……。次行くぞ」




 大通りの魔物を2体、3体と駆逐していく。


 あとは婆さん達が魔物らの侵入口を見つけられているかだが……どうだろうか。




ーーー




ベリンダ視点




「婆さん、この上だ!」




 剣士の弟子がそう叫びながらあたしに報告してくる。穴をふさげる魔術師は……ちょっと遠い方に送っちまったねぇ。


 仕方ない。老体に鞭打って穴を塞ぐとしよう。




 意識の全てを杖を握る指に集中させ、土魔法で足場を盛り上げていき上昇。


 年老いてくると目が悪くなるもんで、近づかないと正確に狙いを定められないのが辛いもんだねぇ。




 近づくと、外層の茶色にはそぐわない黄金の明るさが見えた。


 足場の生成を辞めて、改めて土を作る。


 硬化した土を骨組みのように生成し、その上にさらに土を被せて水で固める。そうやって、本物の太陽光を遮っていく。




 あたしはこうやってたまに穴の隙間を埋めると、なんだか勿体ない気分になる。


 皆口を揃えて太陽が見てみたいと、空を、雲を見てみたいという。


 だけど、自分だけはその光を拝んでその光を閉じていく。


 これじゃ、なんだか罪人みたいな気分じゃないか……。




 穴を塞ぎ終えて、あたしは弟子達に侵入した魔物の掃討、負傷した人間の治癒を命じた。




ーーー




カイ視点




 ほとんどの魔物を燃やし、大通りで負傷した人々の野外治療にあたる。また、魔物とあまりに近づいた人には解毒をかける。




 穴が空いていたのは数分なので、空気感染の方はそこまで心配いらないだろう。


 ただ何らかで魔物に触れたり、触れられたり、急接近などした場合は解毒をかける必要がある。


 俺たち軍人も念の為、仕事終わりには揃って解毒をかけ合うものだ。恐らく結構強い免疫をもう持ってるはずだが。




 死傷者2名、重傷者7名、負傷者15名。


 症状は様々だった。




 足から内蔵に届くかという所まで食いちぎられた少年は、まだ14にも満たないような年齢で。




 発見した時はこのまま逝かせてあげた方がとすら思ったが、食いちぎられる彼を必死に魔物から引き剥がそうとしていた勇敢な父親に頼まれたので、治癒をかけた。


 見ていないうちに目を覚ましていたらしい彼は、切れ切れの声で父親に明日からの不安を吐露していた。




 肩口から溶かされ、苦しみながらも息がある女は目が覚めると、片腕が動かない事と自分の運命の理不尽さに理解が追いつかないという様子だった。




 彼女の姉らしき人が来て、彼女より深いトーンで悲しんだ姉を見てようやく事態を把握したのか、嗚咽を漏らしながら泣き出した。


 恐らく仕事に支障をきたし、すなわち明日の生活にも支障をきたすだろう。




 この光の届かない世界で、明日の想像が出来ないことはどれほど辛いことだろうか。


 貧困の中ようやく掴み取った職が、未来が、人生が。こんなにも理不尽な形で奪われていくのはなんて地獄だろうか。




 俺が外層に居た頃はこんな崩落は2年に1度あるかないかだった。それが、20日に1度のペースで起きている。


 昔よりも随分と腐ったものだ。コロニーの上層部に外層の点検を徹底するよう求める事は出来るだろうか……。




 そんな事を考えていると、とぼとぼと小さな杖を構えながら歩いてくる少女を見つけた。


 名は、なんだったかな。ミリセアとか言ったか。


 怯えた表情を浮かべながら、婆さん家からここまで歩いてきたらしい。




「どうしたんだ」




 少女はこちらを見て少し安心した表情を見せた後、重傷者達を見てびくっと固まってしまう。なるだけ平静を装った声で、次の言葉を探した。




「婆さん達なら、この通りを進んだ辺りに居るはずだ」




 少女は固まったまま。


 一緒に行くかと付け加えるが、首を横に振られた。虚ろな目で、ちゃんと伝わっているのかが分からない。


 少女はまだ目覚めていない重傷者の元まで歩くと、弱々しい魔術で、治癒をかけだした。




「おい、その人はもう治療済みだ」




 杖を握る手に力が篭っているのがわかる。


 それは少女が今痛いほどに自分の無力感を痛感しているからか。




「ごめ……なさぃ……」




 勝手に治癒魔術をかけた事にでは、恐らくない。


 まるで目の前の人を自分が痛めつけたかのように。


 その十字架を全て背負い込むような声色で、彼女はそう言った。




 彼女を知らない俺にはその行動の真意が読み解けないが、あの家で自分だけが人を助ける力を持たない事に、罪の意識を感じているのかもしれない。




 他の子達が家を出ていった後自身の無力感に嫌気がさして、渾身の勇気を払ってここまで追いかけて来た、といった所か。


 ……勇敢な子だな。少し、危うさを感じるほどに。




「そんなに、思い詰めなくていい」




 俺はそう言い、少女は振り返ってこちらを向く。そしてすぐ下に、こちらを忌避するように目線を逸らしてしまう。


 怖がられているのか。


 そう思った所で、俺はまだ自分の名を名乗っていない事を思い出した。




「カイラス・ヴァレンティアだ」




 すると少女は再び顔を上げ、確かめるようにミリセア・フローラ……と自分の名前を教えてくれた。

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