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19話 「黒い太陽」

「なんか、おばけとか出てきそうだよね、ここ」


「お化けのような魔物なら出てもおかしくないな」


「え?ほんとに?」




 魔道具で照らしながら、コロニーの内部に入り込んでいく。


 基礎的な作りは同じなようで、塔を下ると内層らしき場所に辿り着いた。




 そもそもなぜこんなに暗いのだろうか。


 コロニー内では今は夜という事になっていて消灯しているのか、


 はたまたなんらかで人工太陽が機能していないのか。


 ピンポイントで光る魔道具を渡してくる辺り、アルヴァン・フローラはその理由を知っていそうだが。




 周囲を警戒しながら、少しづつ歩を進める。


 ヴェイルヴィンドと同じように魔物の巣になっている可能性も考えたが、そういう事ではなさそうに見える。




「なぁカイ。なんでこのコロニーが滅んだかは知らねぇのか?」


「知らない。そもそも俺も噂程度だ。一応魔物に滅ぼされたんじゃないかとか言われてるが、中を見るにそんな事は無さそうだな」




 なぜ滅んだのか。理由はいくつか考えられる。


 まず1つが魔物の侵入。エルム区の崩落も似たような物だが、大規模な崩落がありそれを直せる魔術師が居ない、或いは直せばまたどこかが崩れると言ったような状態に陥ればコロニーは滅びるだろう。


 だが周囲を見渡すに特段崩落個所、本物の太陽の光が差し込んだ所は見えない。むしろ頑丈だ。コロニー128も見習ってほしい。




 次に考えられるのは汚染された大気の侵入。


 俺達が地上を歩く上で毎日解毒をかけるのが習慣化しているように、地上世界でネックになるのはその大気汚染による病だ。




 そもそもコロニーに地下が最適なのは、空気を通さないある程度の密閉状態を作り、空気の通り道を人工的に設け、洗浄された空気のみをコロニー内部に入れる必要があるからだ。


 その上で土魔術での建築が容易である事から、急速に国の各所でコロニーは作られた。


 なんらかで汚染された大気が一気に入り込み、一斉に病を発症し滅んだ。というのも考えられそうだ。




 そして最後の可能性は、飢饉。


 食糧難は恐らくどのコロニーにも付きまとうだろう。


 言わずもがな人類が獲得した土地では、人類を養うには狭すぎる。だから格差が生まれ、治安は悪化する。




 しばらく歩きコロニーの中央に辿り着くと、いくつもの白骨死体を発見した。




「ひっ……!」




 ミリーが俺の後ろに隠れ、恐怖を訴える。


 これはスケルトンの魔物ではない。間違いなく、ここにいた人間の死骸が散らばっていた。




 死体を見ると、その骨が随分と細い物なのが分かる。


 断言はできないが、これは餓死の可能性が高そうだ。栄養失調が顕著に思える。


 死体を調べてひと段落つくと、ミリーが想像以上の恐怖……というか放心をしていそうなのに気が付いた。




「おいミリー、大丈夫か」


「う、うん……こんなにちゃんと見たの、初めてだったから」




 見た目はほぼ魔物のスケルトンでなので気に留めなかったが、ミリーに死体は見せない方が良かっただろうか。




「悪い、辛いならもう戻るぞ。ここに生き残りが居なそうな事は分かったからな」


「うん……」




 見たくないと言いつつも、少女は死体を見つめる。




「おい、めちゃくちゃ心音早くなってるけど大丈夫か?」




 グロムがそう言う。こいつは心音まで聞こえるのか。




「え、あうん。ごめんちょっと……。もう、戻ってもいいかな」


「そうだな。悪かった、こんな物見せて」


「ううん……へいき」




 そう言葉を交わし、俺達は来た道を引き返していく。


 内層の中央に来たところで、ふと光を上にあげてみた。


 人工太陽がどうなっているのかが気になったのだ。


 俺はてっきり光が遮られているのだと思っていたが。




「ん?」




 太陽らしきものはある。


 だが、なぜだか光を発していない?


 黒い人工太陽のような塊がそこにあるだけだ。




「悪い、少しこの魔道具を持っててくれ」


「お、おぅ?俺でも使えんのか?」


「魔力が十分に入ってるから大丈夫だ」




 グロムに魔道具を持たせ、土魔術で足場を盛り上げ、人工太陽の真下まで登る。


 下からは暗く、なぜだかひときわ黒く見えた。


 それは見間違いでは無く、近くまで登り照らしてみても光を発しない黒い太陽がそこにあった。




 ……予想でしかないが。


 このコロニーが滅んだのは恐らく飢饉だ。


 食糧難が発生し、街中にあんなやせ細った死体が倒れるような状態になった。




 だがその背景には、この人工太陽の不能化があるんじゃないか?


 人工太陽の光が無くなり、畑の区域等での食料調達が不可能となり、滅んだ。


 一応すべての辻褄は合う。人工太陽がなぜこんな状態になったのかはまったくもって謎だが。




 確認を終え、足場を降ろしていく。


 不気味なコロニーだ。救えそうな者も居ない。


 探せばこれからの旅路についての文献等あるかもしれないが、それを見つけるのはあまりにも骨が折れる。


 ここに長居する理由はないだろう。




「なにかあったの?」


「人工太陽が、黒く光を失っていた。理由は分からないがな」


「んだそりゃ。人工太陽って光るのを辞めちまうもんなのか?」


「……」


「分からん。だが恐らくこのコロニーはそれによる飢饉で滅んでいる」


「こえぇなぁ。コロニー128も急にそういう風になるかもって事だろ?」


「そうだな。だがアルヴァンがこれを送ってきたあたり、彼なら何か知っていそうだ。辿り着けば、問いただしてみてもいい」


「003は研究も数段進んでそうって話だしな」




 3人で塔を登り、また地上の扉の前に辿り着く。


 俺の仮説が正しいとしても、謎は残る。


 なぜ太陽が唐突に機能を停止するような事があったのか。全くもって想像はつかない。


 が、それもこれも003に行けば分かるだろう。




「……ん?ミリー。どうかしたか」


「……」




 ミリーは入り口にあった骨の死体を眺めている。


 死体を見たくないと言ったわりに、おぞましい程のガン見だ。


 そして顔は歪み、冴えない表情。




「いや……大丈夫」


「本当に大丈夫か?」


「うん」




 少女には悪い事をしてしまっただろうか。


 噂程度だからと思っていたが、コロニー236を楽しみにさせるぐらいなら、滅んでいる可能性がある事くらいは言ってもよかったかもしれない。


 旅の中継地点である街が、理想と真逆で死の蔓延る暗闇だったならそりゃ落ち込みもするだろう。

 少し、失敗したな。




 少女は終始浮かない顔で、また俺達は地上での旅を再開する事にした。

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