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15話 「長い旅の始まり 後編」

 今日は長い1日だったが、これで一旦休憩だ。皆で飯にするとしよう。



 飯の中身はパンやナッツ類、キノコ類、スープ用の粉末なんかが主だった。


 外層の食事の中から腐りにくい物を選抜したものなのでバリエーションは皆無だが、まぁこんなものだろう。


 適当にスープ用の粉末を手に取り、土の魔術で食器を作り、水の魔術と掛け合わせてスープにする。

 こういう時の土魔術の汎用性の高さは異常だ。



 全員分のスープを混ぜ、パンを浸し、まだ家の感触を確かめていたミリーと剣を研いでいたグロムを呼びつけた。


 というかそんな長く剣を研ぐ必要あったか?飯の準備めんどくさいから剣を研ぐフリをしていなかったか?



 まぁいいかと思いつつ皆で飯にする。




「うーん。可もなく不可もなくだね」


「もうちっとパンチの効いたのが好みだな俺は」




 評論家2人に怒られた。


 別に俺は食べれる状態にしただけだが、さも俺が料理下手みたいになってるのが不服だ。


 大した量でも無いので皆すぐに食べ終わり、ミリーが口を開いた。




「汗がベトベト、拭きたい」




 そう言われ、荷物を開く。


 タオルを持ち出し、ミリーに渡した。




「お湯もあった方がいいか」


「うん」




 土の魔術で桶を作り、水の温度を炎で上げる。それをお湯とし、ミリーに渡した。




「ミリーは一応魔術が使えはするんだったよな」


「え、あ、うん。すっごい微妙にだけどね」


「そうか。じゃあ洋服も洗って、適当に乾かしてこい」




 ミリーはokのジェスチャーをすると、桶を重そうに持ちながら土の建物に入っていった。


 それまで黙っていたグロムが、期を見計らったように口を開く。




「ほんとにこんな距離移動しちまって大丈夫だったのか?あの子魔術師だろ?」




 ミリーの足腰に関しての心配らしい。




「いいんじゃないのか。本人がいいって言うなら」


「俺は明日あの子が動けなくなることに賭けてもいいぜ」




 やる気のある剣士によくある無茶だとグロムは言う。


 まぁ実際そうかもしれないが、今回は明確なゴールがある。距離的な進展があるならいいんじゃないかとも思う。



 グロムとの雑談がやけにぎこちない。


 今日の朝、あんな会話をしたのだから当然か。




「にしてもなぁ……俺は職も放り投げてなにやってんだろうな」


「後悔しているのか?」


「いんや?今朝の俺は何度やってもあの選択をしてだろうな。ただ今後の結果次第で後悔することになるかもしれんのが、ちっと不安なだけだ」




 グロムは考え込んだ末に伸びをして、ゆっくりとこう続けた。




「まぁ正直あんな事して、現実逃避の意味もあったとは思うな。あんな場所から逃げ出してぇって」




 グロムにとってそれは過去の自分を捨て去る為の強さでもあり、過去の自分から逃げたいという弱さでもあったのだろう。




「きっかけって、案外そんなもんが多い気はするがな。夢を追うだとか、憧れとかよりも、もっと後ろ向きな原動力」


「まぁ……そうかもなぁ」




 炎がパチパチと小さくなって来たのでまた炎魔法で強くし、風魔法で火力を増す。




「あの子……おめぇはミリーって呼んでるが、あの子はコロニー003で暮らす事になるんだろ?」


「あぁ。もしグロムがコロニー003に定住する事になったら、たまには様子を見てやってくれ」


「あれ、お前は003には住まねぇの?」


「俺は128に戻る」


「そうなのか……」




 グロムとしては一緒に003でやっていくイメージだったのだろうか。


 それも悪くは無いが、俺のやりたい事とはなんだか違うな。


 そう思った時、土のドームからどんがらがっしゃんと音がした。




「おいミリー、大丈夫か」


「うん……足に桶落としただけ……」




 その声からは明らかに苦しみが伝わってくる。結構痛いやつだなあれ。




「あの子は、なんか危なっかしいなぁ。俺はおめぇのお守りがまだ必要に思うぜ。それか、1人で生きていくだけの強さをつけるか」


「お前なりの教訓か?」


「まぁそうだな。絶対だと言う気はねぇが、間違ってもねぇだろ?」




 1人になり、力をつけて生きてきたグロムはその大切さを知っているのだろう。


 向こうではアルヴァン・フローラがミリーを家族のように扱うだろうから、魔術を極める必要はなくなりそうだが。


 強さというのは魔術に限った話では無いだろう。


 軽くうなずきを返して、言葉を探す。



 きっとこれからの旅路で、色々な事へ踏み出す勇気がいる事になるだろう。


 強さや経験があれば、その勇気に根拠が生まれる。


 それはこんな世界を生きる為に、必要な物だ。



 ミリーが帰ってきて、炎に当たり出す。


 この子は婆さんの元を離れ、きっと俺の元も離れ、大人になっていく。


 そうそう行き来も出来ないだろうが、この子が大人になった時など、なんらかの節目の時は会い行きたいと思った。



 グロムが次は俺でいいなと言い、土の家に入っていく。


 ミリーの髪を風の魔術で乾かしながら、忘れないように解毒をかけ、その最中せっかくなので今日の感想を聞く事にした。




「どうだった。初めての地上は」


「凄かったよ。夜がこんなに明るいのも凄いと思う」




 コロニーの夜は人工太陽を完全に遮断してしまうので、そこも違和感なのだろう。




「足は大丈夫か?明日も歩くぞ」


「多分平気。道中のコロニー236?って所にも早く行きたいし」


「そうか。ミリーは根性があるな」




 この旅の目的はコロニー003だが、ひとまずは中継地点であるコロニー236を目指す。


 昼にそう伝えたので、彼女にとってそこも楽しみな場所の1つに加えられたらしい。


 まぁ、その場所は少し曰く付きなのだが……。




「ねぇカイ。明日歩く所はなにがある?」




 この旅を1番楽しそうにする彼女には、その事はまだ伝えなくていいだろう。


ーーー


1日目終了

移動距離 35km

残り345km

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