14話 「長い旅の始まり 前編」
空気が変わる感覚を肌で感じながら、地上の景色を見やる。
本物の太陽に、青い空。魔物の世界にも関わらず門出を祝うような天気は心地よさすら感じる。
「まぶしっ」
「本物の太陽はあんまり見ない方がいいぞ」
ミリーがいきなり太陽を見ようとしたのか、目を下にしてパチパチしている。
人工太陽は特段直接見ても問題ない光量だが、本物の太陽はそうではない。
「でもすごいね地上って。一回しか見たことなかったけど、やっぱり空が青いのはすごい」
「ん……?一度地上を見た事があるのか?」
「あぁ、うん。崩落事故の時に、本物の太陽を見た事があるよ。その時もめっちゃ感動した。コロニー全部がこんなに明るければなーって思ったよ」
「そうなのか」
実際初めて見たなら感動はするだろう。
俺とグロムが初めて外に出た日の事を思い出す。
確かグロムがあり得ないくらいビビってて。内心俺もビビってて。でも外に出た瞬間それをかき消すほどの感動があったのを覚えている。
俺は軽く周囲を警戒し、こちらに向かってくる魔物が居ない事を確認する。
昨日の軍の奴らはいい仕事をしたようで、ひとまず安全だ。
「グロム、悪いが荷物のいくらかを持ってくれないか」
「あぁ、そうだな」
グロムはまだ浮かない表情。
勢い任せにやってしまったというような感情だろうか。
昔は地上の美しい景色を見ればどんな不安でも消えた気がするが、今はもうその時程の感動はない。
まぁ当たり前だ。特殊装備が詰まった荷物をいくらか渡し、食料類や生活必需品は自分で持つ事にする。
「ん、後ろから来やがるな」
グロムはしゃがみ込み荷物を受け取ったあと、そう呟く。
すると宣言通り登り坂の頂上で死角になっていた所から狼の魔物が3体、こちらを見据えてくる。
普通コロニー内の人間に釣られてコロニー周辺の魔物は入り口に集まるので、迎えが居るのも当然か。
魔術を展開し、炎を構える。が、そんな必要なかった。
グロムは自分の不安をぶつけるように狼を切り刻み、その剣で掃討してしまう。
この調子なら、これからの旅でも楽が出来そうだ。
「なぁカイ。厚かましいかと思って言えなかったんだがよ」
「ん?なんだ?」
「腕の傷、治してくれねぇか」
今の活躍はそれが目的だったらしい。
ーーー
何も無い緑の平野を、ただ歩き出す。
この辺は魔物も見た事がある種ばかりなので、何も問題は無い。
と、思っていたのだが。
「ねぇ、カイってなんで手で魔術を使うの?」
俺が杖を持たない事が気になったらしい。
基本的に杖は魔力を約1.5倍にさせる効果がある。
「俺の場合、扱いづらくなるんだ。魔力の増加は攻撃範囲の増加にも繋がるから、結果使いづらくなったりする。杖が無ければ小さい範囲にも広範囲にも応用が効くから、俺は杖を持っていない」
「へぇー、そっか。そうなんだ」
これは始まりに過ぎなかった。
数分後。
「ねぇ、カイは紋章ってあるの?」
「ん、よく知ってるな。婆さんに教えて貰ったのか?」
「うん。すんごい魔術師しか出ないものだって」
魔術をある程度極めると肩口に紋章が浮かぶ。
俺の場合水の魔術、土の魔術、風の魔術の紋章が浮かび上がっており、炎の魔術と治癒、解毒魔術に関しての紋章は持っていない。
婆さんなんかは風の紋章持ちだ。今でこそ衰えを踏まえて準B級だが、若い頃は準S級相当だったらしい。
本当かは怪しいが。
「あるが、そんなに面白いものじゃないな。別にそれが出たからと言って覚醒したりとかはない」
「そっか。もし出たら凄い?」
「……まぁ、そうだな」
その質問のされ方だとどう足掻いても自画自賛になる。
数分後。
「ねぇカイ、魔術基礎6種って全部まんべんなく使えた方がいいの?」
「そうだな。全部使えるといい。まぁ基本的に魔術の才能は魔力があるかだからどれかが全く出来ないなんて事は無いが、応用する時の経験値は必要だな」
炎、水、風、土、治癒、解毒。
これが魔術の基礎6種だ。
聞いた所によると魔力を遮断する魔術、結界魔術なんてのが魔法陣を使えば作れるらしいが、お目にかかった事は無い。
数分後。
「ねぇカイ、なんで魔物って人間を襲うのかな」
「それは……」
数分後。
「ねぇカイ、どうしてここ水が流れてるの?」
「それは……」
数分後。
「ねぇカイ、なんで……」
「……」
俺を見て、ミリーがハッとした表情をする。
いや、知識を求める事はいい事だ。
グロムがこっちを振り返り、ニヤッと笑った。
俺が苦労してるのが新鮮で面白いらしい。
初日の旅は体より頭を使った気がするな。
ーーー
ミリーがまだ疲れてない!というので今日は想定以上の進みを見せた。
移動距離約35km。コロニー003までは380kmなので、この調子だと11日で辿り着く可能性がある。
グロムが来た事で魔物の処理が圧倒的に早くなったのもあるが、当初の予定が25日程度での到着であった事を考えるとこの進み方は異常だ。
あったのは木と川くらいの平原地帯を抜け、小さい谷のような場所にたどり着く。
円形に曲がった地形をしており、周りに出る植物にも変化が出てきた。
ここから先は未知の魔物と遭遇する可能性がある。
その上、太陽が沈み夜が来たので今日はここでキャンプをする事にした。
「なぁカイ。よく考えたら夜はどうするんだ?」
「ちゃんと考えてある」
俺は土魔術でドーム状の家を建てていく。
崩れたら洒落にもならないのでしっかりと頑丈になるよう柱を作り、上から巨大な土を落とし耐久テストもしてみる。ビクともしないので大丈夫そうだ。
「凄い……外層の家みたい」
「まぁ実際外層の家は魔術師が作ったものだからな」
やった事は無かったので出来なかったらどうしようかと思い、コッソリ練習してきた成果が出ている。
ミリーは中に入り、壁をとんとんとしていた。
「あとは火だな」
家の外にあった木を土の球で破壊し、薪にする。適当に風魔術を送ったらむしろ炎が強すぎるくらいになり、キャンプの用意が完成した。
念には念を入れておこうかと思いキャンプの周りに堀と柵を作って、魔物が近寄れないようにする。
今日は長い1日だったが、これで一旦休憩だ。皆で飯にするとしよう。
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