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カフェ・ド・カグラザカ

婚約破棄された令嬢の前に現れたのは屋台カフェ。〜アルフォンサの場合〜

作者: ルーシャオ

 カサレリア伯爵令嬢アルフォンサの目は、左右で色が違う。


 右は母と同じ青灰色、左は父と同じ琥珀色をしている。そのことを別段気にしたことはなかったが、十八になったあるとき、王都のとあるサロンで見知らぬ老婦人に面と向かって罵られた。


「我が国の由緒正しい血筋の貴族であれば、金の髪と青い目を持つと決まっておりますわ。ご覧なさいな、周りの紳士淑女の誰が、それ以外の色をしていて? あなたの髪色はまあ金と呼べなくもないでしょうけれど、その左目でまさか、私たちと同じ身分だとおっしゃるおつもり? ご冗談はおよしになって。周囲をしっかり見て、ここはあなたのようなひとがいるべき場所ではないと自覚なさったなら、どうぞ領地にお帰りあそばせ。それがお互いのためですわ」


 なるほど、と冷静に考えたアルフォンサは、それが侮辱であり罵倒の言葉だと即座に理解した。


 周囲の貴婦人たちは、皆揃って金髪碧眼だ。たとえその色の濃淡や身長の差、ドレスのデザインの違いがあったとしても、ここにいるのは同族であると証明するかのように、同じ系統の髪の色、同じ目の色をしている。彼女たちの付き添いの紳士たちも、残らず同じだ。


 その中では、青と琥珀色のオッドアイのアルフォンサは違う人間扱いをされる。同じ国の同じ貴族であっても、異質なもの。より悪辣に言うならば、『混ざりもの』なのだ。


 周囲の貴婦人たちが、それに反論する声を上げる様子はない。であれば、老婦人と同じ考えを持っている、ということだ。


 アルフォンサは顔色ひとつ変えず、老婦人へこう返した。


「ご忠告、確かに頂戴いたしましたわ、ご婦人。あなたが私を思ってくれていることは、十分に伝わりました。おっしゃるとおり、そのようにいたしますわ」


 アルフォンサはドレスのスカートを摘んで完璧な一礼をしてみせる。老婦人はそれ以上アルフォンサを糾弾できないと知ると、ひとまず納得してみせた。


「お分かりになればよろしいの。これは」

「ええ、つまりはこうおっしゃりたいのでしょう? 私はこの国の貴族としてふさわしくない、まるでこの国の貴族のように振る舞うのはやめて、この国の貴族ではないように振る舞え、と。ええ、ええ。そのようにいたしますとも。では、ごめんあそばせ」


 アルフォンサは直ちに踵を返し、サロンから出ていった。他の貴婦人たちが固唾を呑んでその様子を眺めていたのも束の間、老婦人は何事もなかったかのように他の貴婦人との会話を始める。


 二度とお呼ばれしないサロンに興味などないアルフォンサは、思い切りのいい自分の性格を幸運に思った。なぜなら——。


「あんなところで、私だって仲間扱いされたくはないわ。すぐにでも領地へ帰って、二度と王都に来ずに済むようにしましょう」


 それは強がりでもなんでもなく、老婦人の言葉は貴族たちの住まう王都の閉塞した空気を物語っていたからこそ、アルフォンサはその答えを出したのだ。


 お世辞にも、この国は大国とは言えない。王侯貴族たちの歴史は古いかもしれないが、実力はさもありなん、軍事力も文化力も何もかもが二等国でしかない。その上、中央よりも他国と接する機会の多い辺境とされる国境地域の貴族——アルフォンサの実家、カサレリア伯爵家のような——のほうが豊かで、積極的に他国との交流を図っている。


 となれば、古くからの慣わしとして王都の貴族と婚約のためにわざわざカサレリア伯爵領からやってきたアルフォンサは、これ以上の侮辱を受ける前に故郷へ戻らねばならない。サロンでの口論程度なら流せるが、家門と血筋を侮辱されては確実に血を見る争いとなる。それはアルフォンサとて本意ではないし、何よりも、そんな侮辱をせずにアルフォンサを迎え入れてくれた婚約者を巻き込みたくなかった。


 鈍色の混じった金髪を翻し、アルフォンサはサロンからの帰りの足でトカイリナ伯爵家の屋敷へと向かう。都合よく婚約者であるベネディクトが在宅だったため、出迎えられた応接間で開口一番、アルフォンサは婚約破棄を切り出した。


「婚約を破棄しましょう、ベネディクト」


 普段は穏やかな気性の好青年ベネディクトは、目を見開いて驚いている。彼もまた、御多分に洩れず、鮮やかな金髪碧眼だった。


「それは、どういう」

「ある老婦人が、私はこの国の貴族ではないとおっしゃったの。髪の色はさておき、目の色は両方青ではないから、と。今まであなたは優しいから、それを言い出せなかったのだろうとようやく察したの。由緒正しいトカイリナ伯爵家としては、私のようなオッドアイの娘と婚約するとは思ってもいなかったのだろうし」


 思えば、半月前にアルフォンサがトカイリナ伯爵夫妻と初めて会った席で、彼らはアルフォンサの目を見て奇妙な態度を取っていた。しかし、オッドアイであることを好奇の視線で見られることに慣れているアルフォンサは、そのとき異変に気付かなかったのだ。


 きっと、「なぜ彼女はこの国の貴族のはずなのに、金髪碧眼ではないのか」……彼らはそう言いたかったが、まだ常識的な人々だったから口には出さなかったのだろう。トカイリナ伯爵家嫡男のベネディクトはそんな態度をおくびにも出さず、婚約者アルフォンサを傍目にも分かるくらい好きになってくれていたからこそ、今の今までアルフォンサはそんなことを気にせずにいられたのだ。


 だが、気付いてしまった以上、もう知らないふりはできない。アルフォンサの左目が琥珀色であることで、ベネディクトに、ひいては嫁ぎ先のトカイリナ伯爵家に予想外の迷惑がかかることは、簡単に想像ができてしまう。


 ベネディクトは、突然の婚約破棄の申し出に戸惑いつつも、アルフォンサを引き止めようとした。


「待ってくれ、アルフォンサ。それはただの言いがかりだ。確かに、年老いた貴族の中にはそんな古臭く頑迷なことを考える人もいるかもしれない。だが、我が家は違う」

「どう違うの? 我が国の貴族は、金髪碧眼ばかり。それを誇りに思う人もいて、私のような違う髪の色と目の色を受け入れたくはない。もしあなたとの間に、私の左目の色を受け継ぐ子どもが生まれたとき、その子の未来にあなたは責任を持てる? 私は、その子がつらい思いをするのなら、それを防げないのなら……この国の貴族でいる必要はないとさえ考えているの」


 キッパリと、アルフォンサは己の抱える不安ごと、婚約破棄の理由を示す。


 今ここで、ベネディクトが「そんなことは今考えなくていい」だとか「必ずしも未来がそうなると決まったわけではない」などと無責任なことを言うのなら、それもまた婚約破棄するだけの十分な理由となってしまう。貴族に限らず、子孫に与えてしまうであろう責任を持てないならば子を持つ資格はない。それに、ベネディクトはトカイリナ伯爵家を継ぐ者として、アルフォンサとの結婚によって生じる『不利益』を真正面から受け入れるリスクを鑑みることができないような馬鹿ではない。


 何より——王都で生まれ育った者として、金髪碧眼の貴族たちの同族意識の強さを、ベネディクトが知らないわけがないのだ。貴族たちの中に、もし琥珀色の目をした自分の子どもが入っていくとき、拒絶されてしまえば? その親として、ベネディクトもアルフォンサも本当に十分な対処ができるのか?


 不幸にも、ベネディクトはそれらをしっかりと考えられるほどに、常識的で、何よりも正直だった。


「すまない。そうなったとき……俺は、君とその子を守れると、断言はできない」


 ベネディクトがどんな未来の想像をしたのか、アルフォンサには知る由もない。


 ただ、ベネディクトは嘘を吐かない。そういう人柄だと、アルフォンサは短い付き合いでも把握していた。


 アルフォンサとベネディクトとの結婚は、今更ながら誰も幸せにならないのだ。それは愛があればどうにかなる話ではない、抵抗の姿勢を示せばいいわけでも、話し合いが通じるわけでもない。たかが伝統なんて、とのたまう人間には、貴族にとっての誇りや歴史がどれほど重要なのかを分かっていないだけだ。


 だからこそ、実際にアルフォンサが差別を受けて、ようやく二人の婚約破棄に足る理由ができた。これを盾に、誰もが望まない婚約の解消が許されるだろうとアルフォンサは見ていた。


 アルフォンサは故郷に戻って改めてこの国の貴族以外と婚約を結び、ベネディクトは金髪碧眼のの貴族の女性と結婚すれば、少なくとも今後問題はない。その先の未来がどうなろうと——カサレリア伯爵家はこの国を見限って他国と結びつきを強くし、未だ続く古い伝統に縛られてトカイリナ伯爵家は落日の国とともに生きる道を選ぶとしても、それは——二人に関係はないのだ。


「あなたは誠実だから、できもしないことをできるとは言わない。あなたのその美徳を、私はちゃんと知っているわ。だからこそ、私だけでなくあなたのためにも、別れましょう」


 深刻な表情のままうなだれるベネディクトへ、アルフォンサが他にかけられる言葉はなかった。


 アルフォンサはその横を通りすぎ、すみやかにトカイリナ伯爵家から去っていく。


(さようなら、ベネディクト。あなたが『この国の貴族』らしかったのなら婚約は続けざるをえなかったでしょう。でもそうじゃない、あなたは優しくて誠実だもの。そんな人や愛する子どもが私といることでああも悪し様に罵られるなんて……私には耐えられないわ)


 アルフォンサが夢見がちな乙女であったなら、愛する二人は多くの苦難を乗り越えて幸せな結末を迎えた、という未来を信じられたかもしれない。


 だが、現実はそうはいかない。長く戦場に立つ父の影響か、はたまたアルフォンサの性格が冷静すぎたのか、アルフォンサは都合のよい夢を見る才能がなかった。


 アルフォンサのコートのポケットにある懐中時計は、午後三時を指していた。今から王都郊外にある駅へ向かえば、故郷であるカサレリア行きの最終列車に間に合うか。すでに荷物はまとめてトランクに詰め込み、外で待たせていた馬車に積んであるから、そのままアルフォンサも馬車へ乗り込んで半月前に王都へ来たときの道を逆順に辿るだけだ。


 せめて故郷まで当家の使用人か護衛を付けましょう、と追いかけてきたトカイリナ伯爵家の執事が申し出てくれたが、アルフォンサは丁重に断った。トカイリナ伯爵家には無礼をしてしまった上にさらなる面倒をかけたくないし、そもそもカサレリアからアルフォンサは一人でやってきたから帰りも一人で十分だった。


 しかし、来年の春に結婚式を挙げるために、無理して冬に入る前に王都へやってきたというのに——なんとも、王都にやってきたことは徒労のような、ただ嫌な思いをしただけ——そう思いかけたアルフォンサは、頭を横に振った。


(……ううん、ベネディクトはいい人だったわ。それにトカイリナ伯爵夫妻も戸惑ってはいても私をトカイリナ伯爵家へ迎えるつもりはあったから、私は初対面で追い返されなかった。彼らとの出会いは、良きものだった。ただ、私のせいでそれが続かなかっただけよ)


 喉元まで出かかったため息を呑み込み、アルフォンサは前を向く。父と母から受け継いだ二色の瞳が悪いのではない、ベネディクトが悪いわけでもない。


 貴族令嬢らしく、アルフォンサが幸せに酔いしれることができなかったから、悪いのだ——。





☆★☆★☆★☆★☆★






 とっくに陽の落ちた午後五時を回って、うら寂しい王都郊外の駅には、ひとけもまばらだった。


 トランク片手のアルフォンサは、今度こそため息を吐いた。


 駅のエントランスに掲げられた黒板の時刻表には、大きく白いチョークで遅延(ディレイ)と記されている。つまり全体的に遅れているのだが、アルフォンサが窓口の駅員へ「カサレリア方面へ向かう列車はいつ来るのか?」と尋ねたところで「急ぎではないなら明日以降の出発にしてください」と呑気に言われただけだった。


 致し方ない。最近ようやく王都から東西南北の都市を結ぶ線路ができたばかりで、王都でさえ一日にやってくる便は十本に満たない。この国で旅客鉄道を使うのは新しいもの好きな王侯貴族か裕福な商人くらいで、庶民の旅の足は未だに馬車か徒歩だ。もっとも、王都・カサレリア間にはそこそこ広い渓谷地帯があるため、アルフォンサとしては十日近くかけて遠回りの馬車に乗って帰るくらいなら、せいぜい一日二日の我慢で済む鉄道一択となる。


 とはいえだ、最低限の用途しか持たせられなかった駅舎に留まるのはなかなかに厳しい。煉瓦造りの駅舎は狭いエントランス部分だけは雨風をしのげるが、ホームや駅前には屋根さえない。郊外に建てられたせいでホテルやレストランのような食事を頼める場所もなく、待ち合いの馬車がときどき王都中心部へと行き来するだけ、駅舎警備の警察官もドラム缶の心もとない焚き火に当たって暇そうだ。


(王都に来るまでは、こんなに不便で遅れたところだとは思いもしなかった。お父様の国許(くにもと)はとっくに鉄道を全土に敷設していたし、カサレリア伯爵領もそれに(なら)ったおかげで栄えていた……少なくとも、この王都よりは。はあ、やっぱり実際に来てみないと分からないこともあるものね。高くついたけれど勉強になったわ、本当に)


 アルフォンサはコートの襟元にしっかりマフラーを入れて、隙間をなくして寒さに耐える。父からもらった頑丈なグレーのウールコートは元は男性用なのだが、洗練されたデザインで何より暖かい。女性にしては背の高いアルフォンサにはピッタリだ。それに、飴色のベルトを腰に巻けば、十分に女性用のファッションとして成り立つ。


 ただまあ、思えばそうやってアルフォンサの父は実用的なものばかり娘に贈り、可愛がるあまり仕事先——戦場一歩手前にも連れていくような人だったから、自身が貴族令嬢らしからぬ性分になってしまったのではないか、とアルフォンサは疑っている。とりあえず、ドレスを着た人々よりも軍服を着た人々と長く過ごしてきた自覚は、アルフォンサにもあった。


 そうして、ひとまず寒風吹き込む場所を避け、駅舎の表口あたりで一息つける場所を探していたアルフォンサは、予想だにしなかったいいものを見つけて口角が上がる。


 それは近づくと、アルフォンサの期待どおりの——屋台だったのだ。壁際に停めた水色の自転車の前輪上、カゴ部分に大きく箱型の木製台座と大型ランプが設置され、少し曇ったガラス張りの炭コンロに載るコーヒーケトルからは湯気が漏れている。その横には半円形のカウンターが広げられ、シュガーポットがあるのだからもう間違いない、それに壁に立てかけられた看板にはメニューとともにしっかりと『カフェ』の文字が踊っていた。


 アルフォンサが風の噂で聞いた、カーゴバイクという荷台の大きな自転車に小さな屋台を載せる、移動式屋台。外国では都市部で店舗を持たずに営業できるからと流行っているらしく、冬の風物詩である焼き栗やカフェの移動式屋台が人気だそうな。


(こんなところにもあったのね。よかった、一度使ってみたいと思っていたの。コーヒーのいい香りがするし、変な店ではなさそう……うぅん、一人で買い食いなんて初めてだわ。小銭を出さなきゃ、ええと)


 異国の流行ものにちょっとした憧れを抱いていたアルフォンサは、もう使わないレティキュールに用意していた小銭入れを取り出して、いそいそと屋台へ近づく。こんなこともあろうかと、ほんの少しだけ小銭を持っていたのだ。貴族令嬢が財布を持つこと自体ありえないが、やはり王都だと目新しい買い物もできるのだろうかと密かに期待していた名残だった。


 屋台の自転車のそばで、店主と思しき一人の壮年の男性がカンカン帽(キャノチエ)を目深にかぶって、金縁の丸眼鏡を曇らせて、小さなカップを傾けていた。先ほどから漂うコーヒーの香りは、どうやらそれが元らしい。


 分厚いツイードのジャケットを羽織り、ライトブラウンのチェック柄フランネルシャツとエプロン、首元にはお洒落なのか水色のチーフ、というこの国ではあまり見かけない格好だが、みすぼらしい身なりというわけではない。むしろ清潔感さえあり、これならばと安心感を覚えたアルフォンサは、ちょっとだけ勇気を出して店主へ声をかけた。


「ねえ、あなた。温かい飲み物はあるかしら?」


 その言い方だと少し偉そうだったかもしれない、とさっそく後悔と反省しきりのアルフォンサだったが、店主はにこやかに応えた。


「ありますよ。こちら、メニューをどうぞ」

「ありがとう。次の列車までけっこう時間があるらしくて、我慢できなくなって」

「でしょうねぇ。大抵のものは作れますからお気軽にどうぞ」


 ペラ紙のメニューを渡されたアルフォンサは、見慣れないカフェの品目名たちを真剣に読んでいく。カフェではコーヒーか紅茶、と思っていたら、コーヒーひとつとっても種類がずらりと、紅茶には茶葉と淹れ方がまたずらりと並んでいる。中にはアルフォンサの聞いたことのないメニューまであるとなれば、知ったかぶりで選ぶとさらに後悔しそうだ。


 アルフォンサは、とりあえず目を引いたものについて、おずおずと店主へ尋ねてみる。


「この、カフェ・ロワイヤルって何かしら?」


 その名を口にしてみると——品目名からしてなんだか聞いたことのある語感だと思ったら、どうやら西の大国の言葉だ、とアルフォンサは気付いた。カフェという言葉自体も西の大国のものだが、はて、そこに付く『ロワイヤル(豪華な)』とはどういうことだろうか?


 いまいち、その完成品が想像できない。悩むアルフォンサへ、店主は気軽にこう言った。


「試してみますか? アルコールの香りが苦手でなければ」

「そう、なの? お酒は大丈夫だけれど」

「ああ、アルコール自体は飛びますから酔いませんよ。ある国の皇帝がお気に入りだったという逸話もある、見た目も華々しいコーヒーです」

「へえ……じゃあ、それをお願いするわ」

「はいよ」


 店主は飲んでいた小さなカップを屋台の端に置き、注文の品を作りはじめる。


 そこからは、あっという間の出来事だった。


 挽きたてのコーヒー豆の粉が、細長い百合の花を思わせるドリッパーにセットされる。静かに沸きっぱなしのケトルからその中心へとお湯が注がれ、下で待ち構えている陶磁器のコーヒーカップへぽたりぽたりと染み出ていく。あまりにもスムーズに、魔法のように濃いめのコーヒーが生み出されると、ソーサーに乗ったカップの上に、不思議な形のスプーンが引っ掛けられた。


 本来楕円形をした()部分は四角く深く、その先端に縁へ引っ掛ける爪のついた、少し柄の長いスプーン。コーヒーカップにすっかりまたがって、さらに麦色の角砂糖が二つ、ことんと皿に置かれた。


 まるで儀式か何かのようだ。アルフォンサは首を捻り、目の前のコーヒーが意味するところを読み解こうとする。


「コーヒーに……角砂糖、このスプーンは?」

「ロワイヤルスプーンという、角砂糖を燃やすためだけの専用スプーンですよ」

「燃やす!?」


 思わず声を上げてしまい、慌ててアルフォンサは口元を押さえた。


(角砂糖って燃えるの? えぇ……? どういうこと?)


 砂糖が水に溶け、鍋で焦がしてカラメルソースが作られることは知っていても、砂糖そのものが燃えるとはどういうことか分からないアルフォンサには、もはやお手上げだ。


 すると、店主は炭コンロの隣に置かれていた可愛らしい鉄製のミルクピッチャーをミトンを付けた手で持ってきて、楽しそうな表情でゆっくり種明かしする。


「百聞は一見に如かず。ちょいと温めたスプーンに角砂糖を載せて、ブランデーを染み込ませ、火を着けると」


 鉄製ミルクピッチャーに入っていたのはミルクではなく、ほんのりアルコールの香り立つ琥珀色の液体、ブランデーだった。ロワイヤルスプーンの角砂糖がわずかに浸る量を注ぎ、今度はマッチを擦ってスプーンの先へと近づける。


 勢いよく生まれた赤い火は、ブランデーの湿気を帯びた角砂糖へと瞬く間に移った。それは赤色の中に沈む——かと思いきや、アルフォンサはまたしても声を上げる。


「わあ……! 綺麗な色ね」


 スプーンで燃え上がる赤色は、すぐさま青へと変化していた。青い炎は穏やかに角砂糖を包み込み、ブランデーのアルコールを頼って燃える。


「ちょうど夜に入る今頃に映えるんですよ。少し眺めを楽しんでください」


 いつの間にか大型ランプが遠ざけられ、アルフォンサは薄闇のテーブル上で青い火のかたまりを見つめていた。そっと店主が風除けとなっていて、生き物のようにふわりと揺れる青い火を守っている。


 ランプや蝋燭、暖炉の薪がくべられた火まで、火というものはおおよそ赤い。もちろん青い火が存在することはアルフォンサも知っている。鍛冶場の炉のような高温の火力が必要とされるところでは、火炎とは赤であり青なのだ。


 そのはずが、ぼんやりと灯るスプーンの上の角砂糖の火は、青い。幽玄ささえも感じさせる青い火は、儚くも角砂糖を少しばかり焦がして、消えていく。


 アルフォンサは名残惜しさのあまり、ため息を漏らした。


「ああ、火が消えちゃった。でも、思った以上に楽しめたわ」

「次はそいつをコーヒーに入れて、味を楽しんでください」

「ええ、それじゃあ」


 今度は大型ランプを近づけてもらい、アルフォンサはスプーンごと角砂糖だったものをコーヒーの海へとゆっくり沈めていった。二、三度スプーンを前後に振り、すっかり溶けてしまった角砂糖を偲びながら、アルフォンサはカップに口付ける。


 アルフォンサは忘れていた。これはコーヒーであり、ブランデーを添えたものなのだ。飛びきっていないアルコールのくらりとする香り、ブランデーの寝かされていた樽の木の香り、薄く残る果実にも似た香り。それでもコーヒーは負けずに味を主張し、溶けた角砂糖も甘味を引き出され、まるで「これはあくまでコーヒー、ブランデーじゃあないんだ」とおふざけをしているようだ。


 そこへ、さっきとは違う、ちゃんとミルクの入った小さなミルクピッチャーが店主から差し出される。


「半分くらい飲んだら、味を変えてみても美味いですよ」


 なるほど、とアルフォンサは素直におすすめの飲み方に従ってみる。これもまたカフェラテに似たまろやかな味わいとなり、何ともはや、コーヒーとブランデーとミルク、という贅沢な飲み物になってしまった。


 知らず知らず笑ってしまうほどに、アルフォンサはすっかりカフェ・ロワイヤルに満足していた。


「ふふっ、ふふふ……こんな味もあるのね。意外だわ、コーヒーとブランデーなんて」

「紅茶とウィスキーよりは健康的ですからね」

「あれはせっかくの紅茶が台無しよ。コーヒーなら全然、ブランデーに風味も負けないものね。実家へ戻る前に、いいことを教えてもらったわ」


 ——あら? 実家、だなんて口走るとは思ってもみなかったわ。


 ——でも、そこまで言ってしまったのなら。


 アルフォンサは、自分の口が軽くなったのはカフェ・ロワイヤルのせいにしてしまえ、とばかりに、心のどこかに引っかかっていた思いを、カップの中に残った水面を見つめながら、吐露した。


「今日の夜行列車で、カサレリアの実家へ戻るの」

「そりゃまた、お若いのに」

「ああ、結婚まで行かなかったから、婚約の破棄を申し渡してきただけよ。いいの、この国の古い貴族に私は歓迎されない、って早く気付けたし」


 そう、それだけのことだ。アルフォンサはこれからをざっと考えてみる。


 婚約の破棄については、カサレリア伯爵家からトカイリナ伯爵家にいくらか賠償金を払うことになるだろうが、トカイリナ伯爵家もそれほど求めてはこないだろう。ベネディクトの婚約者はオッドアイだと先に確認しなかったのだし、金髪碧眼でなければ貴族ではないという考えを表立って持ち出すような真似はしないはずだ。


 一方、アルフォンサの実家カサレリア伯爵家としては青天の霹靂かもしれないが、当事者であるアルフォンサがきちんと説明をすれば父母ともに婚約破棄に至った事情を理解してくれるだろう。すでに婚約をしていた二人が納得しているのだ、ことここに至って状況をひっくり返そうとする邪魔者はひとまずいない。少なくとも、カサレリア伯爵家側でアルフォンサを再度王都の貴族へ嫁がせようとする人間はいないと見ていい。


 ならば、もうアルフォンサはベネディクトとの婚約を忘れてしまっていい。


 そのはずだが、やはりつい二時間前の出来事だと思うと、まだアルフォンサは終わったことだとは思えないままなのだ。これではいけない、故郷に帰る前に気持ちの整理をつけなくてはならない。だから、このことについて誰かと話したかった。


 店主は、そんなアルフォンサを拒むことはなく、逆にこんな核心に迫ったことを尋ねてきた。


「失礼ながら、婚約破棄はその左目の色が原因で?」

「あら、目敏いわね」

「こんな場末のカフェでも、貴族相手の商売もするんですよ。ご令嬢らしい水色の目かと思いきや、琥珀色の目(ウルフアイ)もしてらっしゃるから、もしかしてと思ってね」

「そう。まあ、そういうことよ。私の母はカサレリア伯爵家の一人娘で、父は東の隣国から来た人だった。父は故郷では相当位の高い軍人だったけれど、同盟相手のカサレリア伯爵家に気に入られて婿入りしたの。そして生まれたのが、オッドアイの私。父と母にはとても喜ばれて、両国の架け橋になるだろうと言われて育ったから、まさかここに来るまで嫌われる要素になるとは思ってもみなかったわ」


 結局、色々と理由をつけていても、アルフォンサとしては純粋に『嫌われた』ことがショックだったのだ。


 今まで自分が誇りに思っていた特徴が、王都(よそ)では嫌われることだった。


 それだけならまだよかった。好きになっていた人までもがそれを否定しきれない立場にあって、苦悩していると知れば、もうアルフォンサは別れを決断しなくてはならない。


 それに——アルフォンサだって貴族の端くれだ。アルフォンサの琥珀色の左目を嫌う人々を、伝統を持ち出した人々を軽々と否定はできない、してはいけなかった。アルフォンサだって、あの老婦人の咎だとばかり責められないのだ。


 それをようやく飲み込めた今、アルフォンサは言葉として紡いで、その気持ちをそっと放り出す。


「この変化の激しい時代には、そういう古い伝統に縋りたい人もいるんでしょう、きっと。それを否定する気はないわ、誰しも信じたいものがある。たとえ、誰かを貶めたとしても」


 アルフォンサはカップの残りを飲み干し、ソーサーごと店主へ手渡す。金縁の丸眼鏡の店主はアルフォンサの不幸を嗤うこともなく、ただ頷いた。


「それは何とも、ご苦労しましたね。往々にして、そういうのはさらに別の、もっと偉大な伝統を持ってきたらすぐに鞍替えするでしょうけどねぇ」

「分かっているじゃない。そういえば、さっきの逸話。皇帝の話はどう?」

「ああ、とある辺境生まれの軍人が、革命の中で成り上がって皇帝になったんですよ。そいつがそのカフェ・ロワイヤルを好んでたんです」

「そんなこともあるのね」

「はたまたもう一つ、その皇帝が尊敬していたはるか昔のある英雄は、ブラウンとブルーの目をしていた、とかもね」


 店主はさらっと、アルフォンサがとんでもなく気になる情報を口にした。


 ブラウンとブルーの目をした英雄。アルフォンサにとって、自分と同じオッドアイの、古の英雄がいたことは初耳だった。いや、もしかすると自分を慰めようと嘘を吐いているのか、と半信半疑でアルフォンサは店主の様子を窺う。


「初めて聞いたわ」

「そんなこともありますよ。帰ったら、お父上にそんな英雄はいるかどうか聞いてみたらどうです? ご存じかもしれませんよ」

「そう……そうね、うん。いい話を聞いたわ。ありがとう、私もそんな英雄になれるかしら」

「なりたいなら、なれるんじゃないですか」

「なんだか適当な答えね」

「英雄かどうかを決めるのは、俺じゃないしあなたでもないですからねぇ」

「なぁに、それ。ふふっ、変なの」

「ま、験担ぎくらいに思っといてください。カフェ・ロワイヤル、お味はどうでしたか?」


 してやったりの店主へ、アルフォンサは微笑み返す。


「そんなの、聞くまでもないじゃない。これで、私は晴れやかな気持ちでカサレリアへ帰れるわ」


 アルフォンサは、お礼とばかりに小銭入れの入ったレティキュールごと店主に押しつけ、もう一度駅員に次の列車の時刻を聞くために駅舎へと戻っていく。


 夜空の下、遠くで汽笛が鳴っていた。





☆★☆★☆★☆★☆★





 二日後、アルフォンサはカサレリア伯爵家の屋敷にようやく帰ってきた。夜行列車に揺られて、冬でも雪の積もらない渓谷地帯を眺めながらの旅を終え、ついに古都の佇まいと特産の林檎の香りを感じたとき、アルフォンサはやっと故郷に帰ってきた実感が湧いた。王都にいた半月の間を経ても故郷は何も変わらず、ライトベージュの城砦を抱えた広大な屋敷と使用人たち、そしてアルフォンサの父マレクは何も聞かず、アルフォンサを暖かく迎え入れた。


 家族でよく集う談話室の暖炉の前で、安楽椅子に座った父の隣に立つとき、アルフォンサは少しばかり緊張したが、それだけだ。


「おかえり、アルフォンサ」


 相変わらず、アルフォンサの父マレクは軍人らしい険しい顔に相応しい鋭い琥珀色の両目をしているが、愛娘へ向ける視線は穏やかなものだ。すでに何かあったと察してはいるだろうが、咎めるような口振りや態度は一切ない。


 とはいえ、さすがにアルフォンサも、婚約を破棄してきた、などといきなり口にするのはためらわれた。


「ただいま、お父様。ねえ、聞きたいことが」

「ああ、ちょっと待ってくれ。その前に、お前に会わせたい人物がいる」


 入ってくれ、とマレクは談話室の出入り口の扉へ向けて声を張る。


 まさか婚約破棄がすでに父へと伝わっていて、別の婚約者を用意されているのか——と一瞬だけアルフォンサの顔が強張ったが、そうではなかった。


 談話室の扉が開かれ、姿を現したのは、なんと王都で別れを告げたはずのベネディクトだ。しかも、鮮やかだった金髪は短く刈り込まれ、貴族らしからぬ簡素なシャツと乗馬用のパンツ姿で、王都で持っていた優雅な青年貴族の肩書きはどこかへ行ってしまったかのようだ。


 何がどうなったのかさっぱり分からず、アルフォンサは混乱した頭を抱えて精一杯の疑問を口にする。


「ベネディクト? どうして、まだ何かあるの? 分かった、婚約破棄の慰謝料や賠償金のこと? それなら」

「違う違う、アルフォンサ、落ち着け。ほら、彼が話したがっている」


 父になだめられ、アルフォンサはやっと我に返った。そして、ちょうどいい頃合いを見計らい、ベネディクトが真面目くさった顔で、爆弾発言をした。


「トカイリナ伯爵家には、俺の廃嫡と絶縁を頼んである。まだ返事は来ていないが、多分問題はないはず」


 廃嫡、絶縁。まさかベネディクトの口からそんな言葉を聞こうとは、アルフォンサは夢にも思わなかった。いや、ありえない。そんなことばかりで、ベネディクトが一歩進んで目の前にやってきていることにさえ気付かなかった。


 ベネディクトは、真剣にアルフォンサを正面から見つめ、吹っ切れたかのように溌剌(はつらつ)とした提案、もとい申し入れた(プロポーズする)


「これからはカサレリア伯爵家の私兵団に入れてもらって、頑張ってみようと思う。それでもし、君に許しを得られるなら……その、君や君の子どもを守れると胸を張って言えるようになったのなら、もう貴族でもなくなってしまったが、俺との結婚を考えてくれないか」


 そうして、片膝を床に突き、アルフォンサの左手を取って、ベネディクトは見上げてくる。


 それはもう、プロポーズ以外の何ものでもない。事情はまだ飲み込めないものの、これはまさしく、ベネディクトが——いかに真剣か、人生を懸けてこの場にいることの証左だ。


 であれば、細かいことはさておき、アルフォンサも相応の態度を取らねばならない。しかしだ、婚約を破棄してきたアルフォンサが、今更ベネディクトの婚約の申し入れを受け入れていいものだろうか。


 ありとあらゆる悩みと思考が渦巻いて突っ立っているアルフォンサへ、父らしくマレクが助言する。


「さて、どうする? アルフォンサ、お前が決めなさい。家のことは考えなくていい」

「そんな、私が勝手なことをこれ以上して、間違ってしまったらどうするの?」

「お前はこの私の子だ。この国の貴族でも、カサレリア伯爵家の後継でもなく、マレクの子アルフォンサという一人の人間としてどうすることが正しいのかを判断しなさい」


 一見、突っぱねた無責任な形のようにも思えるその言葉は、アルフォンサの目を(さま)させるには十分すぎる意味を持っていた。


 婚約破棄は今更どうでもいいことなのだ。いや、どうでもいいは言い過ぎだが、さして問題ではないのだ。ただ、これからを考えたとき——アルフォンサ個人のこと、カサレリア伯爵家のこと、この国のこと、そして世界のこと、ありとあらゆる未来のこと——貴族としての婚約とは、どういう形を取るべきかを改めて見直す必要があった。


 おそらく、これから先の時代は、とてつもない変化と混迷の中で生きていくことになる。それはこの国が存在するか否か、貴族が存続するか否かから始まり、アルフォンサという一人の令嬢が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が最良の結果となりうるかもしれない事態が起きるだろう。金髪碧眼にこだわる古い伝統も、繋がってしまった鉄道の線路も、新旧の激しい潮流となってぶつかり、やがて潮目は変わる。安穏と、貴族でいられる時代は終わるだろう。


 つまり、今、カサレリア伯爵家屋敷で、プロポーズされたアルフォンサは、その流れのほんの一部に過ぎず——アルフォンサはそれらを見越して、これからを考えるべきだという重荷を背負わされた。


 いや、今こそ、自ら望んで背負うのだ。


 アルフォンサは、ベネディクトの手を、もう離すまいと両手で包む。


「お父様」

「うむ」

「それも含めて、お話があります。ベネディクトも一緒に、聞いてもらえる?」


 プロポーズの返事かと思いきや、別の話になってしまったものの、ベネディクトは神妙に頷く。マレクとベネディクトに見つめられ、アルフォンサはすう、と一つ深呼吸をしたのち、こう宣言した。


「私、貴族の令嬢なんてできそうにないから、英雄になるわ! ベネディクト、それでもよければ結婚してちょうだい!」


 とんでもないプロポーズである。マレクもベネディクトも、ただただ目を丸くするばかりだ。


 でも、そんなことは問題ではない、アルフォンサはすでに未来を見据えている。







 カサレリア伯爵家の最後の女当主、オッドアイのアルフォンサは、それからどうなったか。


 残念ながら、もう英雄が輝く時代は過ぎ去った。剣は銃に、戦場は塹壕(ざんごう)だらけに、馬よりもはるかに速い列車や船が世界中を駆け巡り、文字の情報は瞬く間に離れた大陸へと渡っていく。


 ならば、とアルフォンサは『鋼鉄』を支配することにした。夫のベネディクトとともに、カサレリア製鉄会社を立ち上げ、各国を渡り歩いて売り捌き、たちまち引も切らない急成長を遂げていく。


 元々良質な鉄鉱石の産地として知られたカサレリアで作られた鉄は、世界のいたるところで求められ、文字どおりその時代の基礎となる。最新鋭の武器に、電話の線に、摩天楼の建材に、そして一般家庭で使われるスプーン一本さえもカサレリアの鉄が使われ、必要とされるようになる。


 カサレリアの鉄をどれほど多く仕入れられるかが国家の盛衰、戦争の勝敗さえも(わか)つ、などと謳われるほどに。


 ところで、アルフォンサはこうも呼ばれた。


 『カフェ・ロワイヤルの貴婦人』。


 カフェ・ロワイヤルを美味しく、楽しんで飲むためのスプーンを作るために、他国から職人を招き、ロワイヤルスプーンに改良を重ね、カフェ・ロワイヤルのためのブランデーを求めて夫と旅をするほどにこだわったことから、彼女が派手好きのように思われがちだが、実際のところ彼女は堅実かつ地道な性分をしている。


 何せ——そのための道のりをひとつひとつ作っていき、新しい時代の基礎まで作り出してしまったのだから。


 とっくの昔に、彼女はかつての皇帝よりも古の英雄よりも広い世界を踏破していて、もう金髪碧眼のみが貴族だなどという古びた国の伝統は書物の中にしかない。混沌の世界を生き抜くすべは、髪や目の色になど()らない。


 アルフォンサ・カサレリア。英雄にはまだなれていないが、もうすでに稀代の大商人として十分に名を馳せていた。


 



おしまい。

カサレリアってなんか憶えがあるなと思ったらVガンでした。

ウッソェ……。



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― 新着の感想 ―
ルーシャオ様の作品の中で一番好きなカグラザカのシリーズで年越し出来て嬉しいです。差別に屈することなく、時代の変わり目を力強く進むアルフォンサとベネディクトに幸あれ。  ところで、伯爵家最後の女当主、と…
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