お弁当手に、息つこう
(高校で保育士を、大学で幼稚園教諭を取るって決めたのに……)
勉強の手が止まるたび、初心を思い出し、やる気を振り絞る。
疲れてテレビをつけると、星座占いが始まっていた。
「幸運の鍵が思い出の場所なら、お弁当作って遠出しようっと」
引っ越す前の町の公園へ、自転車を飛ばす。
「ひょっとしてユイちゃん?」
「ヒロ君!久しぶり!元気だった?」
公園に着くと、昔の友人にばったり出会う。
「元気も元気!ユイちゃん綺麗になったね!服も襟元、よく似合ってるよ」
「ありがと。ヒロ君は大きくなったね。どうしてここに?」
「散歩。ユイちゃんは?」
「ちょっと気分転換」
「……なにかあったの?」
「……実は行き詰まってて」
「よかったら聞くよ」
好意に甘え、ベンチで胸の内を話していると、気づく。
(そっか。相談、したかったんだ)
「ヒロ君ならどうする?」
肯定し、共感してくれた恩人に聞いてみる。
「限界感じたら、寝るよ」
「寝るの?」
「そ。眠ると記憶は定着するし」
「ありがと。早速やってみる――」
ヒロ君の将来を聞こうとしたら、ヒロ君のお腹の虫が鳴く。
「私はお弁当あるよ。ヒロ君は?」
「あるよ。握り飯」
「おっきいね。具は?」
「卵焼きとウインナーと唐揚げ。あとスープジャーにみそ汁」
「タイパ考えるならカロパも考えよ?ほら」
昔のままのヒロ君に、昔のようにお弁当を渡す。
「いいの?ありがとう。いただきます。赤黄緑ピンク茶色、色とりどりだ」
「ね?お弁当は色も音も香りも楽しむの」
「確かにそうかも。このピンクはなに?それに音?」
「ピンクは桜でんぷ。音はこの芋がらで」
「このジャクジャク感、癖になりそう」
美味しそうに食べる姿に、つい微笑む。
「お礼にみそ汁飲む?」
「俺のみそ汁を毎日飲んでくれ、的な意味で?」
「インスタントでいいのなら」
お互いに一笑し、受け取ってすすると、みその味と香りが広がっていく。
「ごちそうさま。お弁当、美味しかったよ。またね」
足早に帰るヒロ君を見送りお弁当箱を見ると、手紙があった。
『なにかあったら飛んでくよ。約束通りに』
約束の文字に、引っ越し時のヒロ君を思い出す。
『探すから!いつかパイロットになってユイちゃんの所に飛んでくから!』
私は手紙の連絡先を登録し、早速返事を飛ばした。