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第23話 アルマの夢

 ――そうして、数週間の時が過ぎ。

 アルマとティルゼレアの挙式が、明日に迫ろうとしている日の夜のこと。


 ◇


 アルマはティルゼレアの部屋で、バタークッキーを美味しそうに食べていた。

 最近の二人の日課は、一緒にお菓子作りをすることだった。甘いものが好きなアルマを思ってティルゼレアが提案してくれたことであり、二人の幸福な時間となっている。


「そういえば、ついに明日だな。結婚式」


 ティルゼレアの言葉に、アルマは勢いよく頷いた。


「そうですね! いやはや、家族やセレンに久々に会えると思うととっても嬉しいです。ティルゼレアさんにも、ぜひぜひ紹介させてくださいね! きっと仲良くなれると思いますよー!」

「ああ、そうだな。君からよく話を聞くから、実際に話してみるのが楽しみだよ」

「えへへー、嬉しいです。……それに、明日の式はきっと、わたしの夢に一歩近付く素敵なものになると思うんです!」

「アルマの夢?」


 聞き返したティルゼレアに、アルマは柔らかく笑う。


「雪桜の民と魔族が、お互いに笑い合えるような未来が訪れることです。昔あったことを考えると、勿論もちろんそれは決して容易ではないと思います。ですが……そんな未来が訪れたら、すっごく素晴らしいんじゃないかなあって思うんです、わたし。だって傷つけ合うよりも、笑い合う方がきっと、ずっと幸せだから」


 ティルゼレアは優しく微笑んで、力強く頷いた。


「いい夢だと思う。俺も以前は、変わらない過去をうれいてばかりていて……けれどそれはとても、辛い時間だった。そうではなく、わかり合おうと思えている今は、以前よりずっと楽で……そして、幸福だ」


 彼の大きな手が、アルマの小さな手に重なる。


「アルマ。それを俺に気付かせてくれて、本当に――ありがとう」


 赤紫の瞳は、ティルゼレアの姿を映していて。

 真紅の瞳もまた、アルマの姿を映していた。


「……こちらこそ、ありがとうございます。夢見がちなわたしを、ちゃんとお嫁さんにしてくれて!」


 笑顔で、アルマはそう告げる。

 ティルゼレアが一瞬、躊躇ためらいを見せたような気がした。

 アルマがそれを疑問に思う前に――すぐに、その時間は訪れる。


 初めてのキスは思っていたより呆気なくて、けれどそれでいて、一生この瞬間を忘れることはないだろうと、アルマは感じていた。


 唇と唇が離れる。


 恥ずかしさの余り、アルマは何も言うことができずに俯いた。


 そのとき、唐突に部屋の扉が開く。

 驚いて顔を上げたアルマは、入り口から中を覗き込んでいるフィティリナとジュネの姿に気付いた。


「恋愛マスターフィティ、何やらすごい恋愛の動きを感知した気がしましたわ! それでそれで、にいさまとねえさまは今何をしていたんですの!?」

「僕はバタークッキーの美味しそうな香りがしたので、つい来てしまいました……」


 突然の来訪客に、アルマとティルゼレアは顔を見合わせる。

 そうして、どちらからともなく笑った。



 ――花瓶に生けられた美しいバルシエンユの花は、そんな彼等を優しく見守っていた。

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