第14話 いざ町へ
晴れているけれど雲の多い、そんな空模様が広がっている。
アルマとジュネは、城の側に広がる町――ティリシータに訪れていた。
ジュネが連れてきてくれたのは、ティリシータの商店街だ。様々な色合いの建物が並んでおり、どのお店も魅力的な品物を販売している。平日の昼頃だからか人通りはまばらだったが、その分商店街の景色を存分に楽しむことができそうだ。
品のあるブラウスとハイウエストのスカートに身を包んだアルマは、執事服ではなく丈の長いシャツとスラックスを着ているジュネの隣で、楽しげにきょろきょろと視線を彷徨わせていた。幻視の魔法によって付けられた尻尾が、彼女の歩みに合わせるようにぴょこぴょこと揺れる。
「どうですか、アルマ様……何か気になるお店はありましたか?」
尋ねたジュネに、アルマは大きな頷きを返す。
「いやもう、どこも気になりまくりですよー! 魔法雑貨店なんて響きからわくわくしますし、服屋さんも見てみたいですし、お菓子のお店は言うまでもなくです!」
目を輝かせているアルマに、ジュネは淡く微笑んだ。
「時間は沢山あるので、一つずつ見て回りましょうか……いい贈り物に出会えるといいですね」
「わあ、ありがとうございますジュネくん! それじゃ、あのケーキのお店から見に行きたいです!」
「素晴らしいチョイスですね……あそこのケーキは絶品ですよ。ほっぺが落ちます」
二人は会話を交わしながら、狙いを定めたお店に向けて歩き出した。
◇
商店街から幾らか離れたところにある、静かで寂れた公園にて。
アルマとジュネは、それぞれカップに入ったアイスクリームを持ちながら、ベンチに座っていた。
桃色をした苺味のアイスクリームを食べながら、アルマは申し訳なさそうに目を伏せる。
「いやはやごめんなさい、ジュネくん……」
「…………? 何がですか?」
真っ白の牛乳味のアイスクリームを頬張りながら、ジュネは首を傾げる。
アルマは彼に視線をやると、困ったように微笑んだ。
「その、ジュネくんと色んなお店を見て回ったじゃないですか? なのにわたし、贈り物を何にするか全然決められなくて。結局食べ歩きみたいになっちゃいましたし」
アルマは、ジュネと見て回ったお店、そしてそこで出会った数々の商品を思い出す。
決して、どの商品も気に入らなかったという訳ではない。むしろアルマの目には、どれも素敵なものに映った。魔法の力で時間ごとに景色が移ろうスノードーム、目新しく洗練されたデザインのシャツ、花の形をかたどったいい香りの焼き立てクッキー――そんな品々はアルマにとって素晴らしくて、見ているだけで心が踊るようだった。
けれど、いざティルゼレアに渡すものとなると……途端に、わからなくなる。
結局、最終的な答えを保留にしたまま、足が疲れたアルマはジュネと共に商店街を抜けてしまった。そのことで、アルマは少し落ち込んでいるのだった。
ジュネはアルマの言葉を聞くと、首を横に振る。
「ああ、そのことですか……別に僕は少しも気にしていませんよ。逆に、スイーツを大量に摂取できて満足ですので」
「ううう、ジュネくんは優しいです……! わたし、何だかとっても不甲斐ないですよー!」
アルマは頭を抱える。それとほぼ同時に、遠くの方から怒鳴り声のような響きが微かに聞こえてきた。アルマは、驚いたように顔を上げる。
ジュネも気付いたようで、二人は顔を見合わせる。
「ジュネくん、今の」
「僕も聞こえました。何かあったのかもしれませんね……喧嘩、とか」
喧嘩という言葉に、アルマは大きく目を見開いた。
彼女はすぐにアイスを置いて、ベンチから腰を上げると声のした方へと走り出す。
「ア、アルマ様……!?」
ジュネは何度か瞬きしてから、同じくアイスを置くとすぐにアルマの背中を追った。
アルマは駆けながら、聞こえてくる声に耳を澄ませる。
(言い合いではなく一方的な罵声……? とにかく、早く行かなくては!)
そう考えながら、足が疲れてしまっていたことなど気にも留めずに、全力で走り続ける。
公園に備えられたお手洗いの建物の角を曲がって、広がっていた光景にアルマは息を呑んだ。
――三人の青年が、一人の少年を取り囲みながら暴力を振るっている。




